【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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Q.熱血キンジくんは普段どのような時にヒステリアモードになるのですか?
A.シューティングゲーム。

 はい。というわけで……どうも、ふぁもにかです。当初の予定だとあと3、4話でさらっと第一巻の話が終了するはずだったのですが、この分だと後10話はかかるかもしれません。さて。どうしてこうなった。あと今回は文字数少ないです。ごめんなさい。



3.熱血キンジとスルースキル

 

「それでは神崎さん、入ってきてくたさーい」

 2年A組教室前で待機していた神崎・H・アリアは 担任の高天原先生の間延びした声を聞くと教室へと向き直る。これからアリアを待ち受けているのは自己紹介だ。そこでいかに上手く事を運べるか。それでクラスメイトたちとの今後の関係が定まるといっても過言ではない。これから一年間を共にする同士たち。できることなら悪い印象を持たれたくはない。アリアはゴクリと唾を呑むと教室へと歩を進める。

 

「神崎・H・アリアです。よろしくお願いします」

 アリアは教卓の前までテクテクと歩くと自己紹介とともに頭を下げる。平静を装ってはいるものの、緊張で自分の歩き方が変にカクカクとしていなかったか、声が上ずっていなかったか等のことが気になって仕方ない。アリアの背中を冷や汗が伝っていったような気がした。

 

「えー。それでは今から質問タイムに入りまーす。神崎さんに聞きたいことがある人は手を上げてねー。あ、その前に自分の名前を言うように」

「武藤剛気……専攻科目、ランク……何?」

強襲科(アサルト)のSランクです」

 

 高天原先生が全てを言い終える前に真っ先に手を上げたのは武藤剛気。彼の問いにアリアが簡素に答えると途端に教室がざわめきに包まれる。当然だろう。Sランク武偵はRランク武偵ほどではないが、それでもかなりレアだ。私が事前に調べあげた所、東京武偵高校で確認されているSランクがたった3人しかいないことからもそれが伺えるというものだ。一人目は狙撃科(スナイプ)Sランク武偵のレキ。RBR、ロボットバトルジャンキーレキと名高い緑髪の少女だ。二人目は尋問科(ダギュラ)Sランク武偵の中空知美咲。彼女にかかればどんな犯罪容疑者からでも情報を引き出せるのだそうだ。そして最後は強襲科Sランク武偵の遠山キンジ……もといヘンタイ。命の恩人たる私のふ、服を脱がしてむ、むむむむ胸を掴んできた――

 

「神崎さん、大丈夫ですか? 何だか顔が赤いですよー?」

「気のせいです!」

「? ならいいですけど」

 

 アリアは今朝の出来事を脳内から振り払うように首を左右にブンブンと振る。高天原先生を初めとして眼前のクラスメイトたちが怪訝な表情を浮かべてこちらを見ているが気にしないことにする。それから。アリアは趣味や出身、好きな食べ物等の質問に淡々と答えていく。その際、2年A組クラスメイト陣がゲンナリとしていたのは決して私がももまんがいかに素晴らしいかを熱弁したからではないだろう。うん。

 

「それでは、次の質問で最後にしようと思いますー。誰かいませんかー?」

「あ、じゃあ俺で」

 

 アリアが粗方クラスメイトたちの質問の嵐に対応し終えた頃を見計らった担任の先生の言葉に一人の男子生徒が気だるそうに手をあげる。両手を頭の後ろで組み両足を机の上に乗せている様はいかにも不良っぽい。見目だけは麗しいだけに何とも残念だ。

 

「不知火亮。で、神崎さんは彼氏とかいるんスかー?」

「かッ彼氏!?」

 

 何を聞かれるのだろうか。人知れず身構えたアリアを襲ったのはアリアの想定の埒外のものだった。まさかの恋愛方面の質問にアリアの体はビシリと硬直する。と、その時。アリアの脳内を埋め尽くしたのは黒髪に意思の強さを漆黒の瞳に宿した――

 

(な、なんでここであのヘンタイの顔が浮かび上がるのですかッ!? これじゃあまるで私があのヘンタイに恋心を抱いてるみたいじゃないですかッ!?)

「お、その反応。いるんスねー? 意外ッスねー。じゃあ是非ともその彼氏さんとの馴れ初めを教えてほしいんスけどー?」

 

 アリアが再び顔を赤くして固まっていることを良いことに調子に乗った不知火がさらに質問を畳みかける。ニヤニヤとした笑みが憎らしいことこの上ない。その時。ハッと我に返ったアリアの視界から色が消え去った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「はぁ、さすがに疲れた……」

 遠山キンジは疲れ切った体を酷使して2年A組へと歩みを進める。チャリジャックの一件で体力を消耗し桃髪ツインテール少女とのバトルで残り少ない体力をまた消耗した今のキンジでは階段一つ上るのにも一苦労である。今現在、教室では既にホームルームが始まっている時間帯であり本来ならダッシュで教室に駆け込まないといけない立場のキンジであったがもはや走る気力すら残っていなかった。

 

(それにしても、今朝のはいい経験になったなぁ)

 キンジはつい先ほど繰り広げたあの自称高校二年生(実際は高く見積もっても精々中学生が関の山だろう)との戦闘を思い出して意図せず頬を緩ませる。先の桃髪少女との戦闘はキンジの勝利で終幕となった。必要最低限の動きで少女の繰り出す弾丸&小太刀をかわしたり銃弾で逸らしたりしつつ少女の足元にこっそり空弾薬を転がし少女がそれに足を滑らした時に一気に距離を詰めて頭に拳銃を突きつける。この作戦が面白いくらいに上手くいったのだ。結果、桃髪少女に拳銃を突きつけた状態で説得を再開。しぶしぶながらも少女の納得を勝ち取って今に至る。

 

 そういえばあの子の名前を聞いてなかったな。またどこかで会えるだろうか。キンジは桃髪ツインテールの少女に思いをはせる。次に会った時はまた戦ってくれるだろうか。実はちょっと試したい新技があるんだよな。そんなことを考えながら2年A組の教室の扉を開けたキンジの頬を一発の銃弾が掠めていった。

 

「……へ?」

「恋愛なんてくだらないですね。そんなことを言うおバカさんは――、っと。すみません。少々熱くなってしまいました。今のは忘れてください」

 

 眼前には二丁拳銃を両手で構え所構わず撃ちまくったらしい桃髪ツインテール少女の姿。どうやらさっきの弾丸は流れ弾だったようだ。あ、危なッ!? と背筋の凍る思いを感じているキンジをよそに少女はあくまで澄ました顔で言葉を紡ぐ。ただでさえ見た目相応のあどけない高音ボイスがシンとした教室内によく響く。

 

「あ、そうですね。皆さん、夜道には気をつけてくださいね。最近は物騒ですので」

 

 アリアは拳銃をしまうと何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべる。言葉だけならクラスメイトの身を案ずる聖女のごとき慈愛の精神の持ち主と言えなくもないが今は状況が状況だ。この場合、アリアの発言は「私の前でもう一度恋愛のことについて喋ってみろ。その時が貴様の最期だ」といった風に解釈するのが正解だ。ニッコリと笑みを浮かべるアリア。アリアに対して恋愛関連でからかってはいけないとクラスメイト全員が悟った瞬間であった。尤も、不意の銃声に思わず気絶してしまった理子はそのようなことすら悟れなかったのだが。哀れ理子。

 

 背後にゴゴゴゴゴと効果音の付きそうな修羅を纏った桃髪少女。少女の気迫に怯えおののく2年A組クラスメイト陣。うち腰を抜かし椅子から崩れおちた者7名(ちなみに全員男子。その中に不知火がいたのは意外だった)。うち気絶者1名(理子だった。まぁ理子だし仕方ない)。Sランク武偵の実力は気迫にも表れるものだ。

 

 キンジはゆっくりと扉を閉めた。決してアリアに気づかれないよう慎重に扉を閉めたキンジは今見た光景を全て綺麗さっぱり忘れることにした。かくしてキンジは歩き出す。世界最強の武偵は後ろなど振り向かない。己のために犠牲となった者たちの意思を汲み、前を見据えてただただ突き進むだけだ。遥か高みの存在への到達を目指すキンジが後ろを見やることはついぞなかった。

 

(あの子、あの体型で本当に高2だったのか……いるもんなんだな。三次元の世界にも)

 どこか的外れなことを考えつつキンジは2年A組教室を後にしたのであった。悲鳴なんて聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

 




キンジ→空気の読める熱血キャラ。軽度のバトルジャンキー。スルースキル保有者。
アリア→怒り心頭時の決め台詞「夜道には気をつけてください」。
不知火→不良。チャラ男。高1の2学期に夏休みデビューを果たした。根はいい人。それを知ってるキンジたちは聖母のごとき眼差しで彼を見守っている。
理子→ビビり。超ビビり。不意の銃声で気絶するレベルのビビり。過去に後ろから目を塞がれて「だーれだ?」をやられただけで気絶した経験あり。
レキ→ロボットバトルジャンキーレキ。詳しいことは後々明かされる……はず。
中空知→尋問科(ダギュラ)Sランク武偵。綴先生のお墨付きを貰っている。
高天原先生→綴先生とともに尋問科の教諭をしているという裏設定があるだけ。他は変化なし。一人くらいはまともな人がいないと話が進まないと思った。

 今回、文字数が少ないながら性格改変された登場人物たちがチラッと地の文に現れてきましたね。彼女たちの出番はいつになることやら……

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