キンジ「こ、これはさすがに想定外だな……」
どうも、ふぁもにかです。今回はあのキャラの真の性格が遂に顕わになります。話数かけて作り上げてきたキャラをここでまたさらに崩壊させるとも言いますがね、ふっふっふっ……
でもって、今回の話でどうしてここのビビりこりんと厨二ジャンヌちゃんとがそれなりに仲がいいかの理由も大体察することができるかと思います。
「バ、バカな……」
しばらく無言のまま、呆然とした瞳で柄から折れて床に突き刺さった剣先を見つめていたジャンヌがまず最初に放ったのは、剣がポッキリと折れた現実が信じられないという心情を多分に含んだ言葉だった。
「ハ、ハハッ……我が聖剣:デュナミス・ライド・アフェンボロス・テーゼリオス・クライダ・ヴォルテールは、絶対に折れない、絶対に負けない、約束された勝利の剣。使用者に輝かしい未来を確約する剣。なのに、こんなこと、あるわけがない。ウソだ、こんなの――」
「この世に絶対なんてものはないよ。それがわからないんなら、貴女もまだまだだね」
剣が折れたことに目に見えて狼狽し、震えた声でうわ言のように現実を否定するジャンヌに白雪が凛とした表情で言い放つ。
しかし。ジャンヌに白雪の言葉は届いていないのか、ジャンヌは白雪の言葉に無反応のままゆっくりと歩き出す。ふらつく足で折れて突き刺さった剣先の元へと歩みを進める。白雪の放った『
「……」
ジャンヌはたっぷり時間をかけて折れた剣先に手が届く位置までたどり着くとピタリと立ち止まる。そして。しばらく自身の持つ聖剣デュランダルの柄部分とあたかも勇者が引き抜くのを今か今かと待っているようにも見える剣先とを交互に見比べる。幽鬼のような表情を浮かべるジャンヌを前についジャンヌの逮捕をためらったキンジと白雪は、アイコンタクトでひとまずジャンヌの動向を静観することに決めた。
「わ、我の聖剣が、デュナミス・ライド・アフェンボロス・テーゼリオス・クライダ・ヴォルテールがぁ……う、うわぁぁぁあああああああああん!!」
「「……え?」」
と、その時。ジャンヌのオッドアイの瞳がウルウルと潤んだかと思うと、いきなりガクッと膝をついて号泣し始めた。天井を見上げて涙をボロボロと流しながら慟哭の声を上げ始めた。これまでのジャンヌの言動からは微塵も想像できなかったジャンヌの号泣シーンにキンジと白雪は思わず目が点になる。
「……なぁ、ユッキー」
「何かな、キンちゃん?」
「あいつ、もしかして泣いてる?」
「……もしかしなくても泣いてると思うよ」
「だよなぁ。アレ、どう見ても泣いてるよなぁー」
「うんうん、マジ泣きだよねー」
キンジと白雪はパチッパチッと目を瞬かせながら、まるでたわいない世間話に興じるかのように互いに言葉を交わす。先までの無駄に自信に満ちあふれていたジャンヌと眼前で幼子のようにボロボロ泣きまくるジャンヌとのあまりのギャップに二人そろって現実逃避に走っているのだ。そんな二人を現実へと引き戻したのは、背後から聞こえた一つの声だった。「何ですか、この状況?」という、アリアの困惑に満ちた一言だった。
「ッ! アリア! 無事だったのか!?」
「あ、はい。私はこの通り、無事です。どうやら運が良かったみたいですね」
「……そうか。よかった、アリアのこと呼んでも全然反応なかったから、酷い怪我負ったんじゃないかって心配だったんだよ」
キンジは視界に捉えたアリアの姿に一瞬だけビシリと固まったものの、再起動と同時にアリアの両肩に手を置いてアリアの怪我の有無を問いかける。そうして、あれだけ派手に吹っ飛ばされていながらアリアが奇跡的に怪我をしていないという事実を知ったキンジはホッと胸を撫で下ろす。
ちなみに。先までのジャンヌとの激しい戦闘と想定外極まりないジャンヌの号泣シーンを見せつけられた影響でアリアのことをすっかり忘れていたとは言えないキンジである。
「そうですか。心配かけてすみません、キンジ。魔剣に吹っ飛ばされた際に頭を強く打ってしまいまして、そのせいで数分ほど気絶していたんです」
「頭を打ったって……それは無事と言えるのか?」
「比較的無事な方と言えるのではないでしょうか? 体は所々痛みますが、命に別状はありませんしね。それより……これは一体、何がどうなっているのですか?」
「……いや、実はな。ユッキーがジャンヌの剣を折ったら、ああなった」
「……え? そんな理由でですか?」
「あぁ。俺もにわかには信じがたいんだが、実際にああして泣いてるしなぁ……」
ジャンヌの大音量の泣き声を華麗にスルーして一通り話をしたキンジとアリアはジィーとジャンヌを見やる。ジャンヌは止めどない涙とともに声を上げて泣いている。未だに泣き止む気配は微塵も感じられない。と、泣き過ぎた影響か、「うえ、ヒグッ――ゴホッ、ゲホッ!?」とジャンヌがむせ始めた。
(……何か、すっごく罪悪感が湧くんだけど。何これ、なんで俺がこんな気持ち抱かないといけないんだ? 悪いのは完全にあっちだよな?)
キンジはもはや気品や知性といったものが欠片も残っていない今のジャンヌを前に自身の顔が引きつっていくのを感じた。ジャンヌは中身はともかく、容姿は美少女そのものだ。そんな見目麗しいジャンヌが剣を失った悲しみに涙を流す姿を見ていると、段々と自分たちの方が悪者のように思えて仕方なくなってしまうのだ。
ジャンヌとの戦闘時とは違う意味でどう対応したものか頭を悩ませるキンジ。そんなキンジをよそに、ごくごく自然な動作でテクテクとジャンヌに近寄ろうとする人物がいた。白雪である。
「――って! おい、ユッキー! 下手にあいつに近づくな。もしもアレが演技だったらどうすんだよ!?」
「だいじょーぶ。あれは演技なんかじゃないよ、キンちゃん。これでも私は星伽の皆のお姉ちゃんだからね。ウソ泣きかホントに泣いてるかくらいの区別はつくよ」
白雪は「だからここは私に任せてよ、ね?」と首をコテンと傾けて、キンジにジャンヌに近づく許可を求めてくる。絶えず泣き続けるジャンヌの対応に困っていたキンジが一度アリアとアイコンタクトを取った後に「……わかった」としぶしぶ提案を受け入れると、白雪は迷いのない足取りでジャンヌの元へと向かう。そして。膝をついてしっかりとジャンヌと視線を合わせてから、優しくジャンヌの体を抱きしめた。
「ッ!? なに、を――」
「えーと、ごめんね。デュラちゃん。あの剣、確か聖剣:デュナミス・ライド・アフェンボロス・テーゼリオス・クライダ・ヴォルテールで合ってたかな? あの剣がデュラちゃんにとってそんなに大事なものだとは思わなくて……」
「……ぐすッ、デュラちゃん、ぢゃない。
「悲しい思いさせちゃってホントにごめんね、デュラちゃん。剣を折るだなんて安直な方法じゃなくて、もっと他の平和的な方法を考えればよかったね」
「だ、だから、デュラちゃん、ぢゃなくで――」
「よしよし」
白雪はジャンヌへと謝罪の言葉を紡ぎつつ、ジャンヌの頭を優しく撫でる。あたかも自身の愛娘にありったけの愛情を注ぐ母親のように。ジャンヌの頭の怪我を自身の治癒の力でちゃっかり治すことも忘れない。当の撫でられているジャンヌは白雪の自身に対する呼称をどうにか変えようと声を上げるも、それを白雪は無意識の内にサラッとスルーする。白雪はただただジャンヌに慈愛の念を注ぐのみである。
そうこうしているうちに徐々に今の状況が心地よく思えてきたジャンヌは所在なさげな両手をゆっくりと白雪の背中に回して白雪を抱きしめ返す。そして、ジャンヌが白雪の反応を伺おうとチラッと白雪を見上げた時。ジャンヌはふと白雪の姿に今は亡き自身の母親を幻視した。瞬間、ジャンヌの中にわずかに残っていた理性は遥か彼方へと吹っ飛ばされていった。
「ぅ、あ――ぁぁあああああああああ!!」
ジャンヌは半ば白雪にしがみつくようにして泣き声を上げる。自分を取り巻く状況をすっかり忘れて泣き続ける。その間、白雪は「よしよし」とジャンヌの背中をポンポンと優しくなでるのだった。
(……とりあえず、何とかなりそうだな)
(ですね)
場の空気を読んで、声に出さずに目と目で会話するキンジとアリアをよそに。
◇◇◇
「どうして、ヒグッ。あんな大技を、使えたのだ……?」
「大技? それって、もしかして……最後に私が使った
十数分後。ようやく泣き止み、ある程度落ち着きを取り戻したジャンヌは膝をついた状態のままでポツリと疑問の声を漏らす。そのジャンヌの声を拾って確認を取る白雪にジャンヌは「そうだ」と首肯する。
「あの時、スタングレネードを使って我との戦闘から離脱した時点で、グスッ、貴様の精神力はもう枯渇寸前だったはずだ。少なくとも、あんな大技を発動できる状態にはなかった、ンクッ、はずだ。なのに、どうして、あんな強力な技が使えたのだ? たかが、ヒック、我が遠山麓公キンジルバーナードと神崎・H・アリアを相手取っていた短い間で、精神力を急激に回復させたわけでは、ないのだろう?」
「……クックックッ。図り損ねたね、デュラちゃん」
眼前のジャンヌから疑問の眼差しを投げかけられた白雪はジャンヌの笑い方を真似て得意げに笑う。それから白雪はスッと微塵も違和感の感じられない滑らかな動きで腕を組むと、ジャンヌの疑問の種明かしに取りかかる。
「? どういう意味だ?」
「えーとね、デュラちゃん。まず、あの時の私の精神力が枯渇寸前だったっていう前提から違うんだよ。まぁ要するに、いつから私が全力を出していると錯覚していたのかな? ……ってこと」
「なッ!? あれで本気じゃなかったというのか!?」
「いや、本気で戦ったよ。今日の私はいつになくやる気だったし、手抜きなんてしてたらこっちがやられちゃいそうだったからね。だけど、全力では戦わなかった。ここだけの話なんだけど……私の力を封じる封じ布はね、皆の前でこれ見よがしに外した白の封じ布一枚だけじゃなくて、髪の中に擬態させてる黒の封じ布と二枚で一セットなんだよね。だから。さっきはその黒の封じ布を解いて私の力を完全に解放してから、
白雪は巫女装束の袖口からスッと黒のリボンの体を為した封じ布を取り出すと「ほら」とジャンヌに見せる。その黒の封じ布を受け取ったジャンヌはしばしそれを見つめた後、「……なるほど」という納得の声とともに白雪に封じ布を返還した。
「つまり。デュラちゃんと1対1で戦っていた頃の私は中途半端にリミッターのかかったままのユッキー第二形態で、
「あぁ、理解した。貴様は己に二重の封印を施していた、ということだな?」
「そーゆーこと。こう見えて私は
白雪は目を瞑ってしみじみといった風に言葉を紡ぐ。そうして白雪が普段と何ら変わらない口調で放った言葉を受けて、ジャンヌは驚きに目を瞠った。
「G24、だと!? そ、そこまでGの高い
「うん? そこまで驚くことかなぁ?」
「これが驚かないでいられるか! G20越えの
「確かに私のGは高いけど、さっきデュラちゃんも『能ある
「ぁ――」
白雪は二ヘラと脱力感を誘うかのような笑みとともに「ね?」とジャンヌに同意を求める。しかし。白雪の純粋な笑みに当てられてしまったらしいジャンヌは白雪に返事を返さず、ただ呆けたように白雪を見つめるのみだった。
「? デュラちゃん?」
「――ッ!」
と、そこで。ハッと我に返ったジャンヌはブンブンと擬音語がつきそうなほどに勢いよく首を左右に振ることで平静を取り戻すと、「……ククッ、それもそうか。これは盲点だった」と口角を吊り上げる。どうやらジャンヌは元の調子を取り戻しつつあるようだ。
「……えーと。そろそろいいですか、ユッキーさん?」
「ん? どうしたの、アーちゃん?」
「いえ。もう魔剣に戦意はないようですが、一応
そろそろ大丈夫だろう。ジャンヌを確保するタイミングを見計らっていたアリアは白雪の元へと歩み寄り、許可を求める。前に理子と対峙した時のように、逮捕一歩手前まで追い詰めたイ・ウーの構成員を逃すような真似はもう二度としたくないとの気持ちを起因としたアリアの言動である。
「あ、うん。……えっと、もう大丈夫かな、デュラちゃん?」
「……我の聖剣が折られた以上、もはや我に勝ち目はない。ゆえに。敗者の我に選択権はない。好きにすればいいさ」
アリアの申し出を受けて心配そうにジャンヌを見つめる白雪。ジャンヌはそんなお姉ちゃんモードの白雪から視線を逸らすと、諦念のため息を吐きつつアリアに両手を差し出した。
アリアは念のためにと若干の警戒心を残しつつ、まだ目が充血しているジャンヌの手を取る。そして。アリアは「それでは……魔剣、もといジャンヌ・ダルク30世。貴女を未成年者略取の現行犯で逮捕します」との言葉とともにジャンヌに対超能力者用の手錠をかける。ガシャンという金属音が、あたかも今回の出来事に終止符を打つかのように地下倉庫に響き渡った。
「心しておけ、遠山麓公キンジルバーナード。神崎・H・アリア。ここで我が捕まった所ですぐに第二、第三の我が現れ貴様らを恐怖と絶望と混沌の渦に引きずり込むことだろう。それまでの間、精々仮初の平和を享受することだな。クッハハハハハハッ!」
「いや、お前みたいなのがうじゃうじゃやって来てたまるかよ」
泣きはらした目でキッと睨みを利かし、涙声で捨て台詞を残すジャンヌにキンジはため息混じりに「来るなら来るで、次はもっとまともな奴に来てほしいんだがな……」と本音を零す。これまでビビり少女だったり厨二少女だったりと、当初キンジが想像していたイ・ウーのイメージを思いっきりぶち壊してくるような敵ばかり相手してきたキンジの割と切実な願いである。
かくして。超偵ばかりを狙う誘拐魔:魔剣改めジャンヌ・ダルク30世は白雪の誘拐に失敗。その後。キンジたち三人を相手に敗北し、逮捕されたのだった。
キンジ→号泣するジャンヌの対応を完全に他人任せにした熱血キャラ。
アリア→ビビりこりんと戦った時とは違って入院するほどの怪我は負っていなかった子。防弾&防刃制服の強度様々である。
白雪→G24の怠惰巫女。第一形態(通常形態)でG
ジャンヌ→実は泣き虫だった厨二病患者。泣き虫を克服して精神的に強くなるために厨二病チックな性格を作り出すという手段を取った結果、色々と手遅れになった子でもある。余程の事態が起こらない限り、泣き虫な素のジャンヌが現れることはない。
……というわけで、今回晴れてジャンヌちゃんに萌え属性が追加されました。本当は泣き虫の美少女が厨二病を患ってるのって、何だか可愛くないですか?
ちなみに。ここのジャンヌちゃんがビビりこりんと仲が良いのは、偏にビビりと泣き虫との共鳴反応が原因です。言うなれば、類は友を呼ぶって奴です。尤も、りこりんの方はジャンヌちゃんが泣き虫だという事実を知りませんが。
さて。次回からは遂に第二章エピローグ回です。とりあえず、第一章エピローグよりは話数少なめで終わる予定です。精々2~3話でしょうかね、ええ。
~おまけ(その1 ステルスアリアさん)~
アリア「何ですか、この状況……?」
キンジ「……なぁ、ユッキー(←現実逃避のあまりアリアの存在に気づいていない)」
白雪「何かな、キンちゃん?(←現実逃避のあまりアリアの存在に気づいていない)」
アリア「キンジさん、ユッキーさん。何がどうしてこのような状況になっているのですか?(←キンジ&白雪を見上げて問いかけるアリア)」
キンジ「あいつ、もしかして泣いてる?(←現実逃避の(以下略))」
白雪「……もしかしなくても泣いてると思うよ(←現実逃避の(以下略))」
アリア「……確かに泣いてますね。それもなりふり構わずに(←自分の存在に気づいてもらうためにさりげなくキンジ&白雪の前方に移動しつつ)」
キンジ「だよなぁ。アレ、どう見ても泣いてるよなぁー(←現実逃避の(以下略))」
白雪「うんうん、マジ泣きだよねー(←現実逃避の(以下略))」
アリア「……グスン(←気づいてくれないことに少しばかり心の折れたアリア)」
~おまけ(その2 ノリノリアリアさん)~
ジャンヌ「心しておけ、遠山麓公キンジルバーナード。神崎・H・アリア。ここで我が捕まった所ですぐに第二、第三の我が現れ貴様らを恐怖と絶望と混沌の渦に引きずり込むことだろう。それまでの間、精々仮初の平和を享受することだな。クッハハハハハハッ!」
アリア「……ふッ、ふふッ、ふふふふふふふッ(←笑い声を抑えきれずに肩を震わせるアリア)」
ジャンヌ「な、何がおかしい!?」
アリア「いえ、すみません。私たちに捕まった分際でそんなことを言う貴女があまりに滑稽に思えてしまったのでつい、ふふふッ」
ジャンヌ「ク、ククッ。そうして余裕ぶっていられるのも今のうち――」
アリア「それはどうでしょうか? 私は
ジャンヌ「――。――」
アリア「――。――、――」
キンジ「……何か、アリアに魔剣の厨二病がうつってないか?」
白雪「アーちゃん、すっごく楽しそうだねぇー」
キンジ「あぁ、かなり生き生きしてるな。案外、アリアにもそういった素質があるのかもな。うっかり覚醒させないよう気をつけないと……。つーか、心なしかアリアがレキとダブって見えるんだけど……大丈夫か? レキ2号になったりしないよな? もしそうなったら俺多分泣くぞ?」