問題児たちが異世界から来るそうですよ?~箱庭に吹く風~《リメイク中》   作:ソヨカゼ

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はい、そんなわけで最終話でございます。
自分が小説を書き初めてもうすぐ一年……長かったです。

さて、読んでいただく前に一言。
一度でもこの小説に目を通してくださった皆様、本当にありがとうございます。
自分が確かめた時点で

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本当に、読んでくださってありがとうございます。

では、長くなりましたが最終話をどうぞ。


最終話 愛するために

 

 

静まり返る草原。

 

そこに横たわるボロボロの二人。

 

明と黒の道化だ。

 

「ハァ……ハァ……しっ、死ぬかと思った。ってか、何回死んだんだ?」

 

『ゼェ……ゼェ……戯けが。貴様はもう死なない。それと、70回死んだぞ』

 

男二人でゼェハァ言い合っているこの光景は、その手の女子たちが見れば発狂しかねないようなシチュエーションだったのだが、それも仕方がないだろう。

 

何せ、明の発動した"真なる神の奇跡"(オーバーレイ・ギフト)によって崩壊する世界からの逃走劇は熾烈を極めたのだ。

 

まぁ、二人とも無事に助かったのも明のそれによるものなのだが。

 

『……確率操作、それが貴様の持つ"真なる神の奇跡"の力だ』

 

「すまん。もう少し分かりやすく頼む」

 

『はぁ。要するに、貴様の想像したことを現実に強制する力だ』

 

「ちょ!?何それメチャクチャ過ぎるだろ!!そんなのがさっきみたいにバカスカ撃てたらそもそもゲームにならないって!!」

 

自分に発現した予想以上の力に、明は勢いよく起き上がってしまった。

 

しかし、それも仕方ないほどにその力は強大なのだ。

 

『だから貴様は戯けなのだ。何のための回数制限だと思っている?』

 

「あー、それもそうか」

 

それを聞いた明は、戯けという言葉にむくれながらも納得し、再び倒れ込む。

 

そして、()()()()空へと手を伸ばす。

 

そう、今この世界で動いているのは、彼ら二人だけなのだ。

 

というのも、黒の道化が創ったギフトによって世界の時間を制止させているからに他ならない。

 

「なぁ、どれくらいの時間がたったんだ?」

 

『我らの体感時間で四日程度。この世界の時間は一時間も進んでいない』

 

「そっか……さて、そろそろ行くか」

 

そう言って明は、今度こそ立ち上がった。

 

そして、自分の服装を見て顔をしかめる。

 

体の傷は癒えても服まで直るわけではないので仕方がないのだが。

 

『……これを持っていけ』

 

そんな明を見て、黒の道化は見かねたように一枚のカードを投げて渡す。

 

それは、"竜堂明"と書かれた半透明なギフトカードだった。

 

「これは……俺の?」

 

『貴様の父親から託されたものだ。それはすべて、貴様のためのギフトだ。それと、貴様の使っていた刀も直しておいた』

 

半透明なギフトカードに記されたギフトは三つ。

 

"風人の神風"(Anima Radius)

 

"風色の衣"(コート・オブ・ブランク)

 

"風刀・影絶"

 

「……そっか、父さんからの。……ありがとう」

 

『……ふん。使い方は直感で覚えろ。後は知らん』

 

そう言い残し、黒の道化は風となってこの場から去った。

 

突き放すような言葉だったが、明にはなぜか照れ隠しのように感じてしまい、思わず笑ってしまったほどだ。

 

「さて、さっさとこの戦いを終わらせよう」

 

明は、ギフトカードから"風色の衣"を取り出す。

 

コートの名の通り、明の身の丈ほどもある純白のコートが出てきた。

 

明は何の迷いもなしにそれを羽織り、空を見上げる。

 

「……第二ラウンドの始まりだ」

 

すると、明も黒の道化に倣うように風となってこの場から立ち去る。

 

目指すは、レティシアが待っているであろう浮遊城の最深部。

 

かくして、一人の半神霊が箱庭へと解き放たれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「これは……」

 

明がまず驚いたのは、風色の衣に宿るギフトの性能だった。

 

おそらく、明がギフトを使うと一緒に風になるのだろう。

 

「俺のためのギフト、か」

 

この力を持って何を成すか。

 

明にはまだ何もわからなかったが、それでも一つだけ確信があった。

 

この力は、自分の大事なものを護るためのものだということだ。

 

そうこうしているうちに、明は目的地であるレティシア擬きと戦ったところについた。

 

しかし、そこで目にしたのは何者かが争ったであろう戦いの痕だった。

 

「……このクレーターの出来方は、まさか十六夜?」

 

まるで隕石の群れが落ちたかのような数えきれないクレーターの数々。

 

これが出来るとしたら、明の知りうる限りでは十六夜だけだ。

 

そうと確信し、空飛ぶ城の中を散策しようと上陸したとき……

 

『ーーーーーーーーーーーーー!!』

 

聞こえたのは、巨大な何かの咆哮だった。

 

「これは……巨龍!?そんな、ゲームは一次中断したはず」

 

そう、問題となるこのゲームは、黒ウサギの持つ"審判権限"(ジャッジ・マスター)によって一次中断されていたのだ。

 

そして巨龍が動きだしたということは、このゲームの再開を意味している。

 

「考えてる暇はない。はやくレティシアたちを見つける!」

 

明は再び風になり、城全体を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「十六夜、耀!!」

 

城の中心部で見馴れた二人を見つけた明は、即座に人型となり声をかける。

 

「……え?」

 

「……ヤハハ。ビックリ人間ショーってか」

 

なんというか、二人の反応はものすごく微妙だった。

 

まぁ、知人が何処からともなく現れたら驚くだろう。

 

それも、何もないところから突然だ。

 

驚かないわけがない。

 

「良かった。二人とも無事か」

 

「まぁ、取り敢えずはな。明の方こそ大丈夫か?」

 

どうやら十六夜は耀ほど驚かなかったらしく、すぐに平常心を取り戻した。

 

「俺は大丈夫……なんだろうか。なんかものすごい事をしてきたような気もしなくはないんだが……」

 

明は小走りしながらそれとなく遠い目をする。

 

ぶっちゃけ70回も死ねばトラウマも残るだろう。

 

「そ、そっか。……あ、あそこにレティシアが」

 

明に何かいけないものを感じた耀は必死で何かないかと周りを見回す。

 

すると、目的の人物が目に入った。

 

「ッ!?レティシア!!」

 

「……え?明!?」

 

明が駆ける先にいたのは、黒のドレスに身を包み、玉座に鎖で繋がれたレティシアだった。

 

「さて、謎解きも済んだことだし、さっさとクリアしちまえ明」

 

「これは?」

 

十六夜は、明に向かって石の塊を投げて渡す。

 

十六夜の言うことが本当なら、これはゲームクリアに欠かせないものなのだろう。

 

「そいつをそこの窪みにはめ込め。それでこのゲームはお開きだ。今回は譲ってやるよ」

 

「……それで、レティシアも助かるのか」

 

「……あぁ」

 

肯定の声。

 

しかし、明はレティシアが一瞬言葉に詰まるのを見逃さなかった。

 

「……十六夜」

 

「ん?」

 

「外の巨龍、倒せばクリアになる?」

 

「正確にはあれの心臓を撃てばだが……まさか、行く気か!?」

 

明の突然の狂行に、その場の全員が絶句する。

 

「や、止めろ明!あれはお前が勝てるような相手じゃない!!」

 

「でも、レティシアを救うにはそれしかないんだろ?」

 

「え、どういうこと?」

 

「……なるほど。つまり、このゲームはどう転んでもレティシアは死ぬってことか」

 

明の言葉に、十六夜は再度ギアスロールを見直して理解した。

 

そして、十六夜の推測で観念したのか、レティシアはポロポロと話し出す。

 

「……そうだ。でもわかってくれ、私はもう二度と……大切なものを殺したくないんだ」

 

「……そっか」

 

明はゆっくりとレティシアに近づき……玉座を思いきり殴り付けた。

 

「っ!?」

 

「ごめん、レティシア。俺には、お前の言ってることがわからない」

 

憤怒。

 

明は、ただ怒っていた。

 

「あ、あき」

 

「聞きたくない」

 

レティシアの声を、明はわざと遮った。

 

それには、さすがの十六夜も驚いたのだろう。

 

意外そうな顔で二人を見ている。

 

「レティシアの言い訳は聞かない。だから、俺の言葉だけを聞いてくれ」

 

「………」

 

「俺は、受け入れるよ。レティシアの全てを」

 

「!?」

 

「例え世界が否定したとしても、俺だけはレティシアの全部を許す。レティシアと一緒にいるためなら、俺は世界だって敵に回す」

 

「ッ……ぁ……私は」

 

「きっと俺は自己犠牲の出来る聖者にも、物分かりの悪い勇者にもなれはしない。……精々、守れないものを守ると叫んで、救えないものを救うと叫ぶ。そんな愚者でしかないんだ。でも、それでいい」

 

ゆっくりと、明は玉座から手を退ける。

 

そして、ニッコリと微笑んだ。

 

「……ヤハハ」

 

「うん、やっぱり明だ」

 

「……それは……それは卑怯だぞ明!!」

 

おそらく、彼が箱庭に来て一番輝いているであろう笑顔。

 

まるで一辺の曇りもない大空のように、何処までも澄んだ笑顔だ。

 

「例え叶わぬ理想でも、掲げ続ければいつかは叶うかもしれない理想になる。だから俺は叫び続けるよ、この理想を」

 

レティシアの紅の瞳から、一滴の涙が零れ落ちる。

 

ごく自然に流れ落ちるそれは、まるで宝石のような輝きを放つ。

 

「……撃………て」

 

消え入りそうな声で、明に何かを伝えようとするレティシア。

 

まるで音が消えたように周りは静かだった。

 

「十三番目の太陽を……撃て、明!!」

 

「……あぁ。行ってくるよ、皆」

 

明は再び風となり、この場を立ち去る。

 

標的はただ一つ。

 

未だレティシアを縛り続ける魔王の宿業だけだ。

 

「巨龍の心臓を撃つ。それでこのゲームは、本当の意味でお開きだ」

 

終わりの時は、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「倒させてもらうぜ、お前を」

 

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

上空で対峙する影が二つ。

 

片や巨大な体躯を誇る最強種の一角。

 

片や最強種の力をその身に宿す人間。

 

頂上決戦の名にふさわしい、最強種同士の戦いが今ここに幕を開けた。

 

先に動いたのは、巨龍。

 

巨大な体躯を遺憾無く発揮し、目の前に現れた敵を食らおうと突進をかます。

 

それはただ動いただけで数百の命を奪える天災であり、明の命でさえも容易く刈り取るはずだった。

 

『!?』

 

「へぇ。暴走してても驚きはするんだ」

 

そう、明はその天災を、片腕で押さえつけたのだ。

 

心なしか、巨龍が恐怖しているようにすら感じる。

 

「悪いが、これ以上お前を暴れされるわけにはいかない。アンダーウッドが危ないからな………神格開放ーーーーー"風人の神風"(Anima Radius)

 

明の背中から、透明な二対四枚の翼が生える。

 

それは、羽の一枚一毛が純粋な風で編まれた大気の翼。

 

神格を開放した今の明は、いわば大気を背負っているのと同義なのだ。

 

いくら天災でも、無限に広がる大気までは壊せない。

 

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

圧倒的なまでの力に巨龍は恐怖したのか、狂ったように暴れ始める。

 

しかし、明はそれを許さない。

 

最愛の人の望みを叶えるために。

 

もう彼女に、何も殺させないために。

 

明は、このゲームに終止符を撃つ。

 

真なる神の奇跡(オーバーレイ・ギフト)ーーーーー"奇跡の体現者"(イザナギ)

 

このゲームに明が望む結末は完膚なきまでのハッピーエンド。

 

そしてそれがいま、あらゆる奇跡を体現する神の御技によって叶えられる。

 

「"我が風は十三番目の太陽を撃ち、絶望を吹き飛ばす神の風なり"」

 

風が、箱庭の全てからかき集めたような強風が明のもとに集まって行く。

 

それは明の頭上で巨大な球体となり、太陽のように輝き始める。

 

やがてその輝きはアンダーウッド全土を覆っていく。

 

まるで、傷ついた全てのものを優しく包み込むように。

 

「これが、俺の望む奇跡。哀れな愚者が、最後まで抱き続けた夢の形だ」

 

光はより強くアンダーウッドを、人や幻獣。

 

果ては巨人族まで、その地に生きる全ての命を浄化していく。

 

「……レティシア」

 

「……明」

 

光が収まるとそこは、今までの戦いが嘘だったかのように元通りのアンダーウッドが。

 

そして、その蒼天で抱き合う二人の男女の姿があった。

 

「……………」

 

男は女にだけ聞こえで、何かを言った。

 

「………あぁ」

 

女は涙を流す。

 

澄んだ紅の瞳から流れ落ちる雫は、まるで宝石のように輝き、蒼天に小さな虹の橋を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

~fin~




最後までグダグダで申し訳ありません。
何度も言うようですが、読んでくださった方々には本当に頭が上がりません。

さて、~箱庭に吹く風~についての今後なのですが、もう少しだけ続きます。
予定では最終話の補足も兼ねた閑話をいくつかとオリキャラの詳細設定。
そして後日談を考えてます。

それでは、また次回お会いしましょう!

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