Fate/Zepia   作:黒山羊

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-epilogue- 『Fate/Zepia』

「ラニ=Ⅳ、留守を頼むよ?」

「はい、マスター雁夜、桜。道中お気をつけて」

「行って来ます、ラニちゃん」

「行ってらっしゃい、桜」

 

 一年がかりのリフォームを漸く終え、小綺麗になった間桐邸の玄関で他愛ない会話が交わされる。

 

 その会話を背に夜の冬木へと歩き出した雁夜の姿は着流しに羽織り。そんな雁夜に手を引かれている桜は、ほんのちょっぴりおめかしした姿で雁夜の後をついて行く。

 坂を下り、四辻を曲がり、たどり着いたのは木造平屋の日本家屋。

 

 その表札には『衛宮切嗣』、『衛宮愛理』、『衛宮伊里夜』、そして『衛宮士郎』の文字が刻まれている。

 

 その門の内側から響く喧騒に、「近所迷惑にならないのだろうか」と少しだけ心配しつつ、雁夜はインターホンを押した。

 

 鳴り響く機械音。その音に「はい、今開けます」と言いながら玄関の戸を開いたのは金髪緑眼の小柄な女性。

 

 セイバーとして現界した彼女は現在、衛宮家にホームステイしている留学生として現代での居場所を得ている。

 

「あぁ、久しいですね、間桐雁夜」

「うん。久しぶりだな、セイ……じゃなかった、ペンドラゴンさん。今日は桜ちゃんも連れて来たんだ」

「アルトリアさん、こんばんは」

「こんばんは、桜。……む、また背が伸びましたか?」

「2センチのびたよ」

 

 他愛もない会話、平穏なそれを交わしつつ、セイバーに連れられて入った玄関は、既に大量の靴で埋め尽くされていた。

 

「もう、みんな来てるんだな」

「ええ。彼らは気が早いですから」

 

 そう言って苦笑いするセイバーの後に続いて草履を脱ぎ、桜と共に奥の座敷、衛宮家のリビングへと足を踏み入れる。其処には懐かしい面子が雁首を揃えて座っていた。

 

「やぁ、いらっしゃい。間桐雁夜」

「お邪魔してるよ、衛宮切嗣。……あぁ、アイリスフィールさんも」

「いらっしゃい、間桐さん」

 

 取り敢えず家主と挨拶をする雁夜の脇に桜は既に居ない。

 ならば何処に消えたかと言えば。

 

「桜、元気だった?」

「うん、げんき。……お姉ちゃんは?」

「あたしはみての通り元気よ!」

「お姉ちゃん……? 遠坂が桜の? イリヤ姉、何か知ってる?」

「察しなさい士郎。勘で!!」

「……知らないんだな」

 

 と、まぁ、子供は子供の付き合いがあるのだ。ちなみに、最近桜がやたらに「衛宮士郎」について語るので雁夜としては嬉しいやら悲しいやら複雑な気分である。

 

 そんな雁夜に声をかける漢が一人。

 

「ガッハッハ、娘を持つ父親は辛いな」

「ちょ、余計なこと言うなよこのバカ」

「……相変わらずだなぁ。日本には何時来たんだ、ウェイバー君とイスカ……今はアレクセイだったか」

「昨日の昼だよ。お爺さん達に顔見せもしたかったし」

「ああ、グレンさんとマーサさんか」

「おいウェイバー、余と共に『日本橋』に行くという目的もあっただろうに」

「だからさ。余計なこと言うなよ、バカたれ」

「む、バカはともかくバカたれとは何だ」

「お前みたいな垂れ流しのバカの事だよ、バカ」

 

 相変わらず漫才を披露しているその姿に、思わず笑ってしまう雁夜。

 

 それに釣られたのか、その場にいる皆が笑い出す。

 

 切嗣、アイリスフィール、舞弥、ケイネス、ソラウ、時臣、葵、綺礼、そして、ポニー、ギルガメッシュ、エルキドゥ、ディルムッド、アルトリア。

 

 笑い合う彼らは、確かに第四次を戦い抜いたマスターと、そのサーヴァント達。

 

 彼らが何故この場に集っているかを説明するには、二年前、冬木で発生した第四次聖杯戦争の顛末を語ることから始めねばならない。

 

 

--------

 

 

 バーサーカー脱落の後、停止した聖杯は預託令呪をくべる事でどうにか再び駆動したものの、大きな問題を抱えていた。

 

 即ち、魔力不足と聖杯の『リセット』である。

 

 魔力不足については仕方があるまい。だがあろうことか、再起動した聖杯はサーヴァントとアイリスフィールを認識していなかったのである。

 つまり、サーヴァントとそのマスター達は戦う意味を完全に失った。戦い合っても聖杯が降臨しないのでは意味がないからである。

 

 其処からの動きはまぁ早かった。

 

 聖杯からのバックアップを受けられないサーヴァント達を前に、ギルガメッシュが『聖杯競争』の開始を宣言。彼の持つ『黄金聖杯』のバックアップを『ギルガメッシュに勝ったもの』に与えると宣言したのだ。

 

 どんな方法でも勝てば良い、挑戦回数無制限というそれに飛び付いたサーヴァント達のなりふりかまわぬ挑戦は結局全員がクリアし今に至るわけだが、その過程は充分にギルガメッシュを楽しませたらしく、気前よくバックアップを与えたのだ。

 

 ちなみに、セイバーが『宝具無しのガチンコ大食い勝負』、ランサーが『宝具無し、スキル無しでホストクラブに一日勤め、どちらが売上を上げられるか』、アサシンが『チキチキ冬木全域缶蹴りバトル(遠隔攻撃禁止)』、ライダーが『アドミラブル大戦略Ⅳ~難易度ルナティック~』で挑戦し、見事に勝ちを拾っている。

 

 で、安定したサーヴァント達は己のマスターと共に、新たな生活を始めた訳である。

 

 セイバーは、切嗣、舞弥、そして元々黄金聖杯のバックアップを受けていた騎士トリオと共に『正義の味方』として魔神の被害を受けた冬木周辺の都市を駆けずり回り、事態を収束。その際拾った孤児の士郎君を引き取った後、今度はドイツに飛んでアインツベルンの城へと突撃。イリヤスフィールを奪還して冬木へと舞い戻った。

 

 以降は二年間、北に戦争の火種あれば行って鎮火し、南に死徒の事件あれば行って浄化し、西に誘拐事件あれば世界中飛び回って救出し、東に弾圧あれば行って革命するという雨にも風にも負けない戦いを繰り広げている。

 

 

 ランサーとライダーはそれぞれのマスターと共に時計塔へ凱旋した。というのも、『アルティメット・ワン』の討伐は充分に偉大な功績だからである。これによりその地位を不動にしたケイネスはウェイバーを『窃盗を帳消しにする』代わりに助手として登用。その薫陶を受けたウェイバーは、今では『ロード・ベルベット』として時計塔で講師を勤めるまでに成長している。と、いうのも、助手の仕事によって彼の『教師の才能』がケイネスに見出され、魔術師としては三流だが教育者としては超一流だと認められたためである。

 

 ランサーはそんなケイネスの秘書兼ボディーガードを勤め、ライダーはウェイバーを連れ回してみたり剣の手解きをしたりと悠々自適に生きている。

 

 余談だが、その影響でウェイバーは魔術師には無駄な剣術、馬術、槍術などを無駄に詰め込まれ、その上で国内の競技大会で連戦連勝。英国から『騎士』として認められている。そのせいか、漸く隣に並べても浮かなくなったとは、ライダーの談である。

 

 

 アサシンは各々冬木でバイトしたり、何だりと自由に動き回っている。その中でもポニーは綺礼とギルガメッシュの愉悦コンビに勝手にとある『音楽ユニット』のオーディションに応募され、それが当選。

 

 テンパりながらも何とかシタールを引いて誤魔化す毎日である。

 

 

 で、そのギルガメッシュはと言えば、遠坂家でプーさんをしている。とは言え、パチンコに行けば出禁になり、競馬に行けば大穴当選、株で遊べば利益がヤバいという『役に立つプーさん』なせいで、いつの間にか遠坂家が億万長者になっていた。

 

 ちなみにエルキドゥはそんなギルとは好対照で、家事手伝いをしてはギルに手料理を食べさせ、服を洗濯し、靴を磨くという良妻っぷりを発揮している。

 

 

 そんな彼らが二年後の今、衛宮家に集った理由は唯一つ。

 

 彼らの帰国記念パーティーの為である。

 

 

--------

 

「「「ポニィィィ…………裏切ったなぁ…………」」」

「ヒィィィィッ!?」

 

 やたら情念の籠もった恨みの声と共に縁側から入ってきたのは先程まで空港でレポーターに応対していたエリザベートとヴラド。

 

 そして、ズェピア、エルトナム・オベローンである。

 

 

 エリザベートの望み通り音楽グループとなった彼等は、此処半年、ワールドツアーをしていた。そこから帰国して来た冬木空港で、先程まで拘束されていたのだった。

 ちなみにポニーへの怨念は、彼女が『気配遮断』で逃げ出したのが原因である。

 

 さて、では、最後にどうしてこの場にズェピアが居るのかを説明させて貰うとしよう。

 

 

--------

 

 

 二年前、自らと共に魔神を隔離したズェピア。死んだかと思われた彼は、半年後にひょっこりと帰ってきたのだ。それも飛行機で。

 

 と、いうのも、あの後のズェピアの行動が原因である。

 

 ギルガメッシュにより虚空へと放たれた『虚言の夜』は世界の隙間に入った後、再び膨張。そして、ズェピアはその内部にある『吸血鬼』を呼び出した。

 

 

 ORT。死徒二十七祖の中でも上位を占めるその『吸血鬼』はクトゥルフに躍り掛かると実に美味そうにその肉をかじり始めた。それをみたズェピアは勝ちを確信し、『水晶に変えられる』前にその場から脱出。

 

 その際、雁夜に預けた『黒い銃身』を道標に帰還したのだが、雁夜によってアトラス院へと送り返されていた『黒い銃身』のせいでズェピアはエジプトに出現。其処からどうにかこうにか冬木に帰ってきた頃には、既に半年後だったのだ。

 

 

--------

 

 

「おぉ、お帰り、ズェピア」

「ただいま、雁夜。桜君も大きくなって居るではないか」

「お帰り、ズェピア先生」

 

 帰還報告を済ませ、席に着くズェピア。それを確認した雁夜が咳払いと共に立ち上がり、缶ビールを掲げる。

 

「えー、なんだ、幹事の間桐です。……前衛ロックバンド『ナイト・オブ・ワラキア』の帰国と、聖杯競争から二年たったことを祝しまして、今から宴会を始めたいと思います。……それでは皆さんご一緒に」

 

 

 

「「「「乾杯ッ!!」」」」

 

 

 宴の夜は続き、英雄と魔術師が入り混じって笑い合う。

 

 

 当然ながら、彼らの物語はまだ終わらない。翌日には二日酔いに苦しんだりなんだりと平穏な日常が続くのだろう。

 

 だが、この話はひとまず此処で幕といかせていただこう。喜劇はやはり、ハッピーエンドが望ましい。

 

 ならばこそ幕引きは宴会の中で。

 

「--カット。実に良い舞台だったよ」

「どうした? ズェピア?」

 

 

 

「何、気にすることはない。酔っ払いの世迷いごとだよ。……ねぇ、観客諸君?」

 

 

 

 Fin

 


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