【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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理子「あ! ひ、久しぶりだね、遠山くん!」

 あ! 野生のりこりんが現れた! どうする?
【1.戦う →2.話す 3.餌付けする 4.焼き土下座させる 5.投げ飛ばす 6.逃げる】

 どうも、あけましておめでとうございます。ふぁもにかです。りこりん登場させるのかなり久しぶりだから、りこりんがちゃんとりこりんやってるか凄く不安ですね。読者の皆さんが『え、誰この子?』ってならなければいいんですけど。

 ……ところで。ここのりこりんがビビり属性持ちで原作の性格からかけ離れてるせいで「撫子だよッ!」のりこりんバージョンが実現できない件について。くッ、性格改変がこんな形で裏目に出てしまうとは……ッ!(←わなわな)



61.熱血キンジと土下座少女

 

「あ! ひ、久しぶりだね、遠山くん!」

 

 まだ少ないながらも生徒たちが登校してくる武偵高の正門付近にて。金髪ツインテールの少女:峰理子リュパン四世は喜色満面に言葉を紡ぐ。まるで飼い主に会えて嬉しいあまりパタパタと高速で尻尾を振る飼い犬のようだ。その一方。キンジは想定の埒外の出会いに驚愕していた。

 

「なッ!? 理子!? どうしてここに!?」

 

 キンジは咄嗟に拳銃を理子に向けようとして、寸での所でどうにか堪える。今この場で理子に銃を向けるのはマズいと判断したからだ。実際、理子がアルセーヌ・リュパンのひ孫であり武偵殺しであることを知る者はごく少数である。ゆえに。いくら武偵高での発砲沙汰が日常茶飯事とはいえ、だからといって無闇やたらに武器を向けるわけにはいかない。相手がビビりの女の子(※あくまで外面的にはだが)なら尚更だ。

 

「ふぇ? いや、だってボクも武偵高の生徒だよ? 一介の学生としてここに通ったって別に不思議じゃないでしょ?」

「違う。俺が言ってるのはそういう意味じゃない。なんで武偵殺しの理子がわざわざここにいるのかを聞いてんだよ。大人しく自首しに来たってわけじゃないんだろ?」

「うん。ボクはもうこの前の一件について司法取引を済ませてる。だから、もしもボクを捕まえようとしたら、逆に遠山くんが捕まっちゃうよ?」

 

 理子は得意満面と言わんばかりの笑みを浮かべてエッヘンと胸を張る。常日頃からビクビクしている理子にしては珍しい姿だ。おそらく自身が危機に晒される可能性が万に一つも存在せず、己が優位に立っているという状況が理子の心に余裕を生んでいるのだろう。

 

 司法取引。それは、犯罪者が犯罪捜査に協力したり共犯者を告発することで自身の犯した罪を軽減させる、または帳消しにできる制度だ。本来ならこのような制度に頼らないで秩序を保つのがベストなのだが、犯罪件数が増加しまくっている現状、それはあくまで理想でしかないのである。

 

(司法取引、ね)

 

 キンジは理子が後ろ手に持つトートバッグからチラッと顔を覗かせている『初めての司法取引:初級編 ~これで貴方も一般人!~』と書かれた謎のマニュアル本を見やりつつも、思考の海に沈む。

 

 となると。理子がウソをついていない限り、俺は理子を捕まえることはできない。司法取引をしたということは、もはや理子が犯罪者ではなくなったことを意味するのだから。いくらこの場で真偽を確かめられないとはいえ、重度のビビり属性を持つ理子のウソを見破ることが容易であることや理子が司法取引に関する本を持っていること、そして何より人目につく場所で俺の前に堂々と姿を現したことを勘案すると、理子の主張がウソだとはとても思えない。

 

「……ウソは、ついていないみたいだな」

「わ、わかってくれたかな? だったらそろそろ殺気を収めて、その手に隠し持ってる拳銃をしまってくれるとボク嬉しいなぁー、なんちゃって」

「無理だな。お前はアリアを傷つけた。結果的に命に別状がなかったから良かったものの、下手したら頸動脈をバッサリ斬られて死んでいた。そこの所、わかってるよな?」

「うッ」

「それにお前は俺の兄さんを侮辱した。ANA600便の乗客を巻き込んだ。それだけのことをしておきながら俺に警戒を解いてもらうってのは普通に考えて無理な話だと思わないか?」

「ううぅ、それはそうだけどぉ……」

 

 理子がおずおずとお願いを口にするも、キンジはそれをすげなく却下する。キンジから直接鋭い視線を浴び続けたことで、さっきまで得意げだった理子が段々涙目になっていく。相変わらず喜怒哀楽の感情表現に忙しい人間である。

 

「ハァ……」

 

 キンジは小動物のごとくプルプル震える理子を見てため息を零すと、ひとまず警戒を解いた。今の理子に戦意や敵意といったものが欠片も感じられないこともあるが、いくら理子に含む所があるとはいえ理子に対して険のある態度を取り続けることが何だか凄く大人げないような気がしてきたからだ。

 

「そ、それにしても、大体一か月ぶりくらいかな? どう、元気にしてた?」

「まぁ、元気と言えば元気だったな。風邪とか特に引いてないし。とはいえ、つい最近までジャンヌ・ダルク30世とかいうイ・ウーの刺客関連で色々あったせいで大変だったけどな」

 

 どうにかキンジの機嫌を良くしようとあからさまな話題転換を目論む理子の言葉にキンジは正直に答える。すると。理子は今しがた思いついたかのように「あ、そっか。遠山くんはもうジャンヌちゃんに会ったんだっけ?」と言葉を紡ぐ。

 

「ん? あいつを知ってるのか?」

「もちろん! だって、ジャンヌちゃんはボクの大事な友達だもん! ちょっと変わってて、時々何言ってるのかよくわからなくなる時もあるけど……すっごく優しくて、頭も良くて、凄くカッコいい、ボクの自慢の友達だよ!」

 

 キンジは脳裏に傲慢に満ちた態度で高笑いをするジャンヌ・ダルク30世を浮かべながら「友達、ねぇ……」と呟く。その内心では「いやいや、あれは『ちょっと変わってる』どころじゃねぇだろ」と正直な感想を抱いているのだが。

 

(にしても、峰理子リュパン四世とジャンヌ・ダルク30世が友達、か……)

 

 正直言ってかなり意外だ。意外過ぎる。だけど、よくよく考えてみればこれは案外いい組み合わせかもしれない。厨二病の仮面を被った泣き虫女子とちょっとしたことでビクビクおどおどする女子。根が似ている者同士、馬が合うのも必然だったのだろう。類は友を呼ぶものだしな。

 

「で、何の用だ、理子? わざわざこうして俺の前に姿を現したんだ、さすがに他愛もない話をするためだけにここに来たってことはないだろ?」

「うん、その通り。……実はちょっと、遠山くんに頼みたいことがあってね」

「頼みたいこと?」

「そう。……えと。き、君を殺そうとしておいてこんなことを言うのはおこがましいってボクも思うけど――」

 

 理子は目を伏せながらも言葉を続けようとする。だが。よほど言いづらいことなのか、理子は「えっと、その……」と何度も言いよどむ。その視線はキンジに向いたり虚空を向いたりとやけにせわしない。

 

(何だ? まさかとは思うが、イ・ウーの仕事に関する頼みじゃないよな?)

「――お願い遠山くん! ボクの頼みを聞いてほしい! 君に受けてほしい依頼があるんだ! 遠山くんの言ってた焼き土下座でも何でもするから! 何ならここでやってもいいから!」

 

 キンジが理子の『頼みたいこと』に嫌な予感を感じ始めた、まさにその時。気まずそうに前置きを述べた理子が腰を落として膝から座ったかと思うと、正座の構えを取りそのまま頭を地につけた。武偵高の正門前という、公衆の面前で土下座をやってのける理子。全くもってリュパンの血を受け継ぐ者の行動とは思えない――って、そんなこと考えてる場合じゃないッ!

 

「ッ!? 理子!? ちょっ、こんな所で何してんだ!?」

「お願い遠山くん! ボクに協力してほしい! 君だけが頼りなんだ! もう、君しかいないんだ……!」

 

 誇りなんてものを地平線の彼方へと投げ捨てた理子の行動を前に思わず放心していたキンジだったが、我を取り戻ると即座に土下座体制の理子の両肩を掴んで無理やり顔を上げさせようとする。しかし。理子に土下座を止める気配はない。ただただコンクリートの地面に頭をつけて必死にキンジの協力を得ようとするだけだ。

 

「――ぇ――何あれ――」

「――――酷――――」

「―何考えて――――」

「―――先生を―――」

 

 と、そこで。遠巻きに自分と理子を見つめる複数の視線をキンジは察知した。単なる好奇の目線からキンジを避難する目線まで実に様々な視線を送ってくる武偵高の生徒たち。彼らはチラチラと二人の様子を伺いながらヒソヒソと近くの人と何事かを話している。

 

 彼らの反応や声のトーン、それにわずかに聞こえた断片的な会話から察するに、周囲の人たちは皆もれなく、理子の弱み的なものを利用した俺が理子を公衆の面前で強制的に土下座させたものとして認識しているようだ。

 

(マズい、これはマズいぞ……!?)

 

 キンジの背中をツゥと冷や汗が伝う。マズい。この誤解のされ方は色々な意味で非常にマズい。主に俺の社会的地位が本格的にマズい。早くどうにかしないと社会的に殺されてしまう。

 

 それだけじゃない。もしもこの状況が東京武偵高三大闇組織の一つ:『ビビりこりん真教』の敬虔なる信者たちの目に入ったとしたら、彼らは決して黙ってはいないだろう。いつ信者の多さを武器に、多勢に無勢と言わんばかりの襲撃を繰り広げてくるかわかったものではない。

 

「わかった! わかったから今すぐ土下座を止めてくれ! じゃないと俺の立場が本気でヤバくなる!」

「え、いいの!? ホントに!?」

「あぁ、もちろん! どんな依頼だって受けてやるさ! 何たって俺は近い将来、世界最強の武偵になる男だからな!」

 

 命の危機を感じたキンジは頼みごとの詳細を知らない状態で理子のお願いを快諾する。ガバッと顔を上げて確認してくる理子にキンジは自信満々に胸をバンと叩く。その際、何か余計なことを口走ったような気がしたキンジだったが、今のキンジにはそれを気にするほどの精神的余裕などなかった。

 

 キンジが「だから早く土下座を止めてくれ!」と懇願の声を上げようとした所で、キンジは「遠山くん。ちょっといいかな?」とポンポンと肩を叩かれた。

 

「え?」

「へ?」

 

 振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。見た目だけならいかにも生真面目そうな文学少女なのに、その中身は残虐非道な尋問科(ダギュラ)Sランクたる中空知美咲がニコニコ笑顔で立っていた。

 

 なぜ。なぜこのタイミングで接触してきた。同じような疑問を浮かべて首を傾げている理子をよそに、キンジは内心で何度も自己に問いかける。数少ないSランク武偵同士ではあるものの、キンジと中空知との間に接点はないに等しい。それだけにキンジには今の状況で中空知が話しかけてきた理由がわからなかった。

 

(ま、まさか、中空知も『ビビりこりん真教』の一員なのか……ッ!?)

 

 と、その時。キンジの脳裏に一つの可能性が思い浮かぶ。瞬間、キンジは目の前が急に真っ暗になったような錯覚を覚えた。

 

 例え怒り狂った『ビビりこりん真教』の連中が数にモノを言わせて襲撃してきた所で、実力者たるキンジならしっかり返り討ちにできるし、最悪連中に敗れたとしても多少ボロボロになる程度で済むだろう。しかし、『ビビりこりん真教』に中空知美咲が属しているなら話は別だ。連中から制裁を喰らう際に中空知考案のエゲつなさに特化した尋問道具を持ち出されでもしたら心身ともにどうなるか、想像はたやすい。

 

(悪い、アリア。俺はここまでのようだ……)

 

 キンジはフッと諦めたように笑みを浮かべるとゆっくりと目を瞑る。この時、キンジは本格的に死を覚悟した。

 

「今チラッと聞こえたんだけどさ、焼き土下座って何?」

「……え?」

「焼き土下座だよ、YA☆KI☆DO☆GE☆ZA。何だか凄く魅力的な言葉だったから、その焼き土下座とやらについて色々と詳しく聞かせてほしいんだけどなぁ――」

 

 中空知はズィとキンジへと顔を近づけると、キンジのまぶたを指で押し上げつつ矢継ぎ早に言葉を口にする。無理やりこじ開けられたキンジの目に映る至近距離での中空知美咲。彼女の瞳はいつになく爛々と輝いていた。

 

(興味津々だよ、中空知さん!? 思いっきり焼き土下座って言葉に喰いついてきたんだけど、この人!?)

「今、時間に余裕ある? あるよね、もちろんあるに決まってるよね。遠山くんは人の期待を裏切らないことに定評あるもんね。それじゃあ今から尋問科の方に行こっか。お茶でも飲みながらじっくりゆっくり【お話】しようよ」

 

 さすがは尋問科Sランク武偵、尋問方法への好奇心が半端じゃない――などとキンジが軽く現実逃避に走っていると、中空知がキンジの手を包みこむように両手で掴んでそのまま尋問科の方へズリズリと連れていこうとする。

 

「え、ちょっ、今から!? さすがにそれは急過ぎじゃ――」

「時間、あるよね?」

「いや、だから――」

「――時間、あるよね?」

(うッ!? く、何だ、このおぞましい、感覚……ッ)

 

 キンジが中空知による強引な誘いを断ろうとした時、キンジはごく自然な動作で顔を上げた中空知から瞳を覗き込まれる。瞳孔が開いてるのではないかと思えるほどに開かれた中空知の瞳をキンジが直視した刹那、キンジの体をゾゾゾッと得体の知れない感覚がほとばしる。キンジの中で中空知の提案を拒否してはダメだと第六感が声高々に叫び、警鐘がガンガンと鳴らされる。

 

「……ア、ハイ。モンダイアリマセン」

「そう。ならよかった。それじゃあ、峰さん。悪いけど、少し遠山くん借りるね」

「あ、うん? いってらっしゃい、遠山くん?」

 

 己の感覚を信じたキンジは冷や汗をダラダラ流しつつも片言で中空知のお誘いを受け入れる旨を示す。中空知の雰囲気に完全に気圧された結果である。かくして。キンジの返答に微笑みとともに満足げに一つうなずいた中空知は、状況を読み込めずに頭にクエスチョンマークを浮かべている理子に軽く許可を取ってから再びキンジの手を取って尋問科へと歩を進めていくのだった。

 

 この時。先ほどまでキンジにこれでもかと非難の眼差しを注いでいた周囲の人々が自身に向けて黙祷を捧げてくれていたことをキンジは知らない。

 




キンジ→理子の行動の影響で周囲からの印象が悪くなってしまったものの、中空知の台頭でそのイメージが見事に払拭された熱血キャラ。
理子→無自覚ながらキンジを精神的に追い込んでみせたビビり少女。司法取引に臨む際、色々と不安だったためにマニュアル本を購入した経緯を持つ。
中空知→ふと耳にした『焼き土下座』の言葉の魅力に引き寄せられる形で現れたドS少女。白雪の占いで『絶対に敵に回してはいけない死神』扱いされている。色々と危ない子筆頭である。


 ――ちゃっちゃら~! 中空知は固有スキル『尋問:焼き土下座』を覚えた。

 というわけで、61話終了です。りこりんが登場するだけで一気に本編がシリアス展開から遠ざかっていきますね。最近この作品のシリアス度がムダに増してる気がしていたので、これはホントにありがたいですよ、ええ。


 ~おまけ(ちょっとしたどうでもいい補足説明)~

・東京武偵高三大闇組織
→ここ1年で東京武偵高に突如現れた不気味極まりない闇組織(ファンクラブ)の総称を指す。今現在、『ダメダメユッキーを愛でる会』、『ビビりこりん真教』、『???(※詳細不明)』がこれに名を連ねている。組織間の協力体制は確立されていない模様。

 これら3つの組織共通の特徴としては
――規模(構成員)がやたら大きい。
――ある特定の人物を神格化し、日々それを信仰している。
――神格化されたその特定の人物に害をなすと判断された者を即刻排除する方針を掲げている。
――会員の紹介でしか組織に入ることができない。
 などが挙げられる。

 なお、教務科(マスターズ)の人たちの力をもってしても未だ東京武偵高三大闇組織の全容は解明されていない。

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