【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

140 / 147

 どうも、ふぁもにかです。今回は前回サラッと登場したものの少しばかり影の薄かった平賀製の鳥人型ロボットが本格的に存在感を表し、そしてさらなる動きが見られる回となってます。この辺がこの番外編の中盤ですからね。そろそろ物語を全力で盛り上げていきたい所ですな。



EX7.ワクワクドキドキ☆寮取り合戦(7)

 

 ――13:10

 

 

 東京武偵高の校舎。2年A組の教室内にて。神崎千秋は偶然出会ってしまった後輩の女子武偵を相手に、教室の机や椅子などを巧みに利用する戦い方により、どうにか無傷での勝利を収めていた。ちなみに。肝心の戦闘描写は丸カット。探偵科Dランクと強襲科Eランクとの戦闘など大して映えないゆえの悲劇である。

 

 

【探偵科Dランク:神崎千秋(2年)が強襲科Eランク:桜桜(おうはる)(さくら)(1年)を撃破しました。神崎千秋に16ポイント付加されます】

 

 

「はぁぁー、どうにか勝てたか。良かった、いくら強襲科だからってEランクの武偵に撃破されたんじゃルームメイトにどんな顔をすればいいかわかったもんじゃないからな」

 

 撃破通達を携帯画面で確認したことで、今しがた自分が戦っていた相手の専攻とランクを把握した千秋はホッと安堵の息を零す。「あの武偵、雰囲気からして多分高校から武偵高に入った感じだったから、なおさら負けずに済んで助かった」と、千秋が先の戦闘での相手の印象を思い起こしながら感想を述べていると、ガララと教室の引き戸を開く者が現れた。

 

 それは武偵制服をタキシード風にアレンジし、黒の蝶ネクタイを装着している男だった。ピッシリと着こなされた服。187センチもの細身な体躯。どこか幼さを残しつつも大人の色香を醸しつつある雰囲気を引き連れた銀髪黒目の男は、教室内の千秋の姿を見つけると、当然のように左手を腹部に置きつつ礼を行い、「おや。これは千秋様。ここで会うとは奇遇でございますね」と柔らかな口調で言葉を紡いだ。

 

 

「おい、葉月。お前、武偵高にいる間は俺に話しかけるなって言ったよな? 俺とお前がそういう関係だって悟られないようにしろって言ったよな?」

「そうは言われましても……今回は寮取り合戦というイベントですので、普段のように千秋様の行動パターンを読んだ上で接触を避けるのは至難の業なのです。とはいえ、千秋様の要望に応えられなかったのもまた事実。いかなる処罰もお受けしましょう」

「……じゃあ、そうだな。武偵高にいる間はその丁寧語なしで俺と話せ。それが処罰だ」

「それは承服いたしかねます」

「いやいやいや! 今『いかなる処罰もお受けしましょう』って言ったよな!? 言ったそばから断るのかよ!?」

「申し訳ございません。ですが、私の口調は千秋様への揺るがぬ誠意の証ゆえ、取り払うわけにはいかないのです。だからどうか、処罰は別の形でお願いいたします」

「……ったく、だからお前は苦手なんだよ」

 

 千秋はげんなりとした表情で深々とため息を吐く。実を言うと、神崎千秋の実家はちょっとしたお金持ちである。何名か執事やメイドを雇い、家の管理や子供たる千秋の世話を任せられる程度には資産家な家である。そして。千秋の眼前の男――葉月――もその執事の一人である。何かと危険が付き物な武偵高の日々で千秋の技量で対処不可能な事態から彼を守るために、過保護な親が勝手に武偵高へと送り込んできた、千秋の私兵なのだ。

 

 武偵高自体は危険地帯のど真ん中なので、葉月が武偵高に投入されたこと自体はありがたい。しかし、千秋は自分の家がお金持ちだと知られたくなかった。他の生徒には、あくまで自分のことをごく一般的な家に生まれた凡人だと思ってほしかった。というのも、小学生時代に自分の家がお金持ちなせいでテンプレのような嫌な経験をしているからだ。ゆえに。千秋の心中は非常に複雑なものとなっていて、それが武偵高内における葉月への険のある態度へと帰結しているのだ。

 

 ちなみに。これは余談なのだが、神崎家の執事やメイドは就職を機に本名でなく、月にちなんだ命名を受け、新たに名付けられた名前での活動を強制される。葉月もその一人であるため、本名は千秋も知らなかったりする。

 

 

「だから俺は実家がちょっとアレなだけで、ただそれだけだからな! その他は一般人そのものだからな! 妙な勘繰りとか入れるんじゃねぇぞ!? 絶対だぞ!?」

「千秋様。一体誰に向かって怒鳴っておられるのですか? 天井には誰も貼りついていませんが?」

「はッ!? お、俺は一体何を……」

「あぁ、寮取り合戦のストレスで精神が疲弊しておられるのですね。でしたら、今から簡易療養施設をこの場に設置いたしますので、千秋様はその中でご静養を――」

「いいから! そういうのいいから! 俺は大丈夫だから余計なことすんな!」

「そうでございますか。ですが、何か不調がありましたらいつでも私にご用命くださいませ。そのための私ですから」

 

 千秋のおかしな言動に葉月は無駄に洗練された無駄な動作とともに教室内に即席の療養施設を作り上げようとするも、千秋は大げさな葉月の行動を、自分が元気であることをアピールする形で中断させようとする。その後。千秋の必死さを受けて、千秋の主張を受け入れる葉月な一方、千秋は内心で「こいつ、本当に面倒くせぇ……」と嘆きの一言を漏らした。

 

 

「ところで、千秋様。話によると、千秋様は出撃組に組み込まれたのにポイントをあまり稼げていない現状にお困りだそうですね?」

「ぅぐッ!? な、なんでそれを!?」

「私は千秋様の執事ですから。そこでご提案なのですが――千秋様が撃破ポイントを獲得し、ルームメイトの方々とより良い寮に住めるよう、その辺の武偵たちを気絶寸前まで追い込み、ロープで拘束したものを2年C組の教室に用意しております。後は千秋様が彼らの意識を刈り取ればそれで大量のポイントを稼ぐことができましょう。ささ、早くこちらへ」

「え、ちょっ、何それ怖ぇよ!? 何やってんだよ、お前!? というか、俺はまだお前の提案を呑んでねぇぞ! そんな死刑執行人みたいな役目、俺は絶対やらないからな!」

「ですが、それでは千秋様がルームメイトの方々から戦犯扱いされて――」

「――それはそれで嫌だけど、それとこれとは別だ! てか、それはお前の功績なんだから、お前がトドメ刺してポイント取っとけよ。執事だからってこんな時まで俺を優先して、敢えて俺より劣悪な寮を選ぶことはないんだぞ?」

「ですが――」

「ですがですがうるせぇよ。執事が主人のために影から支えるのは結構だけど、率先して犠牲になるな。俺の良心が痛む。……お前が俺の力になりたいって思ってるなら、今から俺と共闘してくれ。一日パートナーだ」

「ち、千秋様……」

 

 千秋のぞんざいな口調ながらも、葉月を一個人として気遣う心情が読み取れる言葉に、葉月は心から感動する。このお方は必ずや大物になるとの確信を抱き、ここで葉月は教室へと確かに忍び寄る異変に気づいた。

 

 

「千秋様ッ!」

「ッ!? おい、いきなり何を――!?」

 

 葉月は現状における最善の行動として千秋の両肩を両手で押し出す形で千秋の体を後方へと吹っ飛ばす。いきなり葉月に押されたせいでつい尻餅をついた千秋が葉月の行動を問い質そうと声を張り上げようとした瞬間、千秋は目撃した。

 

 2年B組の教室と2年A組の教室の間に鎮座する黒板を体一つでぶち破る何かが現れる瞬間を。全長3メートル以上、横幅2メートル以上の、鳥の頭部とムキムキな鋼鉄の体部とを併せ持った例の『鳥人』型のロボットが葉月の顔面を右フックで殴り飛ばす瞬間を。

 

 

「ち、千秋様……私に構わず、早く、逃げ……ガフッ」

【装備科Aランク:平賀文(2年)が諜報科Aランク:葉月(2年)を撃破しました。平賀文に22ポイント付加されます】

「葉月ぃぃぃいいいいいいいいいいいッ!?」

 

 千秋は葉月がワンパンで撃破されてしまったことに強い衝撃とともに絶叫の声を上げる。無理もない、千秋は葉月の強さを良く知っている。その葉月がたった一撃で簡単にノックアウトしてしまったという事実は、千秋には少々刺激が強すぎたのである。

 

 

『私は鳥人だよ。友達になろう』

 

 つい呆然とその場に立ち尽くす千秋に鳥人型ロボットが「友達になろう」と言いつつも当然のように振りかぶった拳を情け容赦なく打ち出してくる。千秋が鳥人型ロボットの敵意に気づき、逃げようとしても時既に遅し。千秋は鳥人型ロボットの手により意識を刈り取られ、己の持つポイントを鳥人型ロボットの作製者たる平賀に還元することとなる――そのはずだった。

 

 だが、ここで。教室の天井にビシシッと蜘蛛の巣状にヒビが入ったかと思うと、天井から『何か』が降ってきた。千秋と鳥人型ロボットの間に入るように天井から落下し、己が両足でしかと着地した『何か』。これもまたロボットだった。

 

 それは、鳥型のロボットだった。鳥類の頭部に、雪のように真っ白な腹部に、真っ黒に染められた背部に、首には黄色と赤のアクセント。そして、鳥人型ロボットと同様に全長3メートル以上、横幅2メートル以上の鋼鉄の体躯を誇る、皇帝ペンギン型のロボットだった。

 

 

(あ、これ終わったな……せめて痛くありませんように!)

 

 同じ鳥類(?)型のロボットが追加で登場してきたために、千秋は自身の生存を諦める。眼前の無駄に高スペックな2体のロボットから逃げきれるとは到底考えられなかったのだ。

 

 しかし、ここで事態は千秋の思わぬ方向へと動き出す。何と、皇帝ペンギン型ロボットは何を思ったか、『ペェェエエエングィィイイイイイイイイイイン!!』と鳥人型ロボットに対して、握りしめた拳(?)で殴りかかったのだ。

 

 

『どきなさい、鳥。私は君の後ろの人間と友達になりたいんだ!』

『ペェェエエエングィィイイイイイイイイイイイイイイイイン!!』

 

 殴られた鳥人型ロボットは両足でその場に踏みとどまり、強烈なカウンターパンチを皇帝ペンギン型ロボットにお見舞いするも、皇帝ペンギン型ロボットもまた一歩も退くことなくさらなる拳の連打を鳥人型ロボットに叩き込む。

 

 

『飛べない鳥に用はない! 鳥の分際で私の邪魔をするな!』

『ペェェエエエングィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!』

(色々ツッコミどころが多すぎてどうすりゃいいかわからないけど、そもそもペンギンは『ペンギン!』って鳴かねぇだろ!? もっと鳥類らしい鳴き方するだろ!? って、こんなどうでもいいことにツッコんでる場合じゃねぇよ、俺!? ロボット同士で仲間割れしてくれてるなら好都合、今の内に逃げるぞ!)

 

 一歩ものけ反らないロボット同士の殴り合いの応酬。その一種の芸術とも捉えられる光景につい釘づけになる千秋だったが、己の為すべきことをハッと思い起こすと、ただいま絶賛気絶中の葉月を背負って2年A組教室から脱出する。

 

 葉月の187センチもの体躯は千秋の身長を軽く超えており、千秋が葉月を背負うだけでかなり体力を消耗するのだが、だからといって葉月の気絶体をここ(※ロボット同士が手加減なしの本気で仲間割れしている激戦地)に捨て置く理由にはならないのだ。

 

 

(とにかくまずは葉月を安全な場所に持っていかないと! どこがいい!? 一体どこなら安全なんだ!?)

 

 千秋は己の中で考えが纏まらないまま、それでも少しでもロボットの同士討ちが決行されている教室からできるだけ距離を離そうというただ1つの方針を元にひた走る。そして。一旦校舎内から出ていこうと階段を下りる形で玄関ホールへと向かった瞬間。千秋は鳥人型ロボット計5体の待ち伏せに出くわした。「マジかよッ!?」と、慌てて階段を登ろうとする千秋だったが、既に踊り場には別の鳥人型ロボットが回り込み済みだった。

 

 

「クソッ!? こいつら何体いるんだよ!?」

 

 葉月を背負っているがために両手の使えない千秋は、もはや覆しようのない絶望的な状況に全力で悪態をつく。だが、そんなもので状況に変化が生じるわけがなく、今にも鳥人型ロボットたちが拳を振り下ろさんとする対象たる千秋はまさしく風前の灯火であった。が、しかし。ここで予期せぬ介入者が千秋の元に現れた。

 

 

「しゃがめぇぇええええええええええええええええッ!」

「ッ!」

 

 突如、千秋の鼓膜を震わせる命令。半ば反射的に千秋がその指示に従ってその場にしゃがみ込むと、千秋の横合いの廊下から介入者が参上した。三輪バイクことトリシティに乗っているその介入者はバイクごと空高く跳んでみせると、車輪で踏み潰す形で鳥人型ロボットの1体を動かぬガラクタへと移行させる。その後、介入者のトンデモな行動に一瞬だけ対応の遅れた他の鳥人型ロボットへ対し、介入者はトリシティを停止させつつサブマシンガンを発砲。的確な射撃で鳥人型ロボットたちの頭を撃ち抜き、鳥人型ロボットの動作を強制シャットダウンさせた。それは、実に5秒に満たない早業であった。

 

 

「……」

 

 介入者の圧倒的掃討力に千秋が呆然としていると、介入者がポンポンと後部座席を手で軽く叩いて「乗れ」と簡潔な2文字で命じてくる。介入者、もといボサボサな栗色の髪の毛を肩にかかる程度に伸ばし、榛色をした瞳をした、女子の武偵制服に身を包んだ武偵に、千秋がつい固まったままでいると、「何固まってんだ。さっさと乗れ。それともさっきのロボット共にまた襲われたいのか? だったら置いてくけど?」と女子武偵に急かされた。

 

 

「わ、わかった!」

 

 またさっきのような常軌を逸したふざけたロボット連中に襲われてはたまったものではないと千秋がトリシティの後部座席に飛び乗ると、女子武偵は「ほら、ヘルメット。あと、後ろに背負ってる奴、落とさないよう気をつけろよ」と千秋にヘルメットを渡しつつ注意を促すと、「しっかり掴まってなぁ!」とトリシティを発進させて武偵高から出発した。

 

 

「な、なぁ。どうして君は俺を助けたんだ。俺たちは同じ寮じゃないのに……」

「何だ、今の状況を知らねぇのか? さっきのロボットを見ただろ? もはや、寮同士で争ってる場合じゃなくなってんだよ。だから助けた。文句あるか?」

「いや、ない」

「なら良し。とりあえず、どっかテキトーに休憩できる場所に行くぞ。そこで現状を説明してやる」

 

 上記の会話を最後に千秋と女子武偵との間の会話は終了し、女子武偵がトリシティを道路上にて走らせるのみとなる。千秋は新たな話の種として先ほど自分を(※ついでに葉月も)助けてくれたお礼を述べようとして、ここで女子武偵の名前を知らないことに気づいた。

 

 

「……なぁ」

「ん?」

「俺は神崎千秋、探偵科Dランクの2年生だ。君は?」

「アキだけど、いきなりどうした?」

「いや、俺の恩人の名前を知らないってのもどうかと思ってな。ありがとう、アキちゃん」

「~~~ッ! お、俺は男だ! 勘違いしてんじゃねぇよ!」

「え、はッ!? ウソだろ!?」

「マジだよ! なんでここでウソつかないといけないんだよ!?」

「じゃあなんで女子の制服着てるんだよ!? 転装生(チェンジ)なのか!?」

「ちっげぇぇええよ! ルームメイトに女装を強制されてんだよ! あいつら、俺の服をどっかに隠して女子の制服だけ残しやがって! 女子の制服を着て寮取り合戦に参加するか、全裸参戦するか二者択一だとかいう、メモ書き残して消え失せやがって! 何考えてんだよ、あのキチガイども! あぁぁああああああ、思い出したら滅茶苦茶ムシャクシャしてきたぁぁあああああ! 今バイク運転してなきゃ腹いせで俺の黄金の右脚使ってお前の息子を蹴り潰してたってのにぃ!」

 

 女子武偵、もとい女子の武偵制服を着用することを余儀なくされていたアキが目に見えてイライラした様子でトリシティの運転スピードをギュイイインと跳ね上げる中。千秋はアキの思わぬ荒々しい発言に「ひょ!?」と一度は驚くも、その後、八つ当たりでアキに金的を蹴り上げられるという事態を自然と回避できていたことに内心でこっそりと安堵のため息を吐くのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――13:15

 

 

 路地裏にて。アリアと宮本リンとの戦いは激化の一途を辿っていた。宮本の神速の剣技を目で追えないアリアは宮本の間合いに入らないように距離を置きつつ、宮本の顔面目がけて銃弾を放つ。アリアが宮本の顔面のみしか狙わないのは、一度宮本の手首に銃弾を命中させた時に、その銃弾を宮本のしなやかに鍛え上げられた筋肉によって弾かれたからだ。

 

 一方。己の間合いの範囲外からの攻撃を徹底するアリアに対し、宮本はそれでも刀のみで戦う。一応拳銃も所持しているのだが、宮本の銃の腕はポンコツなので、牽制にすら使えないからだ。しかし、アリアに距離を取られたからといって、宮本にアリアへの攻撃手段がないわけではない。

 

 

「俺の剣技に銘はなし――『無名』二刻!」

 

 宮本はアリアが的確に放ってくる銃弾を、とてもEランク武偵とは思えない足捌きで華麗に避けてみせると、技名を口にしながら刀をその場で横薙ぎに振るう。真横に振るわれた刀は、宮本の間合いから十分に距離を取っているアリアを斬りつけることはない。しかし、振るった刀の生み出した斬撃の軌跡は刀身から分離し、三日月型の白い斬撃がアリアへと射出される。そう、宮本は文字通り、斬撃を『飛ばす』ことができるのだ。

 

 

「くぅッ……!」

 

 宮本が直接振るう刀のスピードよりは遅い、飛ぶ斬撃。しかし、この飛ぶ斬撃の最も恐ろしい所は何より――宮本の任意のタイミングで斬撃を1つから2つに、2つから4つに、4つから8つに、といった要領で分裂させることができる点だ。そのため、自身の目の前で散り散りに分裂した飛ぶ斬撃勢をアリアは必死にかわす。かわして、かわして、それでも避けられない斬撃は銃弾で撃ち落としていく。

 

 が、ここで。一瞬だけアリアの視界が真っ暗に染まり、アリアはその場でフラフラとたたらを踏む。結果、本来撃ち落とすはずだったいくつかの斬撃が、そのままアリアの腹部を刻み込むこととなった。もちろん、防弾制服は防刃も兼ねているがためにアリアの体に直接傷がつくことはないが、その衝撃に小柄なアリアの体は簡単に吹っ飛ばされる。

 

 足が地面から離れてしまったアリアはクルリと後ろ向きに回転し、ガバメントを持ったままの右手で地面に手を突き、少し肘を曲げ、力を溜めた勢いで跳ね上がる。バックハンドスプリング(片手版)の要領でどうにか整えるアリアだったが、攻撃をまともに喰らった腹部が思いの外痛みを訴えるために、つい左手で腹部を押さえてしまう。

 

 その隙を逃すまいと、独自に編み出した歩法で距離を瞬時に詰めた宮本が「『無名』七刻!」と、これまた神速の突きを繰り出してくるも、アリアは己の直感の力を借りることで、宮本の刀の腹に右手のガバメントを下からぶち当て、宮本の突きをアリアの頭上へと逸らしてみせた。

 

 

「ハァ、ハァ……。驚いたな。まさかここまで俺の刀が通じないなんて。これでも結構努力して強くなったつもりだったんだが、認識が甘かったか」

 

 宮本はアリアの反撃を未然に防ぐために一度、背後に大きく跳んでアリアとの距離を取る。その後、宮本は今現在、胸のうちに抱いている正直な感想を口にする。約30分も戦闘を続けてなお、決着がつかなかった。いくら相手がSランク武偵とはいえ、疲労というハンデを背負っているアリアを倒せなかった。そのことが宮本にとってただただ衝撃的だった。

 

 

「……己を鍛えているのが、努力しているのが自分だけだと思わないことですよ。宮本さん」

 

 そんな宮本の心中を知ってか知らずか、アリアはあたかも今の戦いで自分の方が優勢だったと言わんばかりに平然とした口調で宮本に語りかける。実際はアリアの方が終始劣勢で、基本的にアリアは宮本の猛攻を間一髪で凌ぐので精一杯だったのだが、それは言わぬが花だろう。

 

 アリアはすっかり疲労困憊だった。アリアが疲れきっているのは宮本視点にて、目に見えて明らかだった。滝本発展屋の回し者たちを相手に真夏の炎天下の中で何時間も戦い続けていたアリアは現状、宮本と話している間も足元がおぼつかなく、放っていれば今にも倒れてしまいそうなほどなのだ。しかし、アリアは未だに敗れない。ロクに水分補給もももまん補給もできておらず、熱中症一歩手前であるというのに、アリアは未だに撃破されない。

 

 

(これが、Sランク武偵。いや。母親を助けるために、この小柄な体で孤軍奮闘してきた正義の武偵か……!)

「なぁ神崎。さすがに俺も疲れてきたし――そろそろ決着つけようぜ」

「?」

「今から俺は必殺の一撃を出す。それが決まれば俺の勝ち、それを避けるなり上手いことカウンターを決めるなりすれば神崎の勝ち。どうだ、シンプルだろ?」

「……いいでしょう。貴方の土俵に乗った上で、貴方を越えてみせますよ」

 

 たとえ劣勢でも決して屈しない。例え本調子でなくとも、使える手段を利用して全力で足掻く。そのような戦い方を見せるアリアを前に、宮本は感動していた。これが己の求める『力』の一つの在り方なのだということを思い知ることのできた宮本は、アリアに敬意を称し、自分が誇る必殺の一撃で勝負を終わらせることを提案する。それを当然のように受け入れてくれたアリアに宮本は内心で感謝し――刀を鞘に収め、居合いの構えに入った。

 

 

「『無名』零――」

「死ねや、邪神神崎ぃぃいいいいいいいいいいい!」

「しゃあああああああああああああああああああ!」

「オレサマオマエマルカジリィィイイイイイイイ!」

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」

 

 が、ここで。アリアと宮本との激闘に無粋な邪魔が入ってきた。アリアの背後から突如として4名の武偵が出現し、なぜか釘バットに統一しているらしいそれぞれの武器を振りかぶり、アリアへと振り下ろしてきたのだ。

 

 彼らの正体は至って簡単、東京武偵高三大闇組織の過激派の者たちである。さらに言うなら、彼らは邪神アリアを滅ぼすという一点に関してお互いに結束中の、『ダメダメユッキーを愛でる会』と『ビビりこりん真教』との混成部隊である。

 

 実をいうと、彼らは約10分前からアリアの姿を見つけ、敢えて物陰に潜んでアリアと宮本との戦いを静観していた。それは宮本にアリアを弱らせるだけ弱らしてもらってから、自らの手で引導を渡そうと考えていたからだったりする。

 

 

「しまッ――!?」

 

 そんな彼らの計画は今の所、大成功だった。何せ、疲労困憊なアリアは突然の背後からの急襲に対応しようとして、ズルッと足を滑らせ、地面に膝をついたのだから。が、彼らの思惑通りに事が進んでいたのはこの瞬間までだった。

 

 

「『無名』八刻!」

 

 あっという間にアリアを庇うように移動してきた宮本がブオンと、まるでライトセーバーを振った時のような音を響かせながら刀を振るい、ノロノロとした飛ぶ斬撃(※やたらと分厚い)を生成する。その後、とろい斬撃に対して宮本が逆袈裟に振るった刀を直接ぶつけた刹那、分厚い斬撃が粉々に砕けつつ、アリアに危害を加えんとしていた4名の武偵へと一直線に向かっていった。

 

 

「「「「ぎゃあああああああああああああああ!?」」」」

 

 不意に形成された斬撃の弾幕。銃弾のごときスピードで突撃してきた無数の斬撃を前に、弱ったアリアでなければ倒せない程度のスペックの武偵たちでは当然ながら為すすべがなく、無数の斬撃に呑み込まれる形であっけなく撃破されることとなった。

 

 

【強襲科Eランク:宮本リン(3年)が装備科Bランク:草波(くさは)エル(3年)を撃破しました。宮本リンに17ポイント付加されます】

【強襲科Eランク:宮本リン(3年)が通信科Cランク:寺和(てらわ)呂守(ろす)(3年)を撃破しました。宮本リンに9ポイント付加されます】

【強襲科Eランク:宮本リン(3年)が諜報科Eランク:天天(かみそら)(たかし)(2年)を撃破しました。宮本リンに11ポイント付加されます】

【強襲科Eランク:宮本リン(3年)が鑑識科Cランク:終終(すえつき)(おわり)(1年)を撃破しました。宮本リンに11ポイント付加されます】

 

 

「ったく、人がせっかく真剣勝負やってんのに、邪魔してんじゃねぇっての。空気読めよ」

「あ、ありがとうございます、宮本さん」

「いいっていいって。俺はただ、ああいう姑息な連中の思い通りにさせたくなかったってだけだしな」

 

 アリアは宮本にぺこりと頭を下げて感謝の念を伝えると、当の宮本はヒラヒラとお礼の言葉なんていらないと言わんばかりに手を振る。その後、「それより、ここは――」と言葉を残したかと思うと、路地裏に設置されていた青いごみ箱の蓋を吹っ飛ばすように鋭い刺突を放つ。すると、「ひ、ひぃぃ!?」とゴミ箱の中から顔がすっかり青ざめている状態な武偵が飛び出てきた。どうやらアリア狙いの伏兵がまだ隠れ潜んでいたようだ。

 

 

「なッ!? まだいたんですか……!?」

「よう。お前もさっきの連中のお仲間だよな?」

「ち、違う! 違う違う違う! お、俺はあいつらみたいにアリアさまを狙う過激派じゃない! 寺和(てらわ)呂守(ろす)先輩に無理やり連れてこられただけで、本当は『アリアさま人気向上委員会』の一員なんだ! だからここはお願いだから見逃して――」

「――へぇ? よくわからないが、色々事情を知ってそうだな、お前?」

 

 酷い消耗によりごみ箱内に潜伏中の武偵の存在に気づけなかったアリアが素直に驚きを顕わにする中。青いごみ箱を横倒しにし這い出る形でごみ箱から飛び出てきた男子武偵は、宮本の問いにその場で膝を抱え頭を両手で覆い隠しながら、まるでマナーモードのごとくガタガタ震えながら口早に自分は先の4人とは無関係であることを主張する。男子武偵が宮本から少しでも距離を取ろうと逃走を図らない所を見るに、宮本の剣技がよほど恐ろしかったのか、今現在、男子武偵はどうやら腰が抜けているらしい。

 

 その男子武偵の発言内容に宮本は一瞬ピクッと目をひくつかせたかと思うと、ニヤリと悪ガキのように口角を吊り上げる。宮本の反応から嫌な予感を感じ取った男子武偵が「な、何だよぉ……?」と涙声で問いかけた矢先、宮本は刀を振るい、男子武偵の首元で刀をピタリと止めた。結果、薄皮一枚だけ斬られた男子武偵の首筋にタラリと血が伝うこととなった。

 

 

「ひへぁ!?」

「お前に色々と聞きたいことができたから、とりあえず今の状況をお兄さんに洗いざらい話してくれ。痛い思いをしたくなかったら、な」

「わかった! わかった、話す! だから刀をどけてくれぇ! ……いや、ホントどけてくださいお願いしますぅぅうううううううう!!」

 

 宮本は無駄に低くした声と威圧感に満ち満ちた眼差しで男子武偵を脅しにかかる。その結実として、アリアと宮本は男子武偵から今の寮取り合戦の状況を知ることになるのだった。でもって。後にアリアは如実に語る。この時、男子武偵からなるべく情報を引き出すために全力で脅しにかかった時の宮本は実に『イイ』笑顔をしていたと。

 

 




アリア→体力的に凄まじく不利な状態ながらも宮本の猛攻を凌ぎきってみせたメインヒロイン。何だかんだで強襲科Sランクなだけのことはある。
神崎千秋→実は実家がちょっとしたお金持ちだった一般人代表。自らがロボットに撃破されるリスクを上げようとも既に気絶してしまった執事を見捨てない、善人の鏡である。

■『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラ
⑪葉月→読者のアイディアから参戦したキャラ。諜報科Aランク、2年・男。一人称は『(わたくし)』。タキシード風にアレンジした武偵制服や187センチもの細身な体躯、銀髪黒目などが特徴的。実はちょっとした金持ちな神崎家の執事として、千秋の世話や身辺警護の任務を担っている。口調は終始丁寧語。何気に千秋パパよりも千秋を信仰している。ちなみに。神崎家の執事やメイドは就職を機に本名でなく、月にちなんだ命名を受け、新たに名付けられた名前での活動を強制されるため、『葉月』という名前は偽名である。

⑫アキ→読者のアイディアから参戦したキャラ。強襲科Bランク、2年・男。一人称は『俺』、目上の人には『自分』。信用できない、または嫌いなヤツは相手だとタメ口になる。肩にかかる程度に伸ばしたボサボサな栗色の髪に、榛色をした瞳が特徴的。身長約155センチ、体重約37キロゆえに、初対面の人から中々高校生だと思ってくれない。小中学生だと勘違いされてしまう。本人はそんな体格を気にしており、見た目でバカにした奴には誰だろうとドロップキックをお見舞いする。この時、相手が男だと金的も追加でプレゼント。体力がかなり少ないために超短期決戦型を好み、精々15分が限界である。大型二輪免許を取得済みであり、トリシティが愛車。武器はP90x2と小太刀二本による二刀流。カナほどではないが、女装向きの見た目をしている。

⑦宮本リン→読者のアイディアから参戦したキャラ。強襲科Eランク、3年・男。艶のある黒髪をオールバックにしている。アリアとの戦いを経て、アリアの在り方を垣間見たために、ただいまアリアへ対する好感度が大幅上昇中である。

■その他のオリキャラ(モブ)たち
○テキトーな名前のオリキャラ作ったったシリーズ
桜桜(おうはる)(さくら)
草波(くさは)エル→草wwww生えるwwwwwwwwww
寺和(てらわ)呂守(ろす)→テラwwwwwワロスwwwwwwwwww
天天(かみそら)(たかし)
終終(すえつき)(おわり)
寺和(てらわ)呂守(ろす)の後輩の武偵→宮本のことがトラウマになった模様。

※皇帝ペンギン型ロボット
・寮取り合戦で撃破ポイントを稼ごうと大量に鳥人型ロボットを投入した平賀へのカウンター措置として武藤が投入したロボット。こちらも鳥人型ロボットと同様に、その数は軽く3ケタを超えており、内蔵されているセンサーで鳥人型ロボットを見つけ出すと、手当たり次第に鳥人型ロボットを撃破しようとする。「ペェェエエエングィィイイイイイイイイイイン!」としか鳴かないのが少しだけ物足りない気がしないでもない。ちなみに、たまに皇帝ペンギン型ロボットに紛れてイレギュラーとしてプリニー型ロボットが混じっている。

 というわけで、EX7は終了です。『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラが輝いていらっしゃる、そんな回だったかと。それにしても、今更ながら、読者キャラに勝手に追加設定を施していることが不安になってきた件について。容姿とか突拍子もない裏設定とか私の都合の良いように追加している所があるのですが……う~む、大丈夫なのかなぁ?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。