【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

16 / 147

 どうも。ふぁもにかです。今回のサブタイトルを見ればわかると思いますが……不吉ですね。不吉すぎますね。ええ。アリアさんがヤバいことになる感がヒシヒシとしますね。キンジが「アリアァァ――!!」って叫ぶ感が半端ないですね。あ、でも別に血濡れの血がアリアさんのものだとは誰も言っていませんね……えぇぇ。(←ガクガクブルブル)

 あと、今回の話に笑い所はほとんどありません。久しぶりのシリアス警報発令です。といっても、ほんのちょこっとは笑える箇所もあるんですけど。申し訳程度には存在するんですけど。あとがきは相変わらずカオスまっしぐらですけど。さすがにバトル回に笑い要素の挿入は難しいですね。いくらビビりこりんが己の力量(※ただしギャグ方面に限る)を十全に発揮した所で、この辺の笑い要素のねじ込みは結構苦労しますね。

 というか、せっかくの戦闘回なのに地の文の量が半端じゃない件について。文字数が8000字超えちゃってる件について。いや、戦闘回だからこそか。戦闘回になると途端に地の文過多になるのはきっと私の悪い癖ですね。まぁ、そんなわけですので、今回の話はサラッと見てやってください。


16.熱血キンジと血濡れのアリア

 

 ANA600便。二階のとある客室にて。ズガンズガンと断続的に銃声が響き渡っていた。神崎・H・アリアと峰理子リュパン四世。世界に名だたる偉人のひ孫同士がそれぞれの二丁拳銃を駆使した近接拳銃戦(アル=カタ)を繰り広げる。

 

 武偵の着用する制服は概して防弾仕様だ。ゆえに、武偵高の制服を着用した者同士の戦いにおいて、拳銃による一撃は一撃必殺の凶器にはなり得ない。もちろん、頭を撃たれたらほぼ即死だが。しかし。致命傷にはならなくとも勝敗を決める決定打にはなり得る。そのため、近接拳銃戦(アル=カタ)においてモノを言うのは、いかに相手の銃弾をかわしながら相手に銃撃を与えるかといった戦闘技術をどれだけ磨き上げているかだ。

 

 今の理子が着ているキャビンアテンダントの服装は一般的に防弾仕様ではないが、中に防弾制服を着こんでいる、もしくは理子が事前にキャビンアテンダントの制服一式に防弾加工を施していることは確実だ。というか、理子が防弾仕様のない服で近接拳銃戦(アル=カタ)に突入しているのならば、それはもはや正気の沙汰じゃない。『理子=極度の怖がり』という認識を修正するどころの話じゃない。

 

 理子がアリアに切迫し、アリアの顔面に拳銃を向ける。アリアが理子の手首を掴んで銃口をズラし、同時に理子に足払いを仕掛ける。理子は膝を曲げてグッと力を込めると「とうッ!」とヒーローショーの主役が登場する際によく使いそうな声とともに思いっきりジャンプする。その動作で理子はアリアの足払いを華麗に避けつつ、空中で体を捻ってアリアの背後に着地する。

 

 そのまま「背中がお留守だよ、オリュメスさん!」とアリアの背中に銃口を向ける理子の腕目がけて、アリアは「だから私はオルメスです!」と自身の腰を捻って威力を跳ね上げた回し蹴りをお見舞いする。対する理子はアリアの繰り出す強力な蹴り(※相変わらずオリュメス呼ばわりされていることへの苛立ちが存分に込められている)を「ッ!? 危なッ!?」と声を上げつつ一歩後ろに退くことによりギリギリでかわす。

 

 そうして。再び一定の距離を保ったままで対峙したアリアと理子は互いに勝利をもぎ取らんと、あたかも示し合わせたかのように同じタイミングで足を踏み出して激突する。

 

 アリアと理子はお互い桃色と金色の長髪を揺らして激しいなんて言葉が生易しいレベルの高度な戦闘を繰り広げる。縦横無尽に乱舞する。銃声が響き銃弾が断続的に客室の壁や天井に穴を開けていく中、あたかも重力なんて存在しないかのように暴れまわる。もはや一種の芸術の域と言っても決して過言ではないだろう。そんな二人の高次元の戦闘風景を視界に捉えているキンジは現状に対して悔しそうにギリリと歯噛みした。

 

(……やられたな)

 

 今現在。キンジは攻めあぐねていた。アリアと理子との激しいぶつかり合いに乱入できないでいた。武偵殺したる峰理子リュパン四世との決戦の火蓋が上がった時、理子がまず第一に拳銃の照準を向けたのはキンジだった。「喰らえッ!」という言葉とともにキンジの膝を撃ち抜かんと発砲された理子の初撃の銃弾をキンジはバックステップを取ることで難なくかわした。理子に体を向けたまま足を後ろに運ぶことで銃弾をかわした。

 

 だが。その時、ふとキンジは何か糸のようなものを踏んだかのような違和感を覚えた。キンジは思わずその場に立ち止まり、気のせいか? と頭に疑問符を浮かべる。すると。突如としてキンジの視界の端から何の前触れもなく酸素ボンベが真横から飛んできたのだ。

 

「なッ!?」

 

 間一髪、これでもかと高速で回転しながら迫りくる酸素ボンベをキンジは横っ飛びで避け、事なきを得ることができた。床を転がっていく酸素ボンベを呆然と見つめた後、ハッと我に返ったキンジはすぐさま立ち上がり、早くアリアの元へ加勢しに行かないとと目を向けた。しかし。時すでに遅し。キンジがアリアと理子の方に視線を向けた時にはすでに二人の戦闘は激化しており、うかつに助太刀できない状況が生成されていたのだ。

 

 確かに理子は俺とアリアを倒すと言った。だが。別に俺とアリアを『同時に』倒すとは一言も言っていない。理子は最初から俺とアリアを上手いこと分断し、一人一人確実に倒す心算だったのだろう。どうやら理子が事前に糸のようなものと酸素ボンベを使ったトラップを仕掛けていたこの客室に入った時点で俺とアリアは二人して理子の策にまんまとハメられてしまっていたようだ。

 

 本音を言えば一刻も早くアリアに加勢したい所だ。折角二人で武偵殺しの待ち受けるANA600便に乗り込んだというのに、理子の望むとおりに一対一で決着をつけなければいけないなんてバカげている。理子を確実に無力化するには二対一に持ち込むのがベストだ。

 

 しかし。理子とアリアとの戦闘は見る見るうちに苛烈さを増している。下手に介入すれば理子を追い詰めるどころかアリアを傷つけてしまう可能性が高い。というより、理子が俺たちの自爆を狙ってアリアの位置を誘導する可能性も捨てきれない。アリアと今も対等にやり合っている時点で理子の実力は証明されたようなものなのだから。

 

 キンジは理子の視界から外れるようにしてスッと物陰に身を潜める。今にも飛び出してアリアの元へと駆け出していきたい感情に蓋をして、努めて気配を絶つ。かくして。キンジはそう遠くない未来に絶対に訪れるであろう好機を待つことにした。さながら獲物が自身の射程に入るまで草むらにジッと身を潜めて目を光らせる蛇のように。

 

 

 ◇◇◇

 

 

(当たらない、ですね……)

 

 一方。理子の仕掛けた罠により一対一の戦闘を強いられているアリアは真紅の瞳に闘志の炎を宿して理子を見据える裏側で、困惑を隠しきれずにいた。アリアは理子の繰り出す銃撃や蹴撃を最低限の動作でかわしつつ、内心で戸惑いの念を抱く。

 

 そう。理子に全く攻撃が当たらないのである。アリアの銃撃や蹴撃の1つ1つを「うわッ!?」とか「ふぇええ!?」とか「ちょっ、待ッ!?」とか言いながら思いっきりのけぞったりジャンプしたりと無駄に大きな動作で避けている以上、理子に付け入る隙は確実にあるはずだ。それなのに。あと一歩、紙一重といった所で理子が突然不自然な動きを見せる。不自然極まりない動きで、それでも結果的にアリアの攻撃をかわして、さらにはアリアに反撃してみせる。アリアは無意識のうちに理子の見せる不可解な動きに焦りを徐々に募らせていた。今までの理子との攻防で一度銃弾を腹部に受けてしまっていることも焦る要因の一つだ。

 

 さて。どうして理子に攻撃が当たらないのか。それは理子の性格が大きく関わっている。峰理子リュパン四世は所詮、かなり重度のビビりだ。ちょっとしたことで一々ビクッと肩を震わせ、不意打ちの大きな音を前によく気絶し、相手の一挙手一投足に過剰反応するレベルのビビりだ。日常生活に多大な支障をきたすレベルの小心者だ。Sの嗜好を持つ方々には堪らないタイプの人間、それが理子だ。どうしてそうなったのかはここでは割愛するが、生まれつきのものではないとだけここでは言っておこう。

 

 しかし。ビビり、もとい何らかの脅威に対して怯えるまたは警戒することは何も百害あって一利なしのことではない。とりわけ今の状況では理子のビビりはそのまま危機察知&回避能力と合致する。理子の逃げ方面に特化した本能がアリアの攻撃箇所を示してくれる。もはや我流条理予知(コグニス)と言っても過言ではない理子の本能が、どこにどう逃げればアリアの攻撃に当たらないで済むかを教えてくれる。道が示されるのなら、あとはそれに速やかに従うだけでいい。その際に反撃に打って出られたら尚更いい。それこそがアリアの攻撃が理子にかすりもしない大きな理由である。

 

 他に理由を挙げるとすれば、アリアの事情が上げられる。アリアはその小学生並みに小柄な体型から武偵生活において人並み以上に苦労を強いられてきた。無理もない。アリアの周囲にいた武偵や犯罪者はそのほとんどが幼児体型のアリアよりは遥かに大柄で体力に有り余っているような連中ばかり。そういった自身よりも大きい相手を前に、アリアはいつだって自身が小柄であることを最大限に生かして戦闘経験を積んでいった。自分の体格に合った戦い方で実績を積んで強襲科(アサルト)Sランク武偵にまで上り詰めていった。

 

 言ってしまえば、いつも短期決戦で勝利を収めてきたアリアは持久戦の経験に乏しいのだ。さらに付け加えるなら、理子のような自身と同程度の体格をした相手と戦った経験もあまりない。小柄故のすばしっこさで全く翻弄できない相手と戦った経験なんて片手で数える程度だ。

 

(これでは埒が明きませんね。……仕掛けますか)

 

 このままでは理子相手に二対一に持ち込めないまま長期戦へと突入してしまう。ともすれば、ようやく見つけることのできた優秀なパートナー:キンジと共闘できないまま負けてしまうかもしれない。ただでさえアリアは変則的な動きを見せる理子に一撃も攻撃を与えられていない。この現状下で理子との一対一が長引いてしまえば、不利になるのは確実にアリアの方だ。

 

 アリアはバックステップで理子から大きく距離をとる。すると。理子がチャンスとばかりに「そこッ!」と間髪入れずに発砲してくる。狙いはアリアの胸部。いくら防弾仕様の制服を着ていても当たればタダでは済まない箇所だ。

 

 だが。アリアは避けなかった。敢えて避けなかった。避けないどころか無防備にもスッと持っていた両手の拳銃を下ろし目まで瞑るという暴挙に打って出た。いくら武偵高の防弾制服のおかげで銃弾が当たっても致命傷になり得ないとはいえ当たればそれなりに痛いし体の動きも鈍る。どうしても隙が生まれる。当然だ。防弾制服の上から銃弾を喰らうことは言わば大の大人の渾身の蹴り技をモロに喰らうようなものなのだから。

 

 それ故に。アリアがまるで自身の敗北を悟ったかのように、自身の勝利を投げ出したかのようにその場に佇む様は理子目線ではさぞかし奇怪に映ったことだろう。実際、理子はワケがわからないといった表情を隠しきれない様子で「へ?」と情けない声を上げている。

 

 だが。しかし。アリアに理子の銃弾を喰らうつもりなど毛頭ない。戦闘を放棄するなどもっての他だ。ならば、アリアの意図はどこにあるのというのか。答えは単純明快。一つはアリア自身が突拍子もつかないような行動をすることで理子を一瞬でも思考停止に追い込むこと。もう一つは自身の立つこの位置が最も危険極まりない場所に見えて最も安全な場所、そう心から信じているからだ。

 

「キンジッ! 選手交代ッ!」

「あぁ!」

 

 アリアが声を張り上げるより数瞬前のタイミングで身を潜めていた物陰から飛び出したキンジは正確な銃撃――銃弾撃ち(ビリヤード)――で理子の放った弾丸をあらぬ方向に弾き飛ばすと、体を理子に向けたままさらに距離を取るアリアと立ち位置を交代する。キンジはアリアとの入れ替わりで理子の前に躍り出る。

 

 本音を言うなら、ここは鏡撃ち(ミラー)で銃弾を理子の拳銃の銃口に弾き返して拳銃一つを破壊したかった所なのだが、通常モードでの鏡撃ち(ミラー)の成功率はまだ38%。本番で使うには少々危ない橋を渡らなければならなくなる。一方、銃弾撃ち(ビリヤード)の成功率は通常モードのキンジでも99.2%を誇る。使わない手などどこにもなかった。

 

「俺が相手だ、理子!」

「くッ!?」

 

 しまった。二人の選手交代を許してしまったと理子は顔を歪めつつ、自身に迫りくるキンジに向けて牽制を目的に発砲する。それを再び銃弾撃ち(ビリヤード)で自身の影響のない方向へ弾き飛ばしたキンジは、すぐさま理子の持つ拳銃の銃口に向けて発砲する。理子が反応するよりもわずかに早くキンジが引き金を引いたことで、キンジが放った銃弾は吸い込まれるように理子の拳銃の銃口へと突入し、拳銃を完全に破壊した。「えッ!?」と理子の驚愕の念の存分に籠った視線が使い物にならなくなった自身の拳銃に向けられる。その一瞬を狙って、キンジは一息に理子との距離を詰めにかかった。

 

「そこまでだ、理子!」

「そこまでです、峰さん!」

 

 キンジは拳銃を理子の胸に、心臓部分に突きつける。理子がキンジに注意を向けている間に理子の後ろに回ったアリアも両手に構えた二丁のガバメントを後ろから理子の背中に突きつけている。これにより、理子が少しでも身動きをすれば、いつでもキンジとアリアのどちらかが理子を撃つことのできる状況が確立された。未だに理子の左手には拳銃が握られてはいるものの、この状態で形勢逆転を狙うのはどう考えても不可能だ。これでチェックメイト。どうにか武偵殺しの無力化に成功した。キンジとアリアは心の奥底でホッと安堵の息を吐いた。

 

「え、えっとさ。遠山くん、オリュメスさん。二人とも、まさかこれで本気で終わったとか思ってるの?」

「当然です。貴女にはもう現状打破の手段がありません。無駄な抵抗は止めて大人しく捕まってください。あと私はオルメスです」

「撃たれて痛い思いをしたくないんなら、下手に動こうとするなよ、理子」

「……」

 

 きょとんとした顔で首をコテンと傾けてキンジとアリアに問いかける理子に、二人は脅しをかける。まだ勝負はついていないと言いたげな理子の物言いに対して、二人は理子がいかに詰んでいるかを理子自身に認識させようと声を上げる。対する理子は二人の言葉に返答することなく、ただうつむくのみだった。

 

「ね、ねぇ……二人とも。あんまり、さ。ボクを舐めないでよね」

 

 沈黙を貫く理子を前に、理子は戦意を喪失したと判断したキンジとアリアだったが、当の本人たる理子はおもむろに顔を上げるとキッと二人を睨む。理子にしては非常に珍しい、怒りの感情を静かに顕わにする。すると。理子の怒りに連動して理子の金髪があたかも意思を持っているかのようにわなわなとうごめき始める。

 

(な、なんだ、あれ――って、まさか!? 理子は超能力者(ステルス)なのか!?)

 

 あまりに非現実的な光景につい思考停止に陥りそうになったキンジだったが、すぐに理子が超偵なのではないかとの考えに至る。アリアも同じことに思い至ったのか、理子が余計なことをする前に戦闘不能にしようと引き金に掛けた人差し指に力を込める。

 

「ボクだって。ボクだって! やればできる子だってジャン、じゃなくて銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)ちゃんが言ってたんだぁぁぁあああああああ!」

「「ッ!」」

 

 だが。アリアの行動よりも先に、理子はわなわなと自在に動く金髪を駆使して背中に隠していた二本の漆黒のナイフを取り出すと、それぞれキンジとアリアに向けて切りかかってきた。

 

 その時。理子にとっては非常に運の良いことに、アリアにとっては非常に運の悪いことに、ANA600便周辺に雷鳴が轟いた。雷の白光が客室を一瞬だけ白一色に照らす中、「ひぅ!?」と体を硬直させるアリア。何ともタイミングの悪いことに、アリアの弱点の1つである雷嫌いがここで発動してしまった。理子との戦闘中ということもあってアリアはすぐに戦闘態勢を取り戻すも、ビクッと体を震わせたことはアリアの隙となった。それは一瞬に満たない、隙と言っていいのか判断に困るものだったが、それがここでは決定打となった。

 

 キンジはとっさに後方に退くとともに拳銃を盾代わりにし、理子の繰り出すナイフの軌道をずらしたことで間一髪でかわしたものの、アリアの方は回避がわずかに間に合わず、アリアの首筋を理子のナイフが容赦なく切り裂いた。

 

「くうッ!?」

「ッ!? アリアッ!?」

 

 アリアの血が理子のナイフを伝って床や壁に飛び散っていく中、アリアの制服を血色に染めていく中、アリアが首を起点とする痛みに押し殺したような声とともに表情を歪める。理子の凶刃を受けたアリアがキンジの前方でガクリとあたかも糸の切れた人形のように倒れようとする。

 

「ッ、ぅああああああ!!」

「がふッ!?」

 

 その時。当の首を斬られたアリアは床に倒れ伏す前に足を強く踏みしめて自身の体が無防備に倒れるのを防ぐと、雄叫びとともに理子の腹部にガバメントを押し当てて発砲する。おそらく叫び声をあげているのは首筋を走る激痛を雄叫びによる高揚感によってかき消す目的あってのことだろう。さすがに首を斬られたアリアが即座に反撃に転じるとは思っていなかったのか、先ほどまでアリアの繰り出す銃撃を奇妙な動きでかわしてきた理子がここでアリアの銃弾を初めて喰らうこととなった。

 

 これを好機と見たアリアは続いてガバメントを無造作にしまうと背中から二本の小太刀を取り出し、銃弾をモロに喰らい苦悶の表情を隠せない理子の首目がけてさっきのお返しだと言わんばかりに刺突を放つ。理子が避けなければ確実に首を貫き理子を死に追いやるであろう刺突を一切の容赦もなく放つ。

 

 本格的に命の危機を察した理子は逃げ道を示してくれる本能に従って回避行動に移る。「ひぃ!?」と情けない声を上げながら。しかし。動作がアリアの迅速の突きに完全には間に合わなかったのか、理子の頬にスッと切り傷が刻まれる。

 

「そこッ!」

「しまッ!? ナイフが!?」

 

 首から血を滴らせつつ、ギンと肉食動物を彷彿とさせる獰猛な瞳を向けるアリアの雰囲気に圧倒され、アリアに釘づけになっている理子。自身への注意が疎かになっている隙にキンジは理子が金髪で掴んでいるナイフの一つに狙いを定めて発砲し、理子のナイフを虚空に弾き飛ばす。

 

 理子に飛びかかるようにして怒涛の連撃を仕掛けるアリア。アリアの怪我を心配しつつ、理子の隙を狙って理子の武器を銃弾で破壊もしくは弾き飛ばそうとするキンジ。己の切り札である髪を自在に動かす力を解禁したにも関わらず、拳銃一丁にナイフ一本を失い、徐々に雲行きが怪しくなっている理子。

 

 流れがキンジとアリアに傾き始めたその時。何の因果か、不意にANA600便の機体が右傾したことで三人は大きくバランスを崩す。その際、キンジは客室の壁に背中からぶつかったことで、つい右手に持っていた拳銃に、懐に閉まっていたバタフライナイフまで床に落としてしまう。しかし。この場にいる誰よりも早く体勢を取り戻したキンジはまだ体勢を立て直していない理子へと徒手空拳のままで一息に距離を詰める。同時に「キンジッ!」と後方のアリアから投げ飛ばされた一本の小太刀を後ろを見ずに掴みとると、それを上空から振り下ろし、もう一本のナイフを持った理子の金糸のようなテールの片側を切り落とした。

 

「アリア! 今だ!」

「えッ!?」

 

 キンジが理子の背後に視線を向けて叫ぶと、手持ちの武器が拳銃一丁のみとなった理子がバッと後ろを振り向く。しかし。その先にアリアはいない。マズい。今のはハッタリだったかと理子はキンジの方へと向き直ろうとして――

 

「下ですよ」

「わッ!?」

 

 そんなアリアの声とともに、理子は文字通り足元をすくわれた。理子の視界に入らないように床ギリギリまで体を屈めた状態で理子に接近したアリアが床につけた右手を基軸にして理子の足元に渾身の襲撃を放ったのだ。理子の本能はアリアの蹴りが届く前に確かに逃走経路を示していたのだが、キンジのハッタリに惑わされたことによって本人の反応が遅れたのが裏目に出てしまった。理子は足元をすくわれ盛大に尻餅をついた際に最後の拳銃をも手放してしまう。

 

「峰理子リュパン四世」

「貴女を殺人未遂容疑の現行犯で逮捕します。大人しく捕まって裁きを受けなさい」

 

 キンジは理子の手放した拳銃を遠くに蹴飛ばすと、小太刀を理子の首に添える。おもむろに立ち上がったアリアも理子を見下ろしてその頭にガバメントを突きつける。今度こそ、チェックメイトだった。

 

 かくして。強襲科Sランク武偵二名と武偵殺しとの戦闘、あるいはオルメスのひ孫&そのパートナーとアルセーヌ・リュパンのひ孫との対決は武偵殺したる峰理子リュパン四世の無力化もとい敗北によって幕を閉じたのであった。

 




キンジ→アリアとの連携がすでに神がかっている熱血キャラ。
アリア→キンジとの連携がすでに神がかっている子。ぶっちゃけアリアを雷嫌いにしたのはここで理子相手に怪我を負ってもらうためだったりする。何という裏事情。一度は諦めたものの、やっぱりちゃんとオルメスと呼んでほしい模様。
理子→割と回避チート。ビビりの本能が回避ルートをしっかり教えてくれる。尤も、それに理子自身が反応できなければ意味はなかったりするのだが。


 ~おまけ(三人の内心事情 ※キャラ粉砕注意)~

・キンジver.
前半:あれ? 俺ハブられてね? 主人公なのに空気になってね? ……ヤバいな。どうにかしてあのチビッ子二人(アリア&理子)のバトルに介入しないと俺の存在意義がなくなってしまうッ!(←冷や汗ダラダラ)
後半:ふぅ。どうにか活躍できたか。これで最悪の事態(キンジ空気化orキンジ不要論発生)は免れたはずだ。うん。よくやった、俺(←安堵)

・アリアver.
前半:ちょぉぉおおお!? ちょっ、待っ、うぇぇえええええ!? 峰さんがこんなに強いなんて聞いてないですよッ!?(←冷や汗ダラダラ)
後半:私だけ思いっきり出血してるってのにキンジは無傷で峰さんはあんまり怪我してないとか、何これ理不尽。酷くないですか、これ?(←orz)

・理子ver.
前半:回避チートに髪を自由に動かせる能力……これで勝つる! ボクTUEEEEEEEEEEEEEE!!(ドヤァ)
後半:すいませんでした調子乗ってました天狗になってました図に乗ってました付け上がってました思い上がってました驕り高ぶってましたいい気になってました自惚れてました許してくださいボクがバカでしたごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――(ガクガクブルブル)←土下座ッ!

※上記の三人の心情は本編とは全く関係ありませんので、あしからず。
※キャラ粉砕→二次創作において、すでに一度キャラ崩壊させた原作キャラの性格を再び崩壊させる蛮行を意味する。カオスという言葉とセットになることが多い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。