どうも。ふぁもにかです。前回ようやくキンジくんがヒスったのですが……うん。ヒスったキンジくんの口調が合ってるかどうかが凄く不安ですね。イケメンキザキャラなんて今まで書いたことのない領域ですからね。これといった違和感がなければいいのですが。というか、ここの所ヒステリアモードのキンジくんがかの保坂先輩とダブってきた点について。どうしよう。もう保坂先輩にしか見えない。いっそのこと、カレーのうたでも歌わせてみましょうかね?
あれから。キンジはヒステリア・サヴァン・シンドロームのスペックを余すことなく存分に使用することで、何とか学園島のメガフロートの空き地島への着陸に成功した。アリアのサポートに加えて光源の全くない学園島のメガフロートに無断で色々と明かりを持ち出し空き地島の輪郭を照らしてくれた武藤たちの協力のおかげでどうにかANA600便の不時着に成功した。尤も、一言に不時着できたといっても、実際は空き地島に偶然あった風力発電用の風車にぶつかったおかげでどうにかギリギリ止まってくれた形なのだが。もしも風車がなければどうなっていたのかは考えるまでもないだろう。
ちなみに。風車と派手にぶつかった衝撃でANA600便の機体はひしゃげてしまっている。この分ではもうANA600便が空を飛翔する日は二度と訪れないことだろう。哀れANA600便。哀れセレブ御用達のチャーター便。
とにかく、なぜか不自然極まりない動きでANA600便から離れていった戦闘機といい、ちょうどいい場所に置かれてあった風車といい、俺とアリアは色々と運に恵まれていたようだ。天国の兄さんが最大級のご利益をくれたのだろうか。
「ふぅ。何とかなったな。大丈夫か、アリア?」
「はい。おかげさまで。ですが、全くもって生きた心地がしませんでしたよ。こんな思いは二度とゴメンですね」
「そうか。アリアに怖い思いをさせてしまったみたいだね。悪かった」
ANA600便着陸終了からしばしの間、操縦席の背もたれに思いっきりもたれかかることで極度の緊張により精神的に疲労した体の疲れを気休め程度に癒していたキンジは、無駄のない動作でスッと立ち上がるとアリアへと問いかける。対するアリアが一つため息をつきつつキンジを見上げて本音を隠すことなく吐露すると、キンジは心底すまなそうに眉を寄せて謝ってきた。
「……」
(何でしょう。さっきからキンジの言動を変に感じるのは気のせいでしょうか?)
アリアはキンジの謝罪に沈黙で返す。キンジに対して内心でちょっとした違和感を抱えていたからだ。ANA600便が着陸態勢に移行する最中、キンジとアリアはいくつか会話を交わしていた。二人にはまだまだやるべきことがある。アリアは母たる神崎かなえの冤罪を晴らすこと。キンジは兄たる遠山金一の名誉を取り戻すこと。だからここで二人とも死ぬわけにはいかない。ここで死ぬわけがない。ANA600便の不時着に失敗するわけがない。
――と、上記のような言葉を互いに交わしていたのだが、その時点からアリアはキンジの発言内容にそこはかとなく違和感を抱いていた。理由は単純明快。キンジの一言一言の発言もその言い方も、どれも普段のキンジと比べるとどこか不自然なものがあったからだ。あたかも遠山キンジの皮を被った別人が話しているかのように思えて仕方がなかったからだ。声色がどこか色っぽいこともアリアに違和を抱かせる一因となっていた。
「アリア? どうかしたのかい?」
「……いえ。何でもありません」
精神的におかしくなっているのだろうか、しばらく命の危機に晒されていたせいで色々と壊れてしまったのだろうか。眼前のキンジに対して随分と失礼な推測を次々と立てていたアリアはその当の本人の心配そうな眼差しでふと我に返ると、軽く首を振って自身の考えを振り払う。キンジの変化。その詳細が気にならないといったらウソになるがわざわざ今指摘するまでもない。アリアは己の直感が訴える違和感をひとまずスルーすることにした。
「さて。これから色々と事後処理を済ませなければいけませんね、キンジ。全く、まだまだ先は長そうですね。家に帰れるのはいつになることやら……」
「アリア。そのことなんだが、後のことは全部俺に任せて休んでいてくれないか?」
「お断りします。キンジ一人に丸投げするのは個人的にどうかと思いますので――」
「アリア。無理はいけないよ。そもそも、もう立つこともままならないんだろう?」
「……そ、そんなことありませんよ。私は、ちゃん、と――?」
「アリア!」
ふとキンジから示された提案に物申そうとしたアリアだったが、キンジはアリアの主張を最後まで聞くことなくアリアの頬に手を当ててたしなめるように言葉を重ねてくる。あたかも自身の体調を見透かしたかのような、どこまでも我がままを突き通そうとする駄々っ子を宥めようとするかのようなキンジの物言いにアリアはムッと眉を潜めると、キンジの言葉を否定しつつ勢いをつけて操縦席から立ち上がる。
と、その時。アリアの視界が大きく揺れた。突如、グルングルンと回り始める視界に上下感覚を失い思わずバランスを崩したアリア。そのままであればアリアはコックピットの各種機材に頭から激突する所だったのだが、キンジがヒステリアモードの反射速度でとっさにアリアを支えたことでどうにかそのような事態は回避された。尤も、目下ヒステリアモードであり女性を最優先事項に据えているキンジは当然と言わんばかりにアリアの膝裏と背中に手を回す形でアリアを抱えているのだが。俗に言う、お姫さま抱っこである。横抱きとも言う。
(お、おおお姫さま抱っこですかッ!? まさかのお姫さま抱っこですか!? なんでですか!? 何がどうしてこうなっているのですかッ!?)
「全く、無理はしないでくれ。心臓に悪い」
「――ッ!?」
パートナーにお姫さま抱っこをされたことで現在進行形で頭がパニック状態に陥っているアリアの頭上から声が掛かる。アリアが混乱のままに声のした方向へと顔を向けると、キンジとバッチリ目が合った。至近距離でキンジのキリッとした漆黒の瞳を捉えた瞬間、アリアの思考は真っ白に染まった。
遠山キンジという人間は見た目だけで女性を虜にするほどの見目麗しい外見を持ち合わせてはいないものの、それなりに顔立ちはいい。アリアは普段からそのようにキンジを認識していた。それが、今こうして相手の息遣いが容易にわかるほどに近い距離でキンジを見つめたことにより、アリアはその事実を今一度はっきりと認識することとなった。結果、キンジに全体重を預けている今の状況も相重なってアリアの顔は茹ダコみたいに真っ赤に染まっていった。
さて。ところで、どうしてキンジがアリアの体の不調に気づいたのか。アリアがもはや立ち上がるだけの体力をも残していないことに気づいたのか。それはひとえにヒステリアモードにより研ぎ澄まされた分析力のおかげだ。
ヒステリアモードにより跳ね上がった己のスペックを存分に駆使して無事にANA600便を不時着させた後、キンジはアリアに労いの言葉をかけようと視線を向けて、その時初めてアリアが体力の面で弱りきっていることに気づいた。今のアリアが普段の万全のアリアとはほど遠いことに気づいた。そして。決してそのことを自身に悟られないようにとアリアが平気なフリをしていることに気づいた。
思い返せばアリアの首の切り傷は致命的ではないものの、だからといって決して軽いものではなかった。理子の斬撃によって首に負った切り傷がアリアに貧血をもたらしていても何らおかしくはない。傷口にタオルを押しつけて止血するまでにアリアはそれなりに血を流していたのだから。それに加えて、さっきまでANA600便の不時着に伴う急激な気圧の変化が怪我を負ったばかりのアリアに追い打ちをかけていたのだ。そのような状況下で、アリアの体調が悪化しないわけがない。
だというのに。あまりにアリアが平常運行だったせいで、キンジはヒステリアモードでアリアを様子を注視するまでアリアの不調に全く気づけなかった。今のアリアがもはや意識を保っているだけで精一杯なことに全然気づけなかった。
「アリア」
「……何ですか?」
「もう意識を保っているだけでも辛いんじゃないのか?」
「まぁ、そうですね。最初はそうでもなかったのですが、どうやら結構血を失っていたようです」
「どうしてそのことを俺に言ってくれなかったんだ? こんなに弱るまで何も言わないなんて……」
キンジは眉を潜めてアリアに問いを投げかける。返事をするのも辛そうなアリアに問いかけるのはどうかと思ったのだが、それでも疑問の言葉は止まらなかった。首の傷がそれなりに深かった以上、アリアは体感した苦痛は並大抵のものではなかったはずだ。それを俺に悟られることのないように我慢して今の今まで平静を装っていたのなら尚更だ。
どうして自身の容体が悪くなっていることを隠すような真似をしたのか。アリアのパートナーたる俺をもっと頼ってくれて良かったのに。そのような思いがキンジの頭を駆け巡る。ヒステリアモードにより段違いに回転の早くなった頭脳をもってしても、キンジにはアリアの動機がわからなかった。
「……キンジ。前に言いましたよね。私には仕事仲間はいてもプライベートを共にするような人はいなかったと。……私は武偵として数々の事件を大抵一人で解決してきました。だから、私は知っています。一人がどれだけ融通が利いて、自由で、背負うものがなくて、心細くて、辛いか、それを身をもって知っています。だから。いくらキンジがとても優秀なSランク武偵でも、たった一人で人命の重さを抱え込むことは容易ではないと考えました。キンジ一人にこのANA600便に乗る全ての乗客の命の重さを背負わせるのは、キンジのパートナーたるこの私がANA600便の命運をキンジ一人に任せて早々にドロップアウトするのはあまりに酷だと判断しました。
……隣に危機的状況を共有してくれる誰かがいるかいないか。これだけで精神的な余裕に差が生まれてしまいます。一人か二人か。それだけでいつもできることができなくなってしまう可能性は十分に考えられます。けれど。いつもと何ら変わらない私が何事もなくキンジの傍にいれば、キンジは無意識のうちに人命の重圧を私と共有してくれます。私と分かち合ってくれます。キンジが無理に気負うようなことはなくなります。キンジの精神状態が安定していてくれたら、それだけでANA600便の不時着の成功率は段違いに上がります。もしかしたらいつものキンジなら絶対にできないようなことも奇跡的にできるようになるかもしれません。だから。少々無茶をすることにしました」
キンジに自身の容体がバレたからか、アリアは先までとは打って変わって弱々しい声でおもむろに話す。一言一言に荒い息遣いを交えながら、お姫さま抱っこの恥ずかしさも忘れて、ゆっくりとゆっくりと、しかし確実にキンジへと語りかける。
「……確かに。いつもと変わらないアリアが隣にいてくれたおかげでとても心強かったよ。ありがとう、アリア」
「べ、別にお礼を言われるようなことは何もしていません。私はキンジのパートナーとして当然のことをしたまでです」
「それでもだよ、アリア。ありがとう。アリアのような心づかいがあって、頼りになる、可愛い女の子のパートナーでいられるなんて――俺は幸せ者だ」
アリアが自分のために無茶をしていたという真相を知ったキンジはアリアに無茶をさせたことへの後悔とアリアにそこまで思われていたことへの嬉しさをない交ぜにした、何とも表現しづらい苦笑を浮かべる。それから。キンジは一度目を瞑ってアリアの途切れ途切れの言葉をしっかりと心に刻み込む。そして。再びキリッと開眼すると今度はフフッと頬を緩ませ、HSS補正のかかった感謝の言葉をアリアに伝える。
「~~~ッ!?」
キンジの感謝の言葉の中に散りばめられたキザ極まりないセリフにアリアは文字通り顔を真っ赤にさせ、「うぅ……」と言葉にならないうめき声を上げる。キンジに抱き上げられたまま借りてきた猫のように大人しくなってしまっている辺り、おそらくアリアはこういったストレートな褒め言葉に耐性がないのだろう。
「さ。後のことは俺に任せて、もう疲れただろう? 眠ってもいいんだよ? お姫さま」
「おッ、姫、さッ!? な、なななななな何を――!?」
キンジは直球の褒め言葉を前に思考もままならなくなっているアリアの耳元に顔を近づけてそっと囁くようにして言葉を紡ぐ。そんなキンジの『お姫さま』発言にアリアは今度こそ甲高い声で動揺を顕わにした。と、その時。キンジの言葉をきっかけにアリアは自身がキンジの両腕に抱かれていることを思い出した。結果、お姫さま抱っこの恥ずかしさが急速に再燃したことで、アリアの頭は否応なしにショート寸前にまで追いやられていく。
「……そういうわけにはいきませんよ、キンジ。まだ事件は終わっていません。家に帰るまでがハイジャック事件です。ここで脱落するつもりはありません。心配しなくても、私はまだ大丈夫です。手伝いますから、とりあえず下ろしてください」
「それはできないな」
しかし。アリアはブンブンと残像が残りそうなほどの速さで何度も首を左右に振ってどうにか落ち着きを取り戻すと、コホンと一つ咳をして自身の意見を述べる。アリアの真紅の瞳からは一歩も引きませんよとの強固な意志が容易に読み取れる。しかし。キンジとしてもアリアの意見を受け入れるワケにはいかなかった。いくらヒステリアモードに切り替わっていて女性を最優先とするようになっていたとしても、いや女性を何よりも大事にしているからこそ、今の時点で弱りきっているアリアを休ませないという選択肢は存在していなかった。
「キンジッ――」
「アリア、頼む。ここから先は俺に任せてくれ。これ以上アリアに無茶をさせて、アリアに何かあったらと思うと、凄く怖いんだ。それに。今の今までアリアに頑張ってもらってたんだ。精神的にアリアに支えてもらっていたんだ。だから、ここからは俺が頑張る番だ。何たって、俺はアリアのパートナーだからな」
キンジはアリアの真紅の瞳を見据えて真摯に頼みこみ、一通り自分の言いたいことを言い切った後にフッと笑みを浮かべた。アリアに安心させるために浮かべたキンジの笑み。HSS補正のかかった、あらゆる女子を問答無用でときめかせることができるのではないかと思えるほどに破壊力抜群な笑み。その威力は計り知れないものがある。そして。それはさっきからキンジの言葉に心をグラグラと揺さぶられているアリアも例外ではなかった。
「……わ、わかりました。後のことは頼みます」
「ああ。おやすみ、アリア。いい夢を」
キンジの笑顔を影響をモロに受けたアリアは赤みの残る顔をキンジから逸らしつつ、キンジの厚意に甘えることした。後始末の全てをキンジに任せたアリアは重い瞼を持ち上げることを止めてスッと瞳を閉ざした。
アリアに微笑みを向けていたキンジはアリアが何事もなく平穏無事な夢の世界に羽ばたけるようにと桃色の髪をそっと撫でる。よほど疲れていたのだろう。お姫さま抱っこされたアリアはおもむろに目を閉じるたかと思えば次の瞬間には何とも安らかな寝息を立て始めた。
「さて。まずはアリアの手当をしてもらわないとな。
キンジは自身の腕の中で死んだように深い眠りに就くアリアを優しく抱きなおすと、携帯を取り出して電話を掛ける。あて先は武藤だ。外にはキンジとアリア、そしてANA600便の乗客のために無断で照明の類いを色々と持ち出してきてくれた武藤たちがいる。その中に衛生科所属の武偵がいることを期待しつつ、キンジは電話が武藤に繋がる時を待つ。
『……もしもし……』
「あぁ。武藤か、実は――」
かくして。キンジはヒステリアモードのハイスペック状態を保ったまま、事態の収束を図るために動き出すのであった。
のちに、キンジにお姫さま抱っこされていたことをクラスメイトからネタにされたアリアは文字通り顔を真っ赤にさせて机に撃沈し、キンジは「これだからヒステリアモードは……」と頭を抱えることになるのだが、これはまた別の話。それにしても、以前アリアに恋愛関連でからかったらどうなるかを思い知ったばかりだというのに、とんだ猛者もいたものである。
――余談だが、その後、彼らの行方を知る者は誰もいなかったそうだ。
◇◇◇
その後。理子はキンジたち武偵の指示に従いつつ、乗客に紛れる形でANA600便を後にしていた。ちなみに今の理子は長身痩躯で黒髪赤目の若手女性実業家の姿をしている。変装&変声のスペシャリストたる理子だからこそできる芸当である。パラシュートを使って高度何千メートルもの上空から飛び降りるなんて真似のできなかった高所恐怖症の理子がこうして別人に成りすましてANA600便からの脱出を目論むのは当然の選択肢と言えよう。例えヒステリアモードに切り替わっていても、とっくに理子はANA600便から逃亡していると思い込んでいるキンジの目を誤魔化すのは理子にとってそれほど難しいことではなかった。
「負けちゃった、なぁ……」
初代リュパンが成し遂げられなかったこと。初代オルメスとその優秀なパートナー:J・H・ワトソン相手に勝利すること。それをアルセーヌ・リュパンのひ孫たるボクがオルメスのひ孫たる神崎・H・アリアとその優秀なパートナー:遠山キンジ相手に成し遂げて見せれば初代リュパンを超えた何よりの証になる。あの男のボクに対する認識を変えさせるだけの証明になり得る。そして。何よりあの男の手がボクに及ぶことは金輪際なくなる。もうあの狭い世界に閉じ込められることはなくなる。
だからこそ。ボクはあの二人と戦った。二人が、特に遠山くんが手加減などできないようにわざわざANA600便をハイジャックまでして戦いの舞台を整えて。二人に乗客の命を背負わせて。そして。ボク自身の全てを賭けて二人と戦った。
でも。ボクは所詮リュパン家の出来損ないだった。リュパンとしての才能を全く受け継いでいない失敗作に違いなかった。あの男の言う通りの、優秀なリュパン5世を生み出すことにしか価値のない役立たずだった。遺伝子的にどこまでも無能だった。結局はそういうことだったのだ。だから。ボクは負けた。遠山くんがヒステリア・サヴァン・シンドロームになるまでもなく、ボクは二人に敗れた。
けれど。ボクの存在価値云々を無視してボクの存在そのものを愛してくれた人たちがいた。幼いボクにまさしく無償の愛を捧げてくれた優しい人たちがいた。
「会いたいよぉ、ママ。パパ……」
ふと理子の口から意図せず両親の愛を求める声が漏れた。どう足掻いたってもう二度と会えない両親を求める声が漏れ出た。理子の脳裏を幼き日の思い出がよぎる。ママがいて、パパがいて、そしてボクがいて。周りの人たちのボクを見る目はとても心地いいようなものではなかったけれど、そんなものは全然気にならなかった。パパとママがいるだけでボクは幸せだった。ずっとパパとママと一緒の日々が続くと信じて疑わなかった過去の自分。あの頃に戻れるものなら戻りたいと叫びたい気持ちをグッと押さえつけて理子は歩みを進めていく。
ジャンヌちゃんやカナさんともこれからは会うことは難しくなるだろう。イ・ウーは基本的に弱い者には容赦がない。ボクが平和な島国のSランク武偵二人に敗れた時点でイ・ウーを退学させられるのは明白だった。
理子は歩く。長身痩躯で黒髪赤目の若手女性実業家の姿をしたままスタスタと歩いていく。頬を伝う一筋の涙は闇に紛れて消えていった。峰理子リュパン四世。彼女に救いの手が差し伸べられるのはまだ先のことである。
かくして。ANA600便で繰り広げられたハイジャックの一件は様々な立場の人間の思惑を孕みつつ、確実に収束へと向かうのであった。
キンジ→HSS時は原作と相違ない熱血キャラ。
アリア→前回全然出番がなかったのを取り戻すかのようにたくさん話している子。前回で言葉数が少なかったのは話すだけでも結構辛かったからだったりする。
理子→りこりん鬱モード。
とりあえず、今回までで原作1巻クライマックス、飛行機回は終了です。まさか9話にも渡って飛行機回をやることになるとは思いませんでしたよ……。
~おまけ(その1 NGシーン)~
ヒスったキンジ「アリア。無理はいけないよ。そもそも、もう立つこともままならないんだろう?」
アリア「……そ、そんなことありませんよ。私は、ちゃん、と――?(←バランスを崩す)」
ヒスったキンジ「アリア!(←アリアの体を支えるために駆け寄ろうとしつつ)」
アリア「ッ!?(パカッ ←突如アリアの真下の床が二つに割れる音)」
アリア「え、ちょっ――ひゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?(スゥ ←アリアをボッシュートした後に何事もなかったかのように床が元に戻る擬態語)」
ヒスったキンジ「アリアッ!?」
ヒスったキンジ「……(←思考停止)」
ヒスったキンジ「……理子、だろうな、きっと。全く、まさかこんな所にもトラップを仕掛けているとは……」
~おまけ(その2 もしもりこりんがアホの子属性(重症)を持ち合わせていたら)~
理子「よし。これで変装は完璧!(←姿見の前でクルリと回ってガッツポーズ)」
理子「……抜き足、差し足、忍び足。フッ、隠密のりこりんとはボクのことよ(←不自然に見られないように細心の注意を払いつつ乗客に紛れてANA600便から降りようとする理子。ちょっと調子に乗っている模様)」
乗客A「……なに……あれ……(ヒソヒソ)」
乗客B「………怪し……警察………(ヒソヒソ)」
三つ子の子供「「「ママー。あそこに変な人が――(←指を差しつつ)」」」
乗客C「しっ、見ちゃいけません!(←三つ子を抱えて逃走)」
理子「(あ、あれ? 何か、異様に注目されてる気がする。気のせいかな? ……気のせい、だよね?)」
ヒスったキンジ「おい。そこの虹色に光り輝く謎の素材で作られたバラクラバを被った超怪しい奴、止まれ(←背後から拳銃を突きつけつつ)」
理子「ひぅ!?(バ、バレた!? なんで!?)」
~おまけ(その3 ※カオス注意)~
機長「こ、ここは……(←ベッドから体を起こす機長)」
副機長「Zzz(←機長の腕にしがみつきつつ)」
機長「……(←石像のごとく硬直する機長)」
――目が覚めたら、隣に同年代の中年男性が眠っていると思うか?――
――まっ、映画や漫画なら中々斬新で素晴らしい導入かもな。インパクト的に――
――さらにそれが知り合いだったら、衝撃は計り知れないだろうな――
――それは、不思議で特別なことが起こるプロローグ――
――主人公は新しい扉でも開いて、その中年男性と一緒に大冒険が始まる――
――だけど、本気でそれを望むのは浅はかってもんだ――
――だってそんな中年男性、普通なワケがない――
――普通じゃない世界に連れこまれ、新しい性癖にでも目覚めさせられて――
――現実ではそれは危険で、面倒なことに決まってるんだ――
――だから私、■■■■には、隣に中年男性が眠ってなくていい――
機長「ハッ!? あ、あまりのショックに思わず意識を飛ばしてしまっていた」
機長「……それにしても、おかしいな? 私は機長としてANA600便のコックピットにいたはず。それなのにどうして私は副機長たる彼と一緒のベッドで寝ていたのだ? いくら何でもこれは不自然――そうか! これは夢だ! そうに違いない! 全く、何て悪夢を見てしまったんだ。私にはそっちのケなどないというのに――(←頬を思いっきりつねってみる)」
機長「~~~ッ!?(←悶絶) い、痛い……ということは、これは現実なのかッ!? まさかの現実なのかッ!? 一体何がどうなっている!?」
??「あッ!(←ガタッ)」
機長「――ッ!? き、君は確か――」
新人キャビンアテンダント「あ、え、う、い、え、いや、だ、大丈夫です! わ、私、何も見てません! 見てませんからぁぁぁあああああ!(←全力逃走)」
機長「ま、待ってくれ! これは誤解だ! 私はノーマルだ! 信じてくれぇぇええええええええ!!(←副機長の腕を振り払いつつ追走)」
新人キャビンアテンダント「いやぁぁああああ!? こ、こここっち来ないでくださぁぁぁああああああい!!(←速度アップ)」
副機長「Zzz(←ニヘラ)」
……何だか機長と副機長をモブで終わらせるのが惜しくなってきましたね。ええ。