さて、時刻はアサシンの偽装退場から5時間後、朝7時35分。
現在、ズェピアと桜は商店街「マウント深山」へと買い物に来ていた。
「兄さん、何かお探しで?」
「ふむ、店主殿。モロヘイヤとニンニクはあるかね?」
「うちにねぇ野菜はねぇさ。モロヘイヤ2束とニンニク一袋で230円だ」
「ふむ、ではコレで」
「毎度あり」
ズェピアはそんな会話をして小銭を払い、八百屋を出る。
何故、このような事態になっているのかと言えば、昨日の夜の会話が原因といえよう。
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「なぁバーサーカー。桜ちゃんのリハビリをそろそろしようと思うんだが何か良い案はないか?」「リハビリ?」
「桜ちゃんの精神は今、臓硯の拷問で凍り付いてる。それを何とかしたいんだ」
そんな雁夜の発言に、ズェピアは柔らかな笑みを浮かべて雁夜を見る。その顔が妙にくすぐったく感じ、雁夜は頬を掻きつつズェピアに文句を言う。
「なんだよ、その顔は」
「いやなに、私の息子、もといマスターはつくづく優しい男だと思ってね。リハビリについてなら、任せておきたまえ。エルトナム家は本来、心や精神から魂を研究するのが家業だったのだよ」
ズェピアはクスリと笑い、雁夜にアドバイスを与える。ズェピアは確かに死徒的な意味では雁夜と親子。親の優しい視線を感じた事がない雁夜としては何とも奇妙な気分になったのは致し方あるまい。
「まずは、五感を刺激し、肉体を健康にする事だ。病は気からと言うが、逆に肉体の状況もまた精神に影響する」
「つまり?」
「結局は、美味しい物を食べて、綺麗な物を見て、可愛い服を着て、人と触れ合うのが一番というわけだ。医者でもない以上、それがベストなリハビリだろう?」「まぁ、そうだな。じゃあバーサーカー、明日は明るい内に桜ちゃんと遊びに行って来い」
「…………なんだと!?」
「世の中には言い出しっぺの法則という物があるんだよ」
「いやまて、せめてジャンケンで決めないかね?」
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で、その後、ズェピアが雁夜との話し合いに折れて子守担当にめでたく就任。桜と一緒に出掛けるという現在に至る訳だ。
大の男二人が子守で揉めるのは何というか情け無いが、独身童貞な雁夜と子育て経験者だが桜とはたった三日の付き合いなズェピアでは揉めてしまうのも仕方あるまい。
「さて、食品も終えたことだし、買った物は雁夜の使い魔に運ばせるとしよう。では桜、どこか行きたい所は無いかね?」
「…………お散歩」
「そうか。ならば街をゆっくり見て回ろう」
ズェピアはそう言って桜を持ち上げ、肩車に移行する。
その日冬木では幼女を頭に乗せた金髪の青年がうろついて居るのが見られたとかなんとか。