Fate/Zepia   作:黒山羊

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0days PM9:06 『願望成就』

 さて、視点は再びサーヴァント達に戻る。

 

 ライダーは未だに「ガッハッハ」と笑って居るが、騎士二人は余りに理不尽な力を前に笑うことなど出来るはずもなく。その内の一人、セイバーはふと抱いた疑問を口にする。

 

「バーサーカー、貴様、聖杯に掛ける願いがないと?」

 

 至極当然の疑問。聖杯によって現世に招かれた以上、全ての英霊は何か願いがあって現界したはずだ。それが無いとは言わせない。そんな意志を瞳に込めズェピアを見据えるセイバー。

 

 しかし、彼は静かに首を振る。

 

「セイバー。全ての英霊が聖杯を望む訳ではないのだよ」

「……どういう意味だ」

「そうだね、では問おう。自分が聖杯を手にしたいが為にこの聖杯戦争に挑んだ者は手を挙げたまえ」

 

 彼の問いの意味がよく判らぬまま、セイバーは剣を持たぬ左手を挙げ、続いて、ライダーも手を掲げる。が。

 

「なっ……!?」

 

 セイバーはまさしく驚愕していた。彼女は当然ズェピアを除く全員が手を挙げると考えて居たからだ。

 

「どういう事だランサー!? 貴公もまた聖杯に掛ける願いなど無いと言うのか!? 何の願いも持ち合わせぬと!?」

 

 その問いに答えたのは、ランサーではなくズェピアだった。

 

「それは違うよセイバー。私達の様な英霊は既に願いが叶っているのだ」

「……は?」

 

 思わず間抜けな声を上げるセイバー。そのセイバーにフッと笑いつつランサーが告げる。

 

「セイバー。俺が掛ける願いは唯一つ。生前叶わなかった『主への忠義を貫く騎士となる』事だ。我が主が望む以上、聖杯は必ずや手に入れる。しかし、それに掛ける願いは最早無いのだ。そこの狂っていない狂人の何が叶っているかは知らんが、確かに俺達のような英霊は聖杯ではなく『聖杯戦争に』願いがあって現界したのだ」

 

 ランサーの言葉に、セイバーは漸く意味を理解した。その上で再度問う。ズェピアの、その叶った願いとは何なのかと。

 

「私の願いは……。む、すまないセイバー君。少し待ちたまえ」

 

 ズェピアはそれに答えようと口を開いたが、その言葉を言わず、何かに気付いたように姿を変える。ワイシャツにジーンズという現代風の姿から、貴族然としたマントを羽織る姿へと一瞬で変身した彼は一瞬その「深紅の目」を開いて叫ぶ。

 

「カット!! 私の舞台に立ち見席は無いぞアーチャー!!」

 

 そう叫ぶなり、隣にあったコンテナを「片手で掴んで」近くの街灯に向け投げ飛ばした。音速を越え、一瞬にして大気の摩擦により赤熱したコンテナはしかし、突如飛来した無数の『宝具』によって消し飛ばされる。

 

 コンテナの残骸が土煙を上げて地面に落下するが、その煙も吹き抜ける海風によってすぐに晴れる。

 

 その中に黄金が居た。

 

 アーチャー。遠坂邸の一件でこの戦争の火蓋を切って落とした、ズェピアとは真逆のサーヴァント。身体能力を突き詰めた様な存在であるズェピアと、大量の宝具を誇るアーチャーはどちらも規格外であるという一点においては同一と言えるだろう。

 

 その二人は今、片やこめかみに血管を立て、相手を射殺さんばかりに睨み、片や平然と微笑んでいる。前者がアーチャーで後者がズェピアなのは言うまでもない。アーチャーの放つ殺気は尋常なモノではなく、セイバーやランサーは反射的に各々の武器を構えている。それに対して微笑むズェピアはやはり、『狂戦士』なのだろう。

 

「王たる我を差し置いて王を名乗る雑種共も赦し難いが、我に路傍の石を投げつけるとはどうやら死にたいらしいな、吸血鬼」

 

 大層御立腹なアーチャーに対して、ズェピアは一言言い返す。

 

「ふむ。君の国の法では『同罪同罰までしか認めない』のではなかったかね、アーチャー。いや、ギルガメッシュ王」

 

 

 ズェピアの本日二回目の意味不明発言に、再び場の空気が固まったのは言うまでもない。

 

 その中で、ライダーだけが再び「ガッハッハ」と笑っていた。


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