【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。いよいよシャーロックさんの前にキンジくんとアリアさんがやって来ちゃうわけですが……この辺は私の執筆力の見せ所ですね。原作既読者だろうと未読者だろうと関係なく、読者の皆さんが「うおおおおおお!」って興奮できるような文章を頑張って構成していきたい所ですが、はてさて、どうなることやら。



123.熱血キンジと予習(物理)

 

 キンジとアリアはともに教会の奥の扉へと足を踏み入れていく。すると、二人の進む先には無骨な鋼鉄の隔壁が鎮座し、キンジたちの行方を阻まんとこれでもかと存在感を放ってくる。しかし。一度アリアが前に立てばあっさりと上下・左右・斜めにウィーンと何枚も自動的に開いていくことから、どうやらアリア自身が隔壁の解除キーとなっているようだ。

 

 そうして。キンジとアリアに立ち塞がる隔壁が全て取り払われた時、二人は思わず己の目を疑った。無理もない。なぜなら、二人の前方には東京ドーム○個分といった表現では表しきれないほどに広大なホールが待ち受けていたからだ。

 

 

(……何だ、ここ。いくら何でも広すぎだろ)

 

 とにかくバカでかく、しかしビックリするほどに何もない空間。下手したらボストーク号の体積よりも大きいかもしれないほどのホールをまず一瞥したキンジは、顔がこわばっているのが自分でもわかっていた。と、その時。物体の存在しない空間の一角がグニャアと歪に揺らいだかと思うと、その空間から古めかしいスーツに身を包んだシャーロック・ホームズが姿を現した。

 

 

「よく来たね。待っていたよ」

「なッ!?」

「ひいお爺さま!?」

 

 いかにも高級そうな革製の肘掛け椅子に座り、扇状に並べられたいくつものパソコンのディスプレイを眺めていたらしいシャーロックはスッと立ち上がり、キンジとアリアの方へと体を向ける。一方、アリアが驚愕に目を見開く傍ら、キンジは内心冷や汗を流す。アンベリール号にて姿を現した時と同様に、またしても間近にいたはずのシャーロックの気配をまるで感じ取れなかったことにゴクリと緊張の唾を呑む。

 

 

「実はちょうど、君たちが来ると凡人な僕なりに推理していた頃だったのだよ。ふむ、僕が素人ながらも磨き上げた条理予知(コグニス)の精度は今日も絶好調らしい」

「……いや、後ろのパソコンにボストーク号の艦内の映像がいっぱい映し出されてる状態でそんなこと言われても説得力ないんだけど。絶対推理してないよな、お前。ディスプレイ越しで俺たちの動きを観察してただけだよな」

「はて、なんのことやら。僕は盲目なんだ。パソコンの画面なんて見えるはずないだろう?」

「とか言ってるけど、思いっきり目ぇ泳いでるじゃん。バタフライしてるじゃん。ウソを吐くならもっとマシなウソにしとけって」

 

 おどけた調子で自身が推理をしていないことをごまかそうとするシャーロックにキンジは冷たい口調でツッコミを入れる。シャーロックにとって、アリアはわざわざ手間をかけてでも手に入れたかった存在のはず。それゆえに。せっかく手に入れたアリアを奪い返した遠山キンジという存在に早速敵意を向けてくるだろうと考えていただけに、シャーロックの言動があまりに拍子抜けだったがための、キンジの冷淡なツッコミである。

 

 

「やれやれ、僕はウソなんてこれっぽっちもついていないというのに……それにしても、さっきのキンジ君の頭突きは中々に凄かったね。映像越しでも、凄まじい威力だということがヒシヒシと伝わって来たよ」

「おい。自白したぞ、こいつ。やっぱり見えてんじゃねぇか」

「こう見えて小心者な僕個人としては、あれでアリア君の頭蓋骨にひびが入ったのではないかと気が気でならなかった所なのだが……アリア君の様子を見るに、どうやら杞憂のようで安心したよ」

「いやいや。確かに本気の頭突きをやったけど、あれでも結構気を遣って頭突きしたんだぞ。万が一にも俺のアリアに後遺症が残ったら一大事だからな」

「えーと、キンジ? その言い方だと、やろうと思えばキンジが相手に後遺症を残せる破壊力を持った頭突きをできるように聞こえるんですが……」

「……」

「ノーコメントですか、そうですか」

「ふむ、沈黙は金とはよく言うが……この状況で沈黙しては肯定と受け取ってくれと声高に叫んでいるようなものだよ、キンジ君。それは愚策ではないのかね?」

「うるせぇよ、自称一般人。ここぞとばかりに得意げに話しかけてくるな」

「やれやれ、酷いな。僕はただ自らが凡夫だという身分を踏まえた上で本当のことを言っているだけだというのに。ねぇ、アリア君?」

「……ひいお爺さま。これはさすがに擁護できそうにありません。一般人がイ・ウーのトップに君臨するなんてまずあり得ませんしね」

 

 キンジ、アリア、シャーロックの三人は会話を交わす。キンジはヒステリア・ベルセの影響で荒々しさを時折含んだ口調で、シャーロックは道化のように、アリアはあくまで冷静さを保ちながら、それぞれお喋りをする。三人の語らいの影響により、とても犯罪組織のトップと強襲科Sランク武偵二名との会話とは思えないほどに和やかな空気になっていたのだが、ここで。アリアがこれまでのふんわりとした空気を終了させるようにスタスタとキンジの一歩前へ歩み出た。

 

 

「……ひいお爺さま。私がひいお爺さまの全てを引き継ぎ、後継者となる件についてですが、断らせてください」

「ほう?」

「ひいお爺さまがせっかく提案してくれたことを無下にしてしまうことについては謝らせてもらいます。本当に申し訳ありません。ですが、貴方は……ま、間違っています」

「……」

「貴方が何を考え、何を為そうとしているかはわかりません。きっと、私なんかでは考えもつかないようなものを見据えた上で行動しているのでしょう。ですが、イ・ウートップになって犯罪行為に手を染めるなんて、間違っています。どうか、思いとどまってください。これ以上、罪を重ねないでください。……お願いします、ひいお爺さま。私は、正しくない貴方を見たくないんです。正義じゃない貴方を見たくないんです。だから、だから――どうか、どこまでも貴方らしい、正しいシャーロック・ホームズに戻ってください」

 

 アリアは若干声を震わせながらも、自身の願いをシャーロックに伝えていく。憧れのシャーロックの間違いを正すため、シャーロックに嫌われるかもしれないという恐怖と戦いながら、アリアは勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。対するシャーロックはアリアの主張を聞き終えた後に「ふむ」と小さくうなずくのみ。どうやらシャーロックにとって、アリアが自身の後継者となることを断ったことは想定の範囲内だったらしい。

 

 

「アリア君。いきなりで驚くかもしれないが……実の所、今日で僕は寿命を迎えるんだ」

「……え? ひい、お爺さま?」

「今日、僕は死ぬ。どれだけ足掻こうと、喚こうと、嘆こうと、本日を以て、平々凡々な僕は死ぬ。人の身にしては少しばかり長い、150年ほどの人生に幕を下ろすんだ。そんな僕が、今際の際になってから、己の考えをコロリと変えると思うかい? 目的を果たすため、100年以上もの長い長い時を費やしてきた僕の道を今更否定すると思うかい? 否定した所で、路線を変更した所で、もう何もかもが手遅れだというのに」

「……思い、ません」

「そうだろう。つまりはそういうことだ。本当ならアリア君の期待する綺麗な僕を見せたい所なのだが……常人な僕はそこまで器用じゃなくてね。だから、僕は僕のやり方を変えるつもりはない。最期の最期まで貫くつもりだ。例えそれが、世間一般に見て鬼畜の所業なのだとしてもね」

 

 アリアは自身の言葉がシャーロックを変えられなかったことに、上手くシャーロックを説得して間違いを正せなかったことに悲しげに顔を歪ませる。その傍らにて。キンジはシャーロックがサラッと口にした発言に衝撃を受けていた。

 

 

(え、マジかよ!? 今日がシャーロックの寿命なのか!? まぁ、ジャンヌからシャーロックの死期が近いとは聞いていたけど……それがまさか今日だったとは思わなかったぞ。確か、もうそろそろ夕日が沈もうとする時間帯だよな? てことは、シャーロックの余命は長くてもあと数時間程度ってことなのか)

「……アリア君こそ、もう一度考えを改めてもらうわけにはいかないだろうか?」

「え?」

「改めて言おう。アリア君、君には僕の後継者となってほしい。……でないと、かなえ君を助けられなくなるかもしれないよ? それでいいのかい?」

「ッ!? お前、それをここで持ち出してんじゃ――」

 

 薄く笑みを浮かべながら再度アリアを自身の元へ引き込もうとするシャーロックにキンジは一瞬で激高する。自らが指示して『神崎かなえ』に濡れ衣を着せておきながら、『神崎かなえ』の件を持ち出してアリアを手中に収めようとするシャーロックの卑劣さを前に、ヒステリア・ベルセを発動中のキンジの怒りはあっという間に沸点に達する。それゆえに。キンジはシャーロック相手に声を荒らげようとしたのだが、その行為はアリアが無言でキンジを手で制したことで中断された。

 

 

「アリア……?」

 

 アリアの行動の真意を確かめるべく、キンジがアリアへと視線を落とすと、アリアの真紅の双眸がキンジをしかと見上げていた。「ここは私に任せてほしい」という強い意志をアリアの眼差しから感じ取ったキンジは、パートナーを信じることにした。シャーロックへの怒りを全力で抑え込み、一歩引くことにした。

 

 

「確かに。ひいお爺さまの言う通り、私がひいお爺さまの後継者とならない形で、イ・ウーのトップにならない形でお母さんを助けるというのは、非常に険しい道のりとなるでしょう。私一人なら、まず無理です。でも、今の私にはキンジがいます。キンジと一緒なら、例え時間はかかっても、最終的には絶対にお母さんを取り戻せる。そんな予感がするんです。何の根拠もない、ただの直感なんですが、それでも私はこの気持ちを信じたいと思います。だから……ごめんなさい、ひいお爺さま」

 

 自身の気持ちを正直にシャーロックへと告げたアリアは深々と頭を下げる。その後。「そうか」という、わずかながら低くなったシャーロックの声色に、アリアはピクリと肩を震わせる。これはひいお爺さまに嫌われてしまったのではないかと、アリアはギュッと目を閉じる。しかし。シャーロックがアリアへ向けて放った言葉は、叱責でも落胆でもなかった。

 

 

「ふぅ、僕はフラれてしまったようだ。……しかし、うん。良い目をするようになったね、アリア君。いい兆候だ」

「ひいお爺さま?」

 

 どこか嬉しそうな声色で言葉を紡ぐシャーロック。どうも怒っているわけでも嫌われたわけでもなさそうだということを踏まえて、アリアが力強く閉じていた目を恐る恐る開けると、口角をわずかに吊り上げて微笑みを浮かべるシャーロックの姿があった。

 

 

「アリア君。君は唐突に現れた僕の甘言に惑い、僕とキンジ君の板挟みに苦しみ、結果としてキンジ君と言葉や武器で衝突することとなった。その濃密な経験は、君を女性として心理的に大いに成長させたようだね。……よし。これで、条件は完全に満たされた。僕の拙い条理予知(コグニス)の導き出した通りの展開だ」

「条件? 何の話だ?」

「ふふふ、今はまだ秘密だよ。時が来たら改めて話そう」

 

 シャーロックの発言の中に気になる部分を見つけたキンジの問いかけに、シャーロックはシィーと指を口元に当てて茶目っ気にあふれた笑みを零す。どうやらシャーロックにとって、俺がアリアと衝突し、アリアを取り戻すことは予定調和だったらしい。

 

 

(クソッ。まるで世界が自分を中心に回ってるみたいな発言しやがって、ムカつくな)

「さて。まだ予定よりもほんの少しだけ時間があることだし……ここはちょっとした暇つぶしといこうじゃないか」

「暇つぶしだぁ?」

「うん。キンジ君に少しだけ予習をしてもらおうと考えているよ」

 

 シャーロックは手に持つ金属製ステッキをクルクルと器用に回しながらキンジを見つめる。と、その瞬間。シャーロックの存在感が、身に纏う雰囲気がまるで別人レベルにまで変質していることにキンジは気づいた。

 

 

(こ、この感覚はさっき兄さんが纏っていたのと同じ……ってことは、まさか――死に際のヒステリアモード(ヒステリア・アゴニザンテ)か!? これは、マズいことになったな)

 

 キンジは内心で舌打ちをする。無理もない。現状において、キンジはヒステリア・ベルセにより通常の51倍にまで増大した思考力・判断力・反射神経だけなら、もしかしたらシャーロックを上回っているかもしれないと考えていた。ゆえに、キンジはこれらの要素を上手く利用してシャーロックと戦うつもりだった。しかし、シャーロックがヒステリア・アゴニザンテを発動させたことでキンジの優位はなくなってしまったも同然なのだ。舌打ちしたくなるのも道理である。

 

 

「君はアリア君と出会ってから、様々なイ・ウーの構成員と戦ってきた。理子君、ジャンヌ君、ブラド君、カナ君、パトラ君。理子君の時はまだそうでもなかったようだが、彼女以外のメンバーと戦った際、君は随分と無茶をしてきた。下手したら死ぬかもしれないというリスクを踏まえた上で敢えて綱渡りを繰り返す形で、勝利を収めてきた。そんな君の戦い方は非常に危なっかしい。とても褒められたものではない。だからといって、僕が君に忠告をした所で、君は君のやり方を変えることはまずないだろう」

「当たり前だ。誰がお前の意見を『はい、そうですね』って受け入れるかよ」

「そこでだ。今からキンジ君には近い将来、君に立ちはだかる敵がどのような技を使ってくるかの予習をしてもらう。事前に戦う相手の情報を知っていれば、君の生存率は大きく上昇することだろうからね」

「……敵に塩を送るような真似しやがって、何が狙いだ?」

「君に早死にされてしまっては困るからね。ただそれだけだ」

 

 シャーロックはキンジの疑問に手短に答えると、金属製ステッキを床に勢い良く叩きつける。すると、ステッキはいとも簡単に粉々となり、その中から眩い光を放つ一振りの片刃剣――おそらくスクラマ・サクス辺りだろう――が現れる。

 

 

「そうだね。今回は『1分間で8種類もの敵の技をお手軽体験コース』で行こうかな。アリア君、君は僕たちの戦いに巻き込まれないように下がっていてくれ」

「わ、わかりました」

「さぁ、キンジ君。僕の胸を借りるつもりで、かかってくるといい」

「……舐めやがって!」

 

 シャーロックはアリアがキンジたちから離れたことを確認すると、にこやかな笑みでキンジに言葉を掛ける。一方。キンジはシャーロックの挑発めいた発言に触発される形で、懐から拳銃を取り出し発砲した。間髪入れずにキンジが放つ複数の弾丸は、当然ながらシャーロックには当たらない。紙一重で銃弾をかわしながらあっという間に距離を詰めてくるシャーロックに対し、キンジは拳銃を仕舞い、代わりに背中から二刀の小太刀を取り出す。

 

 

「シッ!」

 

 シャーロックがキンジの心臓目がけて放ったスクラマ・サクスの鋭い突きをキンジは右手の小太刀を上段から振り下ろすことで、スクラマ・サクスを床へと叩きつける。そして。キンジがお返しだと言わんばかりに「はぁああ!」と左手の小太刀でシャーロックを袈裟切りにせんと斬りかかった瞬間。キンジは突如、左肩を数発、銃で撃ち抜かれたような衝撃に襲われた。

 

「グッ!?」

 

 防弾制服に守られているはずの部分をほとばしる鋭い痛み。キンジはすぐさま左肩を見やるも、カナの時のように防弾制服ごと左肩を撃ち抜かれていないことに脳内に疑問符を浮かべる。と、その時。キンジの視界は宙を飛ぶ水滴を捉えた。

 

 

(水? ってことは、高圧をかけた水で俺を撃ち抜いたって感じか?)

「1つ目は『水』。ほら。よそ見は厳禁だよ、キンジ君」

 

 シャーロックに声を掛けられたキンジがハッと前を向くと、キンジの小太刀により床に叩きつけられたスクラマ・サクスを力技で持ち上げ、キンジの小太刀を持った右手を上へと跳ね上げるシャーロックの姿があった。

 

 

(マズい、バランスを崩された。ここは一旦下がって――ッ!?)

 

 シャーロックにより跳ね上げられた右手はそのままキンジを後方へと引っ張ろうとする。キンジはその右手の勢いに逆らわず、バックステップでシャーロックから距離を取ろうとして、できなかった。なぜなら、唐突にキンジはゾウにでものしかかられたような重圧に襲われ、ついその場に片膝をついてしまったからだ。

 

 

(グッ、体が重い……!)

「2つ目は『重力』」

 

 キンジを中心とした半径1メートル範囲の床が、シャーロックの重力操作の影響でビシッとひび割れを起こしていく中。シャーロックはキンジを見下ろし、スクラマ・サクスを振り下ろそうとする。キンジが何もしなければキンジの首と体を離婚させるであろう斬撃を防ぐため、キンジは無駄に重い体を気力で動かして二本の小太刀を持ち上げようとする。しかし、そのキンジの両前腕にシュッという軽い音が通ったかと思うと、薄い刃物で斬られたかのような傷が生まれていた。

 

 

(マズい、これじゃあ防御が間に合わない! なら――)

「おおおおおおおおおおおおッ!」

 

 両前腕を斬りつけられた状態では重力に逆らってまで両腕を上げることはできない。即座に防御行為を切り捨てたキンジは気合いで立ち上がり、そのまま右足で床を思いっきり踏みつける。すると。重力がキンジを押し潰さんとしていたことも相重なったためにキンジの渾身の震脚はズダァァアアアンとの破壊音を響かせ、広大なホールをグワンと揺らす。

 

 足場を揺らされたシャーロックはバランスを整えるために一旦攻撃を取りやめ、数歩後退する。その後。シャーロックが前を向くと、ひび割れていた床をキンジが踏みつけた影響か、粉々になった床の一部が宙を舞い、キンジの体を隠すように砂煙を形成していた。

 

 

(ふぅ、危なかった。今のは肝を冷やした――ぞッ!?)

 

 キンジを包み込む砂煙が徐々に晴れゆく中。額の冷や汗を雑に拭うキンジは、ゾワリと得体の知れない悪寒に襲われ、第六感に従う形でバッと右へと飛び退く。すると、つい先ほどまでキンジの胴体があった場所を真紅の閃光が貫いていく様をキンジの目は確かに捉えた。

 

 

(はッ? え、何今の? 何今の!?)

「3つ目は『風』。そして4つ目は……『レーザービーム』」

「レーザービームゥ!?」

 

 キンジはシャーロックがニヤリとイタズラっ子のような笑みを携えて放った言葉にキンジは思わず驚愕に満ちた声を上げる。今までの『水』『重力』『風』とは明らかに一線を画した凄まじくチートな技が飛び出てきた以上、キンジが度肝を抜かれるのも無理からぬことである。

 

 と、ここで。キンジはシャーロックの姿がいつの間にか掻き消えていることに気づく。だが、キンジはそのことに動揺せず、ヒステリア・ベルセにより高まった感覚を存分に働かせ、そして背後を振り向きざまに小太刀を横に一閃した。直後。またしてもグニャアと空間が奇妙に歪んだかと思うと、「おっと」という声とともにバッと背後へとジャンプする形でキンジの斬撃をかわすシャーロックの姿が現れた。

 

 

「5つ目は『光』。けど、よく僕の居場所がわかったね」

「その能力だけはもう何回も見てきたからな……!」

 

 感心したように言葉を漏らすシャーロックにキンジは勢いよく言い放つ。そう、キンジは今のような神出鬼没なシャーロックの姿を既に三回も目撃していた。一回目はシャーロックがアンベリール号上に姿を現した時。二回目はアリアを攫ってアンベリール号から姿を消した時。三回目はこの何もないホールから姿を現した時。短い間に三度も立て続けに同じ技を見てきただけに、キンジはシャーロックのこの技に関してだけは対策を講ずることができたのだ。

 

 

(例え『光』を操って俺の目を騙した所で、存在が完全に掻き消えるわけじゃない。シャーロックがヒステリア・アゴニザンテを発動したおかげで居場所を気配で察知しやすくなったのがラッキーだったな)

 

 キンジはシャーロックとの距離が少々開いたということで、再び小太刀から拳銃へと武器を持ち替え、弾倉交換をしつつ再び銃弾を放ち続ける。だが、キンジの放出した銃弾はシャーロックへと到達する前に跡形もなく掻き消えた。シャーロックの前方にて、いきなりボゥ!と白い炎が舞い上がり、銃弾を全て呑み込んだからだ。

 

 

「6つ目は『消滅』。残り2つだよ、キンジ君。ラストスパートだ」

(ちょっ、消滅って……レーザービームといい、初見殺し極まりないのもいい加減にしろよ!?)

 

 キンジはシャーロックの口から飛び出した物騒な言葉を受けて、天へと渦を巻きながら燃え盛る白い炎柱に恐怖を抱く。同時に、あの炎をシャーロックが自分目がけて放ってこなかったことに安堵していると、突如キンジの眼前にバチバチ音を響かせながら迫る緑色の球が映った。

 

 

「いッ!?」

 

 緑色の球をかわすことができずにまともに喰らってしまったキンジは後方へと吹っ飛ばされ、体中を駆け巡る痺れに眉を寄せる。かつてジャンヌが浴びせてきた雷撃を遥かに超えるレベルの攻撃に、キンジはつい顔を歪める。

 

 

「7つ目は『雷』。そして最後は、『爆発』だ」

「ッ!?」

 

 シャーロックの発言が終わると同時に、キンジの目の前の空間がドガンと派手に爆発する。何の前触れもなしの爆発をキンジが防げるわけもなく、キンジの体は爆風に煽られ勢いよく吹っ飛ばされる。そして、キンジは背中から鋼鉄の壁に叩きつけられた。

 

 キンジはあまりの衝撃に「カハッ」と吐血する。肺が全力で押し潰されるような感覚に思わず呼吸ができなくなりながらもシャーロックを決して見失うまいと前方へと視線を向けたキンジの両眼に映ったのは、今にもキンジの首をスクラマ・サクスで突き刺さんとするシャーロックの姿。

 

 瞬間。ガキィィイイイン!という、金属と金属とを激しくぶつかり合わせたような衝撃音が響く。と、ここで。ただキンジとシャーロックの戦いを内心ハラハラとした心情で見つめていたアリアが、キンジが殺されてしまったのではないかと「キンジ!」と声を上げる。だが。アリアの心配は無事、杞憂に終わることとなった。なぜなら――

 

 

「驚いたよ。この大英帝国の至宝を、まさか歯で止められるとは、ね!」

 

 そう、キンジがシャーロックのスクラマ・サクスを歯で噛む形で防いでいたからだ。銃弾噛み(バイツ)の洋剣バージョンを見事に成し遂げたキンジはスクラマ・サクスを持つシャーロックの右手目がけて蹴りを放つも、シャーロックが特に躊躇することなくスクラマ・サクスを手放し、即座に後方へと引いたことにより、キンジがシャーロックに蹴撃を喰らわせることはなかった。

 

 

(ちッ、外したか。……まぁいい、シャーロックの武器を奪えただけでも及第点だ)

「……さて、予習はここまでだ。それにしてもキンジ君、君は凄いね」

「何だよ、嫌味か?」

「いやいや、とんでもない。僕の条理予知(コグニス)では、『1分間で8種類もの敵の技をお手軽体験コース』を終えた頃、君は戦闘不能になっているはずだったんだ。でも君はまだまだ余力を残した状態で今もこうして立っている。僕の条理予知(コグニス)がこうも狂わされたのはいつ以来だろうか。……この辺が凡人な僕と優秀な君との違いって奴なのだろうね」

「お前みたいな凡人がいてたまるかよ。てか、今の超能力のオンパレードは何なんだよ?」

「あれ、言ってなかったかい? 僕はイ・ウーメンバー全員の技を習得済みなのだよ。いや、それだけじゃない。この世に存在するほぼ全ての技を、僕は使えるのさ」

「ハァ!? 聞いてないぞ、そんなの!?」

「ま、これが僕ごときがイ・ウートップに君臨できていた理由の1つということさ」

「……ったく、本当に化け物だな、お前」

「その化け物の猛攻を凌ぎきった君が言えることではないと思うけどね。その言葉、そっくりそのまま君に返させてもらうよ」

「うッ」

 

 シャーロックに言い負かされたキンジは気まずそうにそっぽを向く。そして。キンジは気まずさを紛らわすために先ほど歯で受け止めたスクラマ・サクスをまじまじと見つめ、その一目で名剣とわかるほどに高貴な輝きを放つスクラマ・サクスに思わず感嘆の息を漏らした。

 

 

「しっかし、見れば見るほどいい剣だな。これ、俺がもらっていいか?」

「構わないさ。その剣は僕のような凡俗よりも、君のような義に生きる人間が使ってこそだ」

「そっか。ま、さすがに今回は使う気ないけどな」

(慣れない武器をいきなり実戦登用ってのはさすがに怖いしな)

 

 キンジはスクラマ・サクスを床にザンと突き刺しつつ、前を向く。すると、虚空を見上げていたシャーロックがキンジとアリアを交互に見つめて言葉を紡ぐ。

 

 

「さて。名残惜しいが、時間だ。余興はここまでとして、今から緋弾の継承を始めようか」

 

 シャーロックは両手を広げながら意味深な物言いをする。この時、そのシャーロックの言葉の意味する所を未だ知らず、ただただ首を傾げるキンジとアリアなのだった。

 

 




キンジ→シャーロックさんに原作以上に痛めつけられた熱血キャラ。キンジくんにはよくシャーロックさんの猛攻を耐え凌いだと心から賞賛したい所。
アリア→シャーロックさんへの言葉での説得に失敗した系メインヒロイン。後半部分では空気ながらも今が一番メインヒロインとして輝いている模様。
シャーロック→チートが凄まじく酷い逸般人。とりあえず、現時点で最低でも『水』『重力』『風』『レーザービーム』『光』『消滅』『雷』『爆発』『不可視の銃弾』『ヒステリア・アゴニザンテ』を行使できることが発覚している。やっぱりこの人化け物だわ。

 というわけで、123話は終了です。執筆してて心から思ったけど、シャーロックさんって本当に強すぎですよね。あまりの強さについつい赤松中学さんがシャーロックさん主人公のスピンオフ作品を書いてくれることを期待しちゃうレベルです。あ、もちろんジャンルは『俺TUEEEE』な無双モノでお願いしますね♪(★^ω^)


 ~おまけ(ネタ:もしも緋弾のアリアワールドが「がっこうぐらし!」な世界観になったら)~

● 前提:「がっこうぐらし!」な世界観におけるゾンビの特徴
・生前の記憶の残骸にすがる形で動いている節がある(ここ重要)
・生前の記憶の残骸にすがる形で動いている節がある(凄く重要)
・生前の記憶の残骸にすがる形で動いている節がある(超絶重要)
・音や光に反応して引き寄せられる習性がある(実証済)
・動きは鈍く、階段を上がるのは苦手(大本営発表)
・よく燃える(当社比)
・あっ……(察し)

 その日、世界は一変した。
 何が原因か、世界にはゾンビがあふれ、ゾンビに噛まれる形でどんどん感染が広がり、平和な日常というものは木っ端微塵に粉砕されていった。
 しかし、皆が皆ゾンビとなったわけではない。何だかんだで今の所生き残っている幸運な者もいる。そう。ここ、東京武偵高にも生存者が存在していた。


千秋「……(←そっと保健室の扉を開け、外の様子を確認する男)」
ゾンビーズA~Z「あぁ゛~!(←全員B装備に身を固め、銃を持ち、近くのゾンビと銃撃戦をやらかしちゃってる元強襲科の皆さん)」
ゾンビーズα~ω「あぁ゛~!(←お互いやたらと攻撃的な超能力で凄まじい戦闘を繰り広げちゃってる超能力捜査研究科の皆さん)」
千秋「……(←保健室の扉をそっ閉じする男)」
千秋(無理無理無理無理無理! この状況から脱出とか絶対無理! てか、なんであいつらゾンビのくせに銃使えたり超能力使えたりするんだよ!? ふざけんなよ!? この手のゾンビは一部例外こそあれど、生前より大幅に弱体化してるのがお決まりだろうがッ! くそッ、一刻も早くこの超絶危険地帯な武偵高から出ていきたいのに、まるで脱出できる気がしねぇ!)
千秋「……なぁ峰、そろそろ落ち着いたか?(←保健室の隅っこに視線を向けながら)」
理子「ひぅぅぅぅ!(←あまりの恐怖に体育座り&頭を抱えてガクブルしている少女)」
千秋(ハァ、ビビりの峰は常時マナーモード状態だから探偵科(インケスタ)Aランク武偵の力はまるで期待できそうにないし、これ本気で何をどうしたらいいんだよ!)

 千秋は現状のあまりのどうしようもなさに絶望し頭を抱える。
 神崎千秋と峰理子リュパン四世。2人の生き残りたちの未来やいかに……!?

 『ぶていこうぐらし!』、始まりませんよ?
 だってこれ、どう考えても「つ み で す」しね。

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