どうも、ふぁもにかです。今回も前回に続き、特にこれといった動きがない話となります。伏線張りの話ともいいますね。そろそろ本格的に事態を動かしてみたいんですが、もう少しだけお預けとなりそうです。やれやれですなぁ。
――12:45
「ハァ、ハァ……ようやく、終わりましたか」
路地裏にて。己の武器をしまったアリアは荒い呼吸を繰り返しながら、雲一つない晴天の青空を見上げて一つ呟く。そのアリアの背後には、滝本発展屋の回し者である武偵たちの気絶体の山が築かれていた。アリアと回し者たちとの4時間以上にも渡る死闘の結果であるこの山こそ、『死屍累々』と表現するにふさわしいと言えるだろう。
(一時、滝本発展屋サイドの増援が追加オーダーされ、大挙で押し寄せてきた時はどうしたものかと思いましたが、気持ちでさえ負けなければ案外どうとでもなるものですね。これだけ刈って撃破ポイントを稼げた以上、キンジが早々と退場してしまった穴もさすがに埋められたでしょうが……まだ安心するには早い。何が起こるかまるでわからない以上、よりよい寮を確保するために次の撃破対象を捜さないと――)
幾度となく深呼吸を重ねて息を整えると、アリアは己の今後の行動方針を考えつつ、今現在気絶中の武偵たちの服を手当たり次第に漁っていく。ここまでの戦いで銃弾を切らしてしまったがために、己の白黒ガバメントで使える銃弾を補充しようとしているのだ。
かくして。ある程度の数の銃弾をアリアが他の武偵から拝借できた頃。アリアの前方に人影が見えた。それはおよそ高校生とは思えないほどに大人びた武偵だった。艶のある黒髪をオールバックにし、刀――
「お、誰かと思えば神崎・H・アリアか。てことは撃破すれば30ポイント、大物だな」
テクテクとアリアの元へと正面から近づいてきた男子武偵は気安い口調で、アリアにも聞こえる程度の声量で呟きを漏らす。背後の武偵の屍(※死んでません)の山が視界に入っているだろうに、それでも当然のように平常心を保っている男子武偵がアリアを標的に定めてきたことに対し、アリアはわずかながら内心での男子武偵への警戒メーターを上昇させた。
「……貴方はどちら様ですか? あと、失礼を承知で聞きますが、貴方のランクを教えてください」
「ん、ランクもか? まぁ減るもんじゃねぇから別にいいけど。俺は宮本リン。強襲科3年、Eランクだ」
「宮本さんですね。貴方はもう知っているみたいですが……私は神崎・H・アリア。強襲科2年、Sランクです。それにしても、Eランクですか……」
「何だよ。ランクが低い奴が相手だと何か都合の悪いことでもあるのか?」
「はい。今回、私たちのチームはSランク2名とAランク1名という非常に恵まれた内訳なので、なるべくCランク以下の武偵は倒さないことにしているんです。天下のSランク武偵が格下刈りなんてしてしまっては風評に関わりますからね」
「……なるほど。じゃあお前は俺と戦う気はないわけだ」
「そうなりますね。ここは特別に見逃しますので、私じゃない別の武偵に挑戦することをオススメします。Eランク武偵に倒されるほど、Sランク武偵は甘くはありません。それは貴方もわかっているでしょう?」
アリアは諭すように宮本に語りかけたのを最後に、宮本に背を向けてこの場から立ち去ろうとする。アリアの発言は、当の本人からすれば宮本から何歩も先を行く武偵として、宮本に親切心からのアドバイスをしたつもりだった。
が、アリアは知らなかった。たった今、自分が目の前にしているのが、ランクとまるで釣り合わないほどの強者であることを。宮本リンは東京武偵高における数少ない『ランク詐欺勢』であることを。Eランクとなっているのは先祖に宮本武蔵を持つ本家が二刀流を苦手とする宮本に対して全力で嫌がらせをしているからであり、実際の所、彼のことは修羅道の住人として高校中で知れていることを。そう、東京武偵高にやって来てから精々数カ月程度しか経っていないがために、当時のアリアの脳裏の大半は無実の罪で捕まっている最中である母親の件で埋まっていたがために、アリアは宮本リンの事情など知らなかったのだ。
「確かになぁ。俺は所詮凡人だからお前の申し出はありがたいさ。だけど、せっかくのイベントなんだ。例え無謀だとしても、挑戦する権利ぐらい与えさせてくれよ、な!」
宮本は剣を真横に振るって鞘を雑に取っ払うと、刀による刺突をアリアにしかける。その音速を軽く超える斬撃に対し、アリアはとっさに取り出した小太刀を横合いからぶつけることで、どうにか自身の腹部に突きの一撃が入ることを防いだ。
「マジか、今のを余裕で防げるのか。なるほど、さすがはSランク武偵。俺のような凡人にゃまだまだ遠い世界みたいだな。精進あるのみってか」
「……」
(今の剣筋、見えなかった……!)
宮本が素直にアリアの技量を称賛する一方、アリアは表向きは平然としつつも内心では冷や汗をかいていた。なぜなら。先の宮本の攻撃が全く見えなかったからだ。それでもアリアが初見で宮本の刺突に対応できたのは、偏にアリアの優れた直感が的確に働いた結果である。
(相手を侮っていたようですね。この人はおそらく私よりも強い……)
「だが、例え武の極みが遠かろうと関係ないな。俺は強くなる。凡人な成長ベースしか期待できなかろうと、どんな障害をも跳ね除ける強さって奴を手に入れるんだ。だから、神崎・H・アリア。俺の挑戦に応じてくれないか?」
「今、貴方とは戦いたくないんですけどね。正直、疲れてますし」
「ま、そうだろうな。後ろの人の山を見ればわかる。けど、あいにく、俺はせっかくの強者と戦えるチャンスを無駄にする気はないんでな」
「……なら、仕方ないですね。その挑戦、受けて立ちましょう」
宮本はアリアからの休戦の申し出を断ると、改めて刀を正眼に構える。いつ戦闘に入っても対処できる状態に移行した宮本を前に、アリアは宮本との戦闘回避は不可能と判断し、両手に白黒ガバメントを装備して攻撃に備える。
「悪いけど、手は抜かねぇぞ。別にいいだろ、俺はたかがEランク武偵なんだ。それに武偵なんて、体調が万全な時だけ敵と遭遇する、なんて都合のいい立場なわけじゃないからな」
「その辺の心配は無用ですよ。私は世界最強の武偵のパートナーになる女ですから。どこからでもかかってきてください」
「よっしゃ、それじゃあ遠慮なく――行かせてもらうぜ!」
(相手は強い。だけど、キンジが撃破済みな今、私まで倒れ、理子さんを独りにするわけにはいきません。全力で返り討ちにして見せます!)
宮本はグググッと右膝を曲げ、力を込めた右足を起点に、コンクリートな地面に軽くヒビを入れるレベルに力強い踏み込みとともにアリアへと一直線に向かっていく。まるで弾道ミサイルのごとき速さで迫りくる宮本に対し、アリアは負けられない思いを胸にガバメントを発砲するのだった。
◇◇◇
――12:50
屋内プールにて。女子武偵3名がプールに入った状態で水中バトルを繰り広げている中。戦闘音を聞きつけてやってきたジャンヌは、びしょ濡れの制服をそのままに、銃弾を使い果たしてしまったのか、そのまま
【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が救護科Bランク:
【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が救護科Cランク:
【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が救護科Aランク:
(全力でキャットファイトをやってるから強襲科の生徒だと思ってたのだが、3人とも救護科だったのか!? こ、これは結構衝撃的だな)
女子武偵を冷凍保存する形で気絶させ、撃破ポイントを手にしたジャンヌは自身の取り巻きの後輩女子武偵が見せてくれた、撃破情報通達が記された携帯画面を見て、内心で驚愕する。と、ここで。いつから救護科は荒くれ者の集まりになったのかと考えているジャンヌに対し、前方から声が掛けられた。
「こんなどうでもいい所で大技を使うとか……随分とこのイベントを満喫してるみたいだな」
ジャンヌが声の聞こえた方へと視線を移すと、プールサイドのデッキチェアに腰かけてる一人の少年がいた。中学生を思わせる程度の小柄な体型をしたこの少年(※19歳だけどサバを読んでいる)は灰塚礫。イ・ウーのメンバーであり、直接的な戦闘能力こそ乏しいものの、自身の望む展開を導くための、情報を集めまくった上での裏工作については神がかったものがあるために『脚本家の鼠』と称されている、要するに喰えない存在である。
「誰かと思えば『脚本家の鼠』か。ここへ転校してくるとは聞いていたが、もう手続きは終わらせたんだな」
「あぁ。ちゃんと校長とも話をつけて、昨日から晴れて東京武偵高の生徒になったんだ」
「……なるほど、それは災難だな」
「それな。寮入りした次の日に寮取り合戦とか、これ完全にイ・ウー最弱と名高い俺に対する嫌がらせだよな。繊細で軟弱で貧弱な俺の心を全力で叩き折りに来てるよな、これ」
「ハッ、貴様がイ・ウー最弱か。相変わらずぬかしおるわ」
「んー、俺はただ本当のことを言ってるだけなんだがなぁ。てか実力云々を差し置いても、俺ってまだ全然ルームメイトと仲良くなってないし、あっちだってまだ俺の名前すら覚えてないだろうってタイミングで寮ごとにチームを組んで戦えってのがそもそも無理難題なんだよな。その点、お前が羨ましいよ。
「いやいやいや! 間違えてないぞ、脚本家の鼠! 我の真名は
ジャンヌは取り巻きの後輩女子武偵たちにその場に留まるようにと指示を下すと、灰塚へと近づき、互いに言葉を交わす。双方ともに気兼ねなく軽めの口調で言葉のキャッチボールをしていることから、二人が気の置けない間柄だということが推察できる。
が、ここで。灰塚は表情を若干ながら引き締め、現状の和やかな雰囲気を減殺しにかかる。ほんのわずかながら真剣な眼差しでジャンヌのオッドアイな瞳を見つめる。
「なぁ、ジャンヌ。一つ、聞きたいことがあるんだ。もしかしたら興が削がれるようなことを聞くかもしれないが、許してくれ」
「ふむ。我は構わないが?」
「……なんで、『鬼』退治をした?」
「ほう、知っていたか。さすがだな。表向きには『鬼』はまだ監禁中だったはずだが?」
「国が長野のレベル5拘置所の失態を隠そうと咄嗟についた下手くそなウソに騙される俺じゃねぇよ。てか、話を逸らすなよ。なんで『鬼』退治をしたんだ?」
「……その口ぶりから察するに、我の『鬼』退治は想定していなかったか。まぁそれも不思議ではないな。あれは単なる衝動に駆られての突発的な行動だ、理由などない。ゆえに、完全に人の感情までも読み取った上で揺るぐことのない脚本――あるいは、運命――を作れない貴様が、我の『鬼』退治を脚本に組み込めなかったのも当然のことだ」
「いや、お前ならいずれ『鬼』退治をするだろうとは思ってた。けど、タイミングがあまりに想定外すぎたってだけだ」
「……『鬼』退治をした我が憎いか?」
「んにゃ。非常に使いやすい駒が減っちまったなって思っただけさ。だから、お前に恨み節をつらつらと述べるつもりはないし、仇討ちする気もねぇよ」
「そうか……」
ジャンヌの背後の取り巻きの後輩女子武偵たちが各々『鬼』というワードに首を傾げる中。灰塚はいかにも『鬼』、もといブラドのことなどどうでもいいと言わんばかりに手をヒラヒラと振りつつ言葉を紡ぐ。
確かに、灰塚はブラドと仲が良かったわけではない。お互いがお互いを存分に利用するだけのドライな間柄、それが二人の関係だった。ブラドが自分の都合に付き合わせるために灰塚に破格の条件を突きつけて。灰塚がブラドを雑に利用するためにブラドが喰いつく褒美を提供して。そのような形で灰塚とブラドはよく行動を共にしていた。だからこそ。今の灰塚の言葉を額面通り受け取ってはいけない。ジャンヌは心の奥底にそう刻み込んだ。
「てか、ヒルダはどうするんだ? あいつ、割と『鬼』さん大好きっ子だったろ? お前が『鬼』退治の立役者だって知ったら絶対激おこぷんぷん丸だぞ」
「知るか、その時のことはその時考える。ま、事と次第によっては雌雄を決する必要が出てくるだろうがな」
「俺的には、二人が殺し合うような展開は嫌なんだがな。せっかくの百合の素質にあふれた人材を亡くすというのは非常に惜しい」
「……そういえば、貴様は同性愛を傍からニマニマ観賞するのが趣味だったな」
「たわけ。勘違いを招くような言い方はやめてくれ。俺は百合しか認めない。というか、ついさっき『百合の花を育て上げる会』のメンバーになった人間が薔薇を育て上げてどうするってんだ。組織に対する不義行為で粛清不可避になっちまうじゃねぇか」
「『百合の花を育て上げる会』……あぁ、『魔宮の蠍』が会長をやってる小規模闇組織か」
「そそ。てなわけだから、お前の『鬼』退治のこと、くれぐれもヒルダにはバラすなよ。白雪×ジャンヌは確かにお似合いだが、俺的にはジャンヌ×ヒルダも結構アリだと思ってるんだからな」
「ならば、精々我とヒルダとの殺し合いが発生しないような脚本作りに励むことだな。もっとも、貴様がどれだけ頑張ろうと、我はユッキーお姉さま一筋だがな」
「ったく、簡単に言いやがって。俺がどんだけ苦労すると思ってんだ……」
ジャンヌから軽く無茶ぶりされたためにげんなりとした表情を浮かべる灰原。だが、嫌そうな顔をしつつも、灰原はジャンヌとヒルダ――ブラドの娘――が衝突するような展開が発生しないように全力を尽くすだろう。灰原は趣味の百合鑑賞のためならいくらでも心血を注げるタイプの男なのである。
「……あらかじめ言っておくぞ、脚本家の鼠。貴様が今後どのような筋書きを作り、世界を誘導するのかは知らない。我の知ったことではない。だが、覚えておけ。もしも貴様が我が盟友、リコリーヌ・ヴィ・ガルランディア・ロゴス・ゼルベスドール・ウィルフィン・アークスウィッドを傷つけるようなシナリオを構築しようものなら、我の聖剣:デュナミス・ライド・アフェンボロス・クライダ・ヴォルテールが牙を剥くことになるぞ」
「おぉ、怖い怖い。最近ジャンヌって魔改造ブーストかかってる気がするから敵対はゴメンなんだよなぁ、正直。俺はまだ長生きしてたいし、『鬼』退治の二の舞はお断りだしの2点セットでここは素直に忠告に従っておくさ」
「賢明な判断だな」
ジャンヌが己が左手に持つデュランダルを右手で少しだけ引き抜き、鞘から少しだけ刀身を見せるようにして灰塚に釘を刺す。一方の灰塚は「怖い怖い」と言いながらも泰然とした雰囲気のまま、ジャンヌの忠告を受け入れ、「じゃあな、ジャンヌ。寮取り合戦、頑張れよ」とその場を去ろうとした。が、ここで。ジャンヌは「ん、何だ。もう行くのか?」と灰塚を引き止めにかかった。
「え、行くけど……どうした? まだ話したりないことでもあったか?」
「いや、せっかくこうして会ったんだ。ならばお互い、より良い寮を手に入れるために戦わ――」
「――パス。俺はあくまで脚本家だからな。裏方は裏方らしく、誰にも襲われない場所にでも避難して生存ポイントを稼ぎつつ、このイベントの今後の展開を存分に推測しておくとするさ」
「あ、おい……」
ジャンヌがデュランダルをチラつかせつつ、灰塚に勝負の申請をしようと言葉を紡ぐや否や、灰塚はジャンヌとの戦闘を回避するために口早に理由を告げ、そそくさとその場を後にする。この時。灰塚の動きはジャンヌが引き留める暇すら与えない、実に流麗なものだったとか。
「やれやれ、掴みどころのない奴が武偵高入りしてしまったな。だが――クククッ、ますます楽しい日々になりそうだ……ッ!」
灰塚に置いてけぼりにされたジャンヌは、一旦ため息をつくも、すぐにその華奢な両肩を震わせて愉快だと笑う。ちなみに、ジャンヌと灰塚は知らない。今の二人のやり取りの一部始終をジャンヌの背中越しに観測することとなった、ジャンヌを信仰するテニス部後輩女子武偵たちが、ジャンヌと親しげに話す異性たる灰塚をちゃっかり排除対象に組み込んだことを。
◇◇◇
――12:55
車輌科のドックにて。二人の男と一人の女がいた。その内の男の一人たる武藤剛気は先輩武偵である市橋晃平にとあることについて教えていた。その武藤の的確な指導内容を市橋が学び、そんな武藤と市橋の様子を一人の女が見守る。そのような構図が車輌科のドックにて形成されていた。
「えーと、コントロールスティックは移動のコマンドで、左右に横に小さく倒すと、微速歩行。左右に普通に倒すと、中速歩行。左右に大きく倒すと高速歩行。左右に素早く倒すとダッシュだな。で、上に素早く倒すとジャンプ、もう一回上に倒すと空中ジャンプ。下に倒すとしゃがんで、下に素早く倒すと床すり抜け、空中で下に素早く倒すと急降下か。続いて、Aは攻撃、Bは必殺攻撃、XとYもジャンプ、LとRはシールド、Zは投げ技、十字キーはアピール、スタートボタンは一時停止。で、Bの必殺攻撃はコントロールスティックとリンクしていて、↑B、↓B、→B、←Bで計4種類の必殺技が登録されている……で、合っておるか?」
「……完璧。さすがは先輩……」
武藤からとあること、もといドックに今現在収容されている巨大ロボットの操作方法を軽く教授してもらった市橋は自分がきちんと操作方法を覚えているかどうかを武藤に確認してもらうため、操作方法を口頭でつらつらと述べていく。結果として、たった1回だけの武藤の説明で市橋は間違うことなく完全に操作方法を覚えきっていたために、武藤は素直に称賛の言葉を送る。
「さっすがコウさん! カッコいいですよ♡」
と、ここで。その場に居合わせ状況を見守っていた女が武藤に続けて市橋に褒め言葉をぶつけていく。この市橋を『コウさん』との愛称で呼ぶこの淡い水色の髪を緩めのポニーテールで結んだこの少女は、実は東京武偵高の生徒ではない。というか、そもそも人間ではない。彼女の正体は市橋が武器として愛用するベレッタM92Fであり、それがある日突然付喪神化した結果、今日のようにたまに擬人化して出てくるのだ。ちなみに。付喪神化した理由は、擬人化した当人であるベレッタM92Fでさえもわかっていない。
「褒められて悪い気はせんが、褒めてもわしは何も出せんぞ?」
「……出さなくていい。あと、必殺技はそれぞれ『B↑:ギア2』『B↓:神気合一』『B←:超死ぬ気モード』『B→:妊娠できない体にしちゃうキック』を登録してる……」
「……非常にツッコミ所と使い所に困る技ばっかりなんだが、わしは一体どんな反応をすればいいんじゃあ?」
「……褒めても何も出せないけど……?」
「出さなくていい。パンドラの箱を渡されても困るしのぅ」
武藤が巨大ロボットに登録されている4種の必殺技の内訳を語り、ベレッタが『妊娠できない体にしちゃうキック』という強烈なインパクトを誇る技名に「ひぃぃ!?」とついついお腹を押さえてブルリと悪寒に体を震わせる中、市橋はフルフルと頭を左右に軽く振り、武藤が巨大ロボットに組み込んだ規格外極まりない必殺技陣の原理解明に走ろうとする思考回路を強制終了させる。結局なにも理解できないまま脳がショートする未来が透けて見えたからだ。
「にしても、これは結構操作が多いのぉ。操作方法を覚えたはいいが、実戦で上手く扱えるかはわからんぞ?」
「……大丈夫。先輩、要領いいから。……それに、ベレッタを使いこなすのと比べれば難易度は低い……」
「なるほど、わしの嫁より操縦が簡単ならいけそうだ」
「よ、嫁だなんて、そんな、まだ心の準備もできてないのに、あ、でもコウさんが準備万端なら私いつでも……♡」
市橋の物言いを前に、武藤は我に返る。そういえば、この市橋先輩は自分の武器のことを『嫁』と豪語する性癖があるんだったと。ちなみに、武藤は気づいていない。今この場にいるベレッタが、そのまま市橋の武器であることを。
また、この時。武藤はベレッタが頬を真っ赤に染めて体をくねらせる様子を意識的に視界から外した。そうしないと、市橋に対する『リア充爆発しろ』願望がムクムクと沸き上がり、どのような形で暴走するかわかったものではなかったからだ。
「……それに、シミュレーターも用意済み。スコアアタックもあるから、楽しみながら操作方法を学べる……」
「お、準備いいな。さすがは武藤」
「コウさん! カンストさせましょう! 初見でスコアをカンストさせて伝説を作りましょう! 私のコウさんならできますよ♡」
武藤があらかじめドックの片隅に設置していたシミュレーターを指差すと、巨大ロボットを操作する本人たる市橋以上にベレッタがシミュレーターに対しての強い意気込みを見せる。その後、市橋はベレッタに腕を掴まれ無理やり引っ張られる形でシミュレーター画面前の操縦席に着席させられることとなった。
「とはいえ、まさか巨大ロボットの操作っつう大役を任されるとは……最悪の事態が起こらなければ消滅する大仕事ではあるが、荷が重いぞ」
「……大丈夫。先輩なら……」
「……ま、そこまで後輩に信頼されてるなら、一介の先輩として、応えないわけにはいかないなぁ。で、武藤はこれからどうするんだ?」
「……今は、待機。今の不穏な雰囲気の情勢を見極めつつ、いつ何が起こっても良いように、さらなる対抗措置を用意する。後は、よろしく……」
「おう。任せておけ」
(武藤には一体、どんな未来が見えてるんだか。俺には寮取り合戦がつつがなく進行しているようにしか感じられないんだが、やっぱり天才の考えてることは、わしにゃあわからんわ……)
操縦席に座ったまま胸を軽くグーで叩く市橋に、武藤はコクンと一度首を縦に振ると、クルリと市橋に背を向けてドックから去っていく。その去りゆく武藤の背中を目線だけで見送りつつ、市橋は心中で今の正直な気持ちを吐き出した。
「レッタ。わしは今からこのシミュレーターであの巨大ロボットの操作を本格的にマスターする。レッタはその間、
「え、でも、私じゃ無理だと思いますよ。だって、私ってリーダーシップとかないし――」
「――レッタにしか頼めないんだ。頼む」
「コウさんがそう言うなら、仕方ないですね! ええ、仕方ないですとも!」
市橋から『組織』のことをお願いされたベレッタは当初難色を示す。しかし。『レッタ』という、この場に市橋とベレッタしかいない状況下でしか市橋が口にしない愛称で呼ばれたベレッタは手のひらにドリルでもついているのではないかと疑いたくなるレベルの手のひら返しで市橋の頼みを快諾する。そして。「ふふふ! 一肌脱いでしんぜよう、そうしましょう! そしてコウさんに……えへへ♡」と顔を蕩けさせつつ、ベレッタもまたドックを後にした。
「はてさて。今日のイベントに乗じて、わしたちの『擬人化した得物について語ろうの会』はどれだけ覇権を握れるものかのぅ?」
市橋しかいなくなったドックにて。市橋は天井を見上げながらポツリと呟きを漏らす。それから。市橋は「よしッ!」と気合の一声を入れ、シミュレーターに挑むのだった。もちろん、目標はスコアアタックにおけるスコアカンストである。
アリア→滝本発展屋の回し者な武偵たちをもれなく全員撃破したメインヒロイン。疲労メーターが結構たまっている状態で次なる強敵とエンカウントしてしまう辺り、割と不幸を背負っているような気がしないでもない。
ジャンヌ→『脚本家の鼠』たる灰塚とある程度は親しい厨二少女。灰塚を高く評価し、機会があれば戦いたいと思っているが、当の灰塚にのらりくらりと逃げられるために未だに灰塚との戦闘は実現していない模様。
武藤→何やら巨大ロボットを作り上げていたらしい、止まる所を知らない技術チート。市橋を先輩としてある程度は敬意を払っているが、特に口調が丁寧語になったりはしない。ちなみに。巨大ロボットの操作方法は、操縦者が短期間でマスターできるようにスマブラDX式を採用している。ゆえに、巨大ロボットのコントローラーはゲームキューブの奴。
■『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラ
⑦宮本リン→読者のアイディアから参戦したキャラ。強襲科Eランク、3年・男。艶のある黒髪をオールバックにしている。先祖に宮本武蔵を持つが、二刀流を苦手とするために本家からはいないものとして扱われ、散々嫌がらせを受けている。その一環としてEランクという不当な評価や、ちゃんと依頼をやったのに単位を認められないケースが割とあったことを起因とする留年の被害に遭っている。ゆえに、今現在20歳。だが、本人は厳しい環境にもめげずに努力を続け、今や中々に化け物染みた実力を身につけている。
⑧灰塚礫→読者のアイディアから参戦したキャラ。諜報科Eランク、2年・男。実年齢は19歳。平常時の一人称は「俺」、テンションが廃な時は「僕」になる。戦闘力は一般人より低く、そこいらのチンピラにも負けるレベル(※本人曰く)、ただし逃足スキルは理子にわずかに劣る程度の高スペック。『快楽的破滅主義』と『無関心』の二面性を持っており、テンション高いときは狂気的に、低いときは適当に行動する。自ら事件を起こして黒幕を気取る、迷惑野郎である。この度、百合好きを結集した組織『百合の花を育て上げる会』に加入した。もし、もっと灰塚礫の暴れっぷりが見たいのならハーメルン内で連載されている『緋弾のアリア《鼠の書く舞台》』を見てみよう!
⑨市橋晃平→読者のアイディアから参戦したキャラ。装備科Bランク、3年・男。身長は170センチ程度、体重は60キロくらいのちょいとぽっちゃりに片足突っ込んでる感じがしないでもない感じな系。若白髪の目立つ黒い短髪が特徴的。一人称は『わし』。元々プラモ作りが趣味で、あれこれ巡り巡って銃と出会ってガンスミス志望で武偵高に入学した経緯を持つ。少々人見知りで軽度のコミュ症患者だが、あくまで軽度なので生活に支障はない。銃の組み立て分解や軽い改造、そして後輩とのお話を楽しみつつ武偵高ライフを謳歌している。また、闇組織『擬人化した得物について語ろうの会』の会長代理の立場を担っている。
⑨ベレッタM92F→市橋晃平の武器。殆どカタログスペック通りで特殊なギミックは無いが、なぜか付喪神化しているため、たまに擬人化(※女体化)して出てくる。でもって、市橋への好感度はカンストしており、常時デレデレである。愛称は『レッタ』。
※『擬人化した得物について語ろうの会』とは
いわゆるその筋の人間が集ったオタサー的なもの。ただし、全員が全員自分の得物を「俺の嫁」と呼ぶ末期患者。要するに「こいつらヤベェ。早く精神科にぶっこまないと」な集団である。なお、極々小さい規模の集団なので、その存在を知っているものは校内に殆ど居ない。ちなみに、市橋は会長代理を務めている(※会長は長期任務でイギリスにいるらしい)。
■その他のオリキャラ(モブ)たち
○テキトーな名前のオリキャラ作ったったシリーズ
というわけで、EX5は終了です。今回も割とたくさん『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラが登場しましたが……3名中2名が普通の高校生の年齢じゃないという、ね。何だか年齢詐称って括りで宮本さんと灰塚さんが仲良くなれそうな予感がします。尤も、宮本さんは別に意図的に年齢偽ってるわけじゃないですけど。
そして。今回、地味に他作品とコラボしてました。お相手は百合展開をこよなく愛することに定評のあるらしい『通りすがりの床屋』さんの『緋弾のアリア《鼠の書く舞台》』で、灰塚礫さんが主人公を努める小説です。いやはや、他の作者と関わりを持てるコラボっていいものですなぁ。