Fate/Zepia   作:黒山羊

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戦闘描写は難しいですね。


+4days PM6:03 『三大騎士』

「では、作戦開始だ。不測の事態も考えられるが、各自臨機応変に対応してほしい」

 作戦会議を締めくくった切嗣のその言葉で、各サーヴァントが一斉に動き始めた。それに反応し、川縁から怪物に攻撃していたエリザベートとヴラドもサーヴァント達に同調する。

 

 彼等の先鋒となるのは、水面を駆けるセイバー。エリザベート達に注意を向けている怪物の側面、人間で言えば側頭葉にあたる部分に向け、一撃を打ち込む。各パーツはおぞましい異形とは言え、この怪物は全体的に見れば不気味なまでに人間じみている。ならば、人体の急所へと攻撃するのは当然の対処といえるだろう。

 

「----風王鉄槌ッッッ!!」

 跳躍と共に解き放たれた暴虐の嵐は、無防備極まりない怪物の頭を捉え、柘榴のように弾けさせる。その余りの呆気なさにセイバーは一瞬動揺する。

 

 その一瞬が拙かった。

 

 伸縮する怪物の腕から繰り出された裏拳はセイバーの全身をモロに捉え、音速でセイバーを弾き飛ばした。子供が投げた石のように水面を二回、三回と跳ねるセイバーは魔力放出と共に身体を捻り、どうにか姿勢を整える。

 

 だが、休む間もなく怪物の拳は再びセイバーに振るわれた。弾け飛んだ頭は既に再生し、挙げ句に飛び散った無数の肉片が見慣れた怪魔と化して容赦なくマスター達に襲い掛かる。だが、セイバーとて無策に突っ込んだ訳ではないのだ。

 

「やれッ、アーチャーッ!!」

「王たる我に命令するでない」

 

 怪物の注意を一身に引き受けたセイバー。陽動としての役目を果たした彼女の視線の先、立ち込める雲の合間から黄金の飛行宝具が疾走する。疑似太陽炉を搭載したその舟は物理法則を無視した動きで怪物に接敵し、停止。

 

 その船上で弓に酷似した装置を構えるギルガメッシュは迸る輝きを引き絞り、怪物へと解き放つ。

 

「----『終焉齎す雷鳴の矢』」

 

 幾千の焔を束ねたかのようなその矢は、黄金の舟『ヴィマーナ』の炉心から供給され、一条の光線と化して怪物の上半身を跡形もなく焼き払う。天文学に長けた人物が居れば、その正体を悟ったかも知れない。

 古代インドにおいてインドラの焔と呼ばれたその矢の正体は『γ線バースト』。宇宙においてしばしば発生するその現象は、極超新星爆発などで発生した膨大なγ線が一直線に照射する現象だ。

 

 γ線という名を耳にしたことがない人物にはγ線の別名を補足しておこう。

 

 X線。医療などで使用される放射線の一種として広く知られるそれが、γ線の別名だ。

 

 ならば、それが『可視光線』として放たれている現状が如何に凄まじいモノであるかは想像するに容易いだろう。放たれたγ線の余りの威力に大気が電子的励起状態に陥り、プラズマとなって発光しているのだ。

 

 だがしかし、その破壊の光を放ったギルガメッシュは素早く船首を反転させながらその美貌に渋面を浮かべていた。

 

「チィッ!! 魂がないのかこの蛸は!?」

 

 アーチャークラスである以上、ギルガメッシュの視力は並みのサーヴァントの数倍を誇る。その視力に裏打ちされた視界が、速やかに再生する怪物の姿を見て取っていた。消し飛ぶのが一瞬ならば再生も一瞬。既に七割方再生した異形の巨人は飛び回るギルガメッシュを叩き落とさんとその腕を高速で伸ばし始める。流石にその程度で捕まるギルガメッシュではないが、不利には変わりない。その窮地を救ったのはランサーだ。

 

「無尽に再生するならば、再生できぬ傷を与えれば良いのだろう? --必滅の黄薔薇ッッッ!!」

 

 見事なフォームからの投擲は怪物の眼を食い破り、頭頂部を貫通する。だが、如何にランサーと言えど川岸から天を衝く巨人の眼を穿つのは不可能だ。

 

 しかし、今のランサーは頼もしい相棒の背に跨がり、空を駆けていた。薄く、薄く延ばされたその翼で空を駆ける白銀の飛竜と化しているのは、時計塔の天才、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが生み出した最高傑作『月霊髄液・改』。水と風の二重属性を持つ彼が川縁から重量軽減と流体操作、気流操作などの魔術を駆使して騎竜を動かしているのだ。

 

 魔術教会において神童と呼ばれたその実力が今、遺憾なく発揮されていた。

 

 だが、たかが片目を失った程度で、怪物は止まらない。ランサーに貫かれた眼が再生できぬとみるや、『新たな眼』を穿たれた目の辺りに発生させて対応したのだ。

 

「……そう簡単には取らせてくれんか。だが、俺は一人で戦っている訳ではないぞ、怪物」

古に伝わる竜騎士と化したランサーが黄薔薇を回収する姿に怪物が気を取られたその刹那、その死角をついてもう一組の『竜騎士』が空を駆けた。

 

 翼を広げ飛翔するエリザベートに抱えられたヴラドである。

 

「『竜の子』と名乗って久しいが、まさか竜騎士として空を駆ける日が来るとはな」

「感傷に浸ってないで早く攻撃しなさいよ!? あたし、飛ぶのは得意じゃないんだからね!?」

「おぉ、すまん。……では刮目せよ。『串刺城塞の極刑王-カズィグル・ベイ-』ッッッ!!」

 

 ヴラドの咆哮と共に、水面下から突き出される二万本に及ぶ杭は怪物の肉に食い込み、その巨体を磔にする。更にトドメとばかりに撃ち込まれるのはヴラドが投擲した巨大な槍。上下からの串刺しにより固定された怪物を確認したエリザベートは素早く反転、『射線上』から退避する。

 それと同時に立ち上るのは黄金の聖火。

 地上全ての英雄の憧憬を一身に背負うその姿は、教会に掲げられた一片の聖画の如く美しく、地を照らす太陽のように力強く、天より見守る月のように儚い。

 

 人類全ての願いの結晶。星が鍛えた神造宝具。

 

 その剣を振り上げるセイバーは正に『騎士の王』であった。

 

 

「----約束された」

 

 魔力が爆ぜる。

 灼熱が奔る。

 極光が吼える。

 

 込められた威力をそのままに、大上段からそれは振り下ろされた。

 

「----勝利の剣ッッ!!」

 

 

 

 冬木の街が閃光に包まれる。

 

 

 

 その光の中で、怪物が吼えた。

 


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