Fate/Zepia   作:黒山羊

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+1days PM9:23 『同盟雑談』

 さて、教会へと子供達を保護し、一仕事終えたズェピアは教会の一室、言峰綺礼の部屋へと通されていた。雁夜は「もう疲れたから帰って寝る」と言い残し、既に下水道へと帰還している。まぁ流石に使い魔の一匹ぐらいは照明器具の近くでパタパタと飛んでいるのだが。

 

「……首尾は上々といった所か」

「ふむ、まぁ綺礼君にも話した通り、私のスキルの一端を宝具だとハッタリをかますというサブミッションもクリアしたし、キャスターの宝具についてもかなりの情報を得た」

「確かに。私のアサシンも戦闘を確認している。……あれは大出力の魔力炉か?」

「それだけではない」

 

 ズェピアはそう言って頭を振る。

「アレはいわばジル・ド・レェ専属の魔術師だ。魔力炉と魔術の発動代行。かなり面倒な宝具だと言えるだろうね」

「……厳しいか?」

「まぁ、正直に言えばね」

 

 そう言って苦笑するズェピア。と、そのとき、ドアからギルガメッシュが入ってくる。

 

「吸血鬼、我の臣下として命を果たしたようだな?」

「あぁ、あの『子供を出来るだけ助けろ』という命令か。確かに今夜の分は全員無事に回収した。……しかし、君は案外子供好きなのだな、ギルガメッシュ」

 

 茶化すズェピアにフンと鼻を鳴らし、ギルガメッシュは彼の宝具『王の財宝』を開く。

 

 その中から出てきたのは、一見すればただの拳銃。だが、ズェピアの眼にはそれが何であるのかハッキリと分かった。

「有り難く思えよ、何しろこの我が手ずから下賜するのだからな?」

「……今回ばかりは真剣に有り難うと言わせていただくよギルガメッシュ王。……まさか『黒い銃身』を再び握る日が来るとは思っていなかった」

「『黒い銃身』?」

 

 訝しがる綺礼にズェピアはニヤリと笑って答える。

 

「私の作った礼装だよ、綺礼君。……本来ならばエジプトにある筈のものなんだが」

「我の宝具を前に距離など無意味だと言うわけだ綺礼」

 

 その回答に暫し頭を捻った綺礼はポンと手を打って頭に電球を光らせるというレトロな閃き方をする。

 

「アレか、『と~り~よ~せバ○グ~』の原点」

 何やら独特のだみ声で呟く綺礼。その声と顔のアンバランスがツボに入ったらしく身悶えするギルガメッシュを横目に、ズェピアは

 

「喩えは的確だが、物真似をそのバリトンでするのは止めたまえ。ギルガメッシュが過呼吸で死ぬ」

「それは困る。私が弄れないではないか」

「仮にそうなったら君のせいだろうね。…………まぁ良い。それより私の礼装だが、コレはエーテルで活動する物体全てを自壊させる兵器だ。よって身体をエーテル塊で構成するサーヴァントには触れることすら出来ない。今回の聖杯戦争では、実質的に受肉している私しかコレを持てるサーヴァントは居ないね。スペック的には装弾数13発、魔術的機構によりほぼ全ての銃弾を使用可能、全長271.3ミリ、重量2キロ、といったところか」

 

「ふむ、その礼装が何なのかは理解した。……しかし、お前は何故受肉している? ズェピア」

 綺礼の質問。今まで有耶無耶になっていたソレ。余程誤魔化す理由でもあるのか、それともハッタリか。どちらにしろ回答は得られないと考えつつも質問した綺礼だったが、以外にもズェピアは軽い調子で答えを返した。

 

「簡単な事だよ。この時代にいた『私』を私にアップデートして融合しただけだ」

「……意味が分からん」

「私は1990年代にはまだ生きていたと言うだけの話だ。その身体、もとい構成因子を私を核として定着、肉体として復活させ、『英霊ズェピア』として現世に再誕した」

「……構成因子?」

「……ふむ。そう言えば君は純正の魔術師ではないのだったね。ならば一般人に分かりやすい様に説明しよう。世界中にフワフワと雲か霞のように漂う粒子。コレが1990年代での私だ。この粒子は私の肉体が魂を失い変質した物で、魂を入れてやればまた私として復活する。そこに魂代わりにサーヴァントである私を当てはめ、完全無欠のズェピア・エルトナム・オベローンとして蘇った。……有り体に言えば脱け殻に魂を入れて蘇生したのだよ」

 

 ズェピアのが言ったソレは、ある意味彼にしかできない受肉方法。流石に『自分を構成する全ての霊子を、航海図により海流の様に世界中を巡らせる事で現象にして保存する』などという馬鹿げた策を生前に講じた英霊は後にも先にも彼だけだろう。

 

 何故、ズェピアのステータスが群を抜いて突出しているのか?

 

 その疑問点は今、漸く綺礼の中で解決した。

 

 そもそもサーヴァントとは型に無理やり押し込めることで召喚する事が出来る、劣化した英霊。ならば、名も知られぬ存在であるとはいえ、『完全な英霊』がサーヴァントごときに遅れを取るはずもない。

 

 流石に此方に持ち込まなかった宝具は持っておらずとも、肉体が最初から持っている『現象』と必殺礼装『黒い銃身』が揃った今、彼はまさしく英雄王に並びうるサーヴァントとしてその身を構成していた。

 

 そしてそれは、綺礼に簡単な問題点を指摘させるには充分な物だ。

「ギルガメッシュ」

「何だ……ゲフォッ……綺礼……ブフォッ」

「聖杯戦争が破綻している事に気が付いたのだが」

「ゲフッゲフッ……うむ、幾分か落ち着いたな……。さて綺礼、そんなモノはとうに我も知っている。……時臣の奴は気付いて居ないらしいがな」

「時臣師のうっかりは今に始まった事ではない。しかし、とうに知っているとは?」

 綺礼の問いに漸く笑いから解放され、威厳を取り戻したギルガメッシュが答える。

 

「セイバーとこの吸血鬼が受肉しているのは前々から承知している。その上、戯れに聖杯が隠してあるという山に登って見たが、どうやら聖杯の中身はドブの中身とさして変わらんようだぞ?」

 

 ギルガメッシュからの新事実はこの戦争を大きく覆しうるもの。

 

 そしてそれにズェピアが補足する。

 

「故に全マスターの召集と同時に御三家の緊急会談を行うわけだよ、綺礼君」

 

 

 それは、この戦争が通常の聖杯戦争から大きくズレ始めた事を告げる声。

 

 捻れ狂った歯車はさながら鼠が廻す回し車のごとくその回転を加速させる。

 

 

廻せ。廻せ。廻せ。


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