緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんカワイイ(挨拶)

はい、気に入ったのでこれを挨拶にしていこうと思います。
うん、親バカみたいですね。
自分のキャラが愛されるのは嬉しいですから仕方ない。


90:ロシアより家族愛をこめて

 

 「良かったね、理子。家族で仲良く学校生活出来るよ」

暢気(のんき)に言ってくれるよね……』

 早速まだ入院中の我が妹にリリヤの事を携帯で知らせると、呆れた返答。

『って、キーくん達に顔が割れてるんだからここにいちゃダメじゃん?! 絶対に調べられちゃうよ?! 間接的にあたしもピンチだし!』

「あ、今更気付いた?」

『気付いてるなら何で止めないの?! このままじゃリリヤまでキーくんのフラグ構築に巻き込まれちゃうよ!?』

 心配するのそっちなんだ。

 でも――

「恋愛感情まで芽生えるなら、それは良いことじゃん。お姉ちゃんなら喜んであげなよ」

『出来る訳ないでしょ! 理子は絶対に反対だからね!』

「何で? キンジは別に悪くないと思うけど」

 見てて面白いし……あーでも、それは私の観点の話だから理子の観点では別か。

『確かにキーくんは、別に、悪い男って訳じゃないけど……』

 何だかんだ認めてはいるのか。

 理子もそれ以上は強く言ってこない。

『でも、本当にどうするの? お姉ちゃん――ジャック・ザ・リッパーに繋がってるなんて知られてるリリヤは……』

「ああ、大丈夫だよ。予防線は既に張ってるから」

 散々に警告はしてるしね。

 念のためにメッセンジャーも確保してるし、シナリオは既に伝えてある。

 だから問題はない。

「お姉ちゃんに任せて♪」

 

 ◆       ◆       ◆

 

「……初めまして、リリヤ、です」

「はい、ご紹介ありがとう」

 武偵高の制服に身を包んだリリヤが、ペコリと一礼する。

 お姉ちゃん、誰が病室にリリヤを呼んでって言った?

 言ってないよね?

 あたし言ってないよね?

 しかも何でお姉ちゃんが嬉々として紹介しにきてんの?!

「霧、これはどういうことよ!? なんでシェースチがここにいるのよ?!」

 アリア、白雪、レキに囲まれてるリリヤはただ黙ってる。

 患者服のアリアが立ち上がって、当然の疑問を投げ掛けた。

 そして、レキが密かに銃を動かした。

 ヤバい、今すぐ排除とまではいかないけど……妙な動きがあったら一戦始まってしまう。

「どうやら今日、転入してきたみたいでね。1年でたまたま見掛けたから連れてきた」

「連れてきた、じゃないわよ! 無用心にも程があるでしょ!? コイツは、ジャックと繋がってる凶悪な犯罪者の一味じゃない!」

 ほら、アリアが叫んでる通りやっぱりそういう話になるじゃん!

 お姉ちゃんのバカぁ……

 あたしは今すぐにこの場からリリヤを連れ出して逃げたい。

 このままだと絶対によくない。

 コンコンコン、とノック音がしてまたこの病室に来客。

「ミス・シラノから重要な話があると聞いてやって来たが……彼女は何者だい?」

「ふむ、話に聞くロシアの少女か?」

 わーい、ワトソンにジャンヌも来た。

 先生、理子はお腹が痛いです。

 別室で入院継続しても良いですか?

「おい理子、何をしてる」

「リコ、ココニハ、イナイ」

 ジャンヌ、話し掛けないで……しばらくは現実逃避させて。

「オハナシ、オワッタラ、オコシテ」

 理子は布団と言う檻に閉じ籠ってるから。

 閉じ込められるのは嫌いだけど、今だけはこの柔らかい檻の中で過ごしたい。

「理子……もう我慢の限界よ。散々に焦らされたけど、ここまで来たら色々と話して貰うわ! アイツが来るなら迎え撃って逮捕してやる」

 アリアがあたしの布団を剥ぎ取ろうとするけど、あたしは離すまいと抵抗する。

 構図的には引きこもりを外に連れ出す親のよう。

「やめて! 理子はしばらく営業終了するの! 情報は品切れだから!」

「ウソおっしゃい! その頭のどっかに在庫あるでしょ! いい加減に売らないと風穴空けてでも聞き出してやるんだから!」

「それってただのごうと~う~!」

「みぎゃ!?」

 変な声が聞こえたかと思うと、布団が引っ張られる感覚がなくなった。

「……ん、リコお姉ちゃんいじめるの、ダメ」

 両手を広げて、あたしを守るようにリリヤがベッドの前に立っている。

「お、お姉ちゃん……ですって?」

 リリヤに投げ飛ばされたか、引っ張り飛ばされたか……アリアが向かいのベッドの上に仰向けになってる。

 これには病室の全員が目を丸くする。

 未だに感情豊かとは言えないけど、リリヤには何か意志を感じる。

 って、姉が妹に守られてどうすんの!

 あたしはリリヤをベッドの上に抱き寄せて、みんなから守るように腕の中に収める。

 もう、ここまで来たら引き返せない。

 お姉ちゃんがどういうつもりか知らないけど、正直に話すしかない。

「そうだよ……この子は血は繋がってなくてもあたしの妹。家族がいなくなったあたしにとっては唯一の妹だよ」

 だから奪わせはしない。

 あたしは、自分でも分かる程に必死な顔をしてるだろう。

 あたしのそれを見てか、他のみんなは互いに「どうする?」という視線を合わせる。

 お姉ちゃんだけは少しだけ笑ってる。

「唯一の妹だって言うなら……奪う訳にはいかないよね」

「ちょっと、霧。それはいくらなんでも危険よ。あの殺人鬼と繋がってるヤツがいるなんて……」

「だったら、神崎さんは理子から彼女を奪う? そしたらこの陣営は内部崩壊すると思うけど」

 当然だ。

 家族を奪われるくらいなら、今すぐにここで敵対してもいい。

 もう、あたしは家族を失う悲しみを感じたくはない。

「……メッセージがある」

 腕の中でリリヤがそう言って1つの白い、リンゴぐらいの球を取り出した。

 中が割れて、カメラのレンズのようなものが出ると……光り出した。

 まるでSF映画のホログラムみたいに、映像が映し出される。

 そこには19世紀のイギリスみたいな服装をした青年が立っていた。

 シルクハットをかぶり、ステッキを持っている。

『久しぶりだね、師団(ディーン)の諸君。まあ、この姿で現れれば分かるだろうが、一応名乗っておこう、ジャックだ』

 ジャックだ、って……お姉ちゃんそこにいるし。 もしかして録画映像?

『おっと、これは録画とかではないから気を付けてくれ。テレビ電話のようにリアルタイムの映像だ』

 演技がかったジェスチャーをしながら彼は話す。

 その事にレキ以外の誰もが息を呑む。

 お姉ちゃん、誰か役者でも雇ったね。

「あんた……シェースチを学校に寄越して何のつもり?」

『ふむ、アリア君の疑問ももっともだ。短気な君のために直球でこう答えよう。ジーサードの件に協力してあげよう、とね』

「狙いはなんだ?」

 ジャンヌがすぐに眉を顰めて聞き返した。

『狙いと言うほど、大したものじゃない。シェースチ、いや本名はリリヤと言うのだが……彼女に学校生活を満喫させてあげたくてね』

 マジで?

 殺人鬼とは思えない言動にあたしを含めて、誰もが目を丸くする。

 レキは変わらず黙って見てるだけ。

 あたしとみんなとじゃあ目を丸くする理由は別だろうけど。

「信用できると思うかい?」

常套句(じょうとうく)をありがとうワトソン君。だが、君達も困ってるんじゃないかい? 先端科学(ノイエ・エンジェ)の使い手であるジーサードとの間には埋められないテクノロジーの差がある、と。ロシアには……ソヴィエト時代の研究を色濃く継いだ研究施設があってね、彼女はそこの人工天才(ジニオン)だよ。先端科学(ノイエ・エンジェ)には先端科学(ノイエ・エンジェ)をという訳だ』

 理屈は分からないでもないけど。

 ジャックのメリットは? って話になるよ。

「あたし達に協力してあんたに何の意味があるのよ!?」

 ほらね。

 アリアが再び噛みついてもジャックはどこ吹く風。

 病室を歩きながら説明を始める。

『いいや、私はリリヤに学校生活を経験させたいだけだ。教育は大事だろう? だから取引の内容としては協力する代わりにリリヤに手は出さず、生徒……あるいは後輩として接して貰いたいだけだ。それとも、メリットらしいことを言おうか? ジーサードはよく私を追いかけるからね、しばらくは戦闘不能にでもなって貰って、ゆっくりする休暇の時間が欲しいんだよ』

「天下の殺人鬼だからもっと怖い人だと思ってた。意外にフランクなんだね」

『人は見た目に依らないだろう? 君が、白野 霧だね。初めまして』

「初めまして」

『ジャックだと知ってなお、その冷静さ。随分と胆力があるね』

「まあ、私もそこそこに経験があるってことで」

 自演乙ってツッコみたい。

 お姉ちゃん、マッチポンプ好きだよね。

 今、映像に映ってるジャックって絶対にお姉ちゃんの知り合いでしょ?

『ともかく……リリヤの協力がいらないというのであれば、別にそれでも構わない。彼女に危害を加えなければね。それでは、また』

 それだけ言って映像のジャックは消えた。

「元イ・ウーとしてどう思う? ワトソン」

「嘘は言ってないと思う。ジャックは損得で動くヤツじゃないからね」

 ジャンヌの問いに、ワトソンは冷静に答える。

 お姉ちゃん、基本的に嘘を言わないからね

 喋ってたのは別人だけど、あの言葉自体はお姉ちゃんの本音だろう。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? ワトソンあんた、イ・ウーにいたの?」

「すまない、アリア。組織の捜査でね……イ・ウーに潜入してたんだ。もう崩壊した今は隠す意味もないけどね」

「潜入って言ってたけど、ジャックやシャーロックに秒でバレてたよね? そのあと公開処刑みたいに所属とか目的とかもバラされてたし」

「相手が悪すぎるんだよ……。ボクも諜報員の端くれなのに自信を無くしたな、あの時は」

 あたしの言葉に頭を抱えるワトソン。

 確かに相手が悪かった。

 どっちも観察スキルが飛び抜けてる2人だし、情報収集能力も抜群だからね。

 引き続きワトソンは補足する。

「ともかく、ジャックを知ってる身の上では多分だけど彼は嘘は言ってないと思う。取引や約束は律儀に守るからそこも信用していい」

「でも、コイツはレキを襲った張本人よ。また狙うつもりなんじゃないの?」

「……終わった話」

 アリアの言葉にリリヤは反応して立ち上がり、みんなの中心へ。

 それから武偵高の制服の上着を少しだけはだけて、三角ブラを覗かせながら白い肌の左腕を袖から出した。

 右手で左腕を掴み軽く捻ると、左腕が伸びた。

 ケーブルが出て、ターミネーターの腕みたいに金属の棒が見える。

 義手なのは知ってたけど、精巧に出来てる。

 当然にその光景に誰もが目を奪われる。

 あたしはちょっと見てられないけど。

「……左腕、なくした。お互い様」

 レキを見ながらリリヤは告げて、すぐに左腕をしまってあたしの膝の上に座る。

 理子より背が高いから膝の上に座られるとあたしが隠れるんだけど……

「……どうするかは、任せる」

 命令を待つようにリリヤはただ告げた。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 そして、後日。

 アリアを含め、全員が退院した。

 元々の負傷具合的にはそんなに大したことはなかったけど、武装を整えたり強化合宿なるもので病院に居座ってた部分もあるからね。

 リリヤの扱いは保留になった。

 当然だけど、信用しきれなくて当然ではある。

 警戒しつつもまずは、ジーフォース――かなめの件に目を向けることになった。

 リリヤは取り敢えず1年に無事に転入したようだ。

 実際、理子達の1つ下だからね。

 この間来てたのは校内見学だったらしい。

 神崎はSSR――超能力捜査研究科に向かった。

 どうやら色金の制御について教えを請いにいくらしい。

 余計なことを……あんまり色金使うと共振作用があるから勘弁して欲しいんだけど。

「大丈夫かな、リリヤ。コミュ力高くないし、あたし達以外にはあまり喋らないと思うんだけど」

「まあ、そこは身の上話でもして同情でもさせればいいよ。事情を知ってるなら人間、理解はしてくれるものだし。それにこの学校は、間宮 あかりみたいなお人好しもそれなりにいるだろうし」

 理子は妹が心配らしい。

 学校だとイジメってものがあるからね。

 しかも女子のイジメって陰湿な傾向があるし。

「そう言えば……クラスはどこ?」

「1年A組だったかな?」

「アリアの戦妹(いもうと)がいるクラスだよね……。お姉ちゃんの言うお人好しの本人がいるじゃん」

 理子が呆れて、あたしを見てくる。

 実は、リリヤの様子を見にその1年A組に向かっているところなんだよね。

 リリヤの設定として専門は装備科(アムド)。ランクはAランク。モスクワの武偵高からの留学生、まあそんなところ。

 お姉ちゃんがそういう設定にしたっぽい。

 強襲科(アサルト)諜報科(レザド)の所属でもよかったんだけど……絶対に加減を間違えて殺しかねないので、後方の専門科にしたんだろう。

 だって格闘術がシステマの時点でヤバいからね。

 整備や武器の知識としての能力は、お姉ちゃんのアドバイス込みだけどレールガンを生み出しちゃったし……独自にと言えば、ココの時に出したドローン兵器なんかも作ってる。

 開発力は平賀さん顔負けだよ。

 なんかお姉ちゃんの屋敷の地下がトニー・スタークの工房みたいになってるらしい。

 ドローン兵器からして、本当にアイアン軍団作りそう。

 まあ、つまりは専門技能はかなりあるけども目立つのはあれなので、セーブしてAランク。

 本人にも自重するように私も言い含めてある。

 なんて考えてる内に着いた。

 普通にドアを開けて教室の中を覗いてみれば、

「…………」

 まあ当然と言えば当然だけどポツン、とリリヤが席に座ってた。

 こっちに気付いてリリヤを含めてクラスの何人かがこっちを見てくる。

「白野先輩だ」「何の用だろう?」

 いきなり先輩が来たらそんな反応になるよね……

 意外にも自分が有名人なのを忘れる。

 ヒソヒソ話してる子もいるけど、すぐに意識は私達から逸れた。

「ちょっと失礼しまーす」

 言いながら私はそのまま理子と一緒に入る。

 真っ先に気付いたライカが、席を立って私に近付いてくる。

「珍しいですね。先輩が教室に来るなんて」

「そうだよね。だけど、用があるのは私じゃなくて理子の方でね」

「峰先輩、ですか?」

「新しい転入生、来たでしょ? ロシアの子」

「ええ、まあ……無口な子ですけど」

「あれ、理子の妹だから」

 その瞬間、ライカと理子が同時に私を見る。

 後ろにいる間宮と佐々木も立ち上がった。

「え……峰先輩の妹なんですか?!」

「ちょちょーっと失礼!」

 あかりが声をあげると同時に理子はすぐに私の手を引いて教室を出る。

 ライカが呆気にとられて立ち尽くしてるのを見ながら私は教室の外へ。

「この間といい今日といい、お姉ちゃん何してんの!?」

「社会復帰をと思ってね。お友達でも出来れば少しは変われるかな~、と」

「いくらなんでも急すぎるよッ」

「こう見えても、私は結構社会復帰させてるよ? ミアは歌で成功してるし、ワイズもマジシャンで成功してる。以織はボディガード関連で今は働いてるんだったかな? ほとんどミアの護衛だけど……ともかく、急かもしれないけど変化は大事だよ」

 それに、と続ける。

「妹って事実をこうしてアピールすれば、何かと動きやすいでしょ? 妹の理由を話せば、まあ……同情は誘えるね。卑怯なやり方かもしれないけど。もちろん、伝える内容はぼかす」

「でた……お姉ちゃんの嘘は言わないけど真実もはっきり伝えないやつ」

 理子がじとっと見てくる。

 下手に嘘を言って追及されるよりかはマシだよ。

 それに真実を言って今は話せない的なことを言えば、普通は事情があるんだろうと勝手に想像で付け足して自分で納得してくれる。

 その内容が衝撃的なものであれば効果は絶大ってね。

「ともかく教室に戻ろう」

「分かったよ……話す内容は任せるから」

 諦めて理子は私と一緒に教室に戻る。

「リリヤ、こっちおいで」

 理子が呼ぶと、リリヤは素直に立ち上がって姉のところへ近寄る。

 それから制服の袖口を掴むと、その身を寄せた。

 人見知りする子供みたいに。

 子供にしては理子より若干背が高いから、シュールな()になってる。

「あー、何て言うか不思議な子だね」

 あかりがいつの間にかライカの傍にいて、率直な感想を述べた。

「まあね。妹って言ったけど、見た目から分かるとおり本当の姉妹じゃないよ」

「そうですよね……義理の妹さんとかですか?」

 私が軽く説明をすると、探偵科(インケスタ)の佐々木がそう聞いてくる。

 姉妹なり兄弟なり、見た目は何かしら遺伝で似るものだからね。

 瞳の色は遺伝性だから、そこだけでも家族関係かどうかは判断できる。

 理子とリリヤは明らかに瞳の色が違うから、佐々木がそう判断するのも無理からぬこと。

「まあそんなところ。詳しい説明は省くけど、この子は監禁されてた経歴があるらしくてね。そこから救いだされて……理子が面倒を見てなつかれて、成り行きで妹にって感じらしい。私は以前にも会ったことがあるんだけど、見ての通り精神的に未成熟な部分があるから……まあ、よろしくお願いね」

 と、私が言うと3人は何とも言えない表情をする。

 いきなり転入生が監禁されてた過去があるなんて知ったら、そりゃ微妙な顔もするよね。

 だけど、これで変に過去に触れたりすることはないだろう。

 でも、一度不信感を持てば秘密がバレるのは時間の問題かもしれない。

 けれども、家族の為なら多少の面倒は何とかしよう。

 誰しも表の顔は持っておくべきだしね。

「りんりんのお友達のみんなのクラスに入るって聞いてね。お姉ちゃんとして、出来れば気に掛けて欲しいかな……お願い」

 理子は誠実に頭を下げる。

 お姉ちゃんしてるね。

「大丈夫ですよ、峰先輩。任せて下さい!」

 それに対してあかりが真っ先に声をあげた。

 他の2人も顔を見合わせて任せて下さいとばかりの表情。

 お人好しだね~

 だけど、そういうところ嫌いじゃないよ。

 

 

 リリヤの話が済んだので、私は別件。

 キンジと放課後に定期報告をする。

 キンジも何やら用事があったらしく、少し遅れて教室にやってきた。

「で、いつも通り進捗(しんちょく)は?」

「大丈夫だ、問題ない」

「フラグくさい発言だね」

「報告って言っても特に何もないぞ」

「それを決めるのはキンジじゃないよ」

 ボイスレコーダーで指差すようにヒラヒラしながら私は言う。

 今朝、受け取ったボイスレコーダーの内容は既に拝聴済み。

 正直、聞いてて笑っちゃった。

 話し方からして完全にバレてますよ。

 キンジは女性関連の話となると途端に鈍くなる、あるいは見て見ぬふりをする。

 その傾向があるのは出会ってからそんなに日が経たない内に分かっていた。

 それがとんでもない事態を現在進行形で巻き起こして、ジェンガ方式で積まれているのが私にはイメージ出来た。

 私はちょっと呆れ気味に言ってあげる。

「会話の中から情報を取捨選択するのも捜査の一環、探偵科(インケスタ)に限らず探偵なら最初に習うことでしょ?」

「まあ、そうだが……」

「それで忠告しとくよ。女の子にこれ以上近付くのはダメ。話があっても通信機器を介したほうがいいよ」

「何だよ、いきなり」

「端的に言うと、会話の内容からして風魔の一件はバレてる」

「何で分かるんだよ……」

「女の勘かな……根拠がいるなら、キンジが約束を守ってる確認をしてたかなめちゃんの口調がどうも約束を破ってるのを確信してたっぽい感じがしたからね」

 間違いなく見てたんだろう。

 風魔の一件を見られてるかどうかは以前確認出来なかったけれども、会話の内容からして確信に変わった。

 もしかしたら、今も……

 ちょっとだけ周囲に意識を向ける。

 けど、今は見てる感じはなさそう。

「何にしても、敵だろうが味方だろうが約束は守らなきゃ自分が不利になるよ? それと、私も約束を守らない人は好きじゃないしね」

「おいおい、かなめの肩を持つのか?」

「違うよ。単純に約束したなら守らなきゃって話。それじゃあね」

 押し付けるようにボイスレコーダーをキンジに渡して、私は教室を出た。

 まあ、あとこれは私自身の気持ちの問題だけど……兵器であろうとする人間モドキが誰かを理解しようなんておこがましいんだよね。

 要は気に入らない。

 人間らしい生活に憧れてるのに、最初からそれを諦めてる。

 なのに誰かに愛しては欲しい。

 中途半端にも程があるよ。

 ただ単に人形だったレキはつまんないから消そうと思ったけど……かなめはその在り方が気に入らない。

 別に興味がない訳じゃない。

 ただ、気に入らない。

 それだけの話。

 かなめ本人も自分の在り方に迷ってるんだろうけどね。

 そこら辺の事情はどうでもいい。

 キンジを一番理解してるって感じを出してるのも私は気に入らない。

 私の方がまだキンジを理解してる自負があるよ。

 嫌だと本当に思ってるならしないし、理不尽な事をしたりもしない。

 当の本人は迷惑してるけど、かなめをイマイチ突き放せない感じっぽいし。

 私が一肌脱いであげよう。

 脱ぐって言うより、剥いでもいいけど。

 家族ってキンジが認めないなら消しても問題ないもんね♪

 やるのはリリヤの役割になるだろうけど。

 さてと、どうしたものかな……

 

 


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