【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

57 / 147

 どうも、ふぁもにかです。今回は文字数少なめな感じとなっています。それにしても、文字数が少ないけれど更新速度が若干早くなるのと文字数はそれなりに多いけれど更新速度が亀のようになるの、読者が好むのってどっちなんでしょうかねぇ……。



57.熱血キンジと第二章エピローグ(2)

 

 4人組の男子生徒による演奏を契機として、アドシアード閉会式に伴うアル=カタが開始された。演奏開始から少々遅れる形でステージ上に躍り出た、黒を基調としたコスチュームを着たチアガール姿の女生徒たちはそれぞれ華麗な演武を披露し始める。もちろん、その中にはポンポンを両手に装備したアリアも混ざっている。キンジと白雪の座る観客席からも、他のスタイル抜群なチアガールたちの中でチラチラとアリアの桃髪ツインテールが見え隠れしているのがよくわかる。

 

「キンちゃんキンちゃん! ちゃんとアーちゃんの勇姿、録画してる!?」

「大丈夫だ、問題ない」

「間違って別の子撮ったりなんかしてないよね!? 大丈夫だよね!? ホントに大丈夫だよね?」

「大丈夫だって言ってるだろ? つーか、誰がそんなバカな真似するかよ」

 

 チアガール姿の女子陣によるアル=カタが始まった瞬間やけにハイテンションになった白雪とあたかも我が子の晴れ舞台をきっちり録画しようとする若い夫婦のようなやり取りをしつつ、キンジはアリアの姿をビデオカメラに収める。ついさっきまで尋常じゃない筋肉痛の影響で軽くグロッキー状態になっていたのがウソのようなはしゃぎっぷりを見せる白雪をしり目に。

 

 ところで。なぜキンジがアリアのチアガール姿を録画しているのかというと、単に白雪が後でアリアの姿を鑑賞したいとの願望を持っていたからだ。決してキンジにやましい感情があったからではない。ちなみに。白雪が自力で撮ろうとせずにキンジに録画の役目を任せているのは例のごとく、面倒だからである。尤も、当のアリアは現在進行形で自身の一挙手一投足をきっちり撮られていることを知らないのだが。

 

「で、でも――」

「俺はアリアのパートナーだぞ? 万が一にも見間違いなんてあり得ない。しっかり撮ってるから安心しろ」

「……あーい」

 

 よほどアリアの晴れ舞台を動画に残しておきたいのか、白雪は何度も念を押して確認しようとする。対するキンジは不安の色を浮かべたままの白雪に若干投げやりに言葉を紡ぐ。そんなに心配なら自分で撮ればいいのにとの思いを胸の内に封印しつつ。

 

(それに、アリアは目立つからな)

 

 そう。この状況下において、アリアはよく目立つ。アリアとともに舞い踊る特徴的な桃髪ツインテールもそうだが、最もよく目立つのはアリアの体格だ。

 

 ただでさえアリアの体型は小学生並みだから武偵高の防弾制服を着ているだけでも割と目立つというのに、今回は大なり小なり己のスタイルに自信を持った上でチアガールに立候補した女性たちと混じってのチアガールなアリアである。女性として恵まれた体型を持つチアガール勢の中から幼児体型の女の子一人を見間違えずに探し出すことなんて簡単――ッ!?

 

(い、今、何かアリアに思いっきり睨まれたような……気のせいか?)

 

 うん。そうだ。気のせいだ。俺のことをおぞましいことこの上ない表情でギンと睨みつけてくるアリアなんていなかった。そうに違いない。無意識の内に自分にとって非常に都合のいい展開を真実と思い込んだキンジは背筋を走る寒気を振り払うように頭をブンブンと振ると、そのままアリアの撮影(※盗撮とも言う)を続行する。

 

「えへへ~♪ アーちゃん、可愛い。超可愛い♪」

 

 そんなキンジの様子などいざ知らず、白雪は足をパタパタと振り子のごとく振りながらだらけきった笑みを浮かべている。その緩んだ表情とは裏腹にアリアの動作を一つたりとも見逃すつもりはないらしく、白雪の瞳はアリアを追って右へ左へとしきりに動いている。

 

(楽しそうだな、アリア)

 

 キンジも白雪を倣って、全身全霊を込めて演武を披露するアリアを見やる。生き生きとした表情で洗練された無駄のない動きを見せるアリアの姿。可憐な踊り子のようで、しかしそれでいて戦士の鋭さをも内包したアリアの姿。キンジはまるでアリアの全身がキラキラと輝いているような錯覚を覚えた。

 

 

――アリア。私のこともいいが、あまり自分の幸せを疎かにするなよ。高校生なんてあっという間に終わっちまうんだ。今のうちに思い出をたくさん作っておけ。その一つ一つが後のアリアの力になってくれる。大切なことは一見無駄に思えるようなことの中にあるって相場が決まってんだからさ、な?

 

 

 と、その時。キンジはふと思い出した。アリアのこういった純粋に学校生活を楽しむ姿を自分の目で一番見ていたかったであろう人の含蓄ある言葉を。

 

「……要するに、こういうのの積み重ねが大事ってことでいいのかな?」

 

 キンジはアリアの姿を眺めながら、しみじみと呟く。と、ここで。キンジと白雪の姿を捉えたらしいアリアがこちらに向けてさりげなく手を振ってくる。合図を送ってきたアリアにキンジはフッと笑みを零すと、ビデオカメラを持ってない方の手でヒラヒラと手を振り返す。

 

 その一方。白雪は「眼福眼福♪」と微笑ましいものを見る目つきでアリアを見つめるものの、一切手を振り返そうとはしなかった。アリアへと手を振ることすら面倒なのだろう。どうやらユッキーの重度のめんどくさがり屋症候群がここでも発動したようだ。

 

「ん?」

 

 と、刹那。キンジは自身へとピンポイントで向けられた視線を感じた。そこに敵意や害意、嫌悪に憎悪といった負の感情はない。かといって、好意や慈愛に恋慕といった正の感情もない。言うなれば、ただ淡々と注がれる眼差し。しかし。単調に向けられているにしては、やけに万感の思いが込められている眼差し。そのどこか不思議な視線を、キンジはチアガールをやっている誰かから向けられたような気がした。

 

「……」

 

 キンジは一旦アリアから視線を外すとそれぞれ楽しく踊っているチアガールたち全員を俯瞰する。まんべんなく注意を向ける。しかし、もうキンジに奇妙な視線を投げかける者はいない。

 

(これも、気のせい……なのか?)

 

 キンジはほんの一瞬だけ誰かから視線を感じたことについて気のせいだとの結論を下して納得しようとするも、なぜか釈然としなかった。強襲科(アサルト)Sランクの第六感がキンジにあたかものどに小骨が引っかかったような違和感を感じさせていた。

 

「キンちゃん? どうしたの?」

「え、あぁ、いや、何でもない」

「だいじょーぶ? ボーッとしてたけど」

「あぁ、大丈夫だ」

「? そう? ならいいけど」

 

 白雪につんつんと肩をつつかれたことで我に返ったキンジは自分に視線を向けてきた人物の特定を止めることにした。いつまでもわからないことを気にしていても始まらない、今はこのアドシアードの見せ物を楽しまないと損だと、キンジは首を軽く左右に振って先ほど感じた違和感を脳裏から完全に払拭する。

 

 雲一つない晴天の空の下。キンジたち観客の視線が注がれる中。チアガールの少女たちは両手のポンポンを空高く投げ飛ばすと、ポンポンの中に隠していた銃で宙を舞うポンポンをバンバン撃っていく。いかにも武偵高らしい演出だ。

 

 と、直後。キンジの隣を弾丸が通過したかと思うと、キンジの耳元に爆裂音が響き、キンジの手に衝撃が走った。無言のまま、キンジが目だけで衝撃の元へと目を向けるとそこには見るも無残なガラクタと化したビデオカメラの姿があった。

 

(……やっぱりこうなったか。アリアならやると思った)

 

 しかし、キンジは驚かない。アリアから手を振られた時点で、アリアに自身の持つビデオカメラの存在を認知された時点で、他のチアガールたちが一斉に発砲するこのタイミングを狙ってアリアが銃弾でビデオカメラを破壊してくるだろうことを想定していたキンジに隙はないのである。 

 

「あ!? ぁぁぁああああああ!? わ、私のビデちゃんMk-Ⅱ5号機がぁぁぁああああああああ!? え、ちょっ、なんで!? どうしてこんなことに――」

 

 アリアがビデオカメラを撃ち抜いたことを知らない白雪がビデオカメラの残骸を手に悲鳴を上げる中、アドシアードの最後の締めとして、高度な演武を披露したチアガールたちへの祝福の意味合いを含めた上で、舞台にセットされていた銀紙の紙吹雪がヒラヒラと盛大に舞う。美少女ぞろいのチアガール勢と銀糸の紙吹雪。この2点セットは観客たちにどこか幻想的なものを感じさせた。

 

 ヒラリヒラリと舞い降りる紙吹雪に包まれながら。全力でチアガールを楽しんだのか、満足そうな表情でうなずくアリアを見つめて、キンジはふぅとため息をついた。それはまるでつかの間の日常を噛みしめるかのような吐息だった。この時。キンジは何気にヒステリアモードの時に似た微笑みを浮かべていたのだが、それを本人が知ることはなかった。

 

(――さて。まずはアリアにどう言い訳するかだな。事前に許可取ったならともかく、無断で撮影してたもんな。それにあのアリアなら十中八九俺が盗撮したって考えてるだろうし、どうやって切り抜けたものか……)

 

 キンジは無意識の内に異性を十分に魅了できるであろう笑みを見せる一方、半ば達観した思考で必死に考えを巡らせる。修羅を宿したアリアによってヘンタイ扱いされて風穴を開けられるという最悪の未来を回避するため、キンジはアリアの暴走を止めるにたる言い訳作りに励む。何とも平和な一時のことだった。

 




キンジ→白雪からのお願いでチアガールなアリアを撮影していた熱血キャラ。アリアの思考回路について大体理解できるようになっている模様。誰かに見られていたようだけど……?
アリア→チアガールに励みながらさりげなくビデオカメラを撃ち抜くという、まさに才能の無駄遣いをやってのけた子。
白雪→愛しのビデちゃんMk-Ⅱ5号機が破壊されたことにショックを受けた怠惰巫女。ハイテンションながらも一応筋肉痛に苛まれている。

キンジ「よし。かなえさんにアリアの撮影を頼まれたってことにしよう(←キリッ)」
修羅アリア「遺言はそれだけですか?」
キンジ「い、いつの間に……(←冷や汗ダラダラ)」
修羅アリア「己の欲望の赴くままにチアガール姿の女子を盗撮しただけに飽きたらず、お母さんを利用しようとするとは……堕ちたものですね、キンジ(←光の消えた眼差しを向けつつ)」
キンジ「――ッ(←キンジは逃げ出した!)」
修羅アリア「風穴の時間です、キンジ。楽に死ねると思わないでくださいね?(←残念! 修羅アリアからは逃げられない!)」

 というわけで、とりあえずキンジくん目線のエピローグは今回までで終了です。あとは1~2話使って他者目線のエピローグをパパッと執筆すれば、晴れて原作三巻突入です。あくまで予定ですけど。……ユッキー退場とビビりこりん入場の時が本格的に近くなってきましたね、ええ。


 ~おまけ(ネタ:ここのキンジたちにリボーン風の役割を与えてみるテスト)~

・ネオバスカービルファミリー

大空の守護者:遠山キンジ
キンジ「全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空、か。……そういうの、柄じゃないんだけどなぁ(←ため息混じりに)」

嵐の守護者:レキ
レキ「荒々しく吹き荒れる疾風。常に攻撃の核となり、休むことのない怒濤の嵐。ふむ。これはつまり、強そうな相手には敵味方構わず勝負を仕掛けていいということですか?(←無表情の一方で目を爛々と輝かせながら)」

雨の守護者:神崎・H・アリア
「戦いを清算し、流れた血を洗い流す鎮魂歌(レクイエム)の雨……って、何ですかこれ?(←首を傾げつつ)」

雷の守護者:ジャンヌ・ダルク30世
「激しい一撃を秘めた雷電、か。……クククッ。我にピッタリの役割ではないか。尤も、遠山麓公キンジルバーナードがボスなのは気にくわんがな(←得意げに腕を組みつつ)」

晴の守護者:峰理子リュパン4世
「ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕き、明るく照らす日輪……って、え、ぅぇええ!? ちょっ、肉体言語とか無理! ボク無理だよ!? 荷が重すぎるよッ!? 誰か他の人に代わってほしいんだけどぉぉぉおおおお!?(←涙目でわたわたしながら)」

雲の守護者:星伽白雪
「何ものにもとらわれることなく、独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮雲……ってことは、家でゴロゴロしててもいいってことだよね!? ね!?(←名案を思いついたと言わんばかりの表情で)」

霧の守護者:風魔陽菜
「無いものを存るものとし、存るものを無いものとすることで敵を惑わし、ファミリーの実態をつかませないまやかしの幻影……なるほど。要するに拙者はSHINOBIとして、ジョークで敵を翻弄すればいいでござるな?(←晴れやかな笑みを浮かべつつ)」

 家庭教師ヒットマンらんらん、始まりませんよ?






 ……ジャンヌに雷の超能力(ステルス)を付加したのはこのネタがやりたかった(リボーンに雪の守護者いなかったし)からだったり……あ、ゲフンゲフン、いやなんでもないです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。