魔法少女リリカルなのは~ある転生者の新たな世界~ 作:メガネ
「ん~……はい!OKです。傷も完治したしこれなら現場に復帰してもいいですよ」
医務室でのシャマルの検査が終わり、壁に片足を上げて体を伸ばして状態を確認する。
護衛、情報収集、子守をローテーションに数日、ようやく
「……前より動きやすいな」
「そう言えばコダイ君って何時も大怪我した状態での戦闘が多いものね」
シャマルに言われて思い返せば常に死んだり瀕死になったりして周りに養生と言う監禁されてるな………これは本格的に防御魔法を創った方が良いか?
「そう言えばコダイ君、養生期間中ずっと情報を集めしてましたけど一体何を調べていたんですか?」
「良く見てたな………まあ、個人的な依頼だ」
養生中、時間をフルに使いナナの事を調べていたが………結果は無し。つまりナナは出自不明の存在と言う事だ。
すると考えられる残りの可能性は人工的に作られた何か………魔力は欠片も無かったがあの白紙の本が何のかすら分からず終いだとわ……
……まあ、今の所の不安要素は本だけだしな。
「それじゃあ、最後の休日でも楽しむとするか」
「お大事に~♪」
手を振っているシャマルを背に医務室を出る。
「主、お疲れ様です」
「お疲れも何もただの検査だ」
医務室を出るとすぐ傍にアインが待っていた。
「結果は大丈夫。もう前線に出ても良いらしい………ところで」
俺はアインの隣を見る………
「それでね~♪」
そこには端末の向こう側に居るナナに上機嫌で話すレイが居た。
「……ここ最近毎日だな」
「余程嬉しかったんでしょうね、同い年の普通の友達と言うのが」
レイがナナと友達になったと言う事はもう全員が知っている……と言うかレイが自慢げに話していた。
知り合いほぼ全員が自分より年上、その中で初めての同い年の友達にテンションが上がりまくっているの見て1名を除き和むなのは達。
……その例外と言うのがリインだ。設定年齢はリインの方が上であるが同じ時期に生まれ、レイの親友を自負してたりするので……まあ要するに嫉妬である。
ナナの事を話していたレイに頬を膨らませたリインが『リインの方がレイちゃんの事もっと好きですぅ~!!』とレイに抱き着いた。
だがその嫉妬も長く続かず、レイが今度リインに紹介すると言うと上機嫌になったリインが再びレイに抱き着いた。
これが今日までにアースラで起きた小さな事件だ。
「さて……悪いがアイン、これから私用でレイとミッドに行く。夕方までには戻ってくるが遅れたら……」
「はい、レイが迷子になったと思えばいいんですね」
「うゆっ?!」
アインの真顔での発言に変な悲鳴を上げるレイ。
「アイン!酷いよ~私はそう簡単に何度も「「迷子になる」」ひどい?!」
否定出来る所が一切無いぞ、次元越えの迷子とか。マテリアルズと同じ所を回っても見つからなかったとか………ここでは語りきれない程の
「と言う事だ、周りに聞かれたらそう言ってくれ」
「はい、では私はサクラ達を見てきます。お気をつけて」
そう言って、アインはマテリアルズの方へ向かった。
「さてとレイ………?」
「うゆ~……2人ともイジメるよぅ」
壁に向かって体育座りで影を背負いいじけるレイがいた。
「何やっている、用があるって言っただろ。早く行くぞ」
「………うゆ?」
いじけた体勢のまま涙目の顔だけこちらに向いた。
「明日から現場だ。しばらく連絡も取れないからナナとシオンに会いに行く約束をしている」
丁度シオンにナナについての報告もするつもりだったしな。
「ナナと?!やった~!!」
レイが俺の腰に飛びつきそのまま背中までよじ登った。
「れっつごー!」
背中から腕を振り上げるれい。
迷子になられるよりはマシかと考えて一旦部屋に戻り、いつものコートに着替えてから転送ポートに向かった。
「奇跡だ――――」
「ど、どうしたんですか?ベアトリスさん」
久々の公園で待ち合わせていたナナとシオンに再会。
だが俺はとんでも無い事に気づいてしまった…………
「レイが寄り道せず公園にたどり着いた……奇跡だ、ありえない、驚天動地だ……」
「コダイさっきから酷いよ!と言うか最後の全然意味分んないけど酷い事を言ってるのは分った!!」
レイの講義も無視だ……
「あ、あの~……そこまで言わなくても」
「何を言うシオン……こいつは自宅でも週1で迷子になる程の天才だぞ」
「レ、レイちゃん……」
あまりにもスケールの大きい……小さいか?迷子にシオンが引きつってる。
「偶々だよナナのおねーちゃん!そう何度も迷子に何てならないから!本当だよ!!」
「う、うん。分かったから」
腕をバタバタ振って弁解するレイにどう答えていいか分からない様子だった。
「大丈夫だよレイちゃん。私も最初はお家で迷子になったし……大きくなればならないよ!!」
「うわ~ん!!優しくされてるのに胸が痛いよ~!!」
ナナの全力のフォローも逆効果。逆に止めになった。
「ナナ………こういう時のフォローは返って相手を傷つけるんだよ?」
「そうなの!?なら如何すればいいの?シオンおねーちゃん」
「えっと―――」
チラリとこちらを見る………俺に振るなよ。
「とりあえず愛想笑いしておけ」
「う、うん……あはははは」
とりあえず笑うナナだった………
その後、復帰したレイがナナと遊具で遊んでいるのをシオンとベンチで座って監視している……
「シオン、ナナが持っていた本をもう1度見せてくれ」
「え?はい」
渡された白い本を手に取る。
…………まただ、右腕に感じる違和感。やはりこの本には何があるな。
「一応報告、ナナには両親がいないぞ」
真っ白なページを捲りながらシオンに現時点で分かる事を報告した。
詳しい事はまだだが、今知っている情報を総合するにもうこの世にはいないだろ。いや、初めから存在しないのかもしれない
「今分かるのはそれだけだ。他は今も調べている」
「ありがとうございます!ベアトリスさん」
「礼はいい」
こっちとしては1日で終わらせるつもりがこれだけで数日も掛かったんだ。自動検索の結果は全滅、何も引っかからなかった。どうなっているんだアイツは。
この本に関してはさっぱりだな。内容が書かれてないからどんな物かさえ分からない……
「……………ん?」
ちょっと待て、この表紙見たことあるぞ?それに近い感じを身近に……何だ「コダイ~!!」は?
――ゴンッ!
「うゆ~………」
「あ、ゴメン……」
いきなりレイに呼ばれて視線を上げると飛び込んでくるレイが見えたが、勢いが足りずに持っていた本に額を思いっきりぶつけ、額を押さえて悶絶している。
「レイちゃん大丈夫!?痛いの痛いの飛んでけ~」
「ありがとうナナ!もう痛くないよ!」
何事もなく立ち上がる………前にもやって無かったか?
「で、何か用か?別に時間はまだあるぞ?」
「うん!コダイとナナのおねーちゃんも一緒に遊ぼうって!!」
「え?私も一緒に入っていいの?ナナ?」
シオンがナナの視線に合わせてしゃがんで聞いた。
「もちろんだよ!だってみんなといた方が楽しいもん」
「「ねー♪」」
同時の満面の笑みを浮かべるレイとナナ。
「えっと……どうします?」
「俺は良いぞ別に」
断る理由が無いのでそう返した。
「じゃあ4人で遊ぼうか」
「「ワ~イ!」」
シオンの言葉に飛び跳ねる子供二人。
「レイちゃん、何して遊ぶ?」
「ん~……コダイ、何か持ってない?」
いきなり何かと言われても…………
「ボールぐらいしか」
懐からバレーボールを取り出す。
「どっから出したんですか?」
「企業秘密。それとナナ」
「はい?」
コートから出したものを持っていた本を入れてナナに渡す。
「わ~♪猫さんのバックだ~!」
それを抱きしめて大喜びするナナ。ナナに渡したのは白猫のバックだ。
「その本は自分の物だろ?なら自分で持っていた方がいいだろ。頑丈な素材で作ったし丸洗いOKだ」
「手作り!?」
「ありがとう!レイちゃんのお母さん!」
バックを背負って礼を言うナナ………あれ?俺一応男って言ったよな?別に良いけど。
ボールを持って4人で広場に移動、バレーボールで遊ぶ事に。立ち位置は俺とシオン、レイとナナが向き合う位置でほかの3人がよく見える位置だ。
「それ!」(シオン)
「はい!」(ナナ)
「………」(コダイ)
「えい!」(レイ)
ただのトスのし合っているだけ、最初は上手く続かなかったが、徐々に慣れてトスが続いていく。
「―――無限書庫ゲーム!焼き鳥『ねぎま』」(シオン)
「えっと……『もも』!」(ナナ)
「『ポンジリ(尾の肉)』」(コダイ)
「う~『つくね』!」(レイ)
何故か途中でシオンが古今東西みたいのをし始めた。と言うかミッドにもあるんだなそれ。
「『ハツ(心臓)』」(シオン)
「『皮』!」(ナナ)
「『チューリップ(※手羽の根本の肉を骨から剥がし、骨の先に丸めて食べやすくしたもの。その形が名前の由来)』」(コダイ)
「うゆ!?チューリップってあぅ!!」(レイ)
レイに砂肝とかレバーを残す為に変化球で言ったのがまさかの失敗。ボールはレイの頭をバウンドして後ろの方へ転がっていった。
「負けちゃった。ボール取ってくるね」
ボールを取りに行くレイ、ボールは結構遠くまで転がっている。
「………ダメ」
「ん?」
消えるような声に振り向くとナナが手を震わせ俯いていた。
「レイちゃんダメ!!車来ちゃうから早く逃げて!!!」
悲鳴に近いナナの叫びが公園に響く。
「うゆ?ナナ?」
レイが声に気付いたのは道路の真ん中でボールを拾った時だった。
――ゴォォォォォォォォォォォ!!!
それと同じ時に公園を囲う木々の間からかなりの速度で走る大型トラックが見えた。
「うそ!?なんでトラックが!!」
「こっちが知りたい、このままの速度じゃ突っ込むぞ」
クラクションも鳴って無い。今の時間帯のこの地域の交通量から考えてひき逃げは無い、どちらにせよ………
「骨の2,3本は覚悟しておくか」
レイに向かい走る。
――ドクンッ!!!!!
「――――っ」
――ゴシャァァァァァァァァァァァァ!!!
暴走するトラックに向かう瞬間、右腕に未だ嘗て無いほど違和感が襲った。
本能的に弾かれる様に左に跳ぶと同時に凄い速度で何かがぶつかる轟音共にトラックが横転して爆発した。
「…………何が起こった」
目の前には横転して爆発しているトラック……この惨状を遠目から見ていた野次馬がズルズルと湧いてくる。
煙と砂塵で確認は出来ないが、レイが無事なのは確かだ。俺とレイは右腕のデバイスで繋がっている、つまり以前のプレシアとクローンや俺とアインの様に独自のパスが通っている。レイにダメージがあれば俺の右腕にも異常があるはずだ。
現時点で右腕には異常は無い―――とは言い切れない。レイが無事なのは確かだが未だに右腕にある違和感が消えなかった。
その違和感に思わずコートの袖越しに右腕、正確には宝石を握りしめ、横転したトラックを見据える。そこから何も変化は無い、つまりこの元凶はそこにいる………
右腕が……宝石から伸びている金色の管の様な物から毒を流し込まれた様に徐々に全身が熱くなる。
――ドクン!!
右腕の脈動が耳元で聞こえる………
「これは……反応しているのか?」
――ドクンッ!!!
いる…………トラックの前に………あの爆炎の中に……
――ドクンッ!!!!
――――何かがいる。
「コダイ!」
煙の中からレイが走って来る、顔に煤が付いているが目立った外傷は無い。
「レイ、ナナとシオンの所に居ろ。トラックを調べる」
「分かった!」
公園の方に走って行くのを確認してから、ガソリンで引火した炎を飛び越えてトラックの運転席の前に降り立った。
フロントがかろうじて原型と留めてるまでに歪み、ガラスは無くなっている。そこから上半身だけ出ている運転手の男がうつ伏せに倒れている……これは助からないな。
「半分は自業自得みたいなものだしな」
死因の確認のためにトラックから引き揚げ仰向けに返す………半分だけ血まみれ……切られた痕がある。
ガラスで切れるとは思えない切れ方だな、横転する前に出来たとすると傷が出来た方向からして公園側、やはりあの時突撃した何かがやったのか。
足元を確認するとガラス片が道路に落ちているが運転席側には殆ど無い、恐らく運転席に乗り込んで内側から衝撃が掛かり壊れた……
「無駄だと思うが脈を計って死亡を確認するか」
怪我が殆どない側の腕を持ち上げ脈拍を確認する作業に入る。
「…………なんだこの痕」
小さくて気付かなかったが男の腕には注射痕がいくつもあった。献血か予防接種か、痕だけでは判別できない………とにかくこの死体を外に運び出すか。
――ドクン!
再び起きた脈動と同時に横転したトラックの上に飛び乗った。
「いる―――この下に―――この違和感の正体が」
右腕が共鳴している……けど何で『俺』何だ?勘で理解したにしては意味不明だ。だがこの視線の先に『俺』がいると言うのは間違い無い。
――……イ~!
煙で僅かだが、視界の端で忙しなく動いているものに目を向けるとシオンの傍にいるレイが跳ねてこちらに手を振っていた………ん?
「≪コダイ~!ナナが居なくなったの!何か知らない!?≫」
足りないと思ったらナナか……確かあいつが車が来るのを知らせていたな、俺でも車が来るのを分からなかった。
ここである1つの仮説を思い出した。ナナがここに来た理由の『失敗作の廃棄』を。たとえ失敗作でも能力は付加されている、あの時にトラックが来るのが分かったのはその一端か?
「≪ここにはいないのなら公園の方だろ≫」
「≪分かった!!ナナのおねーちゃんと探して見る!≫」
レイがシオンの手を引き奥へ向かって行った。
「どこに行ったんだ?シオンがいるから良いが、迷子にならない訳でも無いしな……」
――バリィッ!!!
偶然だった、奥へ向かうレイ達を見ようと煙の薄い所を探して軽く体を捻っていた。突然視界の半分が煙とは違う白い何かに隠された……
回避行動を取ったのはソレが消えた直後だった。
「下に潜り込んだか……」
荷台の端まで移動して、さっきまでの位置に突き破られた跡があった。
「速いのかそう言う能力なのか敵が見えない………右腕のコイツのおかげで大体把握できる………来た……そこか」
――バシィッ!!!
再び脈動、何度も起きれば対処は出来る。本能的にいると感じた後ろに蹴りを撃ち込む。
そこにいるのは分かっていた……だがそこには何もいなかった、蹴り込んだ脚には紙の様な物が数枚纏わり付き受け止められていた。
脚を下ろし、付いた紙を一枚剥がして確認する。表も裏も何も書かれてない白紙、特に変わった物でも無い。
「何で紙がこんな所に………あ」
紙は突然強い力で引かれる様に手から離れ、脚についている物も剥がれて飛んで行く。
飛んで行く紙を目で追い相手を探そうとしたがバラバラに飛んで判別が出来ない。
「流石に長居は禁物だな」
荷台から跳び、火の手が回って無い場所に着地する。
――ヒュォッ!!!
トラックの荷台の扉が弾かれる様に開くとその中から突風が吹き出した。
「トラックの中から出たのか……速過ぎるだろ」
それともアスカと同じ見えない能力か。
「まだ近くにいる」
右腕はまだ疼く、それを頼りに走る。
「ん?…………っと」
走る道中、辺りが暗くなり上を見上げるとこちらに落ちて来るが見えて立ち止まる。
グシャリと湿った鈍い音立てて目の前に落ちて来たのは……切り裂かれた人の死体だった。
「何だ?野次馬が巻き込まれたのか?自業自得だな」
周りを見ると、さっきまで煙と炎で分からなかったが悲鳴や断末魔が所々聞こえて来るし人間も結構な数転がっているし………その辺はどうでもいいとして。
「やっと……違和感に慣れた」
ようやく……野次馬を始末している奴を捉えた。
右腕の疼きが強くなる―――――
「………何よそれ、最悪じゃない」
目で捉えた瞬間、思わず口調が素になってしまった……
さっきまで生きていた野次馬を傍に立つそれは赤い返り血が付いても眩さが失せない程の白い甲冑が全身を覆い、顔には上半分を隠すマスクが付けられている。
そして本来、白色の筈が血で赤く染まっている長い爪………まさか。
すぐ足元に落ちてる死体に視線を下ろす……胸には鋭い爪痕があった。こいつがこの前ニュースでやっていた通り魔事件の犯人………それ以前に。
「何これドッキリ?若しくはタチの悪い冗談?」
右腕の違和感の正体が分ったそれは『共鳴』………それを断言させる材料が目の前にある―――――
「もしかして殺人姫史上チョーヤバイ敵さん?」
その敵は色と細部は異なるが、レイを起動した時と同じ装甲を纏っていた。
『無限書庫ゲーム』は古今東西をミッド風に名前を変えただけです。
アルクオン様、感想を有難う御座います。
~次回もお楽しみにしてください~