あの日あの時あの場所で、   作:浮火兎

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 レイア・ロランド。

 鉱山の隣に位置する港町、ル・ロンド唯一の宿泊処「ロランド」の一人娘が、今世の私だ。

 今世と言い切ってしまえるということ。つまり、私には前世が存在する。

 ありえないことに、生まれ変わり、転生と呼べることを体感しているのだ。

 私も最初は信じられなかった。それも、ゲームのキャラに成り代わるなんて。

 そしてなによりも、目の前に座って私を説教している彼、ジュード・マティスがゲームのキャラだなんて信じたくなかった。

 

「もう!レイアは身体が弱いんだから、おとなしく寝てなきゃだめでしょ!」

 

 お説教は終わったはずなのに、彼はしつこく私を責める。私はそれを聞き飽きたとばかりに、右から左へと流しリゾットを口に運ぶ。

 先ほどの失敗の経緯はこうだ。

 家業が忙しく子供にまで手が回らないマティス家は、よくうちにジュードを預けにくる。

 今日も毎度のごとく夕飯を一緒しにきたのだが、生憎とうちも立て込んでいた。

 体調を崩して部屋で寝ている私と一緒に夕飯を取っておいでとうちの親に言われた彼は、晩御飯を私の部屋まで運んできてくれたのだ。

 ノックをしても返事がない私を寝ていると判断し、入ってきてみたものの……。

 

「そこにいたのは、おかしな言動をしている私で。ジュードは心配して声をかけてくれた、と」

「それがどうして水浸しにならないといけないの!?」

「面目ない」

 

 全面的に私が悪い。よって取る行動は一つ。謝罪一択だ。

 ベッドの上で対面的に食事を取っていた私は、手にしていたスプーンを銜えると両手を下に置き頭を下げた。

 日本の伝統的最終兵器《土下座》である。この世界にあるのかはわからないが、誠意は伝わると信じたい。

 彼は私の行動を見るなり「おぎょうぎがわるい!」と無理やり口からスプーンを奪い去った。何気に今のは痛かったぞジュード。

 しかし、私は気にせずそのまま土下座を続けた。その体勢を維持したまま顔を上げない私に、彼が痺れを切らしてため息をつく。

 

「……僕が怒ってる理由、ちゃんとわかってる?」

「ドアノックに気づかなかった。心配させた挙句水を被せてしまった。だろ?」

「ちょっと違う」

 

 あれ、違ったの? と視線だけ上に向ければ、ジュードが私の顔をガシっと掴んで、無理やり上を向かせると視線を合わせてきた。正直この体制は首がキツイです!!

 

「どうしてレイアは身体が弱いのに無茶ばかりするの?」

 

 真摯な目で訴えられる。その瞳には純粋な心配しかなかった。こんな子供に心配させるとか、私はバカかと自分で自分を罵りたくなる精神年齢ほにゃらら才です。恥ずかしい!

 それでも私は彼の言うとおり、無茶をやめない。やめられない理由がある。だけど、それは言えない。

 結局私はいつも通り、口先だけの言葉を吐く。

 

「ごめん。もうしないよ」

 

 笑顔でさらりと嘘をつく私に、またもやため息をつくジュード。

 

「その言葉も何度目だろうね……どうせ守ってくれないくせに」

「あはは、よくわかってらっしゃる」


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