【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。お久しぶりです。サブタイトルからわかる通り、今回で第一章『熱血キンジと武偵殺し』は晴れて終幕です。まさか原作一巻の話を終わらせるのに28話(※フリートーーークを抜かせば27話)もかかるとは思ってもみませんでしたよ。当初の予定は10〜15話程度のつもりでしたしね。ええ。全く、私の想定の外れ具合といったらもう……。

P.S.単位を賭けた試験が何だッ! 私を止めるものなど何もないッ! 私は私の好きに生きるんだッ!! 私の、好きにッ……うわあああああああああああああああああああん!!



28.熱血キンジと第一章エピローグ

 

「あ、そうそう。アリアに聞きたいことがあったんだけど」

「? 何ですか?」

 

 武偵病院内のVIP個室にて。ひとしきりアリアが泣き止んだ後、かねてからタイミングを見計らっていたキンジは病室に漂うシリアスな雰囲気を払拭するために話題を変えようと声を上げる。雰囲気を変えたかったのはアリアも同じらしく、少々充血した真紅の瞳をキンジに向けて疑問の声を上げる。

 

「あの時、理子がお前をオリュメスって――」

「オ・ル・メ・ス、ですが?」

「——そ、そう、それ。オルメス。理子にオルメスって言われてたけど、その呼び名も双剣双銃(カドラ)みたいに何か意味があるのかなぁーって、少し気になってな」

 

 話題を変えようとする際、ついうっかり理子の発言を思い出し、そのままアリアのことをオリュメスと言ってしまったキンジ。その瞬間、アリアの体から禍々しいことこの上ない邪気と殺気とがブワリと噴き出してきたので、気配を察したキンジは即座にオルメス呼びに修正する。キンジの声が若干上ずっていたのはご愛嬌だ。いくら強襲科(アサルト)Sランク武偵といえど、怖いものは怖いのだ。

 

 のちにキンジは如実に語る。あの時のアリアに、桃髪を自在にうねらせるメデューサの姿を幻視したと。

 

「……キンジ? もしかしてオルメスの意味に気づいてなかったのですか?」

「……悪かったな、知らなくて。で、どういう意味なんだ?」

「オルメスは私のミドルネームですよ。神崎・H・アリアの『H』の部分です。……私は神崎・ホームズ・アリア。かの伝説の名探偵、シャーロック・ホームズの4世、要するにひ孫です。オルメスというのはホームズをフランス語読みしたものです」

「へ?」

 

 キンジはアリアの口から放たれたまさかの事実に絶句する。「私をオルメスと呼んだということは峰さんはフランス育ちだったのでしょうか?」と、ふと思いついた疑問を口にするアリアをよそにキンジは放心する。

 

 自分のような有名人の子孫が他にもいたのか。というか、こんなに近くにいたのか。いや、理子もあの大怪盗:アルセーヌ・リュパンの子孫だったし、案外有名人の子孫ってありふれた存在なのか? もしかして武藤や陽菜やレキ辺りも何気に過去の偉人の子孫だったりするのか?

 

「……疑ってますね? 本物ですよ?」

 

 キンジが衝撃の事実に言葉を失ったまま、そのような気持ちをそのままぶつけるようにアリアを凝視していると、アリアからジト目が返ってくる。お互いの目を見つめ合う少年少女。言葉だけなら思春期特有の甘い空間が構成されているように誤解すること必至だろうが、実際はジト目と凝視とのぶつかり合いだ。ほんわか空間なんて欠片もない。このまま何も語らないでいるのは色々とマズい。雰囲気的にも。パートナーたるアリアとの信頼関係的にも。

 

「いや、別にアリアを信じてないわけじゃないぞ? アリアが無意味なウソをつくような奴じゃないってのはよくわかってるつもりだし。……ただ何つーか、そもそもシャーロック・ホームズに子孫がいたってのも初耳だし、シャーロック・ホームズって長身痩躯の男性紳士のイメージがあまりにも強くてあんまりアリアと印象が合わないから、ちょっと驚いただけだ」

「……そう、ですか」

 

 キンジはアリアの疑いの目から解放されるために弁明の言葉を放つ。ちょっとした手振りを駆使することも忘れない。結果、アリアからの疑いの眼差しはなくなったものの、アリアはどこかシュンとした様子で返事を口にした。

 

「それにしても、こんな身近に有名人の子孫がいるとはな。事実は小説より奇なりとはよく言ったもんだ」

「……まぁ、私自身、ホームズ家らしくない人間だとは思いますけどね。推理も人並みにしかできませんし。結局の所、私は直感頼りの欠陥品ですからね」

「欠陥品って、それはさすがに自分を卑下し過ぎじゃないのか? 強襲科Sランクの欠陥品武偵がいてたまるかよ」

「……」

 

 キンジは頭を掻きつつ、自虐思考に陥るアリアに物申すも、当のアリアはキンジの意見に言葉を返さずに押し黙る。会話が途切れ何とも言えない気まずい沈黙が病室を支配していく中、アリアは何かを思い出したのか、ポンと手を叩くとキンジに視線を向けた。

 

「そういえば、私もキンジに聞きたいことがあったんでした。今まですっかり忘れていましたけど、少々気になることがありましたので」

「ん? 何だ?」

「キンジのお兄さん、確か遠山金一さんでしたね? 彼は、その……俗に言うコスプレイヤーなんですよね?」

「……は?」

 

 キンジはアリアの問いに別の意味で言葉を失う。真顔で尋ねてきたアリアを前に頭が真っ白に染まっていく。しかし。いつまでも固まっているわけにはいかない。沈黙は肯定と取られてしまいかねない。ゆえに。キンジの思考回路はすぐに再起動することとなった。

 

「え、待って。ちょっと待て、アリア。なんでアリアの中で兄さんがコスプレイヤー認定されてんだ? しかもなぜか疑問形でクエスチョンマークがしっかりついてるはずなのにすでに断定しちゃってるような口ぶりだし」

「いえ。あの時、峰さんがキンジのお兄さんが女装しているといった旨の発言をしていましたので」

「……あ。あー。あれかぁ」

 

 持ち前の割と優れた記憶力でANA600便での理子の発言を思い出したキンジは「理子の奴、余計なこと言いやがって……」と頭を抱える。兄さんの名誉のためにも、兄さんが女装趣味を持っている変態だとアリアに認識されることだけは何としてでも避けたい。しかし。だからといって、自ら進んでヒステリア・サヴァン・シンドロームの存在を明かしたくはない。いずれは話さなければならない時が来るのだろうが、何も今すべてを暴露する必要はない。

 

 アリアの怪訝な眼差しがキンジの体に突き刺さる中、アリアの遠山金一への認識の修正のためのキンジの戦いが幕を上げた。

 

「えーとな。アリア。兄さんの場合は普通のコスプレイヤーとは事情が違ってな? その辺のコスプレイヤーと違って、女装した自分の姿を前に悦に浸ったり女の子気分を味わったりとかいった類いの趣味を持ち合わせているワケじゃないんだ」

「? それはつまり、キンジのお兄さんは性同一性障害だということですか?」

「ん、んー。そうじゃなくて……あー、ああいうのってどう説明すればいいんだろうなぁ」

「?」

 

 それから。キンジは色々と言葉を変えてアリアに説明するものの、肝心のヒステリアモードの存在に触れていない以上、キンジの説明はどうしてもどこかふわふわした曖昧で釈然としないものとなり、それはアリアを納得させるに至らない。アリアの頭上にハテナマークが乱立するのも仕方ない。 

 

「……まぁ、キンジのお兄さんが何だかややこしいことになっているということだけはよくわかりました」

「うん。もうそれでいいや」

 

 キンジがアリアの納得を引き出す説明ができずに困り果てていると、何を思ったのか、アリアが追及の手を止める。アリアの中ではおそらく『遠山金一=性同一性障害っぽい何か』といった術式が形成されていることだろうが、とりあえず『遠山金一=女装癖を持つ救いようのない変態』といった術式構築は回避できているようなので、キンジはひとまず妥協することにした。ここで下手に言葉を重ねたら、今以上に兄さんに対する認識が酷くなりかねないとの考えあっての判断だ。

 

「ところで。私の話し相手になってくれるのは非常にありがたいのですが……いいんですか、キンジ?」

「ん? 何がだ?」

「ユッキーさんのことですよ。放置していたらマズいのではないですか?」

「……あ」

 

 アリアはチラッと病室に備えつけられた掛け時計を見た後にキンジに心配そうな眼差しを向ける。アリアの指摘にキンジは思わず青ざめた表情を浮かべた。

 

 ここ数日。キンジはアリアの代わりに神崎かなえの冤罪の証拠集めに奔走していたせいで白雪のことをすっかり忘れていた。女子寮を訪れ白雪の世話係としての役目をこなすことをすっかり放棄していた。ふとキンジの脳裏に『……キン、ちゃん』とやつれた顔と掠れた声でうめく白雪の姿がよぎった。嫌な予感しかしなかった。

 

「――やっば!? ユッキーのことすっかり忘れてた!! 悪いなアリア! また明日見舞いに来るから!」

「ではその時の見舞い品は松本屋のももまんギフトセット20個入りを5セットお願いします。くれぐれも看護師の方々にバレないように。この前こっそり通販サイトで頼んだ時は没収されましたし」

「了解! じゃあなアリア!」

「はい。また明日」

 

 「全く、ちゃんとお金払ったのに没収とか……理不尽です」と看護師に対して口を尖らせている アリアをしり目にキンジは文字通り病室から飛び出す。ユッキーは以前、俺が一週間放置していた時も何だかんだで生き延びていたが、だからといってここ数日放置していても大丈夫だという保証にはなり得ない。

 

(頼むから生きててくれよ、ユッキー!)

 

 キンジは看護師の廊下を走るなといった注意を無視して一直線に女子寮へ向けて駆けていく。その後、キンジは「ユ、ユッキー!? ユッキィィイイ――ッ!!」とアリアの病室を訪れた時のように絶叫することとなるのだが、それはまた別の話。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……ふぅ。どうにか平静を保っていられましたね。よくやりました。やればできるものですね。グッジョブです、私」

 

 キンジが慌てて病室から飛び出していく様をしかと見届けたアリアは安堵のため息とともにポフッと布団に顔をうずめる。そして。心の中で小さくガッツポーズをする。

 

 

――おやすみ、アリア。いい夢を。

 

 

「~~~ッ!?」

 

 と、そこで。あの時、ANA600便のコックピットで聞いたキンジの妙に色っぽい声が不意に脳内再生された。その瞬間、アリアは悶絶した。声にならない悲鳴を上げた。第三者が見ればボフッとアリアの頭から白い煙が噴出したように見えたことだろう。尤も、今のアリアの顔は布団に隠れているので赤面したアリアを拝めることはないのだが。

 

「な、なぜ私はこんなにも動揺しているのでしょうか?」

 

 アリアは布団を両手で思いっきり掴んだ状態で胸に抱いた疑問を声に出してみる。しかし、答えは一向にわからない。考えれば考えるほどに自分の気持ちがわからなくなっていく。

 

 そもそも。あの時のキンジの言動は一体なんだったのだろうか? 今にして思えば、あまりに普段のキンジからかけ離れている。キンジは二重人格なのか? それともあの生死のかかった状況下で単に精神がおかしくなっただけなのか?

 

 しばしアリアは考えを巡らせるも、結局は何もわからない。それならとアリアは思考を自身が現在進行形で抱いている気持ちの正体へと切り替える。しかし。こちらの方も相変わらずわからない。いや、本当はわかっている。アリアはとっくに気づいている。だけど、まだ認めたくないのだ。これが、世間一般に言う、恋心だと――。

 

「こ、こここれは気の迷いです! 吊り橋効果です! でなければ、私があんな初対面の女子の胸を触るような相手をす、すすすすすす好きになるなんてあり得ません! ……ここ最近の武偵殺しの件で疲れてるんでしょうね、私。明日には正気になることでしょう、ええ」

 

 アリアは紅潮した顔のまま、誰に言うでもなく言い訳の声を上げる。そして。咄嗟に導き出した自論にアリアはうんうんと何度も頷き、「お休みなさい!」と布団を頭から被って寝る体勢に入った。そこからアリアはギュッと目を瞑る。しかし。ここ数日、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていたアリアが真っ昼間から熟睡できるわけがなく、アリアの意識は闇に落ちるどころかどんどん覚醒していく。

 

 

――全く、無理はしないでくれ。心臓に悪い。

 

――ありがとう。アリアのような心づかいがあって、頼りになる、可愛い女の子のパートナーでいられるなんて――俺は幸せ者だ。

 

――さ。後のことは俺に任せて、もう疲れただろう? 眠ってもいいんだよ? お姫さま。

 

――確かに。いつもと変わらないアリアが隣にいてくれたおかげでとても心強かったよ。ありがとう、アリア。

 

――ここから先は俺に任せてくれ。これ以上アリアに無茶をさせて、アリアに何かあったらと思うと、凄く怖いんだ。それに。今の今までアリアに頑張ってもらってたんだ。精神的にアリアに支えてもらっていたんだ。だから、ここからは俺が頑張る番だ。何たって、俺はアリアのパートナーだからな。

 

 

「ひゃう!? わ、わわわッ、私は――」

 

 目を閉じたアリアの脳内で次々と再生されるキンジの声。そしてキンジの色んな表情。アリアは思わず裏返った声を上げる。誰に言うわけでもないのに、混乱した頭で言い訳の言葉を必死に捜索する。アリアが平静を取り戻すのに多大な時間を要したのは言うまでもない。

 

 

 第一章 熱血キンジと武偵殺し 完

 

 




キンジ→危うくアリアの地雷を踏みかけた熱血キャラ。アリアの攻略に成功している(無自覚)。
アリア→ヒスったキンジの発言を思い出し、ワタワタしている子。『オリュメス』は禁句。絶対に言ってはならない。

 はい。ということで、今回で原作1巻の話が無事に集結しました。カオス展開まっしぐらなのに最後はそれなりにまとまってくれたのが自分でも信じられませんね。……そうか。これが歴史の修正力か(←違う)。そして。可愛いアリアとハチャメチャな原作キャラ達(性格改変済み)の姿を描く第一章はこれにて終了しましたので、次は可愛いユッキーの姿を描く第二章ですね。アリアに独走なんてさせませんよ。ええ。


 ~おまけ(その1 ネタ:一方その頃 S○SUKEネタ)~

ナレーション『今回、緑山の地に50人もの挑戦者が挑み、新たに生まれ変わった1stステージで48人が緑山の地に沈んでいきました。さーあ! 3人目の1stステージクリアとなるか!? 背番号51番! S○SUKE新世代1人目は――東京武偵高校2年、強襲科(アサルト)Aランク武偵、不知火亮!』
不知火『――ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!(←雄叫び)』

 不知火亮はS○SUKEに名乗りを上げていた。


 ~おまけ(その2 ネタ:これがホントのエピローグ(後日談) 奇跡経験!?アンビリーバブルにて)~

ナレーション「まずはこちらの写真をご覧いただこう」
ナレーション「見るも無残な姿となっているのがお分かりだろう」
ナレーション「2009年4月。この写真はレインボーブリッジ南方に浮かぶ人工浮島(メガフロート)、通称:空き地島にANA600便が緊急着陸をした際の写真である」
ナレーション「一体ANA600便に何が起こったというのか」
ナレーション「我々取材班が当時の関係者に接触した所、信じがたい事実が発覚した」
ナレーション「その日。ANA600便は武偵殺しの手によってハイジャックされていたというのだ」
キンジ(インタビュー映像)「私はパートナーとともに武偵殺しを倒しましたが、私が不甲斐ないばかりに最後の最後で逃げられてしまいました。しかし。事態はこれで終わりではなかったのです(←身振り手振りを使って取材に応答する形で)」
キンジ(再現VTR)『――ミサイルッ!? ちぃっ! 何つうプレゼントだよ!?』
アリア(再現VTR)『……キンジ。ここは従いましょう。下手に指示に従わない素振りを見せてここで撃墜されるよりかは幾らかマシなはずです』
キンジ(再現VTR)『今からANA600便を学園島のメガフロートに着陸させる』
ナレーション「これは、残されていた貴重な映像と関係者への取材とで明らかとなった、ANA600便ハイジャック事件の記録である!」

キンジ&アリア&白雪「「「……」」」
白雪「え、っと……いつの間に取材なんて受けてたの? キンちゃん?」
キンジ「割とつい最近だな。最初はお引き取り願おうと思ったんだが、案外しつこくてさ」
アリア「それにしても、再現VTRの人たち、私たちと全然似てませんね。私、そもそもあんなに長身ではありませんし。あんなにボンキュッボンじゃありませんし」
キンジ「だな。俺もあんなに外人っぽい顔してないし。あんなに筋肉ムキムキじゃないし」
キンジ&アリア「「やれやれ。これだからマスコミは……」」

 ――一方その頃。

理子「あれ? あれッ!? なんでハイジャックの件が特集されてるの!? なに!? どういうこと!? なにがどうなってるのォ――!?」

 峰理子リュパン四世は慌てふためいていた。

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