【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。最近、連載速度がテラ遅いことに定評のあるふぁもにかです。いや、理由はちゃんとあるんですよ? ぶっちゃけ、パトラ戦とその後の1戦をどう展開しようか数日前まで全然思い描けなかったがために、戦闘シーンが白紙状態のままキンジくんとユッキーをパトラさんと会わせるのを躊躇してしまっていたわけです。

 でも、数日前。ようやく天啓が閃き、大体の構想がようやく組み上がったので、今後はちゃっちゃと続きを更新できる……と信じたい!(←あくまで断言しない連載者のクズ)



110.熱血キンジとやる気巫女

 

 平賀文からオルクス操作方法のレクチャーを受けたキンジは後部座席に白雪を乗せ、理子・武藤・平賀・ジャンヌ(※Sky●e越し)に見送られる中、オルクスを出航させた。ちなみに。既にキンジのヒステリアモードは解けている。

 

 単眼式のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示される情報を元にキンジが軽く操作をするだけで、オルクスは段階的に水中を突き進むスピードを上げていく。出航当初は時速90キロ程度だったにもかかわらず、出航から数時間経過した今では時速300キロにまで到達していたりする。

 

 

(ホントすっごいよな、この潜水艇。……これを3時間そこらで作り上げた武藤と平賀がいかにおかしいかがよくわかるな、うん)

 

 キンジがほんの少し操縦桿を調整する。時折計器を見て異常がないか確認する。その程度の操舵であらかじめ設定した目的地までちゃんとたどり着くよう機能が自動化されている上に、ほぼ無音で水中を突き進むオルクス。その凄まじい性能にキンジは内心で驚嘆しつつ、改めて武藤と平賀のチートスペックっぷりに戦慄する。

 

 と、ここで。キンジは思い出したように後部座席の白雪の方へ振り向く。ここしばらく何一つ話さない白雪のことが急に心配になったためだ。しかし、キンジの心配は単なる杞憂に終わった。なぜなら、白雪はスッと目を瞑った状態でこくりこくりと船を漕いでいたからだ。

 

 

(あ、何だ。眠ってたのか。まぁさっき車輌科(ロジ)のドッグへ向かう時も熟睡中の所を起こしちゃったし、無理もないか)

 

 アリアの居場所を占いで特定し、キンジの怪我を献身的に治してくれた白雪が疲れていないわけがない。それゆえに。本当ならもっと白雪を寝かせておくつもりのキンジだったが、ここでふと聞きたいことが生まれたため、「ユッキー」と優しく声をかける。

 

 すると。随分浅い眠りだったのか、一度名前を呼んだだけで白雪はうっすらと目を開けながら「キン、ちゃん? どうしたの?」と間延びした声で尋ねてきた。

 

 

「ユッキー、ちょっと正直に答えてくれないか? ……もしも俺がパトラと戦った場合、勝率は何パーセントだと思う?」

「……むー、3%ぐらい?」

「その心は?」

「だって、パトラちゃんって物量に物を言わせる感じで超能力(ステルス)を使ってくるタイプっぽいから、キンちゃんだと物量を対処しきれずに厳しくなるんじゃないかなぁ?」

「なるほどな」

(確かに、あの時もジャッカル男や鷹を量産して仕向けてきたし、戦い方を考えないと超能力(ステルス)なしの俺じゃきつそうだ。ってか、仮にも元イ・ウーナンバー2の強敵を『ちゃん』付けするとか、やっぱりユッキーは大物だよなぁ……)

 

 まだ目覚めたばかりなため、トロンとした表情でキンジの問いに応じる白雪。対するキンジは白雪の意見を元にパトラの対処方法を模索しつつ、相変わらずマイペースな白雪につい苦笑した。

 

 

「じゃあ、ユッキーがパトラと戦ったら?」

「うーん、やっぱり厳しいね。『ほのお』タイプの私と『じめん+いわ』か『じめん+ゴースト』っぽいパトラちゃんとじゃ相性がよくないからね。それにもし相手がHP特防特化の耐久パトラちゃんだったら、私のタイプ一致ほのお技でもまともにHP削れないだろうし、やけどを狙うのはさすがに賭けすぎる。防御が紙だってことに期待して『つじぎり』や『きりさく』やるにしても賭けなのは変わらないってのも大きいね。あとはパトラちゃんがどんな技を使ってくるかにもよるんだよね。特性『すなあらし』を持ってて『めいそう』や『みがわり』は使えそうだし、『どろかけ』や『みらいよち』に『サイコキネシス』も使えそう。『トリックルーム』なんてやられちゃったら確実に私が後攻になっちゃうしなぁ。私にも積み技ないことはないけど、『こうそくいどう』と『つるぎのまい』じゃなぁ。『りゅうのまい』とか『めいそう』とか『ちいさくなる』とか『かげぶんしん』とかもっと練習しとくんだったよ。まぁとにかく、パトラちゃん相手に『いちげきひっさつ』技や確定2発に持ち込める技がないのがやっぱりきっついよ。『ねむる+カゴの実』所持で1回は即効で回復できるけど、結局ジリ貧になるだけだし――」

「待て待て、一体何の話をしてるんだ?」

「えーとね。要するに、私の超能力(ステルス)とパトラちゃんのとは相性が悪すぎるし、パトラちゃんの超能力(ステルス)には手数がある。それにパトラちゃんはピラミッド型の建物を無限魔力の立体魔法陣として使ってて、ピラミッド型の建物が近くにある限り無尽蔵に魔力を使えるってことを考えると、よっぽど慢心してくれない限りパトラちゃんには勝てないと思う。勝率は10%ぐらいかなぁ?」

「わかった。それさえわかれば十分だ」

(ま、今回の相手は言ってしまえば頭脳戦のできるブラドと戦うようなもんだからな。勝率が低くて当然か)

 

 白雪の推察を聞いたキンジは視線を白雪から前へと移す。分の悪い相手との戦い、しかし絶対に負けの許されない戦いを前にキンジは鋭く前を見据える。

 直後。何を思ったか、白雪が「ギュー!」と擬音語を口にしながら抱きついてきた。キンジの体を後ろから両腕で抱きしめるようにして。

 

 

「な、ユッキー!? いきなりどうした!?」

 

 いきなりのことで動揺したキンジは目線だけ後ろへ移動させつつ白雪へ問いかける。しかし、ヒステリアモードになりかねないから動揺しているのではない。白雪の唐突な行動の意図が掴めないがゆえの動揺である。最近こそ鳴りを潜めているものの、一時は白雪のお風呂の世話をしながらヒスるのを防いできた結果、白雪限定で耐性のついているキンジに隙はなかった。

 

「んー。せっかくだからキンちゃんからご利益を分けてもらおうと思って」

「ご利益って、俺は何かの神様かよ」

「えへへ、デュラちゃんが言ってたよ。キンちゃんはここぞという時に絶対に負けない主人公補正を持ってる人だって。……今回は絶対に負けられないからね。何が何でもパトラちゃんは私が倒さないといけないから、今の内にキンちゃんパワーをいっぱい蓄えちゃおうかなって♪」

「ユッキー、変に気負うことないぞ。俺もいる。一緒に戦えばパトラにだって勝てるさ」

「いや。パトラちゃんの相手は私に任せてほしいな、キンちゃん。それよりキンちゃんにはアーちゃん救出を優先してほしい」

「……人質に取られるかもしれないからか?」

「そーゆーこと。パトラちゃんはプライド高そうなイメージだからあまり可能性はなさそうだけど、それでもアーちゃんを盾にされたらどうしようもなくなっちゃう。だからまず第1にアーちゃんを取り戻さないといけない。それにアーちゃんさえ取り戻せたら、場合によってはパトラちゃんを倒さずに逃げるって選択肢もできるしね」

 

 白雪はキンジを抱きしめる両腕にさらに力を込める。キンジから『キンちゃんパワー』なるものを少しでも多く搾り取ろうとする。口ではシリアスなことを言っているのに、発言と行動がチグハグで緊張感の欠片も感じさせない辺りは、さすがのユッキークオリティである。

 

 

「大丈夫だよ、キンちゃん。今回の私は本気だから。打倒パトラちゃんのために色々手段だって用意してる。勝てるよ、キンちゃん。私たちはパトラちゃんに勝ってアーちゃんを取り戻すんだ」

「……いつになくやる気満々だな、ユッキー」

「もっちろん♪ だってこの状況、私がデュラちゃんに攫われかけた時と似てると思わない? ……ずっと恩返しがしたいって思ってた。あの時、私を助けに真っ先に来てくれたキンちゃんとアーちゃんの助けになりたいって思ってた。だから、今度は私が助ける番。……私は勝つよ、キンちゃん。パトラちゃんに、私の大事なアーちゃんに手を出したらどうなるか思い知らせてみせるよ」

 

 白雪はキンジの体を抱きしめていた両腕を解いて腕を組むと、不敵な笑みを浮かべて「クックックッ」と笑う。おそらくジャンヌの真似をしているであろう白雪を見ている内に、キンジは自分がいつの間にか自然体でいることに気づいた。

 

 

(変に気負っていたのは俺の方だったってことか)

 

 俺はパトラからアリアを救うという形でカナ姉の期待に応えようとしていた。カナ姉のため、強大な力を秘めるパトラ相手に何としてでも勝利しなければと考えていた。ユッキーはそんな俺の心情を察したのだろう。だから、不意に抱きつくという相変わらず突拍子もない方法を使って、俺に落ち着きを取り戻させた。

 

(ユッキーのこういう所に俺はこれまで救われてきたんだよな……)

 

 キンジはスゥと軽く目を閉じる。かつてアンベリール号沈没事故発生後に精神的にズタボロだった自身の側にいてくれた白雪のことを思い出す。

 

 本当なら俺がパトラと戦いたい。俺がパトラを倒して、カナ姉の期待に全身全霊で応えたい。だけど、あのユッキーがこれほどまでにやる気をみなぎらせている以上、ここは譲るしかないだろう。ユッキーの頑固さはよく知っているのだから。

 

 それに、目的を履き違えてはいけない。俺たちはパトラを倒しに行くんじゃない。囚われのアリアを助けに行くんだ。カナ姉の期待に応えるのは、アリアを助けた後の機会でも遅くはないはずだ。ゆえに。ここは、俺よりはパトラ相手に勝ち目のあるユッキーに託そう。

 

 

「そうか。じゃあパトラのことは任せた。頼りにしてるぞ、ユッキー!」

 

 パトラのことを白雪に任せ、自分はアリアを救うことのみに集中することを決めたキンジは白雪のやる気という名の炎に油を注がんと、激励の言葉を掛ける。すると、白雪は満面の笑みで「あい!」と可愛らしくも頼もしい返事をする。

 

 こうしてキンジと白雪が言葉を交わしている間にも、オルクスは着々とアリアとパトラがいる可能性が高いとされる『東経43度19分、北緯155度3分』の地点へと突き進んでいく。

 

 

 

 ――アリアを巡るパトラとの決戦の時が徐々に近づきつつあった。

 

 




キンジ→アリア救出の思いとカナの期待に応えたい思いで気が急っていた熱血キャラ。オルクスの操作を担当している。珍しくやる気みなぎる白雪にパトラの相手を譲ることにした。
白雪→何気にポケモン対戦をやっている怠惰巫女。「ご利益」云々を口実にキンジの背中に胸を当ててきたりと意中の相手の攻略手段の面で強かになりつつあったりする。しかし効果はない模様。

 というわけで、110話終了です。今回は文字数が少なめながらユッキー推しで行かせてもらいましたぜ。そして。ついにパトラ戦開始直前までやってきましたね。第三章のクライマックス部分だったブラド戦ぐらい盛り上げられたらいいなとは思いますが、はたしてどうなることやら。


 ~おまけ(ネタ:ユッキーの絶望)~

白雪「あッ……(←突如何かを思い出し、つい声を上げるユッキー)」
キンジ「どうした、ユッキー?」
白雪「あ、いや、何でもない。気にしないでいいよ」
キンジ「そうか? ならいいけど……」
キンジ(にしては何だかすっごく落ち込んでるよな。こんな状態でパトラと戦えるのか?)
白雪(あぁぁあああ、うわああああああああああ!! 今日の『わんわんおー』録画し忘れてたぁぁぁああああああ!! せっかく最近は熱い展開続きだったのに! 闇堕ちしちゃったレトリバームクーヘン救出のためにチワワッフルが逆性覚醒してすっごく面白いことになってたのにぃ!! 私のバカぁぁあああああああああああああ!!)

 アニメを録画し忘れたのなら、後でネット動画を見ればいいじゃない!

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