問題児たちが異世界から来るそうですよ?~箱庭に吹く風~《リメイク中》   作:ソヨカゼ

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遅くなりましたが、エピローグ的な物です。


止まった時間・動き出した未来

 

『……終わったのか?』

 

全てが元通りになったアンダーウッドの丘で、蒼天に架かった小さな虹を見上げる影が一つ。

黒のコートに道化を思わせる仮面をつけた人物、黒の道化に他ならなかった。

 

「えぇ、そうです。全部、明さんが解決しました」

 

虚空に放った質問に答えを与えたのは、先程まで巨人族と戦っていた天照だった。

彼女の視線もまた明が作った小さな虹を見上げていた。

 

『………そうか』

 

天照の答えに満足したのか、黒の道化はその仮面の裏で小さく微笑んだ。

 

「………なぜ、教えてくれなかったのですか?彼が、明さんが半分とはいえ神霊だという事を」

 

『お前も知っているだろう。あいつの母親が、アイカが現人神だった事を。なら、その力を受け継いでいても何ら不思議ではない』

 

明の母親であるアイカは、元々とあるコミュニティによって監禁されていたのだ。

幼い頃から、コミュニティの信仰の対象として。

そうして集められた信仰が、アイカという人間に神秘性を与え、結果的に彼女を神に等しき人に変えた。

それが、明が半神霊として目覚めた事の真相だ。

 

「それは知っています!しかし、あなたが言ったのでしょう!明さんは、"何のギフトも持たずして生まれた"と」

 

『……そうだ。明のギフトを全て封印し、そう偽ることでしか明を守ることは出来なかった』

 

「ッ!?それではやはり、あの時の魔王の目的は……」

 

『……明だ。あいつの真なる神の奇跡(オーバーレイ・ギフト)"奇跡の体現者"(イザナギ)は、無限にあるIFの可能性から望む一つの未来を選び世界に強制することができる。そこに過程も摂理も必要ない以上、この箱庭を手に入れることだって容易い力だ』

 

愛する人とアンダーウッド、どちらかではなくどちらもを選択した明だからこそ顕現した選択の奇跡。

それが"奇跡の体現者"(イザナギ)なのだ。

 

「あなたは明さんの力がいつか狙われると知っていたから、彼自身の深層心理にまでギフトを隠したのですね。明さんを……あなたの()()を救うために」

 

『………言い訳はしない』

 

そういって、黒の道化は自らの象徴とも言える道化の仮面をゆっくりと外した。

その下にあった素顔は……

 

「僕は……竜童 (わたる)は、たった一つの我儘で自分のコミュニティを潰した。そこにどんな大義名分があったとしても、その事実は変わらないよ」

 

そう、その顔は明の父親である渡のものだった。

 

「でもそれは明さんを守るためで!」

 

「もういいんだ!!……もう、僕は救われたから」

 

そういって、渡は再び天を見上げる。

あの虹こそが、全ての希望だとでも言わんばかりに。

 

「そう、救われたんだ。僕だけが救われた。一番救われるべきじゃなかった僕が……だから、それだけで十分なんだよ」

 

渡は、自分がコミュニティを潰したと言った。

それは、自分だけは救われるべきではないのだと暗示していたのかもしれない。

 

「……きっと、アイカさんもあなたの幸せを望んでいるはずです。だから、あなたはその光に身を委ねてもいいのです」

 

「ははっ酷いな天照は。それが僕にとって何よりの罰だと知ってるだろ?……でも、そうだね」

 

渡は天に架かる虹へと両手を伸ばし、まるで割れ物を扱うように優しく包み込む。

 

「この光に身を委ねて皆の元に逝けるのなら……それも悪くないかもね」

 

「………」

 

「……天照」

 

「……はい」

 

「明を……あの子の事を頼むよ?」

 

「……はいッ」

 

天照の返事を確認すると、渡はそれこそ太陽のようにような微笑み……

 

「さようなら、天照」

 

灰となって、この世を去ったのだった。

こうして、たった一つの光を守るために生き続けた男の時間はようやく終わりを告げた。

総ての望みを光に託して、男の物語はようやく幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

「……う……ん?」

 

レティシアが目を覚ますと、見知らぬベッドの上だった。

木材の独特の香りがすることから、ここがアンダーウッドだということに気がつく。

 

「……そうか、私は」

 

「お?目が覚めたか、レティシア」

 

「明……なのか?」

 

愛しき人の声に顔を向けると、そこには予想通りの、しかし頭に浮かんだものとはかけ離れた顔があった。

 

「あぁ、これ?」

 

レティシアの視線に気づいたのか、明は白銀に変わってしまった髪を少しいじる。

実際は髪だけでなく、瞳も肌も純白に変わっているためまるで別人のようだ。

 

「前まではギフトを使っている時だけだったんだけどさ。神格を取り戻した副作用か、ずっとこのままっぽいんだよね」

 

まぁ別に気にしてないんだけどさ、とこの話を終わらせる。

 

「いや、しかし……」

 

自分のせいで。

そう思うと、レティシアはやりきれない気持ちで一杯になる。

そんなレティシアの心境を知ってか知らずか、明は何かを思い出してクスリと微笑む。

 

「そういえば、あの時もこんな感じだったな」

 

「あの時?……あぁ、あの時か。フフッ、確かにそうだったな」

 

二人の言うあの時とは、レティシアをペルセウスから取り戻したときの事だ。

その後に明が告白したのだが、それを同時に思い出した二人は、同じタイミングで笑いだした。

それがまた面白かったのか、二人の笑いはより大きくなる。

 

「ハハハッ。いやぁ、本当によく頑張ったよなあの時の俺」

 

「あぁまったくだ。あんな形で告白されるとは夢にも思わなかったぞ」

 

思えば、ずいぶん遠くまで来た。

今この瞬間に対する明の感想は、この一言だった。

箱庭に呼び出されて、自分は本当は箱庭で生まれたと知り、間接的にとはいえ両親と再開もできた。

こんな未来、誰も予想していなかっただろう。

 

「よう、邪魔するぜ?」

 

二人が笑い合っていると、ノックもせずに十六夜が顔を出す。

それを見て、明はあからさまに顔をしかめた。

 

「邪魔だと思うなら入ってくるなよ。で、どうした?」

 

「ヤハハ、嫌だね。もうすぐ前夜祭が再開するから降りてこいよ。もちろん、レティシアも連れてな」

 

そう言い残し、十六夜はヤハハは笑いながら部屋を出ていく。

 

「まったく、自分勝手な奴だな。さて、それじゃあ行くか」

 

明は、レティシアへと手を差し出す。

しかし、レティシアがその手を取ることはなかった。

 

「いや、しかし私は……」

 

アンダーウッドを襲ったのは間違いなくレティシアだ。

それが自分の意思ではなかったとしても、その事実は変わらない。

それに負い目を感じているのだろう。

 

「はぁ……あぁもう焦れったい!!」

 

「あっ!」

 

しかし、明にとってそんなことは関係ない。

なぜなら、アンダーウッドを救ったのは明に他ならないのだから。

レティシアを責めようにも、明が一睨みすれば静まるだろう。

いや、それ以前に明はそれを許さない。

故に、明は無理矢理レティシアの手をとる。

自分が守ると誇示するために。

 

「レティシア」

 

「………」

 

「俺は箱庭に来れて……レティシアに会えて幸せだよ」

 

「ッ!?」

 

「だからさ、御互いに前を向いて生きようぜ?」

 

「……あぁ、そうだな。では、エスコートは任せたぞ、明?」

 

「あぁ、任された!」

 

そうして固く結ばれた手と手は、まるで二人の心を表しているようにも見えた。

もう二度と見失わないように、守り続けるために結ばれたそれは、間違いなく彼らの希望そのものだろう。

 

「レティシア、大好きだ!」

 

「……あぁ、私もだよ!」

 

動き出した未来は決して止まることはない。

例えどんな結末になろうとも、未来が止まる事などあり得ない。

未来は、可能性は無限大だ。

何が起こるかわからないし、何が起きても不思議ではない。

だからこそ、人は探し続けるのだろう。

己が望む、たった一つの未来へと続く道を。




黒の道化の正体は明の父親、渡でしたね。
ほとんどの人が予想していてビックリしましたorz

後半は……まぁ、作者の中二的な部分が爆発してしまいました。
だが後悔はしていない!!

次回は後日談になります。
しかし、ただの後日談ではありませんよ?
ものすごいことになる予定です。
それではまたいつか!

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