問題児たちが異世界から来るそうですよ?~箱庭に吹く風~《リメイク中》 作:ソヨカゼ
ストックが切れたため次回の投稿は少し時間が空きます。
文才というギフトが欲しい……
それでは、どうぞ!
一通り説明を終えた一同は、黒ウサギに連れられて天幕で覆われた巨大な都市の目の前まで来ていた。
「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れてきましたよー!」
階段で待っているローブを着た少年に黒ウサギが手を振りながら話しかける。
どうやらコミュニティの仲間らしいが『坊ちゃん』ということはそれなりに地位が高いのだろうか。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの御ニ方が?」
「はいな!こちらの四名様が―――」
ジンに新たな同志となる者たちを紹介するために、黒ウサギはクルリと四人がいるであろう方向に振り返り
「……え、あれ?」
カチン、と固まった。
「も、もうニ人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児"ってオーラを放っている殿方と、何処かボーッとして掴み所が無さそうな殿方が」
「ああ、十六夜君なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出していったわ。あっちの方に」
飛鳥とが指差した方角は、まさに真逆の方角だった。
それを見た黒ウサギは顔色を変えながら二人に問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「面倒くさかったから」
ストレート。
あまりにストレートなその返答に、黒ウサギは思わず膝をついて落ち込む。
本当になんでこんな問題児たちを……と項垂れながら、もう一人の方について再度訪ねた。
「それでその、明さんは?」
「気づいたらいなくなってた」
耀の口から返ってきたのは、考えうる限りの最悪な状況。
何のギフトも持たないという明がまさかの迷子だ。
「た、大変です! "世界の果て"にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
ジンが急に叫びだした。
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます」
「あら、それは残念。もう彼等はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、ニ人は叱られても肩を竦めるだけである。
しかし、何らかの力を有しているであろう十六夜はともかく、明に関しては本当にゲームオーバーが目に見える状況だ。
都市の中ならともかく、無秩序ともいえる森の中に一人置き去りとは笑えないにも程がある。
そのまま遭難でもされたなら、明たちを呼んだホストとして顔が立たなくなる。
騙すような形になっているとはいえ、彼女たちにも彼女たちなりの責任があるのだ。
黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。
「はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、皆様の御案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「行き場所がわかってる十六夜さんを追いながら迷子の明さんを探して参ります。事のついでに―――"箱庭の貴族"と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやりますよ」
悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、つやのある黒い髪を淡い緋色に染めていく。
外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、柱に水平に張り付く。
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」
黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に四人の視界から消え去っていった。
巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。
「……。箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」
飛鳥はそうと呟き、心配そうにしているジンに向き直った。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱き抱えているのが」
「春日部耀。よろしく」
ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥、耀もそれに倣う。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥がジンの手を引いて外門をくぐり、耀はそれについていくのだった。
☆☆
時は半刻ほど遡る。
まだ一行が目的地に向かっている時の事だ。
「暇だな。ちょっと世界の果てを見てくるぜ!」
十六夜はそう明に言うと同時に、目にも止まらぬ早さで駆け出していった。
その際に音を全く立てなかったことから、黒ウサギは気づいていないだろう。
まだ知り会って一時間と少しの間柄だが、明の十六夜に対する評価はただ一言。
「……あいつ、本当に人間か?」
明が今知っている限りでも、十六夜は呼ばれた四人の中でもずば抜けて凄い。
それがもしも"ギフト"によるものだとしたら、ほかの二人もあんなことができるのだろうか?
それ以前に、自分にもあんなことが出来るのだろうか?
と、その時だった。
『箱庭の世界は弱肉強食。弱いものから死んで逝く』
「ッ!?」
例の声がまた頭の中に響く。
前を歩く三人の方を見るが、特に何事もなく歩いているところから間違いないだろう。
明にだけ聞こえる声。
それは、なんとも不気味なものだ。
『君はどちら側なんだろうね?』
挑発するような声音は、右側の森から聞こえる気がした。
まるで此方へ来いと明を呼んでいるかのようだ。
いや、実際呼んでいるのだろう。
「俺は……」
答えは、火を見るよりあきらかだろう。
今の明は、間違いなく弱者。
このままでは、いつ食われてもおかしくない状況なのだ。
「それでも俺は……」
明は、ゆっくりと歩き出す。
それがどこに辿り着く道だとも知らぬまま、ただ声のする方へと進みだした。
☆☆
「で、今に至ると」
気づいたら森の中でした、以上。
で済まされるはずもなく、明は絶賛迷子中だった。
さらに、謎の声を聞いてからの記憶はあまりハッキリしないというよくわからないおまけ付きである。
あえて言おう、ピンチであると。
「クソ、何だってんだあの声は」
神のお告げ、なんて有り難い物じゃないことは確かだ。
もしそうだとしたら今頃こんな事にはなっていないはずだ。
「携帯は圏外……まぁ当たり前か。使えたとしてもあいつらの番号を知らないから意味ないけど」
本日二度目の詰みである。
最後の頼みは黒ウサギたちが気づいて探しに来てくれることだが、どれくらい離れてるかもわからないし何より森は驚くほど広い。
落ちてくるときの記憶が正しければ、地平線の彼方まで続いていたはずだ。
―――これ、ゲームオーバーじゃね?
などと考え出したその時だった。
フワリ、と明の頬を微風が掠める。
『……けて』
「……声?」
誰かの声。
しかし、それは今までとは違う女の声。
なんだ、と明は耳を澄ます。
『た……けて』
また、風か吹く。
今度はさっきより近く、しかしまだその声は遠い。
『たす……けて』
「ッ!?」
三度目の風と共に、その声が何を伝えようとしているのかに気づく。
"助けて"と言っているのだ。
その声は今にも消えてしまいそうなぐらい弱々しいものだった。
「どこだ!いったいどこから……クソッ!」
明は駆け出す。
この声がどこから聞こえてくるもので、何に対して助けを求めているのかわからない。
それでも、明は走る。
「間に合ってくれ!」
そのまま五分ほど走っただろうか。
ゴキリッ、という人間を殴ったとき出る独特の音が近くから聞こえたのだ。
「……ッ!」
思わず明は足を止め音がした方へと駆け寄る。
するとそこに待っていたのは、ある意味予想していた展開だった。
そう、一人の少女を大柄な男が五、六人で囲んでいた。
しかも先程の音と少女が苦しそうに踞っている事から、理不尽な暴力を受けていることに間違いはないだろう。
「このッ!」
『行くのかい?』
目の前の光景に冷静さを失った明はそのまま突っ込もうとする。
が、また例の声が話しかけてきたことで明の足は再度止まった。
「当たり前だ!こんなの、見て見ぬふりなんて出来ない!」
『あぁ、確かにこれは酷いね……でもそれだけだ。君には何も関係ない。ここで逃げても誰も何も言わないさ』
「お前はッ!!」
『だってここは箱庭だよ?弱肉強食、理不尽な暴力だって弱いから受けるんだ』
「仕方ないってことかよ!」
『そうだよ。それに、君が行ったところでなにができるんだい?ただの人間である君に』
「……ッ!!」
明は、何も言い返せなかった。
大人の男が六人という状況だけでも普通の人間には荷が重すぎるのに、ここが箱庭という世界である以上あの男達が何らかの力を持っていることは確かだ。
事実、男達の頭には獣を思わせる耳が着いている。
「それでも、俺はッ!」
謎の声の制止さえ振り切り、明は少女の元へと走って行く。
それに気づいたのか、男達が明の方を向いて驚いたような顔をした。
「な、なんだ貴様はッ!!」
「何やってんだよあんた等ッ!!」
そう叫ぶと同時に、明はリーダーと思われる男に殴りかかる。
しかし、男は少し身を捻るだけで軽々とかわされてしまった。
だが、男達と少女の間に割って入ることに成功した。
「大丈夫か?」
「あッ……あなた……は……ッ」
明は少女が無事かを確認すると、戸惑いと不安のつまった表情で返された。
まぁ、見ず知らずの人間が助けに入ってきたら誰でもそうなるだろう。
……よく見ると少女も犬っぽい耳や尻尾を生やしていたが、箱庭では珍しくないのだろうか?
「くッ、コミュニティの人間か?」
「まさか見つかるなんて!!」
男達は口々に悪態をつきながら臨戦態勢に入る。
が、そんな奴等をリーダーらしき男が片手を挙げて制すと、ゆっくりと明の元へ寄ってきた。
「少年、お前はその小娘と同じコミュニティの人間か?」
「だったらどうした!」
当然、箱庭に来たばかりのの明が初対面の少女と同じコミュニティに属しているはずはないが、言う必要もないので無視する。
しかし、リーダーは目を細めると明を吟味するかのように見回した。
「……小娘のコミュニティはある一定以下の年齢の子供たちで構成されていると聞く」
「……何が言いたい?」
「なに、ただ少年がその小娘と無関係だとしたら、そのまま回れ右をして自分のコミュニティに帰ることをおすすめするぞ」
ようは、お前はそいつのコミュニティの物じゃないから見逃してやると言いたいらしい。
しかし、こんなことをするような奴等を信用できるはずもなく、必然的に明の答えは決まっていた。
何より、この少女を残して自分だけ逃げるという選択肢は端から無いのだから。
「断る!」
考える時間は必要なかった。
何の迷いもない明を見て、リーダーの男は一瞬だけ眩しそうに目を細めるとすぐに元に戻り、他のやつらと同じく臨戦態勢に入った。
「ならば仕方ない。悪く思うなよ、少年!」
「なッ!?グハッ!!」
刹那、リーダーの男が明の前から姿を消したかと思うと、明の腹部に強烈な衝撃が発生し、思わず崩れ落ちる。
何て事はない、ただリーダーの男は明の眼に止まらないくらいの速さで近づき、拳を繰り出したのだ。
結果、明は少女の横に踞ることになった。
「ハァ……ハァ……ッ!」
少女は明の事を今にも泣きそうに見守っているが、まだ痛みが残っているらしく声をかけられずにいた。
「……ほう、完全に決まったと思ったのだがな」
リーダーの男は明を見下すように近づくと、意外そうに声をかけた。
どうやら男はこの一撃で終わらせたかったらしい。
「こッ……のぉッ!!」
動かない体を無理矢理動かし、明は踞った体勢からアッパーを仕掛ける。
だが、男はわかりきっていたかのように一歩下がると、横凪ぎの蹴りを明の脇腹へと繰り出す。
「……ッが!!」
明はその攻撃になす術もなく、そのまま少女の後ろにある木々の方へと吹き飛ばされた。
「もう諦めろ。ここまでやられてギフトを使わないということは、少年のギフトはよほど戦闘向きではないか、そもそも持っていないのではないか?」
「……ッ」
はっきりいって図星だった。
明は返す言葉もなく、踞ることしかできなかった。
「……そうだ、それでいい。ここで逃げても、誰もお前を責めようとは思わんさ」
男はそう告げると、ゆっくりと明の方へと近づいて行く。
次の一撃でで終わらせるために腕をあげる。
しかし、明にはそれが見えていなかった。
(……誰も俺を責めない?)
男の言ったこの言葉が、明の耳から離れなかったのだ。
それは、先ほど謎の声にも言われたこととよく似ていた。
(本当に、そうか?)
黒ウサギが、十六夜が、耀が、飛鳥が、少なくとも箱庭に来て出会った彼等は明を責めないだろう。
付き合いが長くないのもあるが、なにより力の無いものが何かを守るということ自体が無理な話だから。
(ここで逃げて、俺自身は満足出来るのか?後悔しないといえるのか?)
そう、きっと他の誰が責めなくとも、明自身が許せないのだ。
何かある度に自分を責め続けることになる。
(そんなのは……嫌だッ!後悔するのも、逃げるのも、それで満足する自分自身も……)
「……これで、終わりだ」
男の拳が目の前に迫ってくる。
あれは、己の命を奪うに値する物だと本能が理解する。
それでも、明は諦めない。
少女のためにも、自分のためにも。
「そんなのは……全て振り切ってやる!!」
その時、変化は起きた。
「……これはッ!!」
そう、風が巻き起こったのだ。
ここまではリメイク前と大体同じ流れ……でもないですねw
問題児の二次小説の出だしは書くのも読むのも苦手です。
何かと単調になりやすいというか、手紙→箱庭へ→黒ウサギの説明と流れが大体できてしまっているので。
なのでここまで一気に投稿してみました。
しかし、いきなりフルスロットルしすぎたせいか、かなり息切れ感があります。
……やっぱり一話ずつ投稿したほうがよかったかもしれませんね。
それではまた次回ッ!