【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回、ついにあの! あのアリアさんがお喋りになられます! 106話以降、本編にて一言も話すことのなかったアリアさんがようやくお喋りになられます! リアルタイムにて実に約4ヶ月ぶりにアリアさんがお喋りになられます!

 総員、どうか心の準備を! くれぐれも入念な心の準備をお願いします! あ、これデマじゃないですからね! 『アリアさん喋る喋る詐欺』でもないので皆さん、そう疑心暗鬼にならないでくださいね! ふぁもにかとの約束だよ!

アリア「……」



116.熱血キンジと微妙な幕切れ

 

 パトラが全力で造り上げた新生アンベリール号上に築かれた巨大ピラミッド内の『王の間』にて。キンジのピンチを救済せんとカナが颯爽と乱入し、パトラの足止めを引き受けてくれたことで、ようやく誰にも邪魔されないフリー状態となったキンジはアリアが収められているであろう黄金の棺へたどり着く。

 

 

(アリア、アリア!)

 

 眼前の棺に鍵がかかっていないことを確認したキンジは、無駄に重い棺の蓋を開けようとする。一刻も早くアリアの顔を見たい。他でもない自らのこの目でアリアの無事を確認したい。ただただその一心で、キンジは棺の蓋をとにかく退かそうと両腕に精一杯の力を込める。

 

 と、その時。ズルッという効果音が聞こえたと同時に、唐突に床下から両足を引っ張られたような感覚にキンジは襲われた。

 

 

「ぅえ!?」

 

 まるで予期していなかった事態にキンジはつい自分の口から出たとは思えないぐらいにヘンテコな声を上げるも、キンジは棺のみに注いでいた視点を真下へと移す。すると。いつの間にか、キンジの両足が膝の辺りまでズッポリと床――じゃなくて砂金に埋まってしまっていた。そして。その現象はキンジ限定で発動しているものではないようで、キンジが今まさに蓋を開けようとしていた棺もまた、知らぬ間にその体積の半分が床の砂金に呑み込まれていた。

 

 

(チィッ、やられた……!)

 

 パトラはあらかじめ罠を仕掛けていた。万が一、いや億が一にもアリアを奪われないようにするために、棺の側へとたどり着いた誰かの体重によって沈むタイプの落とし穴を用意していた。その事実を悟ったキンジはギリリとまんまと嵌められた悔しさに歯噛みをする。

 

 既に下半身が砂金に埋もれてしまっているキンジにはただ棺とともにこのまま沈んでいくしか手は残されていない。否、今の状態からでも、どこかに手を伸ばせば、全力で抗えばどうにか落ちずに済むのかもしれなかったが、キンジはその選択肢を選べなかった。アリアの眠る棺を見捨てて、自分だけが罠から逃れる道を選ぶわけにはいかなかったのだ。

 

 

――奴は我と同じく、策士。いくつもの策略を巡らし人を手のひらで踊らせる狡猾な魔女だ

 

 

 と、ここで。キンジの脳裏にパトラについて話すジャンヌの言葉が蘇る。その凄まじい後の祭り具合にキンジはつい「今さらかよ」と呟き、キンジは砂金が目に入らないように目を閉じる。かくして。キンジは棺とともに砂金の中に呑み込まれるのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

(うぅぅ、気持ちわるッ)

 

 全身、砂金に呑まれたキンジは服や靴の中に砂が流入してくる感覚に顔をしかめる。棺が今どの位置にあるのか。この落とし穴はどこへ続いているのか。何も情報が得られないまま、呼吸すら許されない状況なまま、ただ重力に従って落ちていくことしかできないキンジ。だが。キンジにとっての何もできないもどかしい時間は、意外と早く終了した。

 

 突如、ガツンと無機質な衝突音が真下から響いたかと思うと、キンジの両足が砂金の圧迫からスッと消滅する。その現象はキンジの足から頭へ向けて突き抜けるように発生し、すぐにキンジの全身が砂金から解放される。体中を纏わりつく砂金の間隔がなくなったためにゆっくりと目蓋を開けたキンジは瞬時に悟った。今、自分は空中に投げ出されているのだと。

 

 

(床までの距離はそこまでじゃない……これなら骨折の心配はないな)

 

 キンジはこれまで呼吸できなかった分の空気を取り戻すように深呼吸をしつつ真下を見やり、今自分が存在する天井付近と床との距離を確認する。そして。床までの距離が大したものではないとわかったキンジは間違っても頭から床に刺さるなんてバカな着地にならないように気を配りながら、シュタッと難なく着地した。

 

 

(棺はどこに……見つけた、そこか!)

 

 ジャッカルや鷹、猫の頭に人間の体をくっつけた、悪趣味でアンバランスな古代エジプトの神々の巨大な座像がキンジに睨みを利かせるように立ち並ぶ大広間にて。キンジはこの砂金から生成されているであろう座像群が襲いかかってくることを警戒しつつ、重さの関係上、キンジよりも先に大広間へと落ちていったはずの棺を探すために周囲を一瞥する。すると、そう遠くない場所にポツンと存在する棺の姿をキンジはすぐさま視認した。

 

 キンジは駆け足で棺の側まで移動し、やたら重いことに定評のある棺の蓋を退かすために両の手にこれでもかと力を込める。

 

 

(ここまで散々引っ張っておいて実はこの棺の中にアリアがいない、なんてことはないよな?)

 

 今しがた落とし穴という形でパトラの罠に見事なまでに引っかかった影響か、棺の中にアリアが収められているという予測にふと疑念がよぎる中。キンジはようやく棺の蓋を退かすことに成功した。そして。キンジが棺の中に視線を落とした時――そこには、確かにキンジが望んだ存在がすやすやと眠っていた。

 

 

「アリア……!」

 

 キンジの今までの苦労なんて知らないと言わんばかりに安らかに眠る、武偵制服を着たアリアの姿に思わずキンジの顔は綻んでいた。

 

 無理もない。アリアがパトラに酷い仕打ちがされていないかキンジは不安だったのだ。いくらパトラに『私の名に誓って淑女に手荒な真似は致しませんわ』などと言葉を残されていても、それでも心配で心配で、正直な所、生きた心地がしなかったのだ。それだけに、アリアが傷一つない状態で安らかな寝顔を見せていることにキンジはホッと安堵の息を吐く。いや、厳密には先ほど棺がここ大広間まで落下した衝撃のせいか、棺にぶつけたらしい額が薄く赤色になっていたが、これぐらいなら無傷の範疇に含めていいだろう。

 

 しかし、まだ安心しきるには早い。今のアリアは目立った外傷こそないものの、まだ呪弾の件が解決していないのだ。早く対処しなければ、アリアを取り戻すための今までの努力が全て水泡に帰してしまう。と、この時。キンジの視界にふとアリアの唇が映り、キンジはピシリと硬直した。カナからアリアの呪いを解く方法としてアリアとのキスを提示されたことを思い出したからだ。

 

 

(キス、か。……真面目モードなカナ姉を疑うわけじゃないけど、本当にキスするしか手はないのか? アリアは、その……もしかしたらこれがファーストキスになるのかもしれないのに。いや、ファーストキスじゃなかったら眠ってる隙に勝手にキスしていい、なんてことはないけどさ)

 

 キンジはアリアの唇を凝視しゴクリと緊張の唾を呑みつつも、眠っているアリアに許可を求めないまま勝手にキスをすることへの罪悪感を抱える。心臓がバクバクと妙にうるさく鳴っているように感じてならない中、アリアを気遣ったキンジの心にキスをすることへ対する躊躇の念が生まれ、徐々に心のスペースを占めてゆく。

 

 

(えーと、今の時間は午後5時58分。アリアが呪弾を撃たれたのが昨日の午後6時だから、もう時間は残されてない。迷ってる場合じゃないな。……やるしかない。覚悟を決めろ、俺)

 

 キンジは携帯で現在時刻を確認し心を決めると、その場に跪き、棺の中のアリアの背に右手を差し入れてアリアの上半身をそっと起こす。そして。アリアの顔を改めて正面から見据える。

 

 

「……悪い、アリア」

 

 キンジはスゥと目を閉じて、アリアへ心から謝罪する。今回の一件が全て終了し落ち着いた時に、仕方なかったとはいえアリアに勝手にキスをしたことを全部アリアに話して本気で謝る方針を固めつつ、謝罪の言葉を口にする。

 

 

 アリアは俺の暴挙を許してくれるだろうか? 正直、わからない。許してくれるかもしれないし、許してくれないかもしれない。キスのことを隠すことはできる。だけど。アリアに対して、後ろ暗い部分を持っていたくない。

 

 加えて。アリアのファーストキスかもしれないものを奪ったという事実を墓場まで持って行ける気がしないし、カナ姉やジャンヌ辺りがキスの件をうっかりバラしてしまう可能性も否めない。正直、そっちの展開の方が怖い。ゆえに、隠すことはしない。

 

 俺はアリアのことが好きだ。だから、できることならアリアに嫌われるかもしれないことはしたくない。でも、アリアには、死んでほしくない。アリアのいなくなった世界なんて、もう想像できない。想像したくもないんだ。

 

 それに、アリアだってこんな所で終わる気はないはずだ。何せ、まだかなえさんを助けられていない。確かにここ数カ月で立て続けにかなえさんに罪をなすりつけたイ・ウーメンバーを捕えたことで、かなえさんを取り巻く環境は絶望的ではなくなった。だが、まだ安心できる状況じゃない。かなえさんを救えていない、こんな道半ばで終わってる場合じゃないはずだ。だから。だから。

 

 

(俺を恨んでもいい。嫌ってくれていい。だから、頼むから死なないでくれ。そのために、俺はここまでやってきたんだから)

 

 キンジはゆっくりと目を開き、アリアの唇に軽く自分の口を重ね合わせる。好きな異性とのキス。アリアの唇はキンジが想定していたよりも柔らかく、キンジはわずかに目を見開いた。

 

(目を覚ましてくれ)

 

 身体の芯に沸騰しきった血液が徐々に集まっていくような、己がヒスる直前特有の独特な感覚を味わいながら、キンジは願う。眼前の眠り姫が心地よく目覚めを迎えることをただ純粋に願う。

 

(戻ってきてくれ、アリア!)

 

 カナが示したアリアを救う手段を信じ、アリアの復活を信じ、キンジはアリアの頭を優しく抱き寄せ、濃厚なキスをする。ヒステリアモードに切り替わってもなお、キンジはアリアの生還を求めてキスを続ける。傍から見たその光景は何とも神秘的な様相を呈しているのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

(これで、いいのか?)

 

 しばらくアリアに口づけしていたキンジは特に変わった反応を見せないアリアの様子に不安を抱きつつも、アリアの頭を抱き寄せていた両手の力を弱め、アリアの顔との距離を放す。キンジが再び携帯で確認した所、現在時刻は午後6時1分。タイムリミットは過ぎたにも関わらず、アリアは今も安らかな寝息を立てて眠っている。胸をわずかに上下させて呼吸をする様子からはとてもアリアが呪弾の影響で死んだとは思えない。

 

 

(呪いは解けたと考えて良さそうだな。良かった……)

 

 呪いも解除し、アリアの身柄を確保している。そんな望ましい状況にキンジは今度こそホッと肩を撫で下ろす。状況的にはゆったりとしている暇はないのだが、抵抗する間もなくヒスった今のキンジはアリアを慈しむようにアリアの桃色の髪を軽く撫でる。

 

 

(これでどうにか山場は越えたな。それにしても……何かここ最近の中で、初めてまともにヒステリアモードになったように思えるんだが、気のせいか?)

 

 アリアを無事救えたがゆえに緊張の糸が切れたキンジはアリアから視線を外さないままふとした疑問に首を傾げる。と、その時。ふとした拍子にキンジは自身の周囲が淡い緋色の光にうっすらと包まれていることに気づいた。その奇妙な光の光源はキンジのポケットらしく、キンジはひとまずアリアの体を仰向け状態でそっと寝かせると、ポケットの中にあるものを取り出す。その中身は、バタフライナイフだった。

 

 

(これは……どういうことだ? さっきのカナ姉の発言からして、アリアとのキスで呪弾の呪いを解く関連で、何かバタフライナイフに変化が起こったのか?)

 

 緋色の光を灯すバタフライナイフ。光自体に熱が込められているわけではないようで、触っても熱さの感じられないそのバタフライナイフを前に、キンジはカナの『なら、そのナイフを持ったまま今すぐアリアとキスしてきなさい』発言も踏まえて、わけがわからないながらも現状をどうにか把握しようとする。

 

 が、しかし。キンジの思考はここで中断された。ここまでずっと無反応だったアリアの口から「ん……」と小さく声が漏れたからだ。そのため。キンジはバタフライナイフの件を頭の隅に追いやりつつバタフライナイフをポケットにしまい、アリアを見やる。すると、ゆっくりと上半身を起こすアリアの姿が、確かに目の前にあった。

 

 

(良かった。目覚めてくれた……!)

 

 キンジは内心では歓喜に震えながらも、その感情を全面的に前に出してしまう形でアリアを驚かさないように努めて平静を装うことにした。この辺りの女性への小さな気配りこそがヒステリアモードをヒステリアモードたらしめる一端なのだろう。

 

 

「ぅ……ここ、は……」

「アリア、大丈夫か? どこか体の調子がおかしい所とかあるか?」

「キンジ? あ、いえ。特に問題は……あれ? 確か私、松本屋の会議に参加して、それで――」

 

 キンジの問いかけにアリアは寝ぼけ眼を向けながら返答しようとするも、同時によみがえってきた記憶に気を取られ、疑問をポツリポツリと口にしていく。対するキンジは、確かにパトラに攫われる直前のアリアはそんなことをやってたなぁ、と懐かしい思いに駆られていた。たった24時間前のことなのにもう随分と昔のことのように思えてしまうのは、キンジがアリアを助けるために必死に困難を乗り越えてきたからであろう。

 

 

「――ッ!?」

「思い出せたかい?」

「……ここで悠長に話をしている状況じゃなさそうですね。キンジ、私はどうすればいいですか?」

 

 砂人形に潜んでいたコーカサスハクギンオオカミの不意打ちにより意識を刈り取られたことまで思い至り、ハッと目を見開くアリア。そのタイミングを見計らいキンジが声をかけると、アリアはキンジに判断を仰いできた。

 

 本当は何がどうして今の状況になったのか聞きたいはずだ。現にアリアはキンジに目線を向けつつも、チラッチラッと棺の方にも目を向けている。自身が棺の中で目覚めたことを非常に気にしているようだったが、それでも今敢えてキンジに事情を尋ねない辺り、アリアが強襲科(アサルト)Sランク武偵のスペックを持っている証左と言える。

 

 

「そうだな……」

 

 キンジからの指示を待つアリアを前に、キンジは自分たちの今後取るべき行動について思案する。選択肢は2つある。上の階へ戻ってカナ姉たちと合流するか。それとも、俺がアリアを連れていち早くアンベリール号から離脱するかだ。

 

 選ぶとしたら後者だろう。そもそも俺やユッキーがここアンベリール号へ乗り込んだのはアリアを助けるためだ。そのアリアを確保できた以上、長居はすべきじゃない。カナ姉がパトラに敗れそうにはとても思えなかったことや、白雪については白雪信者のジャンヌに任せておけば悪いようにはならないことを考えても、後者を選ぶのが妥当な所だ。

 

 だが、決して忘れてはならない。パトラが築いた巨大ピラミッドが鎮座している以上、ここはあくまでパトラのホームグラウンド。カナ姉は完全にアウェイなのだ。助太刀の必要はないだろうが、万が一のことを鑑みて上階の様子を確認した方がいいだろう。

 

 

「上に白雪たちがいるから、まずは合流しよう」

「了解です」

 

 アリアは1つうなずくと、棺の縁を掴んでひょいと棺から飛び出るようにジャンプし、身軽にシュタッと床へと着地する。自身の今の体の調子を確かめる意味合いを込めたらしいアリアの華麗なジャンプを見るに、アリアは平常運行のようだ。

 

 グッと膝を曲げる形で着地したアリアをよそにキンジはその場に立ち上がると、アリアに手を差し伸べアリアを立ち上がらせようとする。だが、ここで上空から迫りくる何らかの物体を察知したキンジは拳銃を真上へ掲げて3回発砲する。結果、キンジを空から強襲しようとしていた3羽の砂金の鷹はその体を銃弾により貫かれ、物言わぬ砂塵と化していった。

 

 

「止まりなさい! これ以上、勝手は許しませんわッ!」

 

 キンジが3羽の鷹の処理をしている隙に、キンジたちが落ちてきた穴を利用して天井からスタッと着地したパトラが怒号を響かせる。まさかのパトラの登場に一瞬、『まさかカナ姉が負けたのか!?』と焦るキンジだったが、眼前に立ち塞がるパトラの様子を視界に移した所で一転、安堵の表情を浮かべた。

 

 ぜぇぜぇと荒い呼吸を隠す余裕もないらしく、しきりに肩を上下させ、だらだらと流れる汗を乱暴に拭うパトラ。よほどカナ姉との戦いに心身ともにすり減らしてきたことが容易に読み取れる今のパトラを見れば、カナ姉の敗北がまずあり得ない可能性だと断定するのに十分だった。

 

 

(となると、パトラはカナ姉との戦闘から逃げたんだろう。きっと、あの部屋には俺たちが掛かった落とし穴以外にも逃げ場所をいくつか前もって確保していたんだ)

「随分と疲れているみたいだな、パトラ」

「う、うるさいですわね! 黙りなさい!」

 

 キンジの言葉に反発するようにパトラはまくし立てるも、息が全然整ってない状態で言葉を重ねた影響か、すぐにゴホッゴホッと咳き込む。あまりに体力的に死に体なパトラにキンジが若干同情の念を抱き始めた頃、咳が収まったパトラがギンとキンジを睨みつけた。

 

 

「今すぐ神崎・H・アリアさんを引き渡しなさい。そうすれば、貴方は特別に見逃してもよろしくてよ?」

「それは聞けない頼みだな。俺たちがここへ来た目的を忘れたのか、パトラ?」

「なら、その足手纏いを守りながら私を撃退するとでも?」

 

 パトラは相変わらず荒い呼吸のまま、それでも一瞬にして次々とジャッカル男たちを次々と召喚し、キンジとアリアを取り囲ませる。何体かのジャッカル男は頭がデコボコになっていたり腕が異常に細かったりと明らかに欠陥品と呼べる状態だったが、だからといって戦闘能力が著しく落ちているようにはキンジには思えなかった。

 

 

(さて、この包囲網をどう突破する?)

 

 キンジはヒステリアモードの効果により通常の30倍にまで引き上げられた思考力で現状打破の方策を見つけ出そうとする。パトラにあらかじめ没収されていたらしく、今現在武器を持たない丸腰のアリアを守りつつも今度こそ確実にパトラを倒す方法を模索する。

 

 

(次こそはパトラを倒せるか? 俺にこの軍勢からアリアを守りきることができるのか? いや、守るんだ。今度こそアリアをパトラの魔の手から守りきってみせる!)

「キ、キンジ……」

「心配しなくていい。俺が守る」

 

 キンジはかつてパトラの手のひらで踊らされ、むざむざとアリアを奪われた悔しさを思い出し、心の奥で決意を固める。そして。今の自分が武器を持っていないことに気づき、不安そうにキンジを見上げるアリアにキンジは短い言葉でアリアに語りかける。

 

 いつキンジとアリアを取り囲むジャッカル男たちが襲いかかってきても何もおかしくない、どこまでも緊迫した状況。だが。今まさにパトラがジャッカル男たちをキンジとアリアに突撃させようとした瞬間、異変が起こった。

 

 唐突にパトラの生成したジャッカル男たちの体が崩れ落ち、一斉に砂金の塊へと戻ったのだ。ジャッカル男たちだけではない。周囲に立ち並ぶ古代エジプトの神々の巨大な座像も、そしてパトラの着ていたドレスさえも砂金へと還っていく。

 

 

「な、ななななな――!?」

 

 自身の魔力で構築していたドレスが消失し、ただの薄い下着姿になってしまったパトラはいきなりの衝撃展開にただただ目を剥き、恥ずかしさから赤面する。

 

 

「クッ、超能力が使えない!? どうして――」

「――ここにいたのね。捜したわよ、パトラ」

 

 よほど焦燥の念に駆られているのか、自身の状態を余裕でキンジとアリアに聞こえるほどの声量で口にするという、策士としてはあるまじきミスを犯すパトラ。その背後からニュッと忍び寄るように届けられた声に、パトラがつい条件反射で振り向こうとした直後、これまたパトラの背後からヌルリと突き出た手がパトラの頭をガシッと鷲掴みした。

 

 

「カナ姉!」

 

 「ひぅ!?」という小さな悲鳴を上げるパトラをよそに、パトラの頭を右手で力強く掴むカナの姿を視認したキンジは『カナ姉がパトラに敗北した』という、元々可能性は低かったものの、最も考えたくなかった仮説が今ここにおいてはっきりと否定されたことに一安心する。

 

 ちなみに、キンジは自身の隣で「あの人は金一さんですよね? どうしてここに……?」と誰に問いかけるでもなくタダ疑問を口にするアリアを自然とスルーしていることに気づいていない。

 

 

「ふふふ、相当ピラミッドの立体魔方陣に頼っていたみたいね? まさかここまで貴女を無力化できているとは思わなかったわ。貴女を追うより先にピラミッドを壊したのは正解だったかしら?」

「なぁッ!? そ、そんな!? う、ウソですわ!? あり得ませんわ!? 貴女にあれだけ巨大なピラミッドを破壊できるだけの力があるわけ――」

「ええ、ないわ。だから私には無理ね。ジャンヌにも無理。力に物を言わすパワータイプじゃないもの。だからダメ元で白雪さ……えと、ユッキーって呼んでほしいんだったかな? とにかく、彼女にお願いしてみたらピラミッドの上部分をズパッと斬ってくれたわ」

「……そんな、そんな、ことッ!?」

「信じる信じないは任せるわ。それにしても、炎も氷も使えて、我流の剣術も開発済み。しかもここに構築された巨大ピラミッドを軽く破壊できるあの絶技……どうして超人ランクの100位以内に名前を連ねていないか不思議なくらいよね、あの子。若者の人間離れとはまさにこのことね」

 

 カナの発言を受け入れられず狼狽の色を隠せないパトラに、カナは文字通りの満面の笑みを浮かべながら事情を簡単に説明する。カナの話から察するに、どうやら上階にて白雪がいい意味でとんでもないことをやらかしてくれた結果、パトラの無限魔力が封じられたようだ。

 

 

「さて、話はこの辺にしておいて……お仕置きの続きをしないといけないわね」

「ま、待ってくださいまし、カナさん! 私は――いぃッ!?」

「問答無用。一度ならず二度までも、私の目の前でキンジに手を出そうとした罪は重いわ。さぁ、始めましょう」

 

 どうにか命乞いをしようとするパトラの発言を遮るために、カナはパトラの頭を鷲掴み中の右手に存分に力を込める。その後。ミシミシと骨が軋む音と同時に襲いかかる激痛にパトラが悲鳴を上げている隙に、カナは言いたいことを全て言い終えると、「ふふふ♪」と人の恐怖心を抉り出すにたるレベルの底冷えするような笑い声を漏らした。

 

 

 後にキンジは語る。あの時のカナの表情は、悪魔すら素足で逃げ出すほどの威圧感を放っており、それゆえにあのパトラが涙目で「ひ、ひぃぃいぃいいいいいいいいいい!?」と裏返った声で絶叫するのも当然の帰結だったと。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 数分後。カナの容赦ないお仕置きの結果、パトラはすっかり変わり果てた姿となって横たわっていた。さっきまで敵対していたキンジですら同情&合掌してしまうほどに凄まじいカナのお仕置きをその身に受けたパトラは、彼女の名誉のためにモザイク処理をした方がいいのではないかと思えてならないほどに名状しがたい何者かに姿を変えていた。これでパトラが死んでいないのは何かの奇跡、あるいはギャグ補正の結実なのだろう。

 

 この何とも形容できない哀れな姿を大広間に晒し続けることは、嫌でもこのあられもない姿が視界に入るキンジたちにとっても、キンジたちに見られているパトラにとってもよろしくない。そのような考えの元、キンジはパトラの体をそっと持ち上げ、近くに転がっている、ついさっきまでアリアの収められていた棺桶の中にそっとパトラの体を安置する。そして。やたら重いことに定評のある蓋を全力で持ち上げ、パトラを完全に棺の中に封印した。これが今のパトラに対するキンジの精一杯の配慮なのだろう。

 

 

 かくして。アリア奪還を目的としたキンジたちとパトラとの戦いは、一時は苛烈を極める激闘の様相を呈したものの、最終的には実にあっけない形で終幕となるのだった。

 

 




キンジ→異性とのキスという何ともまともな形でヒスった熱血キャラ。ついでにロリコン属性も獲得した模様。原作ではよくあるタイプのヒスり方だが、この作品では今後キスでヒスる可能性は極めて低かったりする。ヒステリアモードになったため、今はユッキーを『白雪』と呼んでいる。
アリア→ここの所ずっと棺の中に封印されていたメインヒロイン。原作ではこの辺で一気に存在感が濃くなるはずが、この作品では展開の都合上、緋弾イベントを消滅させたので存在感が薄いままとなってしまった。桃髪の子かわいそう。
カナ→絶対パトラにお仕置きするマン(?)と化していた男の娘。パトラに思う存分お仕置きできたので、今はとっても満足している模様。キンジ曰く、あの時のパトラと尋問科(ダギュラ)Sランク武偵たる中空知美咲との姿が一瞬だけダブって見えたとか。
パトラ→命からがらカナから逃げ延び、キンジたちの元へとやってきた貴腐人。カナの相手ですっかり疲れ果ててしまった影響か、深窓の令嬢チックな落ち着きっぷりはどこへやら状態となっていた。……とりあえず、ご冥福をお祈りいたします。

キンジ「アリアとキスしてヒスるってことは、もうロリコンを否定できないな。これで俺もヘンタイの仲間入り、か……いや、待て。これはあくまでアリア限定の話で、アリアでヒスるからって他の全ロリっ娘相手にヒスるようになったわけじゃない、はずだ。だったらこれはロリコンじゃなくて、アリコン……いやこれだと語感が悪いな。リアコンだ。リアコンだから大丈夫。俺は正常だ(`・ω・´)」
ふぁもにか「リアコン乙」

 というわけで、116話終了です。キンジくんとアリアさんのキスシーンに関しては当初は長々と、それはもう長々と描写するつもりだったんですが、私のあまりの語彙力のなさ故に、渋々簡単な描写のみに留めることになっちゃいました。何てこったいヽ(°∀°)ノ

 にしても、数ある緋弾のアリア二次創作において、キンジくんが原作4巻終盤まで一回も女性とキスをしなかったのはおそらくこの作品ぐらいでしょうね。とはいえ、アリアとキンジが同じベッドで就寝する話とかは既にやっちゃってますけどね(※40話参照)。順番間違えてませんかねぇ、キンジくん?

 そんなわけで、最後に一言。緋弾なんてなかった、いいね?(笑)


 ~おまけ(ネタ:もしもパトラがカナから逃亡した後の展開がアレだったら)~

 時は少々さかのぼる。
 キンジたちのいる大広間の上階に位置する『王の間』にて。
 パトラが命からがらカナから逃げ延びた後。

カナ(やれやれ、逃がしちゃったわね。さすがにパトラのホームグラウンドじゃ、彼女を一か所に繋ぎ止めるのは厳しかったみたいね。追いかけた所でまた逃げられたらいたちごっこにしかならないし、かくなる上は――ちょっと派手な手段を選んでみようかしら)
カナ「白雪さん、1つお願いがあるんだけど……いいかしら?」
白雪「えーと、私のことはユッキーって呼んでほしいな。それで……」
白雪(確か、今の口調の時は『お兄さん』って呼んでも反応しないんだったかな?)
白雪「お願いって何かな、カナさん?」
カナ「へとへとな所悪いんだけど……もしもまだ力が残っているのなら、この建物(ピラミッド)を破壊してほしいの。そうすれば、ピラミッドを利用した無限魔力に頼り切っているパトラの戦力を大幅に削ぎ落とすことができるわ。……できるかしら?」
白雪「……私一人じゃ、無理かな。もうほとんど力使い果たしちゃったもん。でも、デュラちゃんが協力してくれるなら、いけるよ」
ジャンヌ「わ、我がですか!?」
白雪「うん。デュラちゃん、アレをやるよ」
ジャンヌ「アレって、まさかあのアレですか!? 炎と氷、相反する属性同士をぶつけ合うことで消滅の力を生み出し解き放つ、あの技……!?」
白雪「正解。てことで、デュラちゃん。準備はいい?」
ジャンヌ「はい! いつでも大丈夫です!」
ジャンヌ(ユッキーお姉さまとの共同作業! ユッキーお姉さまとの共同作業! ユッキーお姉さまとの共同作業! ユッキーお姉さまとの共同作業!)
白雪「じゃ、いくよ。せーのッッ!!」

白雪&ジャンヌ「「極大消滅呪文(メドローア)!!」」

 白雪とジャンヌは息を合わせ超能力を行使した。
 メラゾーマ(白雪の炎)とマヒャド(ジャンヌの氷)が混じり合い、メドローアとなる!
 結果、光の柱が撃ち放たれ、光の柱が通過した軌跡上の物体は完全に消滅。
 かくして、巨大ピラミッドの上部分がメドローアにより跡形もなく消滅するのだった。

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