ジャンヌ「さて。ようやく我の晴れ舞台か」
どうも、ふぁもにかです。しばらく執筆を投げ出していましたがこれからボチボチ連載再開しようと思います。あくまでボチボチですので執筆速度は遅くなると思われますが、その辺はどうかご了承ください。現在の心境としては『ビビりこりんが再び登場する第三章まで執筆意欲が持てばいいなぁー』といった感じです。
でもって今回はユッキー目線とキンジ目線とで場面転換しているので話が全然進んでいません。……やっぱり地の文が多すぎるのがいけないのかなぁ。
白雪が自ら行使した鬼道術を解除して武偵高にいる己の分身を消失させる、少し前。
「……ふぅ。誰にも見られないように隠れながらここまで来るの、すっごい疲れた。ここまで疲れるのはちょっと予想外だったかな。あーもう、ダルい眠いゴロゴロしたいお腹すいたのんびりしたいアニメ見たい帰りたい寝たい」
武偵高の制服ではなくいつもの巫女装束に身を包んだ白雪は泣き言を口にしつつ、第9排水溝のフタを開ける作業に取りかかる。第9排水溝と繋がっている
今朝。前もって魔剣の指示を受けていた白雪は目覚まし時計の手助けなしでどうにか朝5時に起床。そのまま自身の分身となる紙人形をベッドに寝転がす形で残した上で、しばらく所定の場所(※二段ベッドの下)で身を潜めつつ鬼道術を発動。そしてキンジとアリアが鬼道術によって作られた偽りの白雪を連れて武偵高へと向かった後。白雪はこれまた魔剣から逐一示された人のいないルートをこっそりと慎重を期しつつ進んでいき、今に至るのである。
そのため。目覚ましなしでの朝起きや第9排水溝までの道のりを決して誰にも見られないように進んでいくといった、多大に神経をすり減らす行為をせざるを得なかった白雪。普段からダラダラとした生活に慣れきっている白雪が呪詛のごとく泣き言を言いたくなるのも道理である。
「……バイバイ、キンちゃん。私がいなくても、キンちゃんならもう大丈夫だよね。前を見て歩いていけるよね。キンちゃんはキンちゃんのままでいてくれるよね」
白雪はふと武偵高の方を振り返って、少しだけ寂しさのこもった声を漏らす。キンジの耳に自分の声が届くことはないとわかりきっているものの、それでも白雪は別れの言葉をポツリと呟く。
あの日。2009年1月1日に白雪が見た、今にも壊れてしまいそうなほどに弱々しい遠山キンジはもうどこにもいない。大好きな兄を亡くして塞ぎ込んでいた遠山キンジはもういない。だから、きっと大丈夫。もう大丈夫。人一人の安否が他人に与える影響なんて、たかが知れている。最初こそ自分がいなくなったことにある程度は衝撃を受けるだろうけど、その後は時間が解決してくれるはずだ。何より、今の遠山キンジには神崎・H・アリアというパートナーがいるのだから。
「頑張ってね、キンちゃん。私……キンちゃんのこと、いつでも、どこにいても、応援してるからね」
雲一つない晴天の空に視線を移して白雪が呟いた言葉は風に乗って消えていく。しばし空を見上げたままだった白雪は意を決すると、いつものような緩慢さとはかけ離れた機敏な動きで地下倉庫の奥へと降りていった。
そうして。地下二階までの階段を下りた白雪は立ち入り禁止区画に続くエレベーターに乗ってパスワードを打ちこむ。そうして。あっという間に地下7階へと降り立った白雪は赤い非常灯の光源を頼りにトテトテと歩く。と、その時。白雪は自身の前方に微かに人の気配を感じ、立ち止まる。
「……そこに、いるんだよね?」
「……クククッ、よく気づいたな。星伽ノ浜白雪奈。だらけきった生活を営む貴様では我のほんの僅かな気配など察知できないと思っていたのだがな。……腐っても星伽の武装巫女、ということか」
白雪は前方の暗闇へと問いを投げかける。目の前に魔剣がいるとの確信を持った上で白雪がそのまま10秒ほどジィーと視線を送り続けていると、白雪の元に言葉が返ってくる。男にしては高く、女にしては低い、どこか機械的で不自然な声だった。
「魔剣、もとい
そして。その声の主たる魔剣は黒のマントで身を隠し、なぜかレオぽんのお面をつけた状態で悦に入ったような声とともに白雪の前に姿を現した。
◇◇◇
武藤の手に入れた白雪の目撃情報を元に第9排水溝周辺までやって来たキンジはビンゴだと思った。第9排水溝のフタにはほんの僅かにだが、一度外されてムリに繋ぎ直されたかのような跡が見て取れたからだ。これで白雪がこの第9排水溝からどこかへと向かった可能性が一気に濃厚となった。
「ッ!? 地下倉庫、かよ……」
この第9排水溝がどこに繋がっているのか。武偵手帳を使って手早く調べたキンジは驚愕に目を見開き、呻くようにして呟いた。
地下倉庫。そこは、
なので。もしも地下倉庫にユッキーと魔剣がいて、ユッキーを取り返すために魔剣との戦闘に突入したとして。その時に俺が放った銃弾がその辺の爆薬にでも当たって誘爆を引き起こしたら最後、地下倉庫にいる俺やユッキーに魔剣はもとより、武偵高そのものが爆散しかねない未曽有の大惨事が発生することになるだろう。いや、確実になる。
ここから先、うかつに拳銃は使えないなとキンジは眉を潜める。尤も、あくまで
「……この先にユッキーがいる。だったら行くしかないだろッ!」
これから向かう場所が場所だったために万が一の事態を想定してしまったキンジは死の恐怖を感じて思わず硬直する。立ちすくむ。しかし。すぐさま恐怖を心の奥底に押し込んで覚悟を決めると、キンジは迷わず第9排水溝を通して地下倉庫へと向かっていった。もちろん、アリアに地下倉庫に白雪と魔剣がいる可能性が高い旨を記したメールを送ることも忘れずに。
◇◇◇
一分一秒が惜しいため、キンジは武偵高の地下を下へ下へとハシゴを伝って突き進んでいく。地下二階にあったエレベーターに緊急用のパスワードを入力しても全く反応しなかったことから下が怪しいと踏んだのだ。
一刻を争うかもしれない状況下。最下層である地下7階に到達したキンジは赤い非常灯の中をなるべく音をたてないよう細心の注意を払いつつ周囲を探索する。ここからは魔剣の領域だ。電気が落とされ携帯が圏外となっている(※屋内基地局が破壊されたせいだと思われる)以上、どこに魔剣が潜んでいてもおかしくない。ゆえに。急がないといけないのはわかっていてもうかつに動けないキンジは焦燥の念を隠しきれずにいた。
(こうしている間にもユッキー救出が間に合わなくなるかもしれないってのに――!)
「一つ聞きたかったんだけどさ」
「ッ!?(この声、ユッキーの!?)」
「どうして貴方はよりによって私なんかに目をつけたの、魔剣? 確かに私は一応能力を持っている超偵だけど、あんなの全然大したものじゃないよ? それに、私はめんどくさがってその大したものじゃない能力を磨こうともしないようなダメ人間だよ?」
「……お、己がダメ人間だという自覚はあったのだな。これは少々予想外だ」
近くから響いた白雪の声に思わず息を呑んだキンジはすぐさま身を低くし角の向こう側から聞こえてくる声に聞き耳を立てる。一つは散々聞きなれたユッキーの声。もう一つは少々戸惑ったような男とも女ともつかない声。この声の主が魔剣で間違いないだろう。キンジはひとまず白雪を発見できたことに安堵しつつも、白雪と魔剣が相対している状況を即席の鏡としたバタフライナイフを通して静観することにした。
キンジがすぐさま魔剣と接触しなかったのにはどんな些細な情報でもなるべく手に入れておきたいという思惑とアリアがこの場にやって来るまでの時間稼ぎの意味合いが含まれている。尤も、実際に魔剣と会話をして無自覚の内にアリア到着までの時間を稼いでいるのは白雪なのだが。
(あれが魔剣――って、なんでレオぽんの仮面なんかしてるんだ?)
「理由は二つある。一つは貴様の
――そんなに意味がないのに殺そうとしちゃってごめんね。でも、あの人のお告げは色んな意味で絶対だから。意味がなくともやらないといけないこともあるってこと。
あのお方のお告げ。魔剣の発言からキンジは理子の言葉を思い出す。あの時。ANA600便で理子も魔剣と似たようなことを言っていた。二人の言い方からして、まるで犯罪組織というより何かの宗教組織みたいだなとキンジはイ・ウーへの印象を改める。
「
「う~。だから私は星伽ノ浜白雪奈なんて長ったらしい名前じゃないんだけどなぁ。気軽にユッキーって呼んでよ。ほら、友達感覚でさ。その方が魔剣も呼びやすいでしょ、ね? はい。
「……」
「むー。ノリ悪いなぁ。折角私がめんどくさいながらも親交を深めようとしてるのに。無言はさすがにないと思うよ、うん」
白雪は腕を組んでうんうんとうなずく。それにしてもユッキーは相変わらずの平常運行だな。キンジは普段と何ら変わらない白雪の物言いに苦笑する。現に、白雪の緊張感ゼロの発言でシリアスまっしぐらだったはずの雰囲気が見事なまでにぶち壊されてしまっている。
「……貴様、己が何を言っているのかわかっているのか? 我は歓迎の体を取ってはいるが、実際は他人を盾にして脅して貴様を無理やりイ・ウーの一員にしようとしているのだぞ? 我に対して何か思う所があるのではないのか? なぜ友好的な態度を取る?」
「確かに。何もないって言ったらウソだけど。でも、何もかも諦めてダラダラ過ごして、ただ流れに合わせる生き方には昔から慣れてるから。キンちゃんやアーちゃんや武偵高の皆と過ごす生活は凄く楽しかったけど……何事にも始まりがあれば終わりがあるし、出会いがあれば別れがある。武偵高での楽しい生活もどうせあと2年もしない内に終わっちゃうんだし……それが偶々、貴方が私を誘拐しようとしたことで時期が早まった。それだけだよ。それに、貴方もそのイ・ウーって所の人なんでしょ? だったらこれから貴方とは長い付き合いになるかもしれないし、どうせなら仲良くした方がいいかなぁって思ってね」
「……ククックククッ! クハハハハッ! 面白い! そんなことを言われたのは初めてだ! 気に入ったぞ、星伽ノ浜白雪奈! いや、ユッキー! 貴様を客人ではなく、友としてイ・ウーに招待しよう!」
「え、いいの?」
「当然だ。
白雪の言葉があまりに想定外だったのか、思わずといった風に絶句する魔剣。直後に再起動を果たした魔剣は哄笑すると愉悦を多分に含んだ声を白雪に向ける。どうやら先の白雪の発言は魔剣の心をガッチリ掴んだようだ。
(……そんな風に思ってたのかよ、ユッキー)
一方。白雪の本心の一端を知ったキンジの心は酷く複雑だった。キンジは今の今まで白雪のことを重度のめんどくさがり屋で毎日毎日だらけてばかりだけど、それでも自分なりに信条を持って前向きに生きているものだと思っていた。
でも違った。前向きでポジティブだと思っていた白雪は実はどこまでも後ろ向きでネガティブだった。どこまでも退廃的で諦め癖がついていた。今まで信じてきた白雪像と現実の白雪とのギャップ。そしてそれに自分が気づけなかったこと。これらの事実を前にキンジは顔を歪めた。
「にしても、やっぱり意外だよねぇ」
「意外、というと?」
「貴方が送ってきた脅迫メールには従わなかったらキンちゃんを殺すとか、アーちゃんを殺すとか、武偵高の皆を殺すとか物騒なニュアンスの事ばっかり書いてあったから、魔剣はもっと怖い人だと思ってたんだ。毒々しいくらいの金髪で全身に火傷痕があるムキムキの人とか、顔に大きな傷痕が残ってるムキムキの人とか、とりあえず全身ムキムキの人とかさ」
「……いや、気持ちはわからなくないがもっとマシな想像はできなかったのか? というか、なぜ貴様はそこまで『魔剣=筋肉質の男』の方式にこだわる?」
「う~ん、何となく? あ! あとは『わんわんおー』のニャルニャーク元帥みたいな人かもしれないとも思ってたよ」
「ハッ! ニャルニャークのような老害と我を一緒にするな、汚らわしい」
「あれ? 魔剣って『わんわんおー』知ってるの?」
「当然だ。以前リコリーヌ・ヴィ・ガルランディア・ロゴス・ゼルベスドール・ウィルフィン・アークスウィッドに原作の漫画を紹介されたからな。我は個人的にプルドックルトンがお気に入りキャラだな。貴様はどうだ、ユッキー?」
「私はチワワッフルとレトリバームクーヘンかな。あの二匹の軽快なやり取りがもう可愛くて可愛くて」
「確かにな。あの二匹のカップリングは王道ではあるが、それ故にいい組み合わせだ。着々とフラグを積み重ねて上手く無事にくっついてほしいものだが……と、折角『わんわんおー』好きの同志と出会えた以上、もっと色々と話をしたい気持ちはあるのだが、我の都合上いつまでもここに留まっているわけにはいかなくてな。話の続きはイ・ウーへの道すがらにでもしようか」
「うん。わかった」
キンジの内心をよそに、様々な爆弾がひしめく地下倉庫に全く似つかわしくない、のほほんとした会話を繰り広げる魔剣と白雪。魔剣が話を切り白雪をイ・ウーへと連れていこうとした時、ふとレオぽんの仮面越しに魔剣の目に剣呑な光が宿った。
「……だが。その前に、邪魔者を排除しなければなるまいな。なぁ、遠山麓公キンジルバーナード?」
「えッ? 誰か来てるの?」
「いつまでもそんな所に隠れてないでいい加減出てきたらどうだ?」
魔剣から殺意のこもった視線を向けられたキンジは歪めていた顔を引き締める。遠山麓公キンジルバーナード。まさかとは思ったがどうやら自分が呼ばれているらしい。キンジは魔剣が何か仕掛けてくる前に自ら進んで白雪と魔剣の前に姿を現すことにしたのだった。
キンジ→何だか最近原作キンジくんと性格が似てきているような気がしないでもない熱血キャラ。
白雪→『わんわんおー』大好きっ子。『魔剣=筋肉質の男』という偏見を持っていた。
ジャンヌ→怠惰巫女ユッキーを気に入った厨二病患者。何気にレオぽん好き。
今回で『キンジくん VS ジャンヌちゃん』まで行きたかったのですが、何とも微妙な所で終わってしまいましたね。何という寸止め。
~おまけ(その1:ネタまっしぐら)~
白雪「魔剣はもっと怖い人だと思ってたんだ。毒々しいくらいの金髪で全身に火傷痕があるムキムキの人とか、顔に大きな傷痕が残ってるムキムキの人とか、とりあえず全身ムキムキの人とかさ」
逆鬼至緒「ん?」
トリコ「ん?」
ウボォーギン「あ?」
ムキムキ魔王さま「呼んだか?」
アームストロング少佐「呼んだかね?」
白雪「いや、呼んでないよ?」
~おまけ(その2:ちょっとした裏話)~
ボストーク号の艦内。ジャンヌの部屋にて。
理子「ジャンヌちゃんジャンヌちゃん! ジャンヌちゃんに読んでほしい漫画があるんだけど今時間大丈夫!?(←扉を勢いよく開けつつ)」
ジャンヌ「案ずるな、心配ない。ちょうど暇を持て余していた所だ。あと我はジャンヌじゃない、
理子「これこれ! 『わんわんおー』っていってね、すっごく可愛いワンちゃんたちがほのぼのまったりする漫画なんだ! あ、たまに猫も登場するけどね!(←両手に抱えた漫画を見せつけるようにして)」
ジャンヌ「犬、か……済まない、リコリーヌ。我は猫派――」
理子「もうこれすっごく面白いんだ! 今度アニメ化するんだって! とにかく読んでみてよ!(←漫画をジャンヌに押しつけるようにして)」
ジャンヌ「いや、しかし、犬は好きじゃな――」
理子「何言ってるのさ、
ジャンヌ「わ、わかった。読む。そこまで言うのなら読ませてもらおうか(←理子の気迫に負けたジャンヌ)」
理子「ホントッ!? じゃあ全部読み終わったら感想言い合おうよ! じゃあ、またね! 私今から仕事あるから!!(←嵐のように去っていく理子)」
ジャンヌ「……いつになく押しの強いリコリーヌだったな。何とも珍しい。……ま、折角だ。暇つぶしに読んでみるか」
ジャンヌ「む、こうして見てみると犬も中々――」
こうしてジャンヌは『わんわんおー』にハマった。