神崎千秋「俺の出番は特になくていいからそこの所よろしくな、ふぁもにか! だって、寮取り合戦に探偵科Dランクの奴が登場しても即刻撃破される未来しか見えないしな!」
武藤「……それは無理な要望かと……。『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』に君と関わりのあるキャラがエントリーしてるし……」
千秋「何、だと!? Σ(`・ω´・;)」
どうも、ふぁもにかです。今回は全体的にあまり動きのない回になります。原作キャラにモブ武偵に『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラと、色んなキャラを出すとなるとそれだけで文字数を喰っちゃいますからね、仕方ないですね。
――12:05
「……」
レキとビスマルクのコンビが平賀文の繰り出した睡眠ガス散布により静かに撃破された頃。公園の草陰に身を潜めていた神崎千秋はただいま絶望の最中にあった。というか、この寮取り合戦というイベント自体に千秋は全力で絶望していた。
どう考えても、強襲科や個人で戦闘技術の研鑽を重ねている高ランク武偵が有利極まりないルール。DランクやEランクの人間が、概してただ高ランク武偵に狩られる瞬間に怯えながらただひたすら身を潜めるしかポイントを稼げないルール。しかも、特段の事情がない限りイベント参加が強制されるというルール。所詮、一般人な実力しか持たない(本人談)千秋が沈鬱な感情を抱くのも無理はなかった。
加えて。千秋には現状にどうしようもない絶望を感じる個人的な理由があった。それは、千秋の専攻とランクである。千秋は探偵科Dランク武偵。『上を見れば天井は見えないが、下を見れば底が見える』といった感じの、とても強いとは言えないランクである。しかし、千秋の他のルームメイトは救護科Eランク、通信科Dランク、超能力捜査研究科Dランクだった。
そのため。千秋以外の3人による満場一致で、千秋と超能力捜査研究科Dランク武偵が出撃組に、救護科Eランクと通信科Dランク武偵が潜伏組に割り振られる形となったのだ。つまり、千秋は出撃組として他の武偵を撃破し、ポイント稼ぎをしないといけない立場に否応なしになってしまったのだ。所詮Dランク程度の実力しかないというのに。
(今までずっとここに隠れてやり過ごしてきたけど、いい加減少しでも撃破ポイント稼いでおかないと戦犯扱いだ。どうする、俺……)
ゆえに、千秋の脳内は絶望の闇に塗りつぶされていた。千秋はそもそも、武偵を辞めるつもりだった。だからこそ。ここの所は訓練もサボりまくり、ロクに戦闘能力を磨いていない。そんな奴がまともに戦った所で勝てるわけがないと、千秋はルームメイトの超能力捜査研究科Dランク武偵を巻き込んで、出撃組なのに潜伏組として今まで隠れ続けていた。
だが、ここで。イベント終了後にルームメイトから白い目で見られたくないとの思いが顔を覗かせてきたがために、千秋の心は揺れる。このまま出撃組の役目を放棄して隠れ続けるか、例え返り討ちに遭うのだとしても最低限出撃組の役目を果たすために戦うか。2つの選択肢を前に、千秋は揺れて、ブレて、そして千秋はルームメイトの超能力捜査研究科Dランク武偵の意見を参考にすることにした。
「なぁ、小早川。俺はどうするべきだと思う?」
千秋は問いを投げかける。これまで千秋の方針に従って出撃組のくせに一緒に潜伏することを認めてくれたルームメイトこと小早川透過に問いかける。小早川透過。武偵にしては荒々しくなく、事なかれ主義を掲げている存在である。その傍観者な性質を持つ小早川のことを千秋は同類と判断し、気に入っていた。心の中で勝手に親友と位置づけていた。
ゆえに、千秋は判断を仰ぐ。己と似たような感性を持つ小早川ならどう判断してくれるかを確かめてみる。しかし、千秋の問いかけに、小早川は一切反応しなかった。あまりに無反応なことが気になった千秋が「あれ、小早川?」と背後を振り向くと、ついさっきまで後ろにいたはずの小早川の姿が忽然と消失していた。
(は、あいついねぇ!? いつの間に!? いくら空気薄いからってそりゃないだろ!?)
千秋は小早川がいたはずの場所をギョッと見つめて内心で驚愕の念を顕わにする。実の所、小早川透過には相手から己の存在を認識されにくくする、自称『見えざる変態』という能力を持っている。どうやら、小早川はいつの間にやら千秋から離れ、独自に行動するという選択肢を選んでいたようだ。この時、千秋は幻覚を見た。小早川が『お前なら一人で撃破ポイントを稼げるさ。ガンバッ』と二カッと歯を見せて笑いながら親指を突き立てる姿を幻視した。
「くそッ、あの本体メガネ野郎、なんでこのタイミングで姿消してんだよ!? どうするんだよ、これ!? 俺一人じゃ早々武偵を倒せるわけないだろ!? Eランクの奴だって正直怪しいぞ!? がぁぁあああああ! 何がどうしてこうなったぁぁあああああ!?」
千秋は絶望の雄たけびを上げる。自身が隠れていることなど忘れて、頭を抱えて絶叫する。千秋の前途多難さが伺える、正午過ぎの一幕であった。
◇◇◇
――12:15
「――遅い。速さが足りないでござるよ」
「ニラッ!?」
「レバッ!?」
「イタメェッ!?」
とある路上にて。風魔陽菜は快進撃を繰り広げていた。長く伸ばした艶のある黒髪ポニーテールに籠手が特徴的な忍者スタイルの陽菜は長いマフラーみたいな赤布をなびかせて、手に持つ刀で目に映る武偵たちの意識を一撃で刈り取っていく。その俊敏な動きはまさに闇討ちに特化した暗殺者のようだ。
「にゃっはぁぁあああああああ! テメェらの血は何色だぁぁああああああああ――ッ!」
「アカァッ!?」
「ホワイトッ!?」
「ピンクッ!?」
しかし、先陣を切って凄まじい活躍っぷりを見せているのは、陽菜だけではない。陽菜のルームメイトであり、陽菜と同じく出撃組の役割を担った少女こと金建ななめも、ハイテンションな勢いのままにテキトーなセリフを叫びながら、陽菜に負けじと戦績を重ねていく。肩に届くか届かないかといった長さの金髪ストレートを伴い、武偵高の備品たるスコップを縦横無尽に振り回し、敵対する武偵たちを次々と地に沈めていく。これで探偵科Cランク武偵なのだから、世の中はわからないものである。
ちなみに。今現在、金建が自分の得物を使わずにスコップを使用しているのは、1時間前に出会った強襲科Aランク武偵:
『がおー! 喰らえ、レオぽんパンチ! レオぽん真空とび膝蹴り!』
「な、何だあの着ぐるみ――ゲハァ!?」
「う、動きが俊敏過ぎて正直キモすぎ――たらばッ!?」
しかし。風魔陽菜よりも、金建ななめよりも異彩を放っている存在がある。それは、雪のように真っ白な全身に猫耳、そしてキリッとした漆黒の眼差しが特徴的なレオぽん――の着ぐるみに身を包んだ、謎の存在だった(※以下、レオぽんと記載する)。
レオぽんは陽菜と金建の隙をついて襲いかかってくる武偵に強力な拳や蹴りをぶつける形で武偵たちにダメージを与えると同時に足止めをする。あくまでトドメは陽菜と金建に任せて、レオぽんは襲いかかる武偵たちの意識を刈り取らない程度の絶妙な攻撃を絶え間なく繰り出していく。どうやらレオぽん自身にポイント獲得への欲求はないようだ。
忍者。謎の強さを誇る探偵科Cランク武偵。レオぽんの被り物を装備した謎の存在。この3名の奇妙なトリオは立ち塞がる武偵たちをいとも簡単になぎ倒していく。そうして。彼女たちは圧倒的な力をもって、着々と撃破ポイントを稼ぎ続けていた。
【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が鑑識科Bランク:
【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が諜報科Cランク:
【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が車輌科Aランク:
【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が特殊捜査研究科Bランク:
【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が救護科Aランク:
【探偵科Cランク:
【探偵科Cランク:金建ななめ(1年)が強襲科Cランク:
【探偵科Cランク:金建ななめ(1年)が探偵科Bランク:
【探偵科Cランク:金建ななめ(1年)が情報科Eランク:
【探偵科Cランク:金建ななめ(1年)が尋問科Dランク:
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「ふぅ。これでひとまず片付いたでござるな」
「うんうん。一気に敵が来てくれたから三國無双やってるみたいですっごく楽しかった!」
『おー、おいら達3人の連携も様になってきたな。この調子なら最多ポイント獲得もいけそうだ。おいらのおかげだな』
数に物を言わせて襲いかかってきた複数チームによる連合部隊をノーダメージで切り抜けてみせた3人はそれぞれの心に宿る充足感に晴れやかな笑みを浮かべる。尤も、レオぽんはあくまで着ぐるみなので、キリッとしたレオぽんの黒の双眸が中の人の感情に合わせて変化するようなことはないのだが。
「うむ。レオぽん殿が拙者たちの背後を守ってくれたからこそ、拙者たちはただ前だけを向いて戦えた。心より感謝するでござるよ」
「だーよねー。今回は間違いなくレオぽんがMVPだよ。レオぽん、ありがとねぇー♪ お礼にあたしがほっぺにチューしてあげよっか――って、レオぽん!? 何か返り血が凄いことになってるんだけど!? 何か口元を中心に返り血で赤黒くなってるんだけど!? まるで人肉をハグハグした直後みたいになってるんだけど!? 怖いよッ!? ホラーだよ!? こんなレオぽんにチューしたくないよ!?」
「……これは子供たちに愛されるレオぽんのキャラがぶち壊しでござるなぁ」
『そんなこと言われても仕方ないだろ? おいらの体は無駄に白いから汚れやすいし……そもそもおいら、着ぐるみで戦うなんて初めてなんだぞ? これぐらい許してほしいな』
血に汚れたレオぽんにドン引きし、ツツツッとある程度の距離を取る陽菜と金建の様子に傷ついたのか、レオぽんは心なしかしょんぼりとした声を漏らす。その寂しそうな声を受けた陽菜と金建は、見た目がレオぽんであることも相重なり、何だかレオぽんの中の人が非常に可哀そうな気がしたために、離していた距離を特別に詰めることとした。少女二人と着ぐるみとの美しき友情である。
『それにしても……この着ぐるみ、凄い性能だよな。おいら、本当に軽い力で殴ったり蹴ったりしてるだけなのに、相手は当たり前のように空中へ吹っ飛んでいくし、銃弾も刀剣も全然効かないしで本当に楽に戦えるぞ。しかも着ぐるみの中の気温調整でもされてるのか、これだけ派手に動いても全然暑さを感じないし……どうなってんだ、これ?』
「どうなっているかと聞かれても、そういう仕様だとしか言いようがないでござる。何せ、この着ぐるみは拙者が武藤殿に頼んで作ってもらった特注品にござるからな」
『なるほどなー。武藤くん印の代物ならこのオーバースペックも納得だな。でも、君って武藤くんと繋がりあったのかー? 関連性はないと思ってたから意外だぞ』
「武藤殿は拙者のもう一人の師匠にござる。ITスキルを身につけるために師事を仰いだ所、快く応じてくれ、さらには覚えの悪い拙者に対して根気よく教授してくれたお方にござる。以降、武藤殿とはIT関連の話に花を咲かせる関係にござるよ」
『おー、そうなのかー』
「ふぇー、そんな感じだったんだ」
武藤と陽菜。その意外な関係性を初めて知ったレオぽんと金建はそれぞれ手をポンと打って反応を示す。言動が意図せずシンクロする辺り、金建とレオぽんは割かし波長が合っているのかもしれない。と、ここで。レオぽんは背後を振り向く。撃破した武偵たちで死屍累々となっている路上方面を唐突に見やる。
『……』
「おろ? レオぽん、どったの?」
『いや、何か嫌な予感がするなぁーって。ま、気のせいさ』
「レオぽん殿、それはフラグというものにござるよ。今こうしてレオぽん殿がフラグを打ち立てたことで、拙者たちに予期せぬ困難が降りかかるかもしれないでござるなぁ♪」
『……まー、あれだ。その時はその時だ。安心していいぞ。おいらがいる限り、君たちに手を出させやしないさ』
見事なまでにフラグを構築してしまったことを陽菜に指摘されたレオぽんは己の胸をモフッと叩いて得意げに言葉を紡ぐと、陽菜が「ほぅ、これは頼りがいのある発言にござるな」と笑みを浮かべ、金建が「おぉぉおおおおおおお! レオぽんったら男前ぇ♡」とレオぽんの右腕に抱きつきオーバーな愛情表現を示す。風魔陽菜と金建ななめとレオぽん。およそマッチするとは思えない奇妙な組み合わせは、しかし実に上手いこと成り立っているのだった。
「ところで、ななめ殿はそろそろスコップじゃなくて別の武器を調達した方がいいと思うのだが……ここはどこかでななめ殿の武器を調達するのはどうでござろうか?」
「……やれやれ。わかってない、わかってないなぁ、ヒナヒナ。スコップを舐めたらダメなんだぞぉ? 何せ、スコップは第一次世界大戦の塹壕戦で一番人を殺した武器――」
『そのネタはアウトだ。そもそもその逸話を持っているのはシャベルだし、おいらは【ぶていこうぐらし!】なんて嫌だからなー?』
「あっるぇー? レオぽんはフラグからあたしたちを守ってくれるんじゃなかったの?」
『おいらはゾンビは管轄外だ。他を当たってほしいぞ』
◇◇◇
――12:25
『第1回:ワクワクドキドキ☆寮取り合戦』が開催されてからというもの、理子は必死だった。元々、予期せぬ銃声にビビった末に気絶したことすらある理子である。キンジ&アリアと戦った時のような精神状態に持って行けていない普段の理子が、東京武偵高のほぼすべての武偵が獲物を構えて大乱闘を繰り広げ、しきりに銃声が鳴り響く寮取り合戦に怯えないはずがなかった。いくら潜伏組であるがために他の武偵と戦わなくていいといっても、理子が『1日世紀末』状態を生み出す寮取り合戦に恐怖に震えないわけがなかった。そして、この時。恐怖におののく理子に魔の手が忍び寄る。
「こ、ここに隠れてれば、大丈夫だよね……?」
今現在、他の武偵に見つからない潜伏場所として救護科棟10階の応急処置室にたどり着いた理子はベッドの隅に体育座りで体を丸め、さらに上から毛布を被って身を隠していた。本格的に隠れたいのであればいっそベッドの下にでも潜った方が良いように思えるのだが、そこはツッコんだら負けである。
(ボ、ボクにしては、結構いい場所に隠れられたような気がする。ここ、人気が全然しないから、銃声もかすかにしか聞こえないし、誰かに襲いかかられる気もしないし……で、でも人気があんまりないのも逆に怖い、なぁ)
ここで、ふと理子は思い出した。誰もいなくて、冷たい空間を。ブラドの実験体であった時に放り込まれていた、檻の中を。それと同時に理子の直感が反応した。これ以上ココにいてはダメだとの警鐘をしきりに鳴らし始めた。
(ダ、ダメだ。ここは離れよう。何か、嫌な予感が――)
「ひッ……ぅ」
理子が毛布からそろーりと顔を出し、応急処置室から出ていこうとした瞬間、バリーンと窓ガラスが破砕される音が部屋中に反響した。理子は悲鳴を上げようとして、どうにか喉元で留める。悲鳴を上げることは己の潜伏場所を他の血気盛んな武偵たちに大々的に知らせることだと理解しているのだ。うっかり絶望の雄たけびを上げた神崎千秋とは違う辺りがりこりんクオリティか。
不意打ちで響いた窓の破裂音に思わず手に持つ毛布を頭から被り直し、そのまま耳も塞いだ理子。だが、その後一切状況に変化が起こらなかったがために理子がもう一度毛布から顔を覗かせると、理子の視界に軽く100個ほどの勾玉が床に散らばっている光景が映し出された。
「な、何これ……?」
理子が恐る恐るベッドから床へと足を下ろし、床にしゃがんで勾玉の1つを拾い上げる。どうやら先の窓の破裂音は、この毒々しい紫色を基調にした勾玉の集合体を何者かが窓の外から投げ込んだ結果のようだ。
(で、でもここ10階だよ!? 一体どこから投げ込んで……って、それよりここにこの勾玉が放り込まれたってことは、ボクの居場所が割れたんじゃ――)
理子が己の脳裏に思い浮かんだ可能性に顔を青ざめた瞬間、部屋の電気が唐突に消えた。急に室内が薄暗くなったことに「ひぃぃ!?」とつい普通に悲鳴を上げてしまった理子だったが、異変はこれで終わらなかった。何と、消えたはずの電気がまたついて、かと思うとまたすぐに消えてと、照明の明滅が秒単位で繰り返され始めたからだ。
「なに、なに!?」
照明が明滅を繰り返し。さらには電気の色も白色から濃い緑色へと変色する中。心霊現象染みた事態が次々と巻き起こる部屋内で理子がただただ涙目で声を張り上げる中。今度は部屋に置かれていた机が動きを見せた。机の引き出し部分が突如、ガタッガタタッと躍動的に鳴り始め、机自体が内部から振動を始めたのだ。
「う、うぅぅぅぅぅぅぅ……」
理子は後悔する。どうしてこんなとんでもない場所を潜伏地点にしてしまったのかとついさっきまでの自分自身を呪う。だが、過去の自分を恨んだ所で現状の打破は期待できない。理子は喉元で小さな悲鳴を継続的に漏らしつつも、ボロボロと涙を流しつつも、なけなしの勇気を振り絞って、ガタガタ音を鳴らしまくる机へと一歩一歩近づいていく。
そして。理子が恐る恐る引き出しを開けた時。何かがいた。引き出しに入るはずのない体積の何かがにゅるんと理子へと這い出してきた。それは人間の顔だった。しかし、その顔は悲惨なことになっていた。両目はくり抜かれ、耳と鼻は削ぎ落とされ、口は耳まで裂けていて、加えて血まみれの顔が、理子へないはずの視線を向けて、ガパァと口を開いた。
「オンドゥルルラギッタンカァー!? ワレェエエエエエエエエアアアアアアア!!」
「みぎゃああああああああああああああああああああああ!?」
血みどろの顔が文字通り血を吐きながら耳を覆いたくなるほどの大音量を理子に浴びせた瞬間、引き出しの中から出てきた存在に完全に顔を引きつらせて硬直していた理子は恐怖の金切り声をあげた。そこらのホラー展開よりも遥かに怖すぎるクトゥルフ神話TRPGチックな状況に、理子は半ば錯乱状態のまま、逃走しようと部屋のドアに手をかける。だが、ドアは無情にも開かなかった。何度ドアノブをガチャガチャと回しても、ドアは開く気配を見せなかった。
「そ、そんな!? ウ、ウウウウウウウウソだよね!? 開いて! ねぇ、開いてよぉ!」
理子はサァァと絶望の念を思いっきり表情に表しながらも必死にドアを開けようとするも、理子の懇願にドアは当然ながら無反応である。と、ここで。理子の背後から『ねちょ…』という非常に生理的に気持ち悪い音が届き、理子は引き出しから出てきた謎の物体の様子をうかがおうと視線だけを後ろに持っていく。そして。理子は今度こそ本気で後悔した。
「あ、うぁ……」
理子はパクパクと声にならない悲鳴を上げる。腰を抜かし、その場にぺたんと座り込む。理子の見上げる先には『狂気』という表現がふさわしい存在があった。机の引き出しから登場したらしい、蛍光ピンク色をしたぶっとい無数もの触手がその表面から透明な粘液を垂れ流しながらうねうねと左右に蠢いていたのだ。加えて、その各触手の先端には、理子を恐怖のどん底に陥れたあの目も耳も鼻もない血まみれの顔がそれぞれ埋め込まれていたのだ。
「ダディャァァアアナザァァァアアアアアアアアン!」
「キタナイナァアアサスガニンジャキタナァァアアアアアアアイ!」
「オデノカラダハボドボドダァァアアアアアアアアアア!」
「オレノイカリガウチョウテンニナッツァアアアアアアアアア!」
「イノチガケデイェェェエエエヒッフア゛ァァアアアアアア!」
「オレァァァアアアアアアクサムヲムッコロスゥゥウウウッ!」
「ゴノヨノナカガッハッハアン! ア゛ァァアアヨノナカヲゥカエダイ!」
「ウゾダドンドコドォォォオオオオオオオオオオオン!」
触手の先端についた同じ顔がそれぞれ口を存分に裂いた状態で思い思いの言葉を叫びまくる。声が枯れんばかりの勢いでシャウト声を響かせる。その狂気に満ち満ちた空間に理子は目を回し、気を失う一歩手前まで追い詰められ、その時。理子の座っていた床がパカッと二つに割れた。
「えッ――gひゃmgw;pjがgのいわ@n!!」
理子は落ちていった。何も抵抗できずに。反応できずに。ただ下層の闇に吸い込まれるように。理子は謎の悲鳴を引き連れて下へ下へと落ちていき、最終的に救護科棟の1階まで直通で落とされることとなった。ちなみに。1階にはなぜかトランポリンが設置されていたがために、理子は一切怪我をしないで済むのだった。
◇◇◇
――12:35
理子のいなくなった救護科棟10階の一室にて。理子がボッシュートされてから十数秒後、異様に明滅していた証明が白の光を灯す。それとともにうねうねと気持ち悪く動きまくっていた触手が跡形もなく消え去り、机の下から一人の男性が姿を現した。防弾制服の上からダスターコートを羽織り、そして顔を隠すように黒いペストマスクを被り、顔とマスクとの隙間からじわりじわりと紫色の煙を漏れさせている、明らかに危ない男が姿を現した。
「ふぃー、やりましたね。1日1りこりん弄り。今日は寮取り合戦だからってことで気合いを入れてビビらせてみましたが……りこりんの反応を見る限り、大成功のようですな。ふふふッ、これはいい1日になりそうです、今日はもう約12時間しかないですけど。りこりん弄りは三文の徳って私のお爺さまのお爺さまのお爺さま(※存命)が言ってましたからね。今後も積極的に取り組んでいきましょう、そうしましょう」
長身痩躯の男性はさも『自分はその辺によくいる凡人ですよ』と言わんばかりに呟きを漏らす。『ビビりこりん真教』から『第一級要至急排除対象』というブラックリストに名を連ねるりこりん弄りマイスターこと大菊寿老太は今日も健在なのだった。
理子→大菊寿老太に目をつけられている哀れなビビり少女。あれだけホラーな目に遭いつつも何だかんだ気絶していない辺り、理子の精神の強靭性がうかがえる。
風魔陽菜→ルームメイトの金建ななめとレオぽんの着ぐるみを着た何者かと行動を共にしている忍者少女。今回は割とまじめ(?)に寮取り合戦に取り組んでいる模様。
神崎千秋→大して実力がないのにルームメイトの専攻やランクの関係で出撃組に割り振られたオリキャラ。小早川透過がどっかに行ってしまったために一人で撃破ポイントを稼がねばならなくなったので、ただいま絶望中である。
レオぽん→風魔陽菜と金建ななめに協力する謎の生命体。同じチームではないが、陽菜たちにポイントを稼がせるために敢えて襲いかかる武偵たちに撃破一歩手前までの攻撃を行い、陽菜たちにトドメを譲っている。その思惑やいかに。
■『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラ
④小早川透過→読者のアイディアから参戦したキャラ。詳細は次回以降へ持ち越します。まだ直接本編に登場したわけではないですしね。
⑤金建ななめ→読者のアイディアから参戦したキャラ。探偵科Cランク、1年・女。ショートな金髪ストレートと活発な性格とが中々マッチした感じ。よく喋る上にオーバーリアクションが多く、誰だろうとスキンシップをしようとして、物怖じせず話しかけるため、彼女に好意を寄せる異性もある程度はいる模様。読心術や催眠術を使用でき、実は元イ・ウー構成員だったこともあり、ランク以上の戦闘能力を持っている。
⑥大菊寿老太→読者のアイディアから参戦したキャラ。尋問科Bランク、3年・男。ダスターコートに黒いペストマスク、顔とマスクとの隙間から漏れ出る紫色の煙が特徴的な狂人。かなり奇異な存在であるため、やれ『身体を名状しがたい神の触手の苗床にしている』だとか、やれ『頭が銃と化している』だとか囁かれているも、真偽は不明。何を考えてか、理子をビビらせて遊んでいるが、直接身体的に痛めつけるようなことはしない。その辺の一線は弁えているようだ。
■その他のオリキャラ(モブ)たち
○テキトーな名前のオリキャラ作ったったシリーズ
というわけで、EX4は終了です。今回は『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラが割とたくさん出てきましたね。そして。個人的に金建ななめちゃん(偽名)と大菊寿老太さんのキャラは私のお気に入りです。個人的にすっごく動かしやすいキャラなので。