問題児たちが異世界から来るそうですよ?~箱庭に吹く風~《リメイク中》   作:ソヨカゼ

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前回の後書きでこれが最終話だとか言いましたが……
長くなったので二話に分けます。
はい、あともう少しだけ続きます。


三十話 解き放たれた風人

『「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」』

 

ぶつかり合う二つの影。

 

常闇の世界は一瞬だけ揺らぎ、また静寂を取り戻す。

 

黒一色に染まった世界ではあるが、周りを見回せば地形はかなり変化しデコボコになっている。

 

それは単に、二つの影が織り成す衝撃波の威力をものがたっていた。

 

「っ!らあっ!!」

 

『……ふっ!』

 

世界を揺らがすほどの衝撃。

 

それがもはや何百回も繰り返されている。

 

二つの影の正体、それは衝突の激しさを現すようにズタボロになった明と、今まで戦っていたとは思えないくらい無傷な黒の道化に他ならない。

 

そして、二人の力の差は思ったよりも明確に現れていた。

 

「ハァ……ハァ……、くっそぉぉぉぉぉ!!」

 

明はまた突っ込む。

 

しかし、その手に握られた刀もまたボロボロで、例え届いたとしても相手を切れるような代物ではない。

 

『まだだ。そんなものじゃないはずだ』

 

黒の道化は無情にもその刀を弾き飛ばす。

 

それも素手で。

 

「がっ!?」

 

『もっとだ。もっと強く求めろ!お前はなぜ戦う?なぜ力を欲するんだ!』

 

黒の道化は、明に向かって掌を突き出す。

 

すると、彼の背後には数千万にも及ぶ煌めきが生まれた。

 

それはあたかも満天の星空のように美しく、しかし確実に明の命を刈り取る刃だ。

 

しかもその全てが恩恵を絶つ特性を有しており、数千万の刃一つ一つに必中必滅の概念が付加されている。

 

『………やれ』

 

黒の道化の合図と共に、もはや壁といっても過言ではない質量の剣が明を襲う。

 

「おおぉぉぉぉぉ!!」

 

必中必滅の刃を、もはや刀として機能しないくらいにまでボロボロになった風刀・影絶で弾いて弾いて、そして弾く。

 

三発。

 

それが今の明の限界だった。

 

「がっあああぁぁぁぁ!!」

 

頭に、首に、心臓に。

 

壁のように押し寄せてくる刃によって、体の至るところが貫かれる。

 

その様は、まさしく針のむしろ。

 

『………68回目か。さぁ起きろ。休んでいる暇はないぞ』

 

そう、明は繰り返しているのだ。

 

68回死に、その度に痛みを味わい恐怖を刻み込まれ、なにもできない歯痒さに嘆いている。

 

そして死ぬ度に、黒の道化が創った奇跡(ギフト)で命を取り戻す。

 

「ッ、ハァ……ハァ……」

 

傷はない。

 

しかし、今までの経験全てが残っている。

 

心など、とうの昔に折れていた。

 

そんな明を動かすのは、たった一つの思いに他ならない。

 

「レティ……シア!」

 

そう、それはレティシアを守ること。

 

そんなたった一つの思いが明という存在を満たしていた。

 

『そうだ、もっとだ。貴様の個の器を、そのままぶち壊せ!』

 

そして、二人はまたぶつかり合う。

 

地を揺さぶり天を震わす力のぶつかり合いは、そのまま世界を壊す勢いで続けられる。

 

しかし、依然として優劣はあきらか。

 

果たして明は、この試練を越えることができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

side《明》

 

「ッ!!……ハァ……ハァ……」

 

『69回目か。まだだな』

 

くそっ、まただ!

 

69回も殺られてるのに、俺はまだ何もつかめてない!!

 

「くっ、おおおおぉぉぉぉ!!」

 

考えてる暇はない。

 

そんな時間があったら刃を振るえ!

 

考えるその数瞬さえ惜しい。

 

『遅い!』

 

「ぐっ!?」

 

くそ、これもダメか。

 

いや、このまま手を止めてはならない。

 

相手に時間を与えればまたあれが、刃の壁が押し寄せてくる。

 

おそらくこの試練を越えるためには、あれの攻略が必須となるだろう。

 

「はぁっ!!」

 

だめだ、考えてるだけじゃ前に進めない!

 

俺は、届かないと知りながらも刀を振るった。

 

『……いい加減にしろ、餓鬼が』

 

俺の全力で振るった刀を、黒の道化は軽々とつかみとる。

 

そして、また時間を作ってしまった。

 

「しまっ……ぐっ!!」

 

気が付くと、俺の腹には一本の剣が。

 

それは他でもなく、必中必滅の剣だった。

 

いや、こうして生きているところを見ると能力は付加されていないらしい。

 

『いい加減、目を覚ましたらどうだ?』

 

「なん……だと?」

 

『……そうか、まだわかっていないのか。ならば、我が教えてやろう』

 

「グハッ!?」

 

新たに創られた剣が三本、俺の背中から生えてきた。

 

内側からえぐられる感覚は、腹にあるものよりさらに不快だ。

 

『目を背けるな。自分という存在を受け入れろ。力が欲しくば人間としての自分など捨ててしまえ』

 

「ガッ!ゴボッ!!」

 

追撃とばかりに、腹の剣を引き抜き蹴り飛ばされる。

 

なんだ、何をいっているんだ?

 

『貴様が自分自身を縛り付けているその枷を、人であるという限界を、今ここで撃ち破れ!』

 

枷?

 

人であるという限界?

 

わからない、何もわからない。

 

俺は、いったい何なんだ?

 

『さあ、示せ。貴様はなぜ戦うんだ!』

 

気が付くと、俺は全方位から必中必滅の剣に囲まれていた。

 

くそ、俺はまた……何も出来ずに死ぬのか?

 

黒の道化が腕を降り下ろすと、それを合図に幾千万の刃が俺に向かって飛んでくる。

 

あぁ、なぜかその全てが限りなくゆっくりに感じる。

 

体は、すでに動かない。

 

『貴様はなぜ戦うんだ!』

 

そんなやつの言葉が俺の中で繰り返される。

 

俺が、戦う理由。

 

そんなのは一つしかない。

 

どんな暗闇の中でも輝く、俺の希望を……レティシアを守るためだ。

 

そうだ、そのために俺は力を求めた。

 

「人である……自分」

 

やつはそれを捨てろと言った。

 

あたかも、俺は人ではないと宣言するかのように。

 

ならば、俺はなんだ?

 

俺という存在は、いったい何なんだ?

 

わからない、何もかもわからない。

 

それでも、一つだけ確かなことがある。

 

俺は、例え自分自身の全てを捨てたとしても……レティシアを守りたいんだ。

 

俺が俺でなくなったとしても、それだけは変わらない。

 

それが俺の、覚悟だから。

 

何だか、心が軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『……70回目か』

 

また、何も変わらなかった。

 

黒の道化はそう思い、針のむしろと化した明に背を向けた。

 

そう、背を向けてしまったのだ。

 

『ッ!?グアッ!!』

 

「二発……返したぜ?」

 

黒の道化の背中には明に山のように刺さっている剣が二本、深々と刺さっていた。

 

それをやったのは、明以外にいないだろう。

 

では、その明はというと……

 

『貴様、その姿は!?』

 

表すなら純白。

 

髪も瞳も、肌さえも白銀に染まった明。

 

いや、特出するべきは外見の変化ではない。

 

問題は、身体中に空いた風穴からは血が一滴も出ていないのだ。

 

そもそも、身体中に風穴が空いているのにこうして喋れるのはおかしい。

 

「俺に聞かないでくれ。俺も知らない。でも、なんか体が軽いんだ」

 

徐々に傷口が狭まっていき、完全に塞がった。

 

すると、明は不思議そうに自分の体を見回した。

 

先程明自身が言った通り、自分の変化に思考が着いていけてないのだ。

 

自分がどうなっているのか、何もわからない。

 

『……そうか、ようやく目覚めたのか』

 

自らが創り、自らを貫いている必滅の剣を自壊させ、黒の道化は明に向き直る。

 

どうやら、まるで効いていないらしい。

 

「やっぱり、何か知ってるんだな」

 

しかし、明の注目は別に向いていた。

 

それは、今の明の力を理解していることだ。

 

『あぁ。だが、それは"真なる神の奇跡"ではないぞ?』

 

「……じゃあ、これはいったい?」

 

『……それは貴様自身が本来持っていた神格。謂わば、貴様本来のギフトだ』

 

「神格……本来のギフト?」

 

何を言っているのか分からない。

 

おそらく、黒の道化は全てを知っていてこのゲームを仕掛けたのだ。

 

明にどんな力が眠っているのかを理解して、それを目覚めさせるのに最適な方法を選んだ。

 

『……ふっ!』

 

黒の道化は、明の不意をつくように斬りかかった。

 

明は避けること叶わず、胴体から真っ二つに裂ける。

 

しかし、手応えはまるで無く、先程同様に血が一滴も出ていない。

 

「俺は……本当に人じゃなかったんだな」

 

『正確には、半神半人だ』

 

「俺が神?」

 

『いや、あえていうなら半神霊だ。貴様は、風という概念が人の形をしたもの。貴様は風そのものであり、同時に人でもある』

 

つまり、今の明は風が集って形をなしているというわけだ。

 

風を"斬る"ことは出来ず、風を"殺す"事も出来ない。

 

不死の存在、まさしく神に等しき者。

 

「でも、それってつまり……」

 

明の両親のどちらかが神、もしくは神霊だったということになる。

 

『考えている時間があるのか?』

 

「っ!?」

 

意識を外した刹那の間に巨大な氷柱が四方八方から生え、明は凍てつく氷の牢獄に閉じ込められてしまった。

 

普通の氷なら、先程のようにすり抜けるだけで終わっただろう。

 

しかし、黒の道化が持つ"真なる神の奇跡"には、創造するモノの限界がない。

 

物質やギフトはもちろん、概念ですら創造してしまうのだ。

 

そして今黒の道化が使ったのは、"氷結"という概念の解放。

 

気体液体固体に関わらず、果ては時間や空間と言った概念ですら凍結させる御業。

 

それに例外はなく、風さも凍らせたのだ。

 

『さあ、"真なる神の奇跡"を使え、竜堂明。我に、その力を見せろ』

 

氷の裏側にいる明が、少しだけ微笑んだように見えた。

 

本来なら聞こえないはずのその声に、これまた返ってくるはずのない返事が返ってきた。

 

そしてそれは、このゲームの幕を引く言葉でもある。

 

真なる神の奇跡(オーバーレイ・ギフト)ーーーーー"奇跡の体現者"(イザナギ)

 

圧倒的な力。

 

その前に世界が一つ、音を発てて崩壊した。




まさかこんなにグダグダするなんて……
さて、そんなわけで次回こそ最終話です!
黒の道化の正体、明の真の力とは……

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