不知火「なぁ、俺の出番はまだなのか? 早く登場して活躍したいんだが」
平賀「まぁまぁ。不知火くんの出番はその内あるっぽいから今は大人しく待ってようか、なのだ」
どうも、ふぁもにかです。今回はレキさんと中空知さんとのバトルがメインの話となります。とはいえ、ふぁもにか特有の『戦闘シーンになると地の文がやたらと増える現象』のせいでちょいと盛り上がりに欠ける戦闘になっちゃってるかもしれませんがね。ま、その時は仕方ないね。
――11:30
とあるビルの屋上にて。ひゅぉぉと穏やかな風が真夏の暑さを幾分か緩和させるようにレキと中空知とを駆け抜ける中。いつ衝突してもおかしくないぐらいに緊張感が高まっている場の雰囲気を盛大にぶち壊すように、一人の男が中空知に向けて駆け出した。
「くッ! 俺のレキに手は出させないぞ、中空知! レキの半径3メートル以内に誰も近づけさせないって決めたんだぁぁあああああッ!」
「うん、邪魔☆」
拳銃を右手に持ち、中空知との
「くッ、ワイヤーか!? こんのッ……!」
「私の『妊娠できない体にしちゃうキック』を受けて案外ピンピンしているタフさは評価してあげるけど、変に抵抗しない方がいいよ、ビスマルクくん。それ、今は君の体を防弾制服が守ってくれてるからいいけど、万が一にも皮膚にそのワイヤーが触れた瞬間、すっごく愉快なことになっちゃうかもだからね? こう、『スパッ!』って感じでさ」
「いいッ!?」
まるで芋虫のように跳ねながら、全力でワイヤーの拘束から逃れようとしていたビスマルクは中空知の遠回しな脅しにサァァと顔を青ざめて、抵抗を止める。素直になったビスマルクに中空知は「賢明な判断だよ」と言葉を残すと、改めてレキと向き直った。
「あーぁ。レキさんと戦う前に私の武器のネタバレしちゃうとか、これはちょっとばかり不利になったかなぁ?」
「ワイヤーですか。そのグローブに仕込んでいるようですが」
「正解。ま、ただのワイヤーじゃないんだけどね!」
中空知はわざとらしく左手をレキへと向け、グローブの爪先から限りなく透明に近いワイヤーを射出する。左手の指からそれぞれ発射された計5本のワイヤーはレキを拘束せんと迫るも、レキは背中に隠し持っていた
「こんなものですか? では、こちらから――ッ!?」
レキは攻勢に打って出ようとして、その場にしゃがみ込む。直後、レキの頭上スレスレを1本のワイヤーが通過し、レキの緑髪の数本を刈り取っていく。
(弾き飛ばしたはずのワイヤーが戻ってきた!?)
「舐めてかかってると、後悔するよ?」
中空知は軽くレキの心境を読んだ上で右手の五指の先からもワイヤーを5本、追加で射出する。中空知の右手は床に向いている。そのため、発射されたワイヤーは普通なら床に激突するだけだ。しかし、床に衝突寸前の所でワイヤーは突如グググッと方向転換し、レキへと一斉に襲いかかっていった。
「――ッ!?」
中空知が射出した計10本のワイヤーは執拗にレキを狙う。いくらレキが小太刀でワイヤーを弾こうと、華麗な身のこなしでかわそうと、ワイヤーはまるでレキを磁石のN極と見立てたS極のように、あたかも誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように、ひたすらにレキの身を切り刻もうと、あるいは拘束しようと迫ってくる。
このままでは埒が明かない。レキはこれまた背中から今度は拳銃を取り出すと、中空知の正中線を目がけて発砲する。その後。中空知がレキからの想わぬ反撃に「おっと」とワイヤーを自らの下に引き寄せ、
「貴女のワイヤーは一体何ですか? 軌道があまりに不自然すぎますが?」
「簡単だよ、念動力を使ってワイヤーを好き勝手に操ってるだけだからね」
「なるほど。超能力者でしたか」
「そーゆーこと。超能力者になったのは結構最近だけどね。色んな凶悪犯罪者と『お話』をしていると、聞いてもいないことを犯罪者が善意で話してくれるおかげで、色んな知識が手に入るんだ。それこそ、ただ表の世界で忠実に正義を全うしているだけではまず得られないような貴重な知識がね。私はその知識を利用して超能力を手に入れた。……ちゃんと真面目に強くなろうと頑張ってる正統派な武偵がいる手前、何だかズルしてるようで申し訳ないんだけど……ま、尋問科は日陰役職なわけだし、これぐらいの恩恵はないといけないって思わないかな?」
「……」
「レキさんの質問に答えたんだから、今度は私の質問に答えてよね。レキさんが近接武器を揃えていたのも驚きだけど……ベレッタに小太刀ってそれ、もしかして――」
「察している通り、キンジさんの装備ですよ。まだバタフライナイフは調達できていませんけど」
「なんで遠山くんと武器をお揃いにしちゃってるのさ?」
「生涯のライバルであるキンジさんを超えるためです。キンジさんの戦い方をトレースすれば、キンジさん攻略の光明を見出せると考えた、それだけです。幸い、キンジさんがクレオパトラ7世に敗北し、気絶した時に武器の点検ついでに武器の種類を確認しましたので」
レキと中空知は一旦戦闘を中断して、互いに気になることについて問いかけ、それぞれ回答をもらう。その後、今度はレキから中空知に攻撃を仕掛けた。まずは左手の拳銃で牽制目的の元、中空知狙いで数発発砲し、すぐに中空知との距離を詰め、右手の小太刀で上段から斬りかかる。
ワイヤーの弾力を利用し、銃弾を敢えてワイヤーに掠らせた後、ワイヤーに衝撃を加える形でレキの銃弾をあらぬ方向へと弾き飛ばしていた中空知は手の甲でレキの小太刀を受け止める。中空知のはめた黒のグローブ。その手の甲の微妙に膨らんだ白の正方形型の中にワイヤーが収納されているため、小太刀の斬撃を平然と受け止められるのだ。
レキは拳銃をしまい、背中からもう一本の小太刀を取り出すと、二刀流で中空知に斬りかかる。対する中空知は、グローブの手の甲でレキの斬撃を受け止めつつ、レキの足や小手など、武偵制服に覆われていない部分狙いでワイヤーを差し向ける。だが。当然中空知の目論みを看破できないレキではない。レキはワイヤーをかわし、弾き飛ばし、しかし一歩たりとも中空知から距離を取ることなくただひたすらに斬撃を浴びせんと小太刀を振るう。
中空知の攻撃をレキが察知し、レキの攻撃を中空知が察知する。狙撃科Sランク武偵と尋問科Sランク武偵との頂上決戦は激しい戦闘を生みながらも、双方ともに決定打に欠ける様相を呈していた。だが、ここで。その転機となる瞬間をレキが作った。
レキは小太刀の柄で自身の胸ポケットを下から突き、中身を宙へと吹っ飛ばす。レキの胸ポケットから飛び出たのは、
音響弾とは、とてつもない大きな音で相手の戦意を喪失させる武偵弾であり、事前に音響弾の対策をしていない敵から致命的な隙を引き出す際に非常に有効な手段である。そして。レキのヘッドホンには遮音効果が施されており、読唇術や風の気配から中空知の発言を読み取り会話を成立させていたレキにとって、例え今から音響弾が発動した所で、その爆音をまともに喰らうのは中空知のみで己にはダメージはない。結果、レキの切り札により中空知は撃破される。そのはずだった。
「~~~ッ!?」
だがしかし。実際に音響弾が発動し、辺り一帯に爆音を打ち鳴らした時。
耳に轟く爆音に思わず声にならない悲鳴を上げ、ガンガンと容赦なく痛みを訴える頭を、小太刀を手放した両手で押さえたのはレキの方だった。一方、耳を何も塞いでいないはずの中空知は爆音を確かにその身に受けたはずなのに平然とその場に立っている。その表情はまさに『してやったり』と言わんばかりだった。
「な、ぜ……?」
「ま、下を見てみればわかると思うよ?」
「し、た……ッ!?」
絶え間なく発信される凄まじい頭痛に耐えながら、中空知が両手の人差し指でひょいひょいと指し示す方向へとレキが視線を向けた時、無表情が常であるはずの瞳に驚愕の念が映し出された。なぜなら、その先にはイヤーパッドの部分が真っ二つになったレキのヘッドホンの残骸が転がっていたのだから。
(い、つの間に……)
「レキさんってば短期決戦で勝負を決めようとそんなに慣れてないはずの接近戦を全力でやってたみたいだからね。私がこっそりワイヤーでヘッドホンをぶった切ったことに気づかないのも仕方ない。あ、私に音響弾が通じない理由もそう難しいものじゃないよ。私は今、薬でちょーっと擬似的に聴力を消しちゃってるんだよね。読唇術を使って、あたかも耳が聞こえているように振舞えるのはレキさんの特権じゃないんだよ?」
(……やられました。これは完全に作戦負けですね。しかし――)
ふふん、と勝ち誇った笑みを見せる中空知を前に、レキは何か奇跡的な事象が起こらない限り、自分の敗北が揺るぎないものとなってしまったことを悟る。しかし、ここで諦めるレキではない。例え、爆音に頭を揺さぶられ、まともに戦えない状態であろうと。床に落としてしまった小太刀二本を拾得すらしない状態であろうと。レキは戦意の炎を確かにその琥珀色の瞳に宿し続けた。
理由は単純明快だ。ルームメイトのいないレキの場合、自分が撃破されてしまえば、もうポイントは稼げない。まだ寮取り合戦が始まってから約3時間半ほどしか経過していない現状でリタイアしてしまえば、目的の最上階の寮は確保できない。それどころか、オンボロな第三学生寮住まいが確定しかねない。別に寮のランクを重要視しているわけではないレキではあるが、好き好んで汚い部屋に住みたいわけではない。レキは必死だった。
しかし。世の中というものは何でもかんでも気合いだけで、心持ちだけでどうにかできるほど甘くはない。特に、中空知は精神論による逆転劇を許すような性質ではない。ゆえに。
「え……?」
突如、レキは己の体からスゥーと力が抜けたような感覚を経験したかと思うと、いつの間にか床に女の子座りでへたり込んでいることに気づいた。体力を使い果たしたわけでもないのに座り込んでしまったレキはすぐに立ち上がろうとするも、力がまるで入らない。それどころか、段々と睡魔が蝕んできているのがレキにはよくわかった。
「うんうん、効いてきたみたいだね」
「な、なにを……」
「筋弛緩剤って、知ってるかな? 神経や細胞膜辺りに働きかけて筋肉の動きを弱める薬のことで、手術なんかで麻酔と一緒に使われたりするものなんだけど……使い方次第で敵の無力化にも使えちゃうんだよね、これ。だって今、レキさんは体に力が入らないし、割と強力な眠気が襲いかかってる所でしょ?」
「……」
「レキさん。貴女の敗因は、明確な悪意を持ち、搦め手に長けた人との対人戦の経験が少ないことだね。狙撃科なのにここまで敵に接近を許した時点で負けとも言えるけどね。……ま、後遺症は残らないようにちゃんと調整してるから、安心して撃破されよっか♪」
「ッ……」
ワイヤーを念動力で操作すればすぐにレキの意識を刈り取れるのに、敢えて一歩一歩レキに近づき、レキにどうしようもない絶望を積極的にプレゼントするスタイルを取る中空知。レキは動けない。己の意思に反して、レキはぺたん座りのまま、中空知を見上げることしかできない。今回のSランク武偵同士の勝負は中空知の勝ち――少なくとも、この場の二人はそう考えた。が、この時。
「レキッ!」
いつの間にかワイヤーの拘束から逃れていたらしいビスマルクがレキをちゃっかりお姫さま抱っこで回収しつつ、力強い踏み込みとともにぴょーんとフェンスの上に飛び乗ると、中空知がすぐさま放ったワイヤーが自分を捉えるよりも先に前方へとジャンプし、ビルから飛び降りた。
そして。レキの持ち方をお姫さま抱っこから俵持ちに変更しながら制服の袖の下に隠していたワイヤーを前方にそびえるビルの屋上へ目がけて射出したビスマルクは、ビルの壁面に着地するとともにワイヤーを辿るようにビルの壁面を駆け上がり、無事屋上まで到着したのを最後に、中空知の視界から消え去った。
「あーらら。逃げられちゃった。所詮Bランクと彼を侮りすぎてたかなぁ。というか、どうやってワイヤーから抜け出したんだろ? 割と全力で簀巻きにしたのに」
一連のビスマルクの華麗なレキ救出劇の唯一の目撃者となった中空知は残念そうに1つ呟く。その後、ビスマルクに対するふとした疑問を独言しつつ、今後の動きを脳内で決定する作業に入る。
(レキさんはしばらく戦えないから、このままレキさんを追ってもいいけど……やめとこっか。さっきの筋弛緩剤は1時間もすれば効果はなくなるし、今の不意打ちでダメならもう私の技量でレキさんは倒せない。んー、もったいないことしちゃったなぁ。せっかくの28ポイントをドブに捨てちゃうなんて……これで広々とした寮部屋を確保して、部屋の一角に実験スペースを設ける目標から一歩遠ざかっちゃったかなぁ。……むぅ、レキさんがダメなら次は誰を狙おうかな? 遠山くんは既にやられちゃってて(笑)、レキさんはもう倒せないなら、ここは順当に神崎さんかな? 神崎さんを倒したら30ポイントも手に入るし――よし、神崎さんにしよっと。……あ、聴力が戻ってきた。薬の効果が切れたみたいだね)
目を瞑り、首を傾げて考えた結果、次なる標的をアリアに定めた所で、中空知の携帯が鳴り始める。「お、電話だ」と中空知が取り出した携帯画面には、『
「はいはい、命ちゃん。どうしたの?」
『やりましたよ、美咲さま! 私、ついにあの遠山先輩を討ち取ってきました! 通達、もう見てくれました!?』
「うん、見たよ。さっすが私の
『はい! 全ては美咲さお姉さまのために!』
「……あ、そうだ。せっかくだから次はレキさんを倒してみるのはどうかな?」
『え? い、いや、レキ先輩を倒すのはさすがに厳しいのでは……』
「あれ? あの遠山くんを倒せたのに、レキさんは倒せないの? 難易度はそう変わらないはずだけど? 怪我でもしちゃったの?」
『え、えーと、実は私、一人で遠山先輩を倒したわけではなく、東京武偵高三大闇組織が遠山先輩をフルボッコにしている間にどさくさに紛れて倒してポイントをかすめ取ったと言いますか、そのぉ――』
「――ねぇ、命ちゃん。私言ったよね? 私より先に私以外のSランク武偵を1人で倒さないと、きっつーい『おしおき』するってさ」
『ひ、ヒィィ!? ど、どうかお許しを! あの闇組織連中の人の波をかいくぐって遠山先輩にとどめを刺した私の功績をもってどうかご慈悲を!』
「ヤダ」
『そ、そんな殺生なッ! あ、でもそういうのも久しぶりだから逆にいいかも――』
「ま、今回の『おしおき』はちょっと洒落にならないものを用意してるから、それが嫌なら頑張ってレキさん狩ってきてね」
『え、洒落にならないって、何それある意味楽しみフヘヘ――』
中空知は自身の戦妹である衣咲命にレキ撃破の命を下すと、彼女の言葉を全て聞き終えることなく一方的に通話を切る。そして。青空にふわふわと浮かぶ入道雲を見上げて、中空知は己の胸の内を吐露した。
「……ハァ。SもMも極めちゃったっぽいハイブリッドな子って、扱いに困っちゃうよね。そろそろ本格的に対策を考えた方がいいかなぁ?」
◇◇◇
――12:00
中空知から逃れるために別のビルへと飛び移ったビスマルクはレキを再びお姫さま抱っこに持ち替えつつ、中空知から逃れるために地上へ降り、そこから先は全力逃走を始めた。
それから十数分後。とにかく中空知から少しでも距離を離そうとダッシュしていたビスマルクの視界が捉えたのは、少々錆びれたプレハブ小屋。人気の全く感じられないこのプレハブ小屋ならば中空知の追跡からも逃れられるだろうとの考えたビスマルクはプレハブ小屋の扉を蹴破り、中に設置されてあったベッドにレキをそっと寝かした。
「……助かりました、ビスマルクさん。ありがとうございます」
「気にする、ことは、ないさ、レキ。レキの、為なら、この程度、何とも、ないからな!」
「そうですか」
レキがビスマルクへ感謝の言葉を伝えると、ビスマルクは相変わらずレキを全力で恋に堕とそうとする意図が丸見えな爽やかな笑みを浮かべて、個人的にカッコよさを前面に押し出した言葉を口にする。しかし、さっきまで全力疾走していたために、ゼェハァと荒い呼吸を繰り返しながらのビスマルクの発言は途切れ途切れとなり、彼の意図したカッコよさが半減している感は否めなかったりする。
「……しばらく、筋弛緩剤が抜けきるまでは潜伏するしかないですね。それまでに別の武偵に見つからずに済む可能性は限りなくゼロでしょうが」
「心配、しなくて、いい。レキは、必ず、俺が、守って、みせる。俺の、嫁、だからな!」
「……非常に不本意ではありますが、今回ばかりは貴方に頼らざるを得ませんね。よろしくお願いします。私は、少し眠ります。……そうですね、私の半径3メートル以内に誰も近づけさせないようにしてください」
「ッ! あぁ! 今度こそ、やってみせる! 大船に、乗ったつもりで、いてくれ!」
「泥船の間違いでは……?」
「グハッ!?」
再び心臓を撃ち抜かれたかのように、胸を抑えて後ずさるビスマルク。そのオーバーリアクションのように思えるビスマルクの姿につい無意識の内にほんの少しだけ微笑みを浮かべて、レキはコテッと頭を枕に預けて、意識を闇へと葬り去った。
(レキの寝顔は初めて見たが、かわいい! 可愛すぎるぞ! さすがは俺の嫁!)
スゥスゥと静かな寝息を立てるレキ。筋弛緩剤の影響で完全に無防備なレキの寝顔を初めて見ることとなったビスマルクは内心で狂喜乱舞する。その後、不意にレキの頭をよしよしと撫でたい衝動に駆られたビスマルクはレキへ右手を伸ばし、左手で右手首を掴む形で右手の暴走を阻止した。
(ダメだダメだ! 落ち着け、俺! 今はレキとの信頼関係を少しでも構築すべき時! レキとともにハッピーエンドルートへ行きたいのなら、ここで逸ってはダメだ!)
ビスマルクは右手をレキから引っ込めると、レキに手を出すことを唆す悪魔の囁きを強固な精神で振り払う。そして。結局、ビスマルクは続いて沸き上がってきたレキの寝顔の写真を撮りたいという願望をも打ち砕き、レキの寝顔を脳内フォルダに永久保存することとした。
「って、何か俺も眠くなってきたな? あれ? これってヤバいんじゃ、な……」
と、ここで。強烈な眠気に襲われたビスマルクは現状に危機感を抱いたのを最後に、そのまま床に倒れ伏し、夢の世界へと旅立っていく。ちなみに、レキとビスマルクは知らなかった。寮取り合戦における撃破の定義は『気絶』することであり、その『気絶』の中には『睡眠』が含まれているということを。
【装備科Aランク:
【装備科Aランク:平賀文(2年)が強襲科Bランク:ビスマルク(2年)を撃破しました。平賀文に25ポイント付加されます】
上記の通達が現状生き残っている全武偵に行き渡った後。プレハブ小屋の床からガコッと音がしたかと思うと、床の一部分がパカッと開かれる。その地下への扉から地上へと姿を現したのは、左右の一房を耳で纏めただけの短髪を引っさげた幼女こと、平賀文。
「ふぃー。いきなり私の秘密基地に『ダイナミックお邪魔します』をされた時はどうしようかと思ったけど、上手く罠にかかってくれてよかったよ。おかげで棚から牡丹餅感覚で28+25で53ポイントも手に入れられたしね、なのだ」
ただいま黒を基調にしたガスマスクを装着中なためか、深い眠りに堕ちているレキとビスマルクを見やって「やったぜ☆」と言わんばかりにギュッと拳を握りながらの平賀の呟きはくぐもった声となって周囲に反響していく。
平賀がガスマスクを装備している理由は簡単、自身の秘密基地に入り込んできたレキとビスマルクを穏便に撃破するために、部屋一体に即効性の高い睡眠薬を散布していたからだ。それも透明かつ無味無臭な霧として散布された睡眠薬だったため、既に筋弛緩剤の影響で強烈な眠気に襲われていたレキや全力疾走で疲れていたビスマルクが気づけなかったのも無理はない。
「ま、良い機会だし、そろそろ私も動こうかな? 生徒会長さんが昨日、いきなり寮取り合戦の告知をしてきたから、まだ
平賀はプレハブ小屋の外へとスタスタ歩みを進めると、被っていたガスマスクに手をかけて、乱暴に脱ぎ捨てる。そして。とても高校2年生とは思えない童顔にニタァと凶悪な笑みを浮かべて、前方をビシッと指差した。
「――さぁ行くのだ、平賀軍団! 目に映る武偵を殲滅せよ! なのだ!」
平賀が指示を行った瞬間、プレハブ小屋の地下にて、無数のロボットの目に無機質な光が一斉に灯り、動き出す。かくして。シャーロックから知識を授かりし、技術チートが本格的に寮取り合戦への介入を始めるのだった。全ては、クオリティの高い寮を確保し、秘密基地2号を作るため。
レキ→上手いこと中空知に出し抜かれたバトルジャンキー。今回はあっさり中空知に敗北したが、ふぁもにか的にはレキの方が中空知より遥かに強いと思っている。
中空知→黒のグローブに仕込んだ限りなく透明なワイヤーを念動力で自在に操作して攻撃を仕掛ける系ドS少女。体術も結構いける。最近の悩みは戦姉妹の衣咲命がSとMを同時に極めてしまったため、自分の思い通りに誘導できないこと。
平賀→人口浮島の一角にプレハブ小屋、に見せかけた秘密基地をこしらえていた天才少女。地下には平賀の発明品がこれでもかと収納されており、それら発明品のクオリティは誰もが喉から手が出るほどにほしいと思える産物ばかりだったりする。
■『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラ
①衣咲命→読者のアイディアから参戦したキャラ。尋問科Aランク、1年・女。中空知の戦姉妹。SとMを極めたハイブリッドであり、中空知の前では物凄いMっぷりを見せるも、中空知以外が相手だととんでもないSっぷりを発揮する。また、中空知に内緒で「美咲お姉さまに踏まれ隊」を結成しており、己の尋問対象を会員に取り込み、精力的に勢力拡大を行っている。
③ビスマルク→読者からふぁもにかが独断で参戦させたキャラ。強襲科Bランク、2年・男。燃え上がるような赤い髪がトレードマーク。今回は旧知のレキを救うというヒーローっぷりを見せたが、結局は締まらない形で撃破されてしまった。ドンマイ。
というわけで、EX3は終了です。人物紹介欄の一番上にレキさんの名前が挙がるのって、何だか凄まじく違和感がありますね。そして。中空知さんの戦闘シーンをしっかり描写できただけでもこの番外編を開催した意味があったと私は個人的に考えてます。だって、普通に本編進めてた所で中空知さんの戦闘面での活躍の場なんて早々作れやしませんからね。