Fate/Zepia   作:黒山羊

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-4days AM6:48 『開幕準備』

 起床から約二時間。怒涛の新情報に軽い頭痛を感じながらも、雁夜はズェピアからより詳細な情報を聞き出し、病院から盗んできた輸血パックの中身を飲みつつ2人で今後の聖杯戦争をどう戦うべきかと相談を重ねていた。

 

 だがしかし。どうやら頭痛の種はまだあったらしい。

 

「……と言うわけで、私は宝具を持っていないし、魔術も使えない。だが、戦闘には問題ないだろう」

「……おい、本当に英霊なのかお前」

 

 雁夜の懸念は至極真っ当なものである。なにしろこのサーヴァントは、「敵は全部素手で殺す」とほざいているのだから。お前のような英霊がいるか、と思ってしまった雁夜を責められるものは居るまい。

 しかも、雁夜がいくら調べてもこの英霊に対する資料は無いのだから不安も一塩である。

 

「まぁ、調べても名前がないのは仕方あるまい。私は少々特殊だからね。それに、私は宝具なしでも問題無いと言っているだろう? 元々所有している物が無くなったなら弱体化するだろうが、元々持っていないのだから弱体化するはずがない。それにスキルは多く持っているではないか」

「確かにお前のステータスは化け物だけど……はぁ、もういい。で、今日はどうするんだよ」

 

 これ以上の問答をしても意味がないと考え、雁夜は話を切り換える。宝具による超能力じみた攻撃がない以上、相手をいかに此方で補足するかが鍵となるはずだ。

「ふむ。それなのだがマスター。此処は二手に分かれないか?」

「二手に?」

「あぁ。私が君と行動を共にすれば間違い無く君が邪魔で全力を出せないという自信がある」

「……攻撃に巻き込むかもしれないって事か」

「その通り。それにマスターにはお姫様を守るナイトと、街中を見る眼という2つの配役が用意してあるのだよ」

 

 要するに、ズェピアが街で大暴れして、雁夜は桜と一緒にどこかに引きこもりつつ、大量の蟲で街全体を見回す作戦。

 確かに一見効率的ではあるが、雁夜は幾つか引っかかる点があった。

 

「……引きこもるにしても、何処に引きこもるつもりだ? 下手なところに隠れてもすぐに発見されるぞ? この冬木の街に安全な隠れ家なんて……」

「あるではないか。地下に」

「地下? 地下ってお前、まさか蟲蔵に隠れろって言うのか!?」

 地下と聞き、蟲蔵を連想した雁夜に、ズェピアはいやいや、と首を振り答える。

 

「マスターに隠れて貰うのは下水道だ。昨日一回入ったが、存外広いぞ彼処は。幾つか拠点に出来そうな横穴も見つけてある」「下水道……?」

「そうだ。オペラ座の怪人になったつもりで隠れて居たまえ。ああ、そう言えば顔面はしっかり壊死しているから仮面さえ被れば本物に成れるな」

 

 何やら嬉しそうな声音でそう言うズェピアに雁夜はため息を吐きながらも、一応納得していた。確かに下水道にプライドが高い魔術師達が潜ってくるとは思えない。

 

「おい、笑ってる場合か。引きこもるのは良いが、準備があるだろう」

「確かに。で、何を用意するのだね?」

「テントとか生活用品とかいるだろ!?」

 

 その回答がツボにハマったらしいズェピアが再度クスクスと笑い始め、プチンと来た雁夜が吼える。

 

 その日はその声で目を覚ました桜を連れて三人で一日中買い物にひた走る一日となったのは言うまでもなく。

 

 バーサーカー陣営の聖杯戦争は、騒々しく開幕を迎えたのだった。

 


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