【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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日常「今回から楽しい楽しい日常回だよ! 皆、楽しみにしていってね! ……って、あれ? 何か雲行きが怪しくなってない?」
シリアス「ま、まだだ……まだ俺様のターンは終了してないぜ……(←満身創痍ながらもっと出番が欲しいあまりに執念で本編に割り込もうとする奴)」

 どうも、ふぁもにかです。今回からは日常回。だと信じていた頃もあったんですが、思ったよりも遥かに文字数が多くなったせいで、単に面白くも何ともない説明回になってしまったでござる。とりあえず地の文の量がヤバいヤバい。



終章 熱血キンジと序曲の終止線
127.熱血キンジと変わる世界


 

「ハァ、暑い。これだから夏って奴は……」

 

 さんさんと無駄に携えた熱気とともに降り注ぐ直射日光が凶悪的な8月11日の昼下がり。遠山キンジは真夏のうだるような暑さに辟易としつつも、目的地へと向けて歩みを進めていた。時折、東京武偵高校周辺の地図を確認しながら、キンジは一人、テクテクと歩いていた。

 

 あの日。シャーロックがアリアへと緋弾を継承し、寿命により死を迎えた運命の7月25日。そのちょうど17日後の出来事である。

 

 

 

 あの後の話をしよう。シャーロックが死に、アリアが号泣する中。死にかけな俺のズタボロな体がついに限界を迎えたのか、俺は空気を読まずにその場に倒れてしまったらしい。

 

 そのことにすぐに気づき、もはや一刻の猶予もないと悟ったアリアはあの小柄な体躯で俺を背負ってボストーク号から脱出。火事場の馬鹿力の為すがままに『クレオパトラ7世のクレオパトラ7世によるクレオパトラ7世のためのブリッジ』を渡ってアンベリール号までたどり着き、息も絶え絶えな状態ながら、カナ姉たち(※この時点でカナ姉の怪我はパトラにより完治されていた)に俺の怪我の治療を必死に要請したらしい。

 

 その際。海外の医師免許を持っているカナ姉が愛する弟の危機を救うために即座に応じ、早速俺の応急処置に取り掛かる傍ら。パトラは俺への治癒能力の行使を一度は渋っていたのだが、すぐに思い直すように「ま、ちゃんと教授(プロフェシオン)に鉄槌を下してくれたことですし……今回だけですわよ」と自分に言い訳するように呟いた後に、俺の治療に参加してくれたらしい。どうやらパトラはカナ姉に治療を施す傍ら、何らかの方法で俺とシャーロックとの戦いを傍観していたようだ。

 

 俺を1秒でも長く延命させるためのカナ姉の物理的な応急処置と、パトラの無限魔力による怪我の根本的治療。カナ姉が俺を死なせないように時間を稼ぎ、その間にパトラが重い怪我から順に治していく。このカナ姉とパトラの共同治療により、俺はギリギリの所で一命を取り留めたようだ。カナ姉とパトラ、そしてシャーロックを失った悲しみがまだ全然晴れていなかったはずなのに、それでも俺を必死にアンベリール号へと運び出してくれたアリアには本当に頭が上がらない。

 

 そうして。パトラによる丹念な治療により俺の怪我が完治した頃。武藤の運転する水上飛行機が到着し、それに乗る形で俺たちはアンベリール号から離れることとなったのだ。

 

 

 しかし、俺は入院しなかったわけではない。パトラの魔力による治療では怪我は治せても失った血までは取り戻せないため、俺は輸血をしてもらう必要があったのだ。さらに。シャーロックとの戦いであそこまで体を酷使して、命を燃やして戦ったことで、何らかの後遺症を患った可能性が否定できなかったため、念のために検査をしなければならなかったのだ。

 

 というわけで、武偵病院にまたしても舞い戻ってしまった俺は2週間もの間、泥のように眠り続けていたらしい。まるでカナ姉の睡眠期のように。それはもうぐっすりと。まぁ、多重ヒステリアモードなんて荒技で神経系、特に脳髄に過大な負担を強いていたのだ。むしろ、2週間程度で睡眠期が終わったことを幸運に考えるべきだろう。

 

 

 そんなわけで。2週間もの長めの睡眠期間を経て、8月8日。病室で目覚め、看護師の葛西さんと再会し、「また会いましたね」なんて話していた俺の元に、待ちかねたかのようにそれぞれ武装検事と公安0課の人間である2名の男が黒スーツに身を包んだ状態でやって来たのだが、あの出来事は俺にとって非常に衝撃的だった。

 

 なぜなら。その黒服男の内の一人が、黒のサングラスこそしていないものの、かつて不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)でヤクザ系統のコスプレをし、理子を『お嬢』呼びしていた連中(※公安0課に所属している)の1人こと――U-1(ウー・アインス)――だったからだ。

 

 彼ら2名は葛西さんを眼力で病室から追い出すと、今回のイ・ウーの件を根掘り葉掘り聞いてきた。イ・ウーの話を知りたいのならアリアやユッキー辺りにでも聞けばよかったのに、どうしてわざわざ俺が目覚めるのを待ったのかと尋ねてみた所、俺以外の全ての関係者は彼ら――武装検事と公安0課――との接触を避けきっていたらしい。要するに。アリアたちは武装検事と公安0課から派遣される、選りすぐりの人員を2週間も撒き続けていたようだ。とんでもない連中たちである。

 

 そうして。俺から聞きたいことを一通り聞き終えた2名の黒服男たちは「事後処理は全て我々が行うから、余計な横槍は入れるな。それと今回のことは永久に他言無用だ」と、U-1(ウー・アインス)が一方的に言い捨てる形で去っていった。

 

 2名の黒服男、とりわけU-1(ウー・アインス)が非常に威圧的だったのは偏にキンジが原因だ。取り調べ開始から数分後、あまりに物々しい雰囲気が耐えきれなかったキンジが場を和ませる目的で「ところで、俺のこと覚えてませんか、U-1(ウー・アインス)さん? 久しぶりですね」などと微笑みを浮かべつつ問いかけた結果、U-1(ウー・アインス)はあたかも自分の性癖が公衆へ晒されてしまったと言わんばかりの焦燥顔を浮かべ、頭に疑問符を浮かべる同僚らしき武装検事に必死に何でもないと釈明していたのだから。

 

 そして。事情聴取を終えた俺はその日の内に検査を受け、後遺症がないことが確認されたために翌日の8月9日に退院することとなった。つまり、今日8月11日は俺が退院してからまだたったの3日目だということだ。

 

 

 俺以外の話も軽く触れておこう。まずはユッキーについて。主にパトラとの戦いで疲弊しまくっていたユッキーもまた俺と同じように武偵病院に入院し、丸1日、死んだように眠っていたらしい。そして、病室のベッドで目覚めてからのユッキーは『入院』という、人がダラダラすることが世間一般的に認められている夢のような環境を手放したくないあまりに、本当は完全に回復しているにもかかわらず仮病で入院期間を長引かせようとしたが、すぐさま葛西さんに見破られ、その日の内にやむなく退院したらしい。ユッキーは平常運行である。

 

 しかし、ダメダメなだけがユッキーではない。どうやらユッキーは退院後に男子寮に戻り、そこでシャーロックの死を受けてすっかり意気消沈しているアリアを見つけ、あっという間に立ち直らせたようなのだ。お見舞いに来てくれた理子がその時のユッキーを「まるで聖母さんみたいだったよ!」と称していたことから察するに、おそらくユッキーは俺が兄さんの訃報を受けて精神的に弱り切っていた時みたいに、上手いことアリアの心に働きかけたのだろう。よくやってくれた。

 

 

 続いて、アリアについて。ユッキーのおかげで立ち直ったアリアはカナ姉とともにかなえさんを助けるために着実に手回しを進めていった。イ・ウー潜入経験により裏社会に精通しているカナ姉が主に裏工作を担当し、アリアが表舞台で奔走する。個人的に少々心配な組み合わせではあったが、この二人のコンビは即席ながら中々上手くやれていたようだ。

 

 

 その結果として。かなえさんの冤罪が証明され、無罪放免となった。8月9日のことである。裁判では、かなえさんに着せられていた全ての罪に対し、シャーロックがあらかじめ取りまとめてくれていたらしい、かなえさんの罪が冤罪だと証明するに足る証拠が次々と列挙されたことで裁判所は騒然となったそうだ。検察側はそれでもなお、かなえさんの無罪を認めず、多少の減刑は妥協した上で有罪判決に持ち込もうとしたのだが、失敗したそうだ。

 

 これは当然だろう。何せ、今までかなえさんに科せられていた懲役864年分の罪が全て冤罪だとの主張が、信憑性の高い数々の証拠とともに打ち出されてしまったのだ。そうなってしまえば、裁判を傍聴していた誰もが、裁判を執り行っていた裁判官の誰もが、かなえさんへのこれまでの印象をひっくり返し、悲劇のヒロインという新たな印象を深く心に刻み込むには十分すぎる事象だっただろう。そして。検察側が足掻けば足掻くほど、傍聴席の人々は、裁判官は検察側をうさんくさいとするイメージを抱いていく。中立の裁判官が明確に検察側を悪だと決め打ちをすることはあり得ないが、それでも判決にこれらの印象が一切影響しなかったとは考えにくい。

 

 そういうわけで、シャーロックの約束通り、かなえさんの冤罪は証明され、かなえさんは無罪放免となった。検察は上訴しなかった。あれだけ裁判中は足掻いていたにもかかわらず、検察側はあっさりと身を引いた。おそらくこの辺にカナ姉の裏工作が絡んでいるのだろう。

 

 

 それからというもの。新聞、テレビ、ネットなど、あらゆるメディア上でかなえさんの件は大々的に報じられ、かなえさんは一躍時の人となった。それはアリアも同様だった。いや、かなえさんより遥かにアリアは有名人となった。母親であるかなえさんが濡れ衣を着せられて以降、一貫して母親の無罪を主張し、長く辛い戦いの果てに母親の無罪を証明しきったアリアの勇姿は英雄視され、もてはやされているのだ。アリアが年不相応ながらも素晴らしく整った容姿をしていることも、アリア人気の一因になったものと思われる。

 

 ゆえに。アリアを擁する東京武偵高やアリア本人へ各メディアから取材や番組出演のオファーがひっきりなしに届くようになった。他にも、アリアの奮闘の軌跡の書籍化や、映画化を目論む動きもあるとの噂だ。東京武偵高はこの動きを歓迎している。「いいぞ、もっとやれ」状態だ。武偵に対する世間一般のイメージの悪さを払拭し、武偵の地位向上に持ってこいの状況だからだ。

 

 一方、アリア自身は生放送の番組にしか出演しない態度を一貫している。下手に取材や番組に応じることで、メディア側に都合のいい改変が入る可能性を考慮しての態度である。そういうわけで。今頃、アリアはニカニカ動画の生放送に出演しているはずだ。

 

 

 一方。アリアが称賛され、ヒーロー扱いされているのとは対照的に、検察は激しく非難されていて、関係者は釈明に追われている。非難の嵐は連日連夜続いており、止む気配を見せない。当然だろう。何せ、かなえさんの冤罪は今までのどの冤罪事件よりも着せられた濡れ衣の規模が違う。

 

 謝罪会見で土下座が行われただとか、検察幹部の誰々が辞めただとか、そんなニュースを耳にする機会が増えた時は、本当に清々したものだ。初めて、『他人の不幸で飯が上手い』という言葉の意味を、身をもって感じることができたものだ。

 

 本当なら、検察だけじゃなく、マスコミ各社も責められてほしい所だった。何せ、これまで散々かなえさんを貶める発言を発信していた立場だったくせに、かなえさんの無罪が証明された途端に瞬時に手の平返しをしやがり、人々の非難の矛先から真っ先に逃れやがったのだから。しかし、俺は深い憤りに震える内心を抑え込むことにした。今はその時ではないからだ。

 

 『シャーロックの情報操作の影響もあったのだろうが、それでもかなえさんを貶めまくった罪は重い。いつか目にもの見せてやるから覚悟しておけよ、マスコミ各社』などと、来るべき時のために怒りを心の内に溜め込んだのは記憶に新しい。

 

 

 ちなみに。『カジノ「ピラミディオン台場」私服警備』の任務については、評価を半減され、0.9単位しかもらえないこととなった。その理由は、営業を円滑に継続させるには至らなかったため。まぁ、あんなジャッカル男たちが大量に乱入し、思い思いに暴れ回った後では営業再開どころではなかっただろうし、半分の単位をもらえるだけありがたいと思うべきだろう。それに、俺の不足単位は0.5単位だけだった以上、進級は確定なのだから。

 

 また、イ・ウーという組織は崩壊した。トップに君臨していたシャーロックが死を迎えることでリーダー不在となり、緋弾が部外者の手に渡った時は解散することを前もって決めていたらしい。まぁ、イ・ウーはルールが存在しない組織だ。ゆえに、メンバーを圧倒的な力で束ねるシャーロックがいなくなった以上、組織が壊滅するのは当然の帰結である。

 

 そして。ボストーク号についてだが、あの船は俺たちが水上飛行機に回収された直後、突如、巨大ロボット型に変形するとともにどこかへと走り去っていったようだ。水面をドシンドシンと踏みつけながら、それでも一切沈むことなく海の彼方へと消えゆくボストーク号の後ろ姿は何ともシュールだったとか。相変わらずのオーバースペックっぷりである。

 

 

 

 

「……ここ、みたいだな」

 

 今回の一件の影響で、上記のように世界が変わりゆく中。地図を頼りにキンジは目的地へたどり着く。そこは8階建てのマンションだった。薄めの茶色を基調にした色合いのマンションは築3年なだけにまだまだ洗練されている印象だ。

 

 

「さてと、乗り込むか。早めに確認するに越したことはないからな」

 

 マンションを見上げていたキンジはそう呟くと、己の武器である小太刀二本が、拳銃が、バタフライナイフがきちんと使えることを念のために確認する。そして。確認を終えたキンジは一つ息を吐くと、マンションへと足を踏み入れていくのだった。

 

 




キンジ→多重ヒステリアモードを使い、命を燃やして戦った反動により、2週間もの間眠り続けていた熱血キャラ。原作と違い、単位不足は解消済み。

 というわけで、127話は終了です。今回は本当に地の文が本編のほとんどを占めていましたね。次話はそういうことはないでしょうから、その辺は安心してください。そして、その地の文でサラッと原作乖離しまくっている件についてですが……優しい世界って素敵やん?


 ~おまけ(一方その頃:あの人はいつも通り)~

 とある都内のテニスコートにて。女子硬式テニス団体戦の全国大会の2回戦が行われていた。団体戦の形式は5試合。シングルス3、ダブルス2の内訳である。

 1回戦を無事に勝ち上がった東京武偵高。2回戦の相手はシード枠の満留臥理威汰学園。昨年度の全国大会でベスト4の成績を残した強敵である。

 この強大な敵に打ち勝つべく、東京武偵高のテニス部部長は初戦のシングルス3に、1回戦では参加させなかった期待の新人を投入する。たった数カ月前に入部したテニス未経験者のはずなのにあっという間にメキメキ成長した2年生を投入する。関東大会ではトラックに思いっきり轢かれたせいで参加できず、しかしそれゆえにどの高校からもノーマークな人物を投入する。


 その人物がテニスコートに入った時、東京武偵高サイドの空気が変わった。


「「「「「「「「「氷帝! 氷帝! 氷帝! 氷帝! 氷帝! 氷帝!」」」」」」」」」

 東京武偵高サイドのテニス部部員たち(※主に1年生)が一斉にコールを始める。
 シングルス3の選手を、氷の女帝だと称し、氷帝コールを辺り一帯に響かせる。


「「「「「「「「「勝つのは氷帝! 負けるの岩崎! 勝者は氷帝! 負けるの岩崎! 勝つのは氷帝! 負けるの岩崎! 勝つのは――」」」」」」」」」

 そのあまりの熱気に、満留臥理威汰学園サイドがつい気圧される中。満留臥理威汰学園のシングルス3である岩崎さん(※金髪幼女かつ弱気な1年生キャラ)が「ひぃッ……」と小さく悲鳴を漏らす中。パチンと、その人物は指を慣らす。その音でコールは止み、静寂が染み渡っていく。いっそ不気味すぎる静寂の中、その人物は高らかにラケットを天へと掲げ、宣言した。


「――我だ」
「「「「「「「「「キャァアアアアアアアアアアア! ジャンヌ様ァッ! キャァァアアアアアアアアアア!!」」」」」」」」」
「クックックッ、ハァーッハッハッハッハッ! さぁ、待たせたな諸君! 我の美技に酔いな!」
「「「「「「「「「キャァアアアアアアアアアアア! キャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」」」

 沸き上がる歓声の中。期待の新人ことジャンヌは実にノリノリだった。悦に入っていた。
 というわけで、何だかんだで武偵高ライフをエンジョイしまくるジャンヌなのだった。


Q.あのー、ジャンヌちゃんってば一体何をやっているんです?
A.テニヌです。

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