【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも。ふぁもにかです。今回の話は笑い要素皆無です。ゼロです。どこ探したってありません。ガチのシリアスです。純度100%のシリアスです。ですので、この作品に笑い要素を求めて読みにやってくる方々、特に「『熱血キンジと冷静アリア』から笑いを取ったら何が残るってんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおお!?」と発狂する自信のある方々は今回と次回の話はスルーした方がいいかもしれません。サブタイトルからもわかるとは思いますが、さすがにこの辺の話は改変はできてもギャグ風味にはできたものではありませんよ。ええ……。

P.S.ここの所、熱血キンジと冷静アリアが日間ランキング&ルーキー日間にランクインしてて凄く嬉しいです。わーい、ヤター。(←狂喜乱舞中)



6.熱血キンジと神崎かなえ

 

 放課後。強襲科(アサルト)での戦闘訓練を終えたキンジは淡いピンクを基調とした私服を身に纏ったアリアに連れられ新宿のとある建物の入り口へと足を運んでいた。アリアが言うには、ここにアリアが俺をパートナーにしたい理由があるらしい。らしいのだが、ここはどう見ても――

 

「なぁ、アリア。ここって――」

「そう。警察署ですよ。ここに私のお母さんがいます。とにかく、ついてきてください」

 

 そう。まさかの警察署だ。全くの想定外の目的地に少々動揺の色を見せるキンジをよそにアリアは迷いのない足取りで淡々と歩を進めていく。桃髪ツインテールを揺らしながらスタスタとキンジの前方を歩いていく。

 

「母親、か……」

 思ったより厄介な事情がありそうだな。警察署へと入っていくアリアの後ろ姿を追いながらキンジはふと呟きを漏らす。大抵の人を陰鬱にさせる重苦しい曇天の空がキンジの推測が的を得ていることを物語っているように見えて仕方なかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 果たして、キンジの予測は的中した。アリアに追随してたどり着いたのは、面会室。先のアリアの発言を考慮するにアリアの母親――神崎かなえというらしい――とはここで会える人物なのだろう。それはつまり、アリアの母親が現在身柄を拘束されていることを意味する。

 

「「……」」

 沈黙が重い。キンジは場の空気に内心で気まずさを感じていた。今現在。面会室にいるのはパイプ椅子に腰を落とし俯いたまま何も語らないアリアと手持ちぶさたでアリアの背後に佇む俺の二人だけだ。俺の分のパイプ椅子も用意されてはいるのだが、とても座る気にはなれなかった。

 

 誰かこの雰囲気を何とかしてくれ。キンジはおもむろに目を瞑り天を拝む。キンジの思考が天国の兄さんへと飛ぼうとしかけた時、キンジの切実な願いが通じたのか、アクリル板の向こうの扉がガチャリと開かれた。扉が開け放たれる音にアリアはハッと顔をあげる。その視線の先に濃い茶色の髪を背中まで伸ばしたアリアの母親――神崎かなえ――を捉えると、アリアの表情は瞬く間に喜色満面の笑みへと変化した。

 

「お母さん!」

「よぉアリア。久しぶりだな。元気そうで何よりだ。ところで後ろの男は彼氏か?」

「なッ!?」

「ふぇっ!?」

「さて。初めましてだな、少年。私はそこのアリアの母親をやっている、神崎かなえだ。いや、それにしても娘がまさか彼氏を連れてきてくれるとはな……フフッ、お母さん嬉しいよ。この分だと孫の顔が見られる日も近そうだ」

「おおおお母さんッ!?」

 

 いかにも生真面目そうな男性警官2名を伴って面会室に姿を現した神崎かなえがキンジを一瞥した後、男勝りな物言いで開口一番に言ったのはキンジとアリアの関係を勘ぐる発言だった。あまりに不意打ち極まりない神崎かなえの発言にキンジ&アリアが驚き思考停止したことを良いことに、神崎かなえは顔を綻ばせつつキンジとアリアを彼氏彼女の関係と決めつけた上で話をさらに飛躍させていく。

 

「ち、ちちち違うからお母さん! キンジとはただの知り合い! 同じSランク武偵のよしみで一緒に行動してるだけですから! お母さんが想像してるような関係じゃないですからね!」

 

 このままお母さんを暴走させるのはマズい。完全に勘違いされてしまう。キンジよりも数瞬早く我に返り、顔を真っ赤に染めたアリアはバンと机を両手で叩いてキンジ×アリアでドンドン妄想を膨らませていく自分の母親にキンジとの関係を大声で否定する。その妄想をぶち殺すと言わんばかりに半ば悲鳴染みた声をあげる。ブンブンを通り越してブオンブオンと聞こえてきそうなスピードで首を左右に何度も振って否定する。ちなみに。先の主張の際にアリアの声が裏返っていたことに当の本人は気づいていない。

 

 対するブラウンの瞳をしたアリアの母親は「はいはいわかってるから。いやはや、ホンット青春ってのはいいねぇ。初々しくて。まるで若かりし頃の私を見ているみたいだよ」とアクリル板の向こうでケタケタと笑う。どうやらアリアの主張は神崎かなえの脳内で繰り広げられるキンジ×アリアのカップリングの破壊に至らなかったようだ。神崎かなえは頬杖をついた状態でアリアを見つめて笑い声をあげる。そのあり様は何とも男らしい。見た目だけの第一印象なら神崎かなえは間違いなくお淑やかな大人の女性の部類なのだが、彼女のこれまでの言動から神崎かなえの性格はイタズラ好きな好青年に近いようにキンジには思えた。

 

 それはさておき。キンジは純粋に驚いていた。いつものですます口調こそ変わっていないものの、アリアが実に感情豊かに母親と話していることに。別に普段のアリアがレキみたいに基本無表情で武藤みたいに基本寡黙だと言っているわけではない。実際、白雪からアーちゃん呼ばわりされて悶絶するような一面も持ち合わせているのだし。

 

 けれど。俺はアリアのこれまでの言動からアリアに対してどこか排他的で他人行儀だとの印象を抱いていた。俺にパートナーを要請しておきながらその理由を話すのを躊躇ったことからもそのことの一端が伺えるというものだ。尤も、俺がアリアにそのような印象を抱いたのはアリアの感情表現、もとい喜怒哀楽が総じてどこか冷めたような、薄い感情のように感じられたからだ。尤も、アリアがももまんを食べている時は別だけど。だが。今のアリアに感情の希薄さは感じられない。母親を前にどこまでも等身大の、傍から見れば微笑ましいことこの上ない反応を見せている。

 

 アリアは仮面を被っていたってことか。今ここで表情をコロコロ変えながら母親と話してるアリアが素なんだろうな。きっと。気づいた時、キンジは現在進行形で神崎かなえの手の平でいいように転がされているアリアの後ろ姿を新鮮なものを見るかのような眼差しで眺めていた。

 

 一方でキンジは母娘の微笑ましいやり取りを前に再び気まずさを感じ始めていた。俺がここにいるのは場違いなのではないか。神崎親子に気づかれないよう今のうちに退出した方がいいのではないか。そんなことを考えていると、ふと面会室に漂う雰囲気が一変した。

 

「――ッ。今は時間を無為に潰してる場合ではありませんでした」

「無為にって酷いなぁ。せっかくの母娘のスキンシップなのに――」

「お母さん。今、私武偵殺しの真犯人を追ってるんです。もし捕まえられたらお母さんがイ・ウーに着せられた冤罪を晴らす契機にきっとなります。だから、待っていてください。絶対に武偵殺しを捕まえてお母さんの無罪を勝ち取ってみせますから。お母さんに着せられた864年分の罪を晴らしてみせますから」

 

 ついさっきまで母親の思うがままに遊ばれていたアリアだが、限られた面会時間のことを思い起こしたのだろう。アリアは本題に話を移すと真剣な表情で神崎かなえに宣言する。アクリル板に貼りつかんばかりに顔を神崎かなえに近づけると自分に言い聞かせるかのように力強く決意を顕わにする。しかし。なぜだろうか。キンジはアリアのあり方に脆さと危うさを感じ取っていた。

 

「そっか。フフッ。そいつは心強いな。では、その日が来るのを気長に待つとするよ。……ところで、アリア。パートナーは見つかったのか?」

「うッ。そ、それはまだ。一応候補はいるんですけど」

 

 神崎かなえはさっきまでの朗らかな口調から一転して声色を真剣なものへと移す。彼女の問いにアリアは一瞬言葉に詰まるも正直に現状を告白する。ちなみに。候補とは言うまでもなく遠山キンジである。

 

「そうか。候補すらいないわけじゃないんだな。一歩前進したようで何よりだ。だが、焦るなよアリア。パートナーは下手すりゃ一生モノだ。慎重に選ぶに越したことはない」

「……わかっています。ですが、そんな悠長なことしてたら時間が――」

「アリア。私のことは気にしなくていい。例えアリアの証拠集めが間に合わなかったとしても自分を責める必要はない。私がアリアを恨んでるんじゃないかとか考える必要もない」

「え?」

 

 神崎かなえの放った言葉がよほど意外だったのだろう。アリアは思わずといった風に驚きの声を漏らす。真紅の瞳をパチクリとさせている。擬態語で表すならキョトンとしているといった所か。

 

「お、お母さん? 何を言って――」

「そうだな。もしも判決が下って、もう二度と会えなくなったとしたら……そん時は来世でまた会えばいいだけの話だ。何も問題ない」

「そんなこと言わないでください! お母さん! 私が絶対にお母さんの無実を証明してみせますから! イ・ウーの奴らに目にもの見せてやりますから! だから、だからッ――」

「アリア。私のこともいいが、あまり自分の幸せを疎かにするなよ。高校生なんてあっという間に終わっちまうんだ。今のうちに思い出をたくさん作っておけ。その一つ一つが後のアリアの力になってくれる。大切なことは一見無駄に思えるようなことの中にあるって相場が決まってんだからさ、な?」

「お母、さん……」

 

 もう二度と会えなくなるなんて例え仮定の話でもそんなこと言わないでほしい。自分の努力が実を結ばないことを前提に話を進める神崎かなえに悲哀に満ちた表情を見せるアリアとは対照的に、アリアのお母さんはあたかも野山を駆け巡る少年のようにニシシッと笑う。アクリル板さえなければ今頃神崎かなえはアリアの頭を乱暴に撫でていたことだろう。

 

 とても濡れ衣を着せられた被害者とは思えない。とても無実の罪で身柄を拘束されたらしい人とは思えない。それほどまでにアクリル板の向こうに座るアリアの母親は心に輝きを持っていた。ブラウンの瞳は輝きを失ってはいなかった。

 

「神崎、時間だ」

「ん? 何だ、もうそんな時間か。まぁ言いたいことは言ったし、良しとするか」

「待ってください、お母さん! 私、私――ッ!」

「またな、アリア。達者でな」

「~~~ッ!!」

 

 生真面目そうな警官の1人の宣告に神崎かなえは未練はないと言わんばかりにその場を後にする。離れていく母親の後ろ姿にアリアは絶望に満ちた表情を顔に張り付けたままバッと立ち上がる。まるで捨てられた子犬のようだ。言いたいことがあるのに上手く言葉に表せないのだろう、アリアは体をフルフルと震わせて下を向くだけだ。だが。時間はアリアを置き去りにして無情にも過ぎていく。そうこうしている内にもアリアの母親は後ろ手をヒラヒラと振りながら面会室から立ち去っていく。アリアは何も言えない。頭の中で噴水のように湧き出る多種多様の感情を纏めることができずに、アリアはただただ立ち尽くす。

 

(生真面目そうな奴らだと思っていたけど……案外そういうわけじゃなかったんだな、あの警官2人)

 

 一方、ふと違和感を感じ取ったキンジは携帯で時間を確認し、へぇと言葉を漏らす。アリアと神崎かなえとの間に設けられた面会時間はたったの3分。2人に会話させる気はあるのかと思わずにいられないほどに短い時間だ。しかし。実際、時間を見てみると既に母娘の再会から10分は経過している。しきりに腕時計を確認していた以上、あの警官2人は面会時間がとっくに過ぎていることに気づいていたはずだ。母娘の微笑ましいやり取りに無慈悲にも水を差す真似ができなかっただけなのか。それとも最初からキリのいい所まで2人に話をさせるつもりだったのか。真意のほどは不明だが、悪い気はしなかった。

 

「ん?」

 と、その時。前方から視線を感じたキンジは顔をあげる。すると面会室からの去り際にキンジへと顔だけを向けた神崎かなえが意味深な笑みを浮かべて口を動かしている姿が見えた。口パクで何かを伝えようとしていることに気づいたキンジは既に独学で習得している読唇術を駆使して神崎かなえの唇の動きからメッセージを受け取ることに成功した。キンジはアリアの母親に一度だけ強く頷いてみせる。無事にキンジに言葉が届いたことに安堵したのか、神崎かなえはフフッと勝気な笑みを浮かべて、扉の向こうへと姿を消した。かくして時間にして約10分の面会は幕を閉じたのであった。

 

 

――キンジと言ったか? 私の愛娘は難儀な性格をしていてな。色々と誤解することもあるだろうが、まぁなんだ。テキトーに付き合ってやってくれ。

 

 そして。キンジはこの時、神崎かなえからの母親としての愛情あふれるメッセージを確かに受け取った。

 




キンジ→今回、ほとんど会話に参加せず地の文に徹していた熱血キャラ。読唇術Aランク。
アリア→いじられキャラ。
神崎かなえ→男勝り。キリッとした瞳の持ち主。イタズラ好き。アリアいじりが趣味。名言製造キャラ。イメージは女勇者。
警官2名→若干優しさ補正が掛かっている。

 うん。やっぱりかなえさん関連の話には笑い要素ねじ込めませんね。どうあがいてもシリアスです。ええ。
 まぁ、それはともかく。最近、『熱血キンジと冷静アリア』とタイトル化するほどここのキンジが熱血でここのアリアが冷静だと思えなくなってきた件について。……熱血ってなんでしたっけ? 冷静ってなんでしたっけ?

 ~おまけ(NGシーン)~
警官A「神崎、時間だ」
神崎かなえ「ん? 何だ、もうそんな時間か。まぁ言いたいことは言ったし、良しとするか」
アリア「待ってください、お母さん! 私、私――ッ!」
警官B「ポチッとな」
神崎かなえ「またな、アリア(カパッ ←突如かなえさんの床が二つに割れる音)」
神崎かなえ「達者で、なぁぁぁぁぁ――(←椅子ごと落下するかなえさん)」
アリア「お、お母さんッ!?」
キンジ「(まさかのボッシュート退場!?)」

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