Fate/Zepia   作:黒山羊

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0days PM10:43 『起源覚醒』

 相変わらず高威力なズェピアの発言から最も早く復活したのはやはり英雄王ギルガメッシュだった。彼は高笑いと共にワインを継ぎ足し、それをズェピアに向ける。

 

「やはり今のところ貴様が一番愉快だな吸血鬼。此奴がどのような人間か見抜いたか」

「ああ、まぁ、彼からしたら耳を塞ぎたくなる内容だが」

 

 その発言にようやく復帰した言峰綺礼。彼は射殺すような眼でズェピアを見ると問う。

 

「貴様が私の中身を知ると?」

「聞きたいかね? 後悔すると思うが」

 

 その発言に綺礼が頷き、英雄王が口角を吊り上げるのを見てからズェピアは自分の考えを述べる。

 

「では、これから綺礼君には私からの質問に答えて貰う。一つ目、『他者の感情が理解できない』ことはあるかね?」

「……ある」

「では二つ目、『では、他人に理解された』ことは?」

「……ない」

「最後だ『目の前に苦しんでいる人が居る』そんなとき、君はどうする?」

「それは……私は神の信徒なのだから助けるべきだ」

 

 そう言った綺礼に、ズェピアは非常に優しい笑みを浮かべて言った。

 

「これで確信した。君の本質はやはり……人の傷口をほじくる事に喜びを感じるサイコパスだ」

「なっ!? 貴様、私がその様な罪深い男だと……!!」

「落ち着きたまえ。お望みならば証拠も見せよう。魔術が使えぬこの身だが、『アレ』は魔術とは少々違うのでね。実演も可能だ」

 

 証拠を見せる。

 その言葉に何とか綺礼は身体を椅子に座らせる。

 

「まぁ、君が理性的にならず激昂したのは図星だからだという証拠もあるが、もう一つは……」

 

 ズェピアがそう呟いた瞬間、綺礼は一切反応出来ずに頭を掴まれていた。

 

「貴様何を!?」

「……プログラム『起源覚醒』、演算終了、アウトプット」

 

 ズェピアはそう呟くと綺礼から手を離し、自分の席に戻る。

 

 そのズェピアに綺礼は文句を言おうと視線を上げて、『世界が変革』したのに気付いた。

 

 壁の傷、テーブルの傷、絨毯のほつれ、燭台の傷、傷、傷、傷、傷。

 世界は綺礼の目の前で「傷だらけ」になっている。それは悲惨で、醜悪で、そして何より。

 

「世界はこの様に美しかったのか……」

 

 思わず、呟く綺礼のその声は恋人に愛を囁くような優しさを持っていて。

 

 そして綺礼は、ズェピアの指摘をいつの間にか「受け止めて」いた。

 

 その姿に、ギルガメッシュは笑みを浮かべて再度綺礼に問う。

 

「聖杯に願う事は出来たか、綺礼?」

「……いや。聖杯を得た暁には時臣師に譲渡する、コレは変わらん。だが、見たいモノが出来た。私は今まで夢を見ていたのかもしれん。私はもっと『他人の傷』を見てみたい」

「良いではないか、嗜虐もまた我が愛でるもの。……しかし、吸血鬼。此奴に何をした? 先程まで死んだ魚の様な眼をしていた男が童子の様に眼を輝かせるとは、なかなか見られるモノではないぞ?」

 英雄王の質問に、鍋の具をさらい、おじやを作りながらズェピアは答えた。

 

「あらゆるモノには起源がある。私には諸事情あって、それを見たり覚醒させたりする事が可能なのだ。そして、起源覚醒を行った人間は自分の起源を自覚し、より自分らしく生きられる。……起源が『殺戮』だったら目も当てられんがね」

「成る程な。我の道化だけあってなかなか多芸だな吸血鬼。……ところで綺礼、先程から何一つ口にしていないが、喰わんのか?」

 

 そんな英雄王の問いに綺礼は何も食べて居なかった事を思い出し、料理に手をつけようとして。

 

「……吸血鬼、いや、ズェピア。これは何鍋だ?」

「鶏とキャベツのトマト鍋だが?」

「……」

 

 綺礼は一応その発言に嘘がないのを椀の中身を見て確認した後、それを口に運ぶ。

 骨つきの鶏は柔らかく、トマトの酸味とキャベツの甘味が口の中で、肉汁と調和する。微かに香るパセリの風味も綺礼の食欲を刺激し、これならば幾らでも喰えると錯覚しそうになる。

 

 その味、綺礼は結構好みだったのだが、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。

 

「ズェピア、何故お前は此処までの料理を作れる……?」

「む? 錬金術師だからだが?」

 

 一瞬、「やはり狂化の影響が……?」とか思った綺礼は悪くない。

 

 そんな綺礼の表情を読んだのか、ズェピアは苦笑しつつ説明する。

 

「錬金術というのは台所から生まれた。肉は加熱すれば変色する、茹でた野菜は塩をかければ縮む。そんな日常の変化を魔術と科学で究明しようとしたのが錬金術の始まりだ。あとはまぁ分かるかも知れないが、私は基本を大事にする性分でね。偉大なる先人に学ぼうと研究に行き詰まったり小腹が空いたときは自炊していたのだよ」

「成る程」

 

 その研鑽が積もり重なり料理が得意になったと言うわけか、などと頭の片隅で考えつつ、綺礼の意識は既にズェピアが作っている雑炊に向いている。

 

 自分は今まで料理の味を楽しむ余裕すらなかったのかと思えば思わず苦笑が漏れるが、今の気分は悪くない。

 

 

 

 久方振りに飲んだワインは摘みのトマトチーズ雑炊の力か、気の持ちように依るものか、今まで飲んだどの酒よりも美味だった。


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