Fate/Zepia   作:黒山羊

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+2days AM4:57 『重大発表』

 聖杯戦争開始から三日目の早朝。朝早くに打ち上げられた魔力パルスはウェイバーの安らかな眠りを妨げるには十分過ぎるもの。いい加減にライダーのいびきには慣れてしまったが、元来彼は乙女の様に繊細な男なのだ。このマッケンジー宅に間借りした当初も枕やベットの違いでなかなか眠れなかった程である。

 

「……教会からの魔力パルス? こんな早朝に何の用だよ……」

 

 そうこぼすウェイバーに、隣で窓を覗くTシャツにジーンズ姿のライダーが声を掛ける。彼が現在着ている服は、「現代風の衣装を着て街を歩きたい」などと言うライダーにウェイバーが仕方なく古着屋で買った来たものである。本人曰く「世界を胸板に乗せるのは男の浪漫だ!」等と意味不明な事を言っているが、実際の所バーサーカーやセイバーの恰好に影響されただけである。

 

「むぅ、今日は折角坊主が服をくれた以上散歩に出ようと決めこんどったんだがなぁ」

 

 そう言うライダーは伝承によれば生前から征服した土地の衣装に身を包んで今と同じような事を言っては部下を困惑させていたというのだから、ウェイバーからすれば部下の皆さんに妙な親近感を覚えるのも致し方ない事であろう。

 

「……これは異例の事態なんだ、つべこべ言ってないで準備するぞライダー」

「む、出陣か?」

「使い魔の準備だよッ!!」

「おお、そうであったか」

 

 つっこむウェイバーにハッハッハと笑うライダー。この聖杯戦争においてある意味一番でこぼこコンビである二人は今日もでこぼことかみ合っているのであった。

 

 

――――――――

 

 

 冬木教会。その礼拝堂に集ったケイネスとウェイバーの使い魔の前に座るのは御三家の代表とそのサーヴァント。和装に白髪赤目の青年『間桐家六代目当主』間桐雁夜。女王のごとき風格と銀髪を誇る『聖杯の守り手』アイリスフィール・フォン・アインツベルン。今日も深紅のスーツに身を包む『遠坂家五代目当主』遠坂時臣。

 

 そして、彼らのさらに前に立っているのがこの教会の主、言峰璃正神父である。

 

「マスター諸君。今日、早朝より集まって貰ったのはほかでもない。昨夜明らかになったキャスターの悪逆非道と、大聖杯の管理者である間桐家当主からの最重要報告についてである」

 

 そういってゆっくりと教会を見まわしてから神父は指を一本立てて一つ目の議題へと移行した事を示す。

 

「さてまずはキャスターの悪行に対する特別ルールの発表をさせていただく。かのサーヴァントとそのマスターは冬木市を賑わす幼児連続誘拐事件と一家惨殺事件の犯人であり、善良な市民を殺めるばかりか魔術を単なる凶器として使用し、その秘匿を行う気配が全くない。これはあまりにも由々しき事態であるため、今回監督役として臨時ルールを発動させていただく事と相成った。一つ、キャスター討伐までキャスター以外との交戦を禁止すること。二つ、キャスター討伐に尽力した陣営、或いは同盟には報償として令呪一画を贈与する」

 

 その言葉と共に捲り上げられる神父の腕。其処には大量の「令呪」が刻印されていた。

 

 預託令呪。聖杯戦争において一部の令呪が未使用状態で戦争が終結した場合、その令呪は監督役へと預けられ、保存される。それは時として監督役の判断で各マスターへと自由に分配する事が可能なのだ。

 

「まずは此処までで何か質問があるものは?」

 

 そう問いかける神父の声に答える者はいない。それを確認してから神父は雁夜へと視線を向ける。

 

「では間桐家当主殿、お話をお願いする」

 

 そう言って雁夜と入れ替わるように席についた言峰神父。その視線を受けつつ雁夜は口を開く。

「聖杯戦争が始まって早二百年。小聖杯の管理を司るアインツベルン、冬木の大聖杯の管理を司る遠坂と共に、間桐はサーヴァントシステムの管理を行ってきた」

 

 そう前置きしてから雁夜は本題を切り出す。

 

「さて、その聖杯戦争の歴史の中で、今回は異常なバグがサーヴァントシステムに発生している。英霊ではないサーヴァントが二騎も参加しているこの状況を異例の事態と判断した間桐は先日より調査を行っていた。今回の聖杯戦争を断念し、遠坂に協力しているのも調査に専念するためである」

 そういう雁夜のセリフは淀みなく、河川の如く流れるような語り口で、魔術師というよりは役者然としている。

 

 それもその筈、この語りは雁夜とズェピアで事前に打ち合わせ、雁夜が何十回と練習した「台本通りの台詞」なのだ。

 

「まず、先程話題に上がったジル・ド・レェ。彼は英霊というよりは悪霊に近い。いわば、『英霊としての側面を持つ悪霊』だ。そして、私、間桐雁夜が召喚したズェピア。彼は、真祖の吸血鬼故、精霊種にあたる。どちらも純正の英霊ではなく『悪』の面を持つ霊魂だ。それらを踏まえ、セカンドオーナーたる遠坂、監督役の言峰璃正神父の両名から力をお借りして調査に伴して頂き、大聖杯の稼働状態を確認した」

 

 監督役の息子である言峰綺礼のアサシンと遠坂時臣のギルガメッシュに協力を仰いだため嘘は断じて言っていない。事実通りに聞き手が受け取るかは知らないが。

 

「結果、聖杯が汚染状態にあることが判明した。本来無色透明で在るべき聖杯の中身が何らかの要因により『願いを最悪の過程を経て叶える』出来損ないの願望機と成り果てているらしい」

 

 

 その発言を終えると雁夜は一息ついて皆に告げる。

 

 

「質問はあるか?」


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