更新遅れて申し訳ありません。
冬木にある中華料理店、泰山。そのテーブル席に座る五人の男女。その単語だけ聞けば合コンに聞こえぬ事もないが、残念ながら綺礼に連れられて食事に来た英雄王御一行である。
「いらっしゃいアル、綺礼。……今日は友達連れアルか。明日は雨に違いないネ」
「む、これは手厳しいな魃店長。……私はいつも通り麻婆豆腐だ。……お前たちはどうする?」
「ふむ、私はこの中華粥とピータンを頂こう。あぁピータンは二人前でお願いするよ」
「我はフカヒレの姿煮と伊勢海老入り生春巻きだ」
「私は炒飯と餃子をお願い致します。舞弥殿はどうなさいます?」
「……中華まんセットを」
「分かったアル」
注文をメモした魃店長はぴょこぴょこと厨房に消える。少女以外には見えないのだが、あれで成人して自分の店を構えている立派な大人なのだ。
「何と言うか、あの店長の様な人を東洋の神秘と言うのだろうね」
「確かにそうですな……」
そんなほのぼのとした会話と共に出されたお茶を飲む一行だが、意味もなく集結している訳ではない。
「さて、食事が出来るまでの間にそれぞれの成果を報告しあうとするか」
「良い司会進行だ綺礼君。私から報告出来るのは、『固有結界』を一回発動可能な分の魔力をマスターが蓄積してくれたということぐらいだね。……これなんだが」
そう言うズェピアが腕まくりをすると、其処には三画の令呪が刻まれていた。形は雁夜のそれと同じだが、色が紫だ。
「令呪……? ふむ、そうか。令呪システムは間桐の考案だったな、バーサーカー。それはさしずめ命令機能無き令呪、純粋な魔力タンクとしての刻印と言うわけか」
「その通りだ綺礼君。少なくとも六代続く家系は伊達ではないようでね。これを刻んだだけでマスターは鼻血と喀血を発生させてしまっていたが、仕組み自体は完璧だ」
「ズェピア殿、サラッと言いましたけど雁夜殿は大丈夫だったのですか?」
「死徒を舐めてはいけないよポニー君。大抵の傷は輸血パックでも呑んでいれば治るし、重傷でもより上等な血液を飲めば治るのだよ。極論で言えば、心臓と頭が無事なら血液風呂に漬け込んでれば治る」
「……まさに化け物じゃないですかやだー」
ちょっと引き気味なポニーちゃんだが、死徒なんてそんなもんである。そうでなければわざわざ代行者などが出張る必要がない。
そんな内容を説明する綺礼。その横でギルガメッシュがふと疑問を口にした。
「……む、そう言えば吸血鬼。貴様のその『固有結界』とやらは何なのだ?」
その質問に、ズェピアはよくぞ聞いてくれたとばかりに姿勢を正して語り始める。
「『虚言の夜』。分かり易く言えば『死徒の召喚』を可能にする能力でね。私が『情報を持っている』吸血鬼なら私は『召喚』できる。君の『王の財宝』に少々似ているな。財宝の代わりに吸血鬼が貯蔵されていると考えてくれれば大体合っているよ」
「質問しても構いませんか?」
「何かな? 舞弥君」
「何故貴方が自由に吸血鬼を呼び出せるのです? ギルガメッシュの王の財宝であれば生前蒐集した宝物なのでしょうが、あなたが吸血鬼に詳しいという情報はなかった気がしますが」
「ふむ、何故私の経歴を調べられたのかと思ったが、そう言えば君は一応アインツベルンの情報を見ているのだったね。回答を返すなら、私は別に元々吸血鬼に詳しいわけではない。第六法を改ざんする際、その修正パッチ分の容量が『 』にはなくてね。仕方なく吸血鬼に関する情報を私が取り込む事で空きスペースを作ったのだ。そんなわけで私は一匹の真祖でありながら、『 』の外付けハードディスクでもあるわけだ。そのせいで並列思考が十個中五つもそれの処理に回されているがね」
真祖は星の端末機。さらにズェピアは『 』に接続している。この情報は使い魔経由で舞弥も知っている。だが、改めて本人から聞けばそれどころではない。
馬鹿ほど魔力を喰う能力なのも当たり前。真祖が持つ空想具現化、生まれ持つ固有結界、修練した並列思考、『 』から抜き出した情報。それらを同時に展開し世界にキャラクターを書き加える禁忌の術式、宝具に匹敵する『スキル』。むしろ令呪程度で生み出せるなら儲けものではないだろうか……?
そんな思考を巡らせる舞弥。だが、その思考は突如として可愛らしい女性の声で中断される。
「泰山特製激辛麻婆豆腐、出来たアルよ~」
「おぉ、来たか……!!」
嬉しそうな綺礼の声に反応し全員が彼の前に置かれた皿を見る。
それは、紅だった。立ち上る湯気、一口大に切られた豆腐と、たっぷりの肉そぼろを内包し、限界まで引き立てられた紅。
「おい綺礼、それは料理なのか……? 我には沸き立つマグマにしか見えんぞ……」
「切嗣以外でこんなゲテモノを食べる人間が居るなんて……」
「朱を越え、赤を越え、紅まで越えた色合いだねこれは…………よもや音に聞く紅赤朱かね……!?」
「ズェピア殿、どさくさに紛れてボケをかまさないで下さい。貴方だけニヤニヤしてますよ」
「む、よく気付いたねポニー君。……まぁ、正直言えば私には美味しそうにしか見えないからねぇ……。ギルガメッシュや舞弥君の反応は少々大袈裟だろう」
「ええ、私もズェピア殿と同じく美味しそうに見えます」
意見が綺麗に対立する中、綺礼はふと黙々と喰い進めていた手を止め、最後の麻婆を乗せたレンゲをギルガメッシュに向ける。
「----喰うか?」
「…………いや、要らん。そこのアサシンめに喰わせてやれ。……本当に食えるのかが気になる」
「良いだろう。アサシン、喰うが良い」
「む、有り難い。では」
パクリ。
小さく口を開いて綺礼が寄越したレンゲの中身を平らげるポニー。その様子を固唾を飲んで見守るギルガメッシュと舞弥だが、二人の予想とポニーの反応は異なっていた。
「ふむ、やはりスパイスの効いた料理は良いものですね」
「無事、だと……?」
「アサシンがまさかこれほどに強力なサーヴァントだったとは思いませんでした」
驚愕を隠し切れぬ二人にズェピアが少しアドバイスを告げる。
「私は怪物なので余程でなければ痛みを感じない、ポニー君は日常的に大麻を吸っているから痛みに強い、綺礼君は辛みを感じて居るが、一種のマゾみたいなもので辛ければ辛いほど脳内麻薬ドバドバなので例外。人並みの痛覚をしっかり持っている君達は食べない方が無難だね」
「ふむ、ちなみに我が食うとどうなると言うのだ、吸血鬼?」
「お口の中が『天地乖離す開闢の星』、といった感じかな」
「相分かった、死んでも喰わん」
やけに神妙な顔のギルガメッシュだが、それもこれまで。
この後は、またしても登場した魃店長が持ってきたフカヒレと春巻きで上機嫌になった彼が「釣りは取っておくが良い」と店長に諭吉さんを大量譲渡したり、舞弥が餡饅をテイクアウトしたり、ズェピアが店長と料理談義をしたりとわいわいガヤガヤとした雰囲気で時間が過ぎていく。
一応、戦争中にも関わらず、一切ブレない愉悦軍団であった。