【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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ももまん「やれやれ、久しぶりの出番だぜぃ。――待たせたな、皆(←キリッ)」

 どうも、ふぁもにかです。今回もキンジくんの出番はありません。前回がキンジくんがヘンタイになってるとカナさんに誤解される話と銘打つならば、今回はキンジくんが知らないうちに物語がうねり始める回、といった感じでしょうかね。そして。今回はある意味で重要極まりないターニングポイント回だったりもします。いやぁー。それにしても、こういう話、物書きの身としては一度は書いてみたかったんですよねぇ♪



59.幕間:第二章アナザーエピローグ

 

 星伽白雪が危うく誘拐されかけるというハプニングこそあったものの、結局きちんと最終日を迎えることのできたアドシアード。その数日後。

 

「~♪ ~~~♪」

 

 目的地の体育館裏に向けてアリアはルンルン気分で歩いていた。松本屋の袋を片手に満面の笑みでモグモグとももまんを頬張りつつ、鼻歌混じりに歩みを進めていた。もしも第三者が今のアリアを見れば、アリアの周囲に色とりどりの花が咲いているような錯覚を覚えたことだろう。

 

(はぅ、ももまんはホントに最高ですね。ここ最近はなぜか食べる機会を逃していたせいか、いつにも増して美味しく感じられますよ。ももまんバンザイッ! ビバ、ももまん!)

 

 かれこれ3個目のももまんをパクつき終えたアリアは目的地に到着し、先客へと視線を移す。アリアの視線の先には、ダラーンしたやる気のない雰囲気とともにたたずむ白雪の姿があった。テキトーに効果音をつけるとすれば『ダラリーラ』といった雰囲気だろうか。

 

「……来たね、アーちゃん。時間ピッタリだよ」

「まぁ、約束の時間はきっちり守る主義ですので。それよりユッキーさん。大事な話とは一体何でしょうか?」

 

 今回、白雪から要件を知らされないままに呼び出されたアリアは疑問を口にする。対する白雪は相変わらずほんわかとしている。が、その中に、何か芯のようなものがあるようにアリアには感じられた。

 

「えっとね、アーちゃん。アーちゃんはさ――」

 

 白雪は一つ間を置いてから本題に入ろうとする。と、その時。グゥーと、盛大に白雪のお腹が鳴った。それはもう、アリアに誤魔化しがきかない音量でその場に響いた。

 

「……」

「……うぅ、お腹すいた」

「……」

「……ジィー」

「うッ……」

 

 白雪は弱々しく眉を下げる。と、そこで。アリアの持つ松本屋の袋の存在に気づいた白雪はただただ松本屋の袋に視線を注ぐ。キラキラとした瞳で一心に松本屋の袋を凝視する。あからさまな白雪の視線を受けて即座に白雪の意図を理解したアリアは躊躇する。自分が後でたっぷりと堪能するつもりだったももまんを白雪に分け与えることにためらいを見せる。

 

「お腹、すいたなぁ……」

「……1つ、食べますか?」

「アーちゃん……!」

 

 だが、飢えた白雪を放っておくことができなかったアリアは断腸の思いで袋からももまんを取り出し白雪に差し出す。そんなアリアの内心などいざ知らず、白雪はアリアからのお恵みをありがたく頂戴したのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ごちそうさま! んー、ももまんって結構おいしいんだね。アーちゃんが病みつきになるのもわかる気がするよ」

「そうでしょうそうでしょう! 何といっても、ももまんは人類が生み出した最も偉大な食べ物ですからね! ホント、松本屋には頭が上がりませんよ! ええ!」

 

 十数分後。ももまんで無事空腹から脱した白雪はニコニコ笑顔でももまんを称賛し、そんな白雪のももまんに対する絶賛の言葉にアリアはうんうんと心地よさそうにうなずく。これまでアリアの周囲の人たちはももまんを嫌うことこそないものの、白雪ほどももまんに好意的な反応を見せることはなかった。パートナーたるキンジでさえ甘い物自体があまり好きではないためにももまん大好き人間なアリアをしばしば呆れた目で見つめる有り様だった。

 

 しかし。本日をもって、アリアはようやく同志を見つけられた。その事実を前にアリアは内心でワーイワーイとはしゃぎまくる。それが例え宿敵(犬派)の白雪であっても嬉しいことには変わりないのである。ちなみに。白雪が一個でも多くアリア(カモ)からももまんを恵んでもらおうという策略の元にももまんの味をべた褒めしていたことをアリアは知らない。余談だが、白雪は現時点で4個ものももまんを食している。

 

「それにしても、まさかユッキーがここまで話の分かる人だとは思いませんでした。灯台下暗しとはよく言ったものですね!」

「う、うん。そうだね……」

 

 ズィと擬態語がつきそうな勢いで顔を近づけてくるアリアに白雪は思わず一歩後退する。自分の独自のペースで意図的無意識的に関わらず他者を振り回すのが常な白雪にしては珍しく押され気味である。それほどまでにアリアが有頂天だということか。

 

「さぁ、ユッキーさん! ももまんを愛する者同士、ももまんの素晴らしさについて熱く、熱く語り合いま――」

「ちょっ、ストップ! ストップだよ、アーちゃん! それよりそろそろ本題に入ってもいいかな!? 私、アーちゃんにちょっと聞きたいことがあるからさ! このままじゃ気になって気になって朝も起きれなくなっちゃうよ!」

 

 このままではそこまで好みではないももまん談義に巻き込まれてしまう。そんな面倒極まりない事態はゴメンだと、白雪はアリアの両肩を掴んで前後に揺さぶることでアリアの話を強制終了させる。アリアをここ、体育館裏へと呼び出した本題へと強引に移行する。話を中断させられた当のアリアは不満を表情に表したものの、白雪が自身を呼び出した理由が気になるのか、「それよりって……まぁ、いいですけど」と妥協の意を示した。

 

「アーちゃんはさ、その……キンちゃんのこと、どう思ってるの?」

「えッ? どう、とは?」

「アーちゃんはキンちゃんのこと、異性として好き?」

「え、な、そ、そんなわけッ――」

 

 白雪からの唐突な問いにドクンとアリアの心臓が踊る。と、同時に。アリアの脳裏にあの日血を流し過ぎて弱っていた自分を優しくお姫さま抱っこしてくれた、妙にキラキラしていたキンジの姿が想起される。不意打ち極まりないイケメンキンジの登場にアリアの顔が瞬く間にカァと赤くなる。紅潮しきった顔のままでどうにか白雪からの問いを否定しようとわたわたする辺り、何ともわかりやすい反応である。白雪はあうあうとなっているアリアを見て「……そっか」と声を零した。

 

「ちょっ、納得しないでくださいよ、ユッキーさん!? 違いますよ!? 違いますからね!? 確かにキンジはパートナーですけどそういった感情は全然持ってな――」

「――私は、好きだよ。キンちゃんのこと。もちろん、異性としてね」

「え……」

 

 アリアの矢継ぎ早な言い訳をサラッと受け流した白雪の突発的な告白を前に、アリアは思わず白雪をギョッとした瞳で見やる。さっきまで妙にカッコいいキンジの姿を思い出していたことで今にも沸騰しそうだったアリアの頭は白雪の一言で一気に冷めていた。その感覚はまるで頭から冷や水をかけられたようだった。

 

「私はキンちゃんの一番になりたいって思ってる。キンちゃんと恋人関係になりたいって思ってる。キンちゃんと結婚したいって思ってる。キンちゃんと一緒に、もっと先の世界を見たいって思ってる」

 

 白雪は自然体のまま、一通り自身の心からの願望を口にする。そうして。自身の願望を並べ立てた後、白雪は胸に手を当てて「私はね、ずっと前からキンちゃんが大好きなんだ」と思いを率直に言葉に表した。

 

「だけど、ずっと諦めてた。どんなに私が手を尽くした所でどうにもならないって勝手にキンちゃんのこと諦めてた。だから、ついこの前まではキンちゃんとアーちゃんがくっつくことに期待してたんだ。だってアーちゃんは良い子だし、アーちゃんならキンちゃんと対等な立場に立ってくれると思ってたから。……でも、私はもう諦めない。これからも相変わらず私らしく(グータラに)生きていくつもりだけど、初恋は実らないってよく言うけど、それでもキンちゃんのことだけは諦めない。例えどんな結果になろうと、キンちゃんにとっての一番になるために全力で頑張る。そう決めたんだ。……やっと、そう決められたんだ」

「……」

 

 白雪は偽りのない満面の笑みで自身の本心をためらうことなく吐露する。アリアは何も言えずに、困惑した表情のまま、ただただ白雪を見つめる。白雪の言っていることは十分理解できる。だけど、理解したくない。そういった心情を多分に含んだ表情をアリアは浮かべていた。

 

「だから、これだけは言っておくね。できるだけ早い内にキンちゃんが異性として好きかどうか結論を出した方がいいよ、アーちゃん。じゃないと、私がキンちゃんの一番になっちゃうよ? 例えそうならなくても、キンちゃんはただでさえ凄く魅力的な男の子なんだからグズグズしてるとあっという間に他の女の子にキンちゃんを取られちゃうよ? というか、むしろ今までキンちゃんに彼女がいなかった方がおかしいぐらいなんだからね。キンちゃんに彼女ができてから後悔したってもう何もかも遅いんだからね」

「ッ!?」

「それだけ言っておきたかったんだ。またね、アーちゃん」

「……」

 

 恋のライバルとしての忠告を終えた白雪はすっきりとした表情とともにトテトテと歩き去っていく。対するアリアは徐々に遠ざかっていく白雪の後ろ姿に呆然とした瞳を向け続ける。結局。自身の感情をどう言い表せばいいのか皆目見当もつかなかったアリアは最後まで何も言えなかった。

 

「私は、負けないからね」

 

 そんなアリアとは対照的に、ある程度アリアから距離を取った白雪は不意にクルリと振り返ると、ニッコリ笑顔で言葉を残した。それは年相応の実に輝かしい笑みだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 白雪が去ってから幾ばくの時間が経過した後。その場に立ち尽くしたまま微動だにしないアリアの口からひゅうと乾いた音が漏れる。その音を契機に、アリアはハッと我に返る。

 

「……私も、私だって好きですよ、キンジのこと。でも、そんなの言えるわけないじゃないですか」

 

 冷静さを取り戻したアリアは苦悶に満ちた表情で、自身の本音を虚空に吐き出す。アリアの声は思いの外弱々しかった。

 

 だって、今のパートナーとしてのキンジとの関係が凄く心地いいんですから。

 うっかり私の恋心を打ち明けたら最後、キンジとの関係が大幅に変わってしまうかもしれないんですから。

 

 それに。何より、私はキンジから平穏な日常というものを完全に奪ったのだから。

 私の個人的な目的にキンジを付き合わせたせいで、何度もキンジを危険な目に遭わせているのだから。

 

「私は……ッ」

 

 先の白雪の言葉を一言一句違うことなく思い起こしたアリアの顔に徐々に影が差す。中々自分の心情を言葉に纏められず、ギュッと拳を握る。

 

 もしも。もしも私がキンジに助けを求めなければ、キンジは巨悪の根源たるイ・ウーの存在を知ることはなかっただろう。峰理子リュパン四世やジャンヌ・ダルク30世と命懸けの戦いをすることもなかっただろう。遠山金一の名誉を取り戻すために世界最強の武偵を目指しながらも、実際には武偵にしては平和な日々を過ごしていたことだろう。

 

 キンジはお母さんが無実の罪で捕まっていることを一切疑うことなく信じてくれた。

 キンジは危険を承知で私に協力してくれると言ってくれた。

 

 だけど。一歩間違えれば死ぬ。キンジをそんな死の危険に満ちている世界に誘っておきながら、どうして好きだなんて言えようか。これからもお母さんを助けるという大義名分を元にキンジを散々巻き添えにする未来がわかっている状態で、どうして私の思いを伝えることができようか。

 

 ……言えるわけがない。私は、お母さんを助けたいあまりに、自分が死にたくないあまりに、少しでも自分が死ぬ確率を下げようとキンジを道連れしている最低な人間なんだから。一人じゃダメだからってキンジを巻き込んでおきながら、実際には武偵殺しの一件でも魔剣との一件でも結局肝心な所でドロップアウトしてる足手まといな人間なんだから。

 

「ハァ、参りましたね。まさかこんな展開になるなんて、思いもしませんでしたよ」

 

 アリアの消え入りそうな声が体育館裏に消える。と、アリアはふと憂鬱の色を帯びた瞳で空を見やる。憎いほどに晴れ晴れとした青空に目を向けたアリアは沈鬱なため息を吐くのだった。

 

「どうすればいいんでしょうね、私は……」

 

 

 

 第二章 熱血キンジと魔剣(デュランダル) 完

 

 




アリア→自分と同じももまん大好き人間を見つけられたことに内心で狂喜乱舞してた子(※誤解だけど)。キンジを危険な世界に巻き込んでおきながら自分があんまり活躍できていないことに罪悪感を覚えている。
白雪→ももまんを恵んでもらうために巧みにアリアの機嫌を取っていた怠惰巫女。恋する乙女として自分なりの方法でキンジと恋人関係になるための努力をする決意を表明した模様。

白雪「ふぅ。上手くアーちゃんとのももまん談義から逃れられてよかったよ、うん」

 というわけで、こんな感じで第二章は終了です。原作二巻の内容はちゃっちゃと終わらせる気だったのに、何だかんだで25話も掛かっちゃいましたね。やっぱり地の文の多さが問題なんでしょうかねぇ、きっと。でもなぁ、地の文で思う存分遊びたいお年頃なふぁもにかとしては地の文削っちゃうのはなぁ……。やれやれ。速筆な方々が実に羨ましいですよ、全く。

 さて。次回からは第三章ですね! 章タイトル何にしよっかなぁ~?


 ~おまけ(もしも二人の会話を陰でこっそり聞いてた人がいたら)~

武藤剛気ver.
「……あのリア充め……(←体育館裏に勝手に作った地下室から)」

峰理子リュパン四世ver.
「はわッ、修羅場だよ!? 修羅場やってるよッ!? こんなの初めて生で見たよ!(←体育館裏周辺の草むらから)」

不知火亮ver.
「ハッ、二人の女をたぶらかすか。やるじゃねぇか、キンジ(←体育館裏の物陰から)」

風魔陽菜ver.
「何やら面白そうなことになってるでござるなぁ♪(体育館裏周辺の電柱の上から)」

綴梅子ver.
「おー、青春やなぁ(←体育館裏の監視カメラの映像から)」

もう一人の神崎さんver.
「うわー。何か聞いちゃいけないこと聞いちまった気がする……どうしよ、これ?(←体育館内部から)」


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