問題児たちが異世界から来るそうですよ?~箱庭に吹く風~《リメイク中》   作:ソヨカゼ

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はい、本日二話目の投稿です!
……が、その前に一つ報告を。
明の苗字が他作者様の主人公と被ってしまうことが判明したため、天城から風薙(かざなぎ)に変更しました。

それでは、改めてどうぞ!


二話 兆しの風

(そんなバカな!?)

 

頭にウサ耳をつけた少女、黒ウサギは驚いていた。

彼女はとある理由で四人の人間をこの箱庭に呼び寄せる必要があった。

それが明を含めた四人になるのだが、今は関係ないので置いておこう。

とにかく、彼らの召喚には無事に成功し、後は予定通り雲より高くから降ってくる四人が湖に落ちれば完璧だった。

そう、()()()

あと数秒で巨大な水柱を立てて着水するはずだった四人は、突如吹き荒れた暴風によって落下速度を軽減し、湖の横に着地したのだ。

しかしここは修羅神仏がしのぎを削る箱庭、そこで暮らす黒ウサギがその程度の事でここまで驚いたりはしない。

では、何が彼女をそこまで驚かせたのか?

 

(風が吹いたとき感じた力……あれは間違いなく神霊のものでした!)

 

そう、問題は風を起こしたであろう力そのもの。

黒ウサギが感じたそれは、この箱庭において最強と謳われるもの。

そのうちの一つ、神霊のものだった。

 

(まさか、彼らの中に神霊に属するものが?)

 

もしそうなら、と黒ウサギの中に一つの思考が生まれる。

仮に彼女の予想通りだとしたら、四人を召喚するに至った理由を成就するのに一歩近づくのだ。

思わぬ拾いものをしたと内心で小躍りをしながら黒ウサギは物陰に隠れ、今一度四人を観察することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 

「…何だったんだ今の?」

 

無事に四人とも着地できた事を確認した後、明は先ほどの風が何だったのかという思考に移る。

確証はないが、あれは間違いなく自身から溢れ出た力だと明は思う。

何故ならあの風は明を中心に発生していたからだ。

だが心当たりはまるでない。

いや、もしかしたら二年より前に……明が記憶を失う前に何かあったとしたら。

無くはないが、正直信じられない話だ。

記憶を失う前の自分が超能力者だと言って誰が信じるだろうか?

ほとんどの人は無理だろう。

 

「ねぇ」

 

「…え?」

 

突然聞こえた声に思考を中断され顔をあげると、そこにはいかにも『ご立腹です』と言わんばかりに腕を組み明を睨み付けている少女がいた。

いや、その少女だけではなく少し後ろにいる猫を抱えた女の子と金髪ヘッドフォンの不良っぽい格好をした男も明の事を見ている。

どうやら明が考え事をしているうちに話は進んでいたらしい。

 

「え?じゃないわよ。私の話を聞いていたのかしら?」

 

「えっと、ごめん。考え事してたから聞いてなった」

 

「でしょうね。私たちが話している間も心ここにあらずって顔してたもの」

 

どうやら怒っているわけでは無いようだが、その態度が気にくわなかったのか少女はふん、と鼻をならす。

 

「久遠飛鳥よ、以後よろしく。三度目はないからちゃんと覚えてよね。それで、そっちで猫を抱えているのが」

 

「……春日部耀、以下同文」

 

「ニャーーー!(お嬢の自己紹介を無視するとはどういうことや!聞いとるんか小僧!!)」

 

耀が自己紹介すると、彼女が抱えていた猫が明に向かって鳴き出した。

まるで、というかあからさまに怒っているらしい。

 

「……えっと」

 

「何でもない。三毛猫はちょっと興奮してるだけだから」

 

耀の発言でガビーン!?とショックを受ける三毛猫。

かなり表情豊かな猫のようだ。

 

「そんでもって逆廻十六夜だ。同じことは二度言わない主義なんで以下略だ」

 

ヤハハ、と少し特徴的な笑い方をする金髪に着崩した学ランとヘッドフォンがよく似合う少年。

十六夜が話に入ってくる。

自分の番が待ちきれなかったのか、自己主張の強いやつというのが明の第一印象だ。

いや、実際には明の自己主張が弱いだけなのだが。

 

「風薙 明だ。えと、よろしく」

 

「ええ、よろしく。さて、それでは改めて聞くけど……あなたはここが何処だかわかるかしら?」

 

明が名乗ると、飛鳥は満足そうに頷き話題を次の事に移す。

どうやら進行役は慣れているらしい。

しかし、明は飛鳥の質問に答えることは出来ない。

何故なら、明もこの世界を知らないのだから。

 

『ここは箱庭。修羅神仏がしのぎを削り、悪鬼羅刹が荒れ狂う世界』

 

「……っ!?」

 

故に、明はこの世界を『知らない』と答えようとした。

すると、風が吹く前にも聞いた謎の声がまた頭に響く。

 

「……どうかしたの?」

 

「い、いや。それより、俺も変な手紙を読んで気がついたら空の上だったから、よくわからない」

 

「でしょうね」

 

彼女も同じだったのか、案の定信じてもらえたらしい。

しかし、明は先ほどの謎の声が引っ掛かって仕方がなかった。

 

(箱庭?確かあの手紙にもそんなことが書いてあったような……)

 

偶然なのか。

それとも、ただの幻聴だったのか。

自分が変な病気なのではないか心配になる明だった。

しかし、内心ブラックになっているのは明だけではない。

そう、彼らを物陰からこっそりと観察していた黒ウサギだ。

 

(うわぁ……なんか問題児ばっかりみたいですねえ……)

 

召還しておいてアレだが、彼らが協力する姿は客観的に想像できそうにない。

黒ウサギは陰鬱そうにため息をついた。

 

「で、そろそろこの状況や招待状について説明をする人間が現れるてもいいんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「……。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

 

「いや、春日部もだけど」

 

(全くです)

 

黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。

もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着きすぎているので出るタイミングを計れないでいた。

そのとき、ふと十六夜がため息交じりに呟いく。

 

「仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

完璧だ!と何気に自信満々に隠れていた黒ウサギは、心臓を捕まれたように飛び跳ねる。

 

「なんだ、あなたも気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちのやつも気づいてたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「……へえ? 面白いなお前」

 

軽薄そうに笑う十六夜の目は、しかし全くといっていいほど笑っていない。

むしろ、面白い獲物を見つけたとばかりにギラギラと輝いていた。

 

「で、あなたは?」

 

飛鳥が明に話を振る。

ぶっちゃけ明は話を振られるまでは気づかなかったが、三人が向いている方向を向いて何がいるのかを理解する。

 

「……ウサ耳?」

 

そう、ウサ耳だ。

誰がなんと言おうとウサ耳だと胸を張って宣言できるくらい完璧なウサ耳が、そこにはあった。

具体的にいうと、茂みの中からパーフェクトウサ耳だけが飛び出ている。

 

(か、完全にバレてる!?)

 

自身の思わぬ失態に気づかぬ黒ウサギは、理不尽な召集の腹いせに殺気の籠った視線を送られビクビクしていた。

ほんの数秒ばかり抵抗してみたが、時すでに遅し。

それを理解した黒ウサギは素直に茂みを出ることにした。

 

「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「ゴメン無理」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギ。

しかし、その目は冷静に四人を値踏みしていた。

 

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まあ、扱いにくいのは難点ですけど)

 

しかし、本当にこのなかに神霊と同等の力を持ったものがいるのかと多少心配になる黒ウサギ。

まあ、実際にこの中の誰かがその力を使って見せたのでその点において心配は要らないと思うが―――

と、耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み……

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ? このウサ耳って本物なのか?」

 

今度は十六夜が右から掴む。

 

「じゃあ私も」

 

飛鳥は左から。

 

「ちょ、ちょっと待―――」

 

そういって黒ウサギは唯一乗ってこない明に助けを求める。

がしかし、ぶっちゃけ明も気になっていたので止める気はサラサラない。

つまり、この状況から察するに。

 

「レディー……ファイッ!!」

 

どちらに着くかは一目瞭然だろう。

黒ウサギの言葉にならない絶叫は、小一時間ほど木霊し続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

半泣き、というかガチ泣き寸前の黒ウサギは、なんとか話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。

が、そのために失ったものがわりと大きいのではと思うのは気のせいだろうか。

そんな苦労の末、四人は黒ウサギの前の岸辺に思い思いに座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

 

「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います!ようこそ"箱庭の世界"へ! 我々は皆様にギフトを与えられたものたちだが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召還いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。

そこでふと、俺は疑問を感じた。

 

「ちょっと待ってくれ!普通の人間じゃないってどういう事だ?」

 

刹那、時間が凍りついたようにさえ思えた。

一瞬のフリーズを終えた黒ウサギは、その色白で整った顔を徐々に青く染めて行く。

 

「え?あれ?それ本気で言ってます?」

 

「あぁ。少し人と変わった人生を歩んでるとは思うが、こんな異世界に呼ばれるほどファンタジーな力は持ってなかったと思うぞ」

 

少なくとも俺の知る限りでは、と明は心の中で呟く。

過去の自分がどんな力を持っていても、今の自分に同じものがあるとは限らない。

あったとしても、使い方を知らなかったら意味がないのだ。

無論、その使い方を教えれるのは過去の自分だけだろうし、その頃の明はもういない。

結果的に、明には箱庭を楽しむだけの力はないと言うことになる。

 

「そ、そんな……いや、もしかしたら明さんが知らないだけで、本当はものすごいギフトを持っているかもしれませんよ?」

 

黒ウサギは半ば自分に言い聞かせるように、そう言った。

先ほどの彼女が言ったように、この世界は特別の力を持った者のためにある。

ならば、明のように何の力も持たない者はどうなるのか?

恐らく、答えは弱肉強食。

弱き者から強き者に食われていく。

黒ウサギの不安は最もだろう。

 

「まぁ、なるようになるか」

 

黒ウサギの言葉に賛同したわけではないが、とりあえずそう思っておくとこにした。

と、明の質問が終ったと思ったのか、今度は飛鳥が手を挙げる。

 

「申し訳ないけど、初歩的な質問をしていい? 貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「い、YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます!」

 

「嫌だね」

 

十六夜、まさかの即答である。

まぁ、さっきあったばかりの人間?に付いていくのはあまり誉められたことではないのだが。

 

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"主催者"(ホスト)が提示した商品をゲットできると言うとってもシンプルな構造となっております」

 

今度は、耀が控えめに挙手した。

 

「......."主催者"って誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として前者は自由参加が多いですが"主催者"が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。"主催者"次第ですが、新たな"恩恵"(ギフト)を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て"主催者"のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者はかなり俗物ね……チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――ご自身の才能も失われるので悪しからず」

 

愛嬌たっぷりの黒い笑顔を見せる辺り、明の件で下がっていたテンションも戻ったのだろう。

しかし、明は黒ウサギの発言で少し引っ掛かるところがあった。

 

「なぁ、人間を賭けるってのはつまり……」

 

「はい、いわゆる人身売買ですね。あまり気持ちの良い話ではありませんが、箱庭では別に珍しい事でもありません」

 

人身売買や奴隷制度は明のいた世界ではかなり昔に廃止されたはずだが……いや、ここは力が物を言う世界だ。

優秀なギフトを持ち主ごと取引することもあるのだろう。

 

「私からも最後の質問よ。ゲームそのものはどうやって始めればいいのかしら?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

飛鳥は黒ウサギの発言に片眉をピクリと上げる。

 

「……つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お? と驚く黒ウサギ。

 

「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞の輩は悉く処罰します―――が、しかし! 先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの! 例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし"主催者"は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギは一通りの説明を終えたと思ったのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいです?」

 

「待てよ、俺がまだ質問してないだろ」

 

急に十六夜が威圧的な声を上げて立つ。

ずっと刻まれていた笑顔が無くなっていること、視線が鋭さを増したことに気がついた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

 

「……どんな質問でしょうか?ルールですか? ゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ黒ウサギ。ここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのはたった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見回し、巨大な天幕によって覆われた都市に向けた。

彼は何もかもを見下すような視線で一言、こう言い放った。

 

「この世界は……面白いか?」

 

他の三人も無言で返事を待つ。

彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

それに見合うだけの催し物があるのかどうかが四人にとって重要なことなのだ。

黒ウサギは一瞬目を瞬かせると、笑顔で言った。

 

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」




リメイク前のお話は、リメイク版がある程度溜まったら消すかもしれませんので悪しからず。
リメイク版から見てくれた方々にはなるべく読んでほしくないので。

感想や意見など待ってます!

それでは!

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