【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。第一章『熱血キンジと武偵殺し』も今回含めて残すところ後2話です。ようやくここまで来たと思うとどこか感慨深いものがありますね。ええ。……だというのに。単位取得のための試験がいい加減すぐそこまで差し迫ってきたせいでキリのいい次話の投稿までに割と時間が空くと思われます。せめて試験前に第一章終わらせたかったんだけどなぁ……。あと、今回はかなり文字数少ないです。3000字をギリギリ超えた程度です。ごめんなさい。



27.熱血キンジと病室トーク

 

 神崎かなえとの面会を終え、新宿の警察署を後にしたキンジはその足で武偵病院を訪れていた。目的はVIP用の個室にいるアリアのお見舞いだ。アルセーヌ・リュパンのひ孫かつ武偵殺しである理子に首を斬られ、多量に出血していたアリアは当然というべきか入院することとなった。怪我自体はそこまで酷くはなかったのだが感染症等を警戒して大事を取った形だ。

 

 ちなみに。アリアのお見舞いに行くにあたって、キンジは松本屋のももまんギフトセット20個入りの入ったバスケットとその辺のコンビニでテキトーに選んで購入した雑誌類の入った紙袋を見舞い品として持っていくことにした。普通なら見舞い品に果物入りのバスケットを届けるのが定石なのだろうが、アリアにはそんなものよりももまんを届けた方がいいと思ったがゆえの決断だ。わざわざももまんギフトセット20個入りをバスケットに入れて運んでいるのは単なるノリと気分の問題だ。深い意味はない。

 

「よぉ、アリア。お見舞いに来たぞ――って、アリア!? どうした!?」

 

 アリアの病室にたどり着いたキンジはコンコンとノックをする。しかし、肝心のアリアの反応がない。もう一度コンコンとノックをしても扉の向こうにいるはずのアリアは無反応のままだ。どこか病室の外に出かけているのだろうかなどとアリアの動向を推測しつつキンジが病室の扉を開けると、キンジの視線の先には床にうつぶせ状態で倒れているアリアがいた。全くの想定外な光景にキンジの持ってきた見舞い品がスルリと本人の手から滑り落ちる。

 

 その後。ハッと我に返ったキンジはヒステリアモードに匹敵するスピードでアリアに駆け寄り、膝をついてアリアの体を起こす。その動作でキンジの存在に気づいたアリアは「き、キンジィ……」と今にも消え入りそうな声を漏らす。覗き見たアリアの顔色は明らかに悪かった。特徴的な高音ボイスもいつになく弱々しい。

 

「待ってろ、アリア! 今ナースコールで――」

 

 アリアの体をお姫さま抱っこで持ち上げ丁重にベッドの上に寝かし、そのままナースコールを押そうとしたキンジの袖をアリアがクイクイと引っ張ってくる。キンジがアリアに視線を移すと、アリアはフルフルと首を振る。どうやら病院関係者を呼んでほしくはないらしい。しかし。事は一刻を争う事態かもしれない以上、アリアの意思を受け入れるワケにはいかない。キンジがアリアの意思表示を無視してナースコールのボタンを押そうとした時、アリアがキンジに何かを伝えようと言葉を発してきた。

 

「も――」

「も?」

「……ももまん、プリーズ、です。もう、限界……あぁ、一面にお花畑が……あぅ」

 

 キンジが耳を傾けると、アリアは蚊の鳴くような声でキンジにももまんを要求した。そして。残る力を振り絞ってプルプル震える手の平をキンジに向けたのを最後に、ガクッと力尽きた。ピクリとも動かなくなった。

 

「あ、アリア!? アリアァァアア――ッ!!」

 

 『返事がない。まるで屍のようだ』の表現がよく似合うアリアを前にキンジの絶叫が響き渡った。ももまんを食べることのできない環境下に置かれ続けたことで衰弱しきったアリアとここ数日でアリアの容体が悪くなったと勘違いしたキンジ。何とも平和な昼の一時のことであった。ちなみに。この武偵病院は無駄に高性能な防音設備を施していたので、キンジの絶叫が他の患者の迷惑となることはなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ふぅ。生き返りました。ありがとうございました、キンジ」

「ももまんを見舞い品に選んで正解だったな、マジで……」

 

 あれから。キンジの見舞い品たるももまんを9個食べてようやく生き返ったアリアは悠々とペットボトルの紅茶を飲んでいる。とてもさっきまで死人のごとくグッタリしていた人間と同一人物とは思えない。それほどまでに今のアリアには生気がみなぎっている。対するキンジは呆れ顔だ。

 

 ちなみに。今のアリアはツインテールではなく桃色の長髪をまっすぐ背中に下ろしているため、いつもよりは幾分か大人の雰囲気が感じられる。それでも所詮、小学生が中学生に見える程度のものなのだが。さらにペットボトルを小さい両手で掴んで紅茶を飲んでいるので、やっぱり小学生のようにしか見えなかった。哀れ神崎・H・アリア。

 

「あ、そうだ。アリア。かなえさんの件だが、何とかなったぞ。武偵殺しの一件については冤罪だって証明できたからとりあえず122年分の刑期がなくなった。あと、ひとまず公判が延びることになった。良かったな、アリア。あとは742年分の冤罪を証明すればいいだけだ」

「はい。本当に、何から何までありがとうございます。キンジ」

「気にすんなよ。これは俺が勝手にやってることだしな。それに、困ってるパートナーのために行動するのは当然のことだろ? だからとりあえず顔上げてくれ」

「キンジ……」

 

 キンジは深々と頭を下げて感謝の意を表明してくるアリアに対して、神崎かなえに言ったことと似たようなことを告げて頭を上げさせる。その際、キンジの発言を受けてアリアの真紅の瞳がほんの少しだけ見開かれた。

 

「……いいものですね。仲間がいるというのは」

 

 アリアはキンジの言葉を反芻するようにスッと目を瞑ると、しみじみといった風に呟いた。その時、開け放たれた窓の外からそよ風がアリアの髪をさらさらと撫でていく。病室の白と外の青、そしてアリアのピンク。何とも絵になる光景だ。

 

「アリア?」

「あ、いえ。今までも何度かこうして武偵病院のお世話になったことはありますが、ここまで安心して入院できたのは初めてですので……何だか、こう、新鮮ですね」

「……まぁ、今までアリアは一人で頑張ってきたんだろうけどさ。でも、まだアリアは高2だ。これからの人生で十分取り戻せるだろ。仲間くらいどうとでもなるだろ。何かあったら、パートナーとして俺も全面的にアリアに協力するからさ」

「……」

 

 キンジはアリアの様子が変わったことに内心で首を傾げつつ、アリアの名前を呼ぶ。自身の呟きがキンジに聞こえているとは思わなかったのか、アリアは少々恥ずかしそうに言葉を綴る。キンジはそんなに病院のお世話になるような目に遭ってきたのかよお前との言葉を口に出してしまいそうな感情を抑えてアリアに笑いかけるも、なぜかアリアは何も語らずに顔を俯かせた。

 

 

 ――キンジ。前に言いましたよね。私には仕事仲間はいてもプライベートを共にするような人はいなかったと。……私は武偵として数々の事件を大抵一人で解決してきました。だから、私は知っています。一人がどれだけ融通が利いて、自由で、背負うものがなくて、心細くて、辛いか、それを身をもって知っています。

 

 と、その時。アリアの言葉がキンジの脳裏をよぎる。あの日。ANA600便の中で。いつ意識を手放してもおかしくないほどに衰弱しきったアリアは自身の気持ちを一言一言吐露していった。今のアリアの様子はあの時のアリアとどこか酷似していた。

 

「ありがとう、ございます、キンジ。貴方と会えて本当に良かったです……」

「なに満足しきった顔してんだよ。さっきも言ったけど、これからだろ? もう悔いはないとでも言いたげな顔すんな。死亡フラグみたいで嫌だから」

「そう、そうですね。確かに、その通りですね」

 

 キンジはつい衝動に駆られて、笑みを浮かべるアリアの頭を優しく撫でつつ言葉を紡ぐ。その言葉が契機となったのか、うんうんとうなずくアリアの頬を涙が伝った。どうやら孤独というものは俺の思っていた以上にアリアの心を深く侵していたらしい。堰を切ったかのようにボロボロと涙を零す女の子の顔を凝視するのはどうかと思ったキンジは視線をアリアから窓の外へと向ける。空は雲一つない快晴だった。

 




キンジ→無意識のうちにアリア攻略に乗り出しちゃってる熱血キャラ。
アリア→何日かももまんが食べられない状況下に置かれるとどうかなっちゃう子。
 
 というわけで、ここの所出番のなかったアリアさんがようやく登場しました。突発的番外編の『熱血キンジとフリートーーーク』を入れなかったら実に3話ごしの登場になりますね。ええ。


 ~おまけ(ネタ:もしもキンジくんがナースコールを押していたら)~

キンジ「待ってろ、アリア! 今ナースコールで看護師の人呼ぶから!」

 ――10秒後。

目のあたりに傷痕のあるムキムキの男「どうしたッ!?(ゴシャン! ←病室の扉を思いっきり開けたことで扉がひしゃげる形で破壊された音)」
全身ムキムキの2メートル強の男「神崎さんの容体が急変したのか!?(←アリアの元にダッシュで駆け寄りつつ)」
なぜか上半身裸のムキムキの男「今すぐ治療室に運ぶぞ!(←アリアを脇に抱えつつ)」
三人「「「おう!」」」
キンジ「……(ちょっ、何か世紀末の住人っぽい人たちが来たんだけど!? しかも皆してピンクのナース服着てたんだけど!? ナース服からはち切れんばかりに筋肉がはみ出てたんだけど!? ……ついアリア渡しちゃったけど、大丈夫か? 大丈夫なのか!?)」

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