Fate/Zepia   作:黒山羊

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+3days PM6:03 『現状把握』

 バーサーカー陣営、もとい吸血鬼御一行は一時的に下水道にある雁夜の工房に集まっていた。その理由は単純にして明解である。

 

「……ふむ、やはり輸血パックは便利だね。血液が供給出来ればこの状況もマシになるというものだ。……それでも、私のステータスはA+からB+に低下してしまうがね」

「それは仕方がないわよ、マネージャー。でも、この輸血パックって、私達の為にあると言っても過言ではないわね」

「いや、過言だろう。本来は医療用の筈だ」

「ヴラド君、前から思っていたが、君はもう少し冗談も嗜むべきだと思うよ」

 

 というわけで、雁夜を含めた四人で仲良く血液補給中である。吸血鬼は血液補給で魔力を補えるのが強みだが、それでも『日光を浴びても問題無い』という利点が消失したのは痛い。というか、弱点が復活した以上非常に弱体化している。

 

「やはり、日光と流水の二つが弱点になったのは痛いね」

「かなりのハンデだよな」

「正直、橋を渡るのもおっかなびっくりだものね」

 

 というわけで、油断するとドブに落ちただけで死にかねない身体になってしまったのだ。この下水道に来るまでに凄まじい冒険をしてきたのはいうまでもない。人生ハードモードである。

 

「お風呂は大丈夫なのかしら」

 

 そう呟くエリザベート。彼女に取っては重要事項なのは間違い無い。

 

「あれは『流水』ではないからね。シャワーは厳禁だが」

「じゃあ、髪のお手入れが出来ないじゃない」

「そこはこう、盥に張ったお湯に髪を浸してだね……」

 

 ある意味一番弱体化しているバーサーカー陣営。だがしかし、彼等に悲観の色は無い。

 

 何しろ彼等が真に頼みとするのは、暴力ではなく策謀なのだから。

 

 

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 さて、一方此方はライダー陣営。マッケンジー宅に戻ったウェイバーとライダーは部屋の床に魔法陣を敷いて魔力の回復に専念していた。

 

 冬木は全域がかなりの霊地なのでこの程度でもマシになるが、他の土地だったらと考えればぞっとする。もしそんな状況なら、ライダーは既に消滅しているだろう。

 

「はぁ………。なんでこうなったんだ?」「余に聞かれてもなぁ。……お前の方が魔術には詳しいだろうに」

「まぁな……。聖杯のバックアップが途絶えたって事は、聖杯の魔力が尽きたか、聖杯が破壊されたって事だ。でも、その原因が分からない。……いや、分かってるけど、信じたくない」

「分かっておるなら良いではないか。現状ではどうせこの部屋に引きこもる他無いしな」

 

 苦虫に苦汁を和えた物をバケツ一杯喰ってもこうは成るまいと言うほどの渋面で呟くウェイバーに、ライダーはなんら気にした素振りもなく言葉を返した。

 カチリとゲーム機の電源を入れ、煎餅を齧りながら『アドミラブル大戦略Ⅳ』をプレイし始めるライダーに、ウェイバーは溜め息を吐きつつ横から煎餅を一枚かすめ取る。

 

「む、余から簒奪するとは。やるなウェイバー」

「そんな所で感心するなよ……。第一、この煎餅は僕が買ったやつだろ」

 

 言いたくないなら言いたくなるまで言わなくとも良い。そんなライダーの気遣いに、若干、ほんの少しだけ感謝して、ウェイバーは2コンを手に取る。

 

「おぉ!! 漸くプレイする気になったかウェイバー!」

「勘違いするなよ、僕も暇潰しが欲しくなっただけだからな」

「そういう事にしとくが、どの陣営でプレイするんだ、ん?」

「……イギリス」

「おう、じゃあ操作はだな…………」

 

 嬉々としてゲームを教授してくるライダーと素直にそれを聞いてプレイを始めるウェイバー。二人の協力プレイはマーサ夫人が夕食の準備が出来たと呼びに来た後、夕食を挟んで深夜まで続く事となる。

 

 そのプレイの結果については、ウェイバー率いるイギリスとライダー率いるドイツの変態科学同盟による核搭載型パンジャンドラム改が猛威を奮ったとだけ記しておくとしよう。

 

 

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 さて、残るセイバー陣営だが、彼等は少々他の陣営とは毛色の違う悩みを抱えていた。というのも、セイバーには強力無比な魔力炉心『竜の心臓』が備わっているため、切嗣から供給される魔力を増幅すれば現界分の魔力を捻出出来る上、切嗣とアイリスフィールは夫婦なのでパスが繋がっているためアイリスフィールの魔力もセイバーに供給出来る。

 故に魔力に関しては其処まで深刻な問題ではない。深刻なのは、アイリスフィールが『アインツベルンの女』で有るが故に悟った聖杯の異常の正体だった。

 

「聖杯の魔力が失われて聖杯が正常に戻った、か…………。僕にはいまいち状況が把握できていないんだけれど、これはつまりアンリマユが現界したということなのかい? アイリ?」

「……分からないの。アンリマユが聖杯から居なくなったのは確かなのだけれど、聖杯から失われた魔力から逆算すればもうアンリマユは冬木を消し飛ばすくらいのアクションを仕掛けて来ても良いはずなのよ。それだけの事を片手間に出来る魔力をアンリマユは持っているわ」

「……冬木から出て行ってしまった可能性は?」

「うーん、アンリマユが聖杯を媒体に産み出された以上、聖杯からはそう遠くに行けないはずよ」

「……そうか、ありがとうアイリ。セイバー達はどう見る?」

 

 そう言って切嗣は話をセイバーと愉快な仲間達へと向ける。

 

「オレは百パー、キャスターの仕業だと思うぜ?」

「モードレット、もう少しお淑やかに出来ないのですか?」

「切嗣、取り敢えず街に行けば何か分かるかもしれません」

「……ガウェイン、ツッコミ所は其処ではないだろう。……モードレットは根拠を示せ。あと王は……王はその、クッキーあげますからそれでも食べてて下さい」

 

 天才タイプで説明が足りないモードレット、天然なガウェイン、脳筋なセイバー。彼等を逐一フォローするランスロットの姿に切嗣は彼が反逆者になった原因が分かったような気がした。ついでに猛烈なシンパシーも感じたが、その思考を振り払い、ランスロットに促されて話を始めたモードレットへと注意を向ける。

 

「えーっと掻い摘んで言うとだな。まずは、怪魔の消滅とほぼ同時に聖杯の魔力が消滅しただろ? で、怪魔の大量召喚の目的は陽動だ。ということは、逆説的に考えれば『本命』が有る筈なんだよな。陽動だけしても無意味だから。……で、その他諸々の状況等も参考にして、俺はキャスターの目的は聖杯から魔力を奪う事であり、その陽動として怪魔を放ったんじゃないかと考えた訳だ」

「おぉ、あの粗野でガサツで馬鹿極まりない言動の裏にこれほどの考察が有ったとは。ただの頭のイかれた呆け茄子かと思っていましたが、見直しましたよモードレット」

「わー、ありがとーガウェイン君。頼むから死んでくれよマジで」

 

 そう言って戯れる従兄弟組を横目に切嗣はランスロットと共にブツブツと計略を巡らせる。

 

 そうしてしばしの間、アインツベルンの城に従兄弟喧嘩の喧騒とハードボイルド組の話し声、そしてセイバーとアイリスフィールがはぐはぐとクッキーをほおばる音だけが響くのだった。

 


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