【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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レキ「キンジさんが撃破されてしまいましたか」
中空知「しかし、奴は東京武偵高Sランク武偵の中では最弱……」
修羅アリア「やれやれ、Sランク武偵の面汚しですね」
キンジ(お前ら、そんなに仲良かったか?)

 どうも、ふぁもにかです。ついに『第1回:ワクワクドキドキ☆寮取り合戦』が始まります。「本編で散々活躍してるんだから番外編ぐらい存在感がなくてもいいよね♪」的な考えの元にキンジくんが排除された状況下ではたして寮取り合戦はどのように動いていくのか。誰が寮取り合戦を最後まで生き抜くのかとか、誰が最多撃破ポイントを獲得するのかとか当たりを付けながら閲覧するとよりこの番外編を楽しめるかもしれませんね、ええ。



EX2.ワクワクドキドキ☆寮取り合戦(2)

 

 ――8月17日 8:02

 

 

 あらかじめアリア&理子と別れ、単独で歩道を歩いていたキンジはふとその足を止める。いや、止めざるを得なかったのだ。

 

 

「誰だ?」

 

 複数の武偵に待ち伏せをされている。察知したキンジは鋭い殺気をぶつけて、気配を隠しきれていない武偵の炙り出しにかかる。すると。電柱の後ろから、路地から、建物の影からといった風に、物陰から次々と武偵が姿を現しキンジを取り囲んだ。その顔つきを見るに、どうやらキンジの気当たりに臆している様子はなさそうだ。――ちなみに。その数、軽く200名を超えている。

 

 

「……え?」

 

 まさかこれほどまでの大人数に囲まれるとは露にも思ってなかったキンジは思わず目をパチクリとさせる。しかし。己の動揺を悟られまいと、すぐに表情を正した。

 

 

「これは、どういうことだ? 寮の1部屋は最大でも4人しか収容できない、だからこそチームとして連携できるのは4人までだ。なのに、なんでこれだけの数が団結して俺を狙ってこれる?」

(俺は強襲科Sランク武偵だから撃破すれば30ポイントだが、ポイントを手にできるのはあくまで1チーム。チーム間で協力したってポイントは折半できない以上、俺のポイント狙いってのは可能性が薄そうだな。なら、何が理由だ? さすがに全然わからないぞ?)

 

 キンジがあくまで平然を装いながら、内心で様々な可能性を模索しながら問いかけると、キンジを取り囲む集団の中から代表者らしき武偵が3名、姿を現した。

 

 

「俺は『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員ナンバー002の砂原杙杵(くいしょ)だ。聞いたぞぉ、遠山キンジ。貴様、神崎・H・アリアと付き合うことにしたそうじゃないか。その件について、我らが神:ユッキー様が涙したとの情報が入っている。粛清される覚悟はいいか?」

「えー。私はですね、えー。『ビビりこりん真教』のですね。えー。信者ナンバー004のですね、三ヶ島咲良と言う者です。えー、早速本題に入らせてもらいますけどね、えー。遠山キンジさん。貴方にはですね、えー。重度のロリコン疑惑がかかっているんですよ。そういうわけでしてね、えー。私たち『ビビりこりん真教』は満場一致で貴方を排除することに決定したんですよね、えー。何せ、えー、ロリ体型ながら大人な一面も同時に体に内包した奇跡のりこりんさまボディがですね、貴方に穢されるのも時間の問題でしょうからね。えー、そんなわけで大人しくパージされてくれるとですね、えー、ありがたいんですよね」

「僕は『アリアさま人気向上委員会』の幹部が一角、委員会ナンバー006の影縫千尋です。今回僕たちがこうして貴方の元に赴いたのは貴方の行動が目に余るからです。僕たちの信仰対象であるアリアさまの心を奪うに留まらず、他の女性をも同室に連れこむ始末。貴方はハーレムを形成すれば満足なのでしょうが、これではアリアさまの幸せが遠ざかってしまいます。アリアさまに幸せを届けられるのは『アリアさま人気向上委員会』だけなのです。ゆえに。遠山キンジ、貴方にはここで朽ち果ててもらいます」

 

 三者三様ながらも並々ならぬ敵意をぶつけてくる3人を前に、キンジは己の身の危険を心から感じていた。東京武偵高三大闇組織(ファンクラブ)。それは、ここ1年で東京武偵高に突如現れた不気味極まりない闇組織の総称である。その組織の特徴は圧倒的な統率力にあり、闇組織は総じてある特定の人物を祭り上げる特徴を持つ。が、その全容は教務科が全力で調査してもなお解明できておらず、キンジ自身も『ダメダメユッキーを愛でる会』と『ビビりこりん真教』しか知らなかった。

 

 

(東京武偵高三大闇組織、最後の1つはアリアだったか。アリアが東京武偵高に来たのは4月だ。てことは、『アリアさま人気向上委員会』は結成されてからまだ数カ月程度ってことか――とか考えてる場合じゃないな。俺を襲いに来たのは利害が一致したから一時的に手を結んだって感じだろうが、いくら何でもこの数は多勢に無勢だ。ヒステリアモードで切り抜けられるか……ッ!?)

 

 それぞれの闇組織の指揮者の合図により、キンジを取り囲む武偵全員が武器を構える中、キンジはどうにか現状打破の方策を導き出そうとする。しかし、それは叶わなかった。キンジの背中から、金属バットを全力で振り抜いてきたかのような、強い衝撃が襲いかかってきたからだ。

 

 

「しまッ――」

(マズい、やられた! 俺を大人数で取り囲んだのは、俺に害意がある全武偵をこの場に結集させたと俺に錯覚させ、別に組織した狙撃班で確実に俺を撃ち抜くためかッ!)

「かかれ! テメェらぁぁあああああああああ!!」

「えー。ではでは、やっちゃってください!」

「今です! タコ殴りの時間ですよ、皆さん!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 

 防弾制服を着ているが故に、背中を撃たれようとキンジが死ぬことはない。しかし、背後を撃たれ、バランスを崩し膝をついたキンジに、自身に目がけて我先にと飛びかかってくる連中を止める術はない。キンジは数の暴力に呑み込まれ、ボコボコにされる。これが、遠山キンジ早期退場の理由であった。

 

 

 ◇◇◇

 

 ――8:12

 

 

 とある建物の屋上から。レキは己の6.0を誇る視力で見つめていた。遠山キンジが数の暴力の被害に晒され、ボコボコにされるシーンをただただ視界の中に映していた。

 

 レキはキンジを助けない。当然だ、いくらレキでもあれだけ武偵が密集してしまえばキンジ救出は不可能だ。加えて。仮にキンジを助けようと狙撃した所で、自分の居場所を特定されてしまえば、己が撃破される可能性が濃厚となってしまう。ルームメイトがいないため、1人チームとなったレキに、そのような危険を冒すつもりはなかった。

 

 

「今回の企画はライバルとしてキンジさんと戦い、雌雄を決する絶好の機会だと思ったのですが、先手を打たれてしまいましたか。……仕方ないですね。ならば当初の予定通り、動くのみです。非常に残念ですけど」

 

 キンジをズタボロにしたことですっきりしたらいい東京武偵高三大闇組織の面々が「次会った時は互いに敵同士だ」的な会話を最後に解散した所までしっかり見届けたレキは行動を開始した。全ては、クオリティの高い寮を確保するためである。

 

 

 ◇◇◇

 

 ――8:15

 

 

 アリアは路地裏に身を隠していた。キンジが開始早々撃破されるという、全くもって想定していなかった事態に混乱し、出撃組として他のチームを倒す役目のことなど忘れ、ただただ路地裏に潜み、過剰な警戒心を周囲に放っていた。

 

 

(キンジを倒した1年の衣咲(いさき)(みこと)さんですか!? そんな名前、今まで聞いたことがありませんよ!? 彼女がキンジを倒せるほどの実力者なら私の耳に入らないはずがありません! あれですか!? 能ある鷹は爪を隠すの要領で今日まで武偵ランクをひた隠しにしていたとでもいうのですか!? だとしても、このタイミングで、寮取り合戦でその実力を露出させるなんて一体何を考えてるんですか、この人!? というか、そもそもどうやってキンジをこんな短時間で倒したというのですか!?)

 

 なまじキンジの実力を心の底から信頼していただけに、アリアの動揺は計り知れないものとなっていた。しかし、そこは強襲科Sランク武偵。己の信じていた根幹が覆されるようなとんでもない事態に見舞われてた所で、少々の時間さえ与えれば立ち直れるだけの精神的土壌を、アリアはしかと備えていた。

 

 

(落ち着け、落ち着くのです。神崎・H・アリア。ここはいざという時のために1個だけ肌身離さず携帯していたももまんを補給して、精神を落ち着けるのです)

 

 小学生レベルの小柄な体のどこから取り出したのか、アリアは保持していたももまんを取り出し、頬張ろうとする。ももまんを補給することで、寮取り合戦に対しどこか舐めていた節のあった己の心を律し、気を引き締め、作戦を練り直すための第一歩として、ももまんを美味しくいただこうとする。しかし。アリアの思惑通りに物事は運ばなかった。アリアがももまんを今にも口にしようとした時、ももまんが文字通り爆発したのだ。否、どこからかももまんが銃撃されたことで、ももまんが粉砕し、ボトボトとももまんのパーツが地面へと落ちていったからだ。

 

 

「ぇ……」

「見つけたぞ、松本屋の金の生る木ぃ!」

 

 アリアが呆然と、砂利や砂にまみれたももまんの成れの果てを見つめる中、アリアのももまんに凶弾を放った張本人らしい男子武偵が、背後に30名ほどの武偵を引き連れた状態でアリアの前に姿を現した。その男子武偵はよほどアリアが憎いらしく、アリアへの憎悪を一切隠そうとしない。

 

 

「お前が松本屋のスポンサーであるせいで、松本屋に資金を投入しまくってるせいで、今や松本屋は天下を取っているッ! そりゃそうだ、松本屋は『あの正義の武偵:神崎・H・アリアが心から支持する店』なんて強力な看板を得たんだからなッ! なぁ、松本屋が頂点に立った気分はどうだぁ? 滝本発展屋を足蹴にして手にした栄光は気持ちいいかぁ? ええ?」

「も、ももまん……」

「ヒヒヒヒヒッ! 今まではお前を襲撃できる機会はなかった。滝本発展屋が没落の道を強いられていることに対するこの煮えたぎる激情をぶつけられなかった。何せ、一般市民からの視点じゃお前は『正義』だ。その正義を襲えば、俺たちが悪になるからな。んなのはゴメンだ。だから、だからこそ! 今回の寮取り合戦こそが好機! 今ならどさくさに紛れてお前への復讐ができる! ヒヒヒッ、この合戦を提案してくれた武偵には感謝しないとなぁ!」

 

 アリアが話を聞いていないことに気づいていないのか。それともアリアが話を聞いていなくても構わないのか。男子武偵は完全に悦に入ったような口調で声を存分に荒らげる。どうやら、今や勝ち組ロードを突っ走っている松本屋の覇権を潰すことを悲願に掲げてている滝本発展屋ファンの過激派たちが八つ当たりに走っているようだ。

 

 

「さぁ、今だ! 今、神崎・H・アリアはももまんを失い、戦意喪失している! 討ち取るなら今だ! 行け、者どもッ!」

「キェェエエエエエエエエエエエイッ!」

「さぁ、死ぬがよい!」

「エ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ!」

「死の味はいかがかい?」

「ヒェア! ヒェアァァアアアアアア!!」

「冥府へと送り出してくれよう!」

「ギェヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィィィ――!」

「空が青い。だから殺す!」

「冥土の土産の準備はいいかい?」

「アパァァアアアアアアアアアアアアア!!」

「ゆっくり三途の川を堪能していってね!」

「アバァァアアアアアアアンジェリィィィイイイイイイッヒ!!」

 

 呆然自失。その四字熟語がまさに似合う今のアリアに対し、男子武偵が攻撃指示を出したと同時に、彼の背後の武偵たちが一斉攻撃を仕掛けていく。

 

 

「……」

 

 アリアは、避けなかった。武偵集団の攻撃の嵐を虚ろな瞳で見つめたまま、避けないまま、武偵の一人が横薙ぎに振るった金属バットをあっさりと腹部に受け、背後の壁にドゴォと突き刺さった。と、ここで。アリアは見た。わざとなのかそうでないのかは定かではないが、武偵の一人が、ももまんの成れの果てを踏み潰した瞬間を。

 

 

「やった、やったぞ! 松本屋の心臓をぶち壊したぞ! これで松本屋も衰退の一途をたどるのみ! ヒヒヒヒヒッ! やりましたよ、桔梗さぁん!」

 

 コンクリートの粉塵がアリアの体を覆い隠すようにサァァと展開される中。アリア撃破の主導者たる男子武偵は喜悦に満ちた表情で天を仰ぎ、滝本発展屋の経営理事の一人たる桔梗という人物の元に届けと言わんばかりに喜色たっぷりの声を上げる。しかし、いつまで経っても彼の携帯にアリアの撃破情報が通達されないことに対して「んぅ? どういうことだ?」と首を傾げた瞬間、彼の腹部に鋭い衝撃が走り、「うぼぁッ!?」と背後へと空高く吹っ飛んでいった。

 

 

「「「「「リーダー!?」」」」」

「……別に、私を憎むのは構いませんよ。お母さん関連で、私に負の感情が向けられることは間々ありましたから。ですが、罪なきももまんへのこの所業、許すわけにはいきませんねぇ」

 

 調子に乗っていた男子武偵もといリーダーを殴り飛ばしたアリアは、頭からダラダラと血を流しながら、フラフラとした足取りながら、その瞳に闇を宿してニタァと口角を吊り上げる。リーダーを失った武偵たちはアリアに恐怖する。しかし、動けない。逃げられない。アリアのハイライトの失った瞳を見た瞬間、まるで己の体が地面に縫い止められたかのように、彼らは身動きがまるでできなくなっていた。

 

 

「――さぁ、滝本発展屋の回し者の皆さん。風穴の時間です。死にたくないのなら、張り切っていきましょう」

 

 アリアは邪気満載の笑顔で滝本発展屋の過激派な武偵たちに死刑宣告を下す。かくして。ももまんを失った悲しみから、ももまんを蔑ろにされた憤りから、修羅覚醒したアリアによる容赦ない蹂躙劇が始まるのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――9:30

 

 

「氷技に惑え、氷葬蓮華(メビウス☆ダンス)!」

「ちぃッ、闇の炎に抱かれて――バカなッ!?」

「くそッ、貴様らにこの僕の何がわか――バカなッ!?」

「おのれッ、切り刻む! 塵も残さん、行く――バカなッ!?」

 

 ジャンヌ・ダルクは武偵高の校舎内を闊歩していた。自分を『氷の女帝』と慕うテニス部女子1年をぞろぞろと引き連れ、眼前に立ち塞がる武偵たちを、氷を纏ったデュランダルで踊るように繰り出した剣劇であっという間に撃破していく。

 

 

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が強襲科Bランク:魔久奈(まくな)凛音(りおん)(3年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に25ポイント付加されます】

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が鑑識科Cランク:柔田巣(じゅうだす)璃音(りおん)(2年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に11ポイント付加されます】

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が衛生科Cランク:那須(なす)莉音(りおん)(1年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に17ポイント付加されます】

 

「キャアアアア!! ジャンヌ様ぁぁぁああああああああああ!」

「あぁ、何て美しい……さすがはジャンヌ様ですわ!」

「キャァアアアアアアアア! キャァァアアアアアアアアア!!」

 

 取り巻きの女子武偵たちの喝采を背中から浴びているジャンヌは「クククッ、ハァーッハッハッハッハッ!」と実に楽しそうに哄笑する。この寮取り合戦において、今現在、間違いなく最もこの合戦を楽しんでいる筆頭であるジャンヌ。彼女はここで「ジャンヌ様、これを……!」と、ジャンヌファンの統率を努めている女子武偵がジャンヌに自身の携帯を見せてきたことで、笑い声を上げることを止め、画面を見やる。その画面に載っていたのは、ある特定の武偵の撃破報告だった。

 

 

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が強襲科Bランク:上上(うわかみ)(じょう)(3年)を撃破しました。風魔陽菜に25ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が衛生科Bランク:右右(うみぎ)(ゆう)(1年)を撃破しました。風魔陽菜に21ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が尋問科Aランク:下下(しもした)(くだり)(3年)を撃破しました。風魔陽菜に20ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が狙撃科Cランク:枚舞(まいまい)麻衣(まい)(3年)を撃破しました。風魔陽菜に19ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が超能力捜査研究科Dランク:平平(ひらたいら)平平(へいべい)(3年)を撃破しました。風魔陽菜に15ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が装備科Cランク:真真(しんま)(まこと)(3年)を撃破しました。風魔陽菜に13ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が特殊捜査研究科Aランク:角角(かくかど)(すみ)(2年)を撃破しました。風魔陽菜に21ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が車輌科Bランク:文文(ふみぶん)(あや)(3年)を撃破しました。風魔陽菜に14ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が情報科Dランク:空空(からそら)(うつほ)(1年)を撃破しました。風魔陽菜に5ポイント付加されます】

【尋問科Aランク:風魔陽菜(1年)が諜報科Cランク:内内(だいうち)(ない)(2年)を撃破しました。風魔陽菜に16ポイント付加されます】

 

 

「む、あのジャパニーズNINJA、随分と暴れ回っているようではないか……」

 

 撃破報告にて目立っている陽菜の名前を目にしたジャンヌは口元に手を置き、思いをはせる。ジャンヌの脳裏によぎるのは、ついこの間、キンジの評判を全力で貶めるために一時的に手を結んだ忍装束な同胞の姿。

 

 

「ククッ、面白い。これは我も負けてられないな……ッ!」

 

 ニヤリと笑みを形作り、撃破報告を見せに来てくれた女子武偵を後ろに下がらせようとしたジャンヌだったが、ここで当の女子武偵が「それで、これも見てほしいのですが……」と、別の画面をジャンヌに提示してきた。

 

 

「ほう、これは……え、何これ?」

 

 ジャンヌは女子武偵が見せてきた写真を前に、思わず素で困惑する。このジャンヌの反応も無理もない。なぜなら。その写真には、風魔陽菜と見慣れない女子武偵と、そしてレオぽんの着ぐるみを着た謎の生命体が結託して他の武偵チーム相手に戦っている姿が写っていたのだから。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――10:30

 

 

 レキはとあるビルの屋上でうつ伏せになり、ドラグノフを構えていた。サラサラと清涼な風がレキの緑髪を撫でていく中。レキは狙撃する。正確無比な射撃は武偵の体を的確に捉え、容赦なく武偵の意識を刈り取っていく。

 

 

【狙撃科Sランク:レキ(2年)が強襲科Aランク:清清(セイショウ)(きよし)(3年)を撃破しました。レキに27ポイント付加されます】

 

 レキは狙撃する。狙撃対象の専攻やランクなど関係なしに、ただただポイントを稼ぎ、良い寮をゲットするための権利の取得のために射撃を続ける。

 

 

【狙撃科Sランク:レキ(2年)が尋問科Eランク:老老(ふろう)(おい)(1年)を撃破しました。レキに9ポイント付加されます】

 

 レキは狙撃する。空気抵抗も、標的となる武偵の動きも、何もかも計算に入れた上でドラグノフから放たれた銃弾は、あたかも標的に命中することが決まっているかのように、標的の体に吸い込まれていく。

 

 

【狙撃科Sランク:レキ(2年)が通信科Cランク:辺辺(あたりべ)(ほとり)(2年)を撃破しました。レキに9ポイント付加されます】

 

 レキは狙撃する。物陰に隠れている武偵やドラグノフの銃口の直線上にいない武偵は銃弾撃ち(ビリヤード)の要領で、単管パイプや電柱などに弾丸を跳弾させる形で射撃していく。もはやレキに狙われた武偵が哀れに思えるレベルの神業である。

 

 

【狙撃科Sランク:レキ(2年)が強襲科Bランク:値値(あたいち)値値(ねじ)(3年)を撃破しました。レキに25ポイント付加されます】

 

 レキは狙撃する。

 レキは狙撃する。

 レキは狙撃する。

 レキは狙撃する。

   ・

   ・

   ・

   ・

 

「ひゅう♪ さっすがレキ! 惚れ惚れする腕前だね」

 

 レキが自分だけの世界を構築し、誰彼構わず狙撃する形で標的の意識を刈り取っている中。背後から口笛を鳴らしパチパチパチと拍手をする男の声に、レキはドラグノフのスコープから目を外し、背後を振り返る。すると、燃え上がるような赤髪剛毛が特徴的な、『ワイルド』という言葉がよく似合う男子武偵がニカッと笑みを浮かべていた。

 

 

「……あ。いたんですか」

「当然じゃないか! このビスマルク、レキが俺の求婚を受け入れてくれるまで、一歩も引くつもりはないからな!」

「そうですか」

 

 ビスマルクと名乗った男は、キラキラとしたオーラを纏いながらビシッとレキを指差す。その後、「決まった……!」との心の声を漏らしながら、まるで悦に入っているかのようににんまり笑みを浮かべるビスマルク。しかしそんな彼とは対照的に、レキの感情を移さないはずの琥珀色の瞳はまるでブリザードのように冷ややかなものとなっていた。

 

 レキとビスマルクの関係は端的に言えば、キンジとレキのような関係である。レキがキンジに出会う度に高確率で模擬戦を仕掛けるのと似たようなノリで、ビスマルクはレキと出会う度に求婚をする。そして。キンジがレキの戦闘狂な所を厄介だと思っているように、レキもまた求愛行動を仕掛けてくるビスマルクを厄介だと思っているのだ。

 

 

「ところで、こんな所で油を売っていていいのですか?」

「というと?」

「貴方は出撃組でしょう? 先陣を切ってポイントを稼ぐべき貴方がこんな所で何時間も職務怠慢をしていては、ルームメイトに白い目で見られるのでは?」

「……あぁ、レキ。君は俺を心配してくれているのか。なんて優しいんだ。感激したよ! だけど心配は無用だ! 俺のルームメイトなら、俺が欠けてもきっとそこそこの部屋を確保できるだけのポイントを稼いでくれる! だから俺は今日一日レキとずっと一緒にいてあげられるのさ!」

「私としては一刻も早く貴方に立ち去ってもらいたいのですが」

「やれやれ、これがツン、か。もっとレキと親睦を深めれば、デレの部分ももっと垣間見ることができるのだろうね。楽しみだ! ワクワクしてきたぜ!」

「……勝手にしてください」

 

 レキは一歩も引く気配が感じられないビスマルクを前に一言、吐き捨てる。レキが『諦めが肝心』という言葉の意味を身をもって理解した瞬間だった。

 

 

「しっかし、意外だぜ。俺の嫁ことレキがクオリティの高い寮をこんなにも希求して積極的に狙撃しまくるなんてさ。レキはそういうのには頓着しないものだと思ってたぞ!」

「貴方の嫁ではありません。……別に、部屋の内装は何でも構いませんよ。広い狭いもあまり気になりません。ただ、私は寮の最上階を確実に確保できるだけのポイントを手に入れたいだけです。そうすれば、風をより感じられますから」

「なるほど! そういう考えだったか。レキらしい素晴らしい考えだ! さすがレキ!」

「……ここに居座る以上、私の邪魔はしないでください。あと、ついでに背後の警備を担当してくれると助かります。そうすれば、私はスコープに映る敵だけに集中できますから」

「もちろんさ! この俺がいる限り、レキの半径3メートル以内に誰も近づけはしない!」

「じゃあ貴方もさっさと私の半径3メートル以内から出て行ってください。風が汚されてしまいます」

「うごぅッ!? い、今のは中々強力なツンだぜ……」

 

 まるで心臓を弓で射抜かれたかのように、ビスマルクが胸を抑えて数歩後ずさる中。レキは再び狙撃体勢に入る。しかし、ドラグノフのスコープ越しに地上を見渡してみるも、武偵の姿は一人たりとも見当たらなかった。

 

 

「……標的がいなくなってきましたね。あれだけ派手に狙撃しましたし、私の居場所をあらかた推測されたのでしょう。……そろそろ場所を変えましょうか。鋭い武偵ならそろそろここを察知する頃合いです」

「了解だ。――ッ!? レキ、何か来るぞ!」

 

 レキを魅了するために全力で醸し出しているキラキラオーラをしまい、真剣な声色でレキに注意を促すビスマルク。そのあまりに突然な出来事にレキは「え――」と驚きつつも、バッと立ち上がり背後へ視線を持っていく。すると。

 

 

「残念。遅いよ」

 

 どこか底冷えするような女性の声が聞こえたかと思うと、眼前のビスマルクが「ぐぎゃ!?」と悲鳴を上げて屋上を転がり、フェンスに勢いよく体をぶつけていく。フェンスに体を打ち付けられたビスマルクが腹部を抑えてうずくまり何度も咳き込んでいること、ビスマルクを吹っ飛ばしたであろう女性が右足を上げていることを踏まえると、どうやらビスマルクは今目の前にたたずむこの女性の足の裏で腹部を容赦なく蹴られたようだ。

 

 

「ふふッ。今の技、気になる? 今のは『妊娠できない体にしちゃうキック』って言う技でね、最近開発したんだ。ま、今蹴ったのは男だから全然意味ないんだけどね」

「……中空知さんですか」

「へぇ。その様子だとある程度は私のこと、知ってるみたいだね。でも、これまでレキさんと直接顔を合わせる機会なんてなかったわけだし、自己紹介でもしとこっか」

 

 思いっきりビスマルクを蹴り飛ばした影響でずり下がった眼鏡をクイっと上げて、見た目だけなら文学少女そのものな女子武偵こと中空知美咲はニコリと笑みを形作る。

 

 唯一文学少女らしくない所を挙げるとすれば、中空知の両手に、手の甲についている微妙に膨らんだ白の正方形型の何かと、爪先部分の不自然に開けられた小さな穴が特徴的な黒のグローブを装備していることぐらいであろう。

 

 

「私は尋問科Sランクの中空知美咲。趣味は拷問、特技は尋問、好きなことは拷訊。長所は人から的確に秘密を引き出せることかな。こんな私だけど、よろしくね♪」

「……私は狙撃科Sランクのレキ。自他ともに認める、強襲科Sランクの遠山キンジさんのライバルです。趣味は風を楽しむこと。特技は風を感じ取れること。好きなことは風と触れ合うこと。長所は風と一体になれることです。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。それで、早速本題に入らせてもらうけど――お? 私の考え、わかってるみたいだね」

「殺気を隠す気のない時点で察しはつきますよ。尋問科Sランクは23ポイントでしたか。いただかせてもらいます」

「それは私の台詞だよ。狙撃科Sランクの28ポイント、ゲットさせてもらうよ?」

 

 レキと中空知は互いに見つめ合う。それぞれ獲物こそ取り出さないものの、二人によって醸成された剣呑な雰囲気は徐々に濃密な空間を作り出し、素人にはとても踏み込めそうもない結界へと変質していく。かくして。狙撃科と尋問科という、およそ接近戦とはあまり縁のないはずの学科のSランク武偵同士の戦いが、今まさに開幕しようとしていた。

 

 




キンジ→東京武偵高三大闇組織の組織的行動により撃破を余儀なくされたらしい熱血キャラ(笑)
アリア→『この恨み、晴らさでおくべきか』を地で行ったメインヒロイン。今回の一件で滝本発展屋へ対する印象は地に落ちたため、いかなる手段を用いても滝本発展屋に引導を渡してやるとの強い決意を固めたらしい。ちなみに、桔梗とのやり取りの件については92話のおまけ参照。
ジャンヌ→『氷帝ジャンヌ一派』たる女子テニス部の後輩たちを引き連れて寮取り合戦を楽しんでいる厨二少女。ジャンヌちゃんが楽しそうで何よりです。
レキ→最上階の部屋を確保するため、ポイント確保に勤しむバトルジャンキー。何度拒否してもめげずに求婚を仕掛けてくるビスマルクに辟易する一方、その根性は認めている。中空知の接近に気づけなかったのは、レキの居場所を探知した中空知がレキに風で感知されないように細心の注意を払った上で接近していたから。
中空知→随分久々に出番が思いっきり与えられそうな気配を感じるドS少女。しばらく出番のない間に凶悪性がますます増しちゃったようだが、彼女の戦闘能力は未だ謎に秘められている。

■『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラ
②砂原杙杵→読者のアイディアから参戦したキャラ。強襲科Aランク、3年・男。『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員ナンバー002。一人称は『俺』。普段はちょっと達観しているが、今日はその限りではない模様。身長は180cmくらいで体重70kgのちょっとがっちりした感じ。強襲科でスナイパーライフルを持って凸る変人であり、良くFPSゲームで存在する凸砂野郎でもある。クイックショット、早撃ちという技術を持ち、状況によってはハードスコープもちゃんと使う、臨機応変性に富んだ優秀な武偵である。
③ビスマルク→読者からふぁもにかが独断で参戦させたキャラ。強襲科Bランク、2年・男。燃え上がるような赤い髪がトレードマーク。レキに一目惚れし、レキの強さに追いつき、彼女とともに戦い支え合える中になるために、ただいま絶賛特訓中である。

■その他のオリキャラ(モブ)たち
三ヶ島咲良→『ビビりこりん真教』の信者ナンバー004。ウザい喋り方に定評がある。
影縫千尋→『アリアさま人気向上委員会』の委員会ナンバー006。
滝本発展屋の回し者たち→松本屋を憎み、滝本発展屋をこよなく愛する武偵たち。

○「闇の炎に抱かれて馬鹿なっ!」シリーズ
魔久奈(まくな)凛音(りおん)
柔田巣(じゅうだす)璃音(りおん)
那須(なす)莉音(りおん)

○テキトーな名前のオリキャラ作ったったシリーズ
上上(うわかみ)(じょう)
右右(うみぎ)(ゆう)
下下(しもした)(くだり)
枚舞(まいまい)麻衣(まい)
平平(ひらたいら)平平(へいべい)
真真(しんま)(まこと)
角角(かくかど)(すみ)
文文(ふみぶん)(あや)
空空(からそら)(うつほ)
内内(だいうち)(ない)
清清(せいしょう)(きよし)
老老(ふろう)(おい)
辺辺(あたりべ)(ほとり)
値値(あたいち)値値(ねじ)

 というわけで、EX2は終了です。『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラの参入も徐々に本格化しつつありますね。そしてこの度、レキ VS.中空知というドリームマッチが組まれました。いやぁ、この対戦カードは前々からやってみたかったのでこれから執筆する私も超絶楽しみです。どっちに軍配が上がるんでしょうなぁ……。

 それにしても、何だか登場人物の数がとんでもないことになってきましたが、『その他のオリキャラ(モブ)たち』のオリキャラたちは大して重要でない(※特に『テキトーな名前のオリキャラ作ったったシリーズ』)ので、無理して覚える必要とかは全くないですよ? ご安心ください。

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