緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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1日1話投稿すれば遅れが取り返せるな。
すみません、冗談です。
身が持たない……でも、出来るだけ再開していきます。

・緋弾のAA要素あります ちょっとだけですけど


88:ジーフォース

 

 そして会議が終わって部屋に戻り、武偵病院に向かおうと思った矢先。

 困った事になった。

「……理子お姉ちゃん、傷付けた相手、粛清」

 リリヤがどこから聞いたのか、物騒な武装を持って私の部屋の前で待ってた。

 襲撃は昨日だけど、まだ1日は経ってない。

 到着が早すぎる。

「……どこ?」

 機械的に聞きながらも早く情報を寄越せとばかりの視線。

 言葉と表情以外に感情をのせすぎだよ。

「あー、持ってるのって電磁投射砲(レールガン)?」

「……ソフィーに知恵を借りた。……出来た」

 簡単に言ってるけど、とんでもないよ。

 それで何を撃つつもりなのかな?

 流石の私も冷静ではいられない。

 レールガンは電磁力で物体を高速で投射する装置、簡単に言えばそんな感じ。

 クリアする問題は色々とあるけど、実際に目の前にあるんだから完成しちゃってるんだろう。

 銃身はリリヤの身長よりは若干小さい、といってもデカイけど。

 直方体の形をしてる。

 パッと見は直方体の合金と思われる物体に引き金と電源を供給するケーブルがあるだけにしか見えない。

 直方体のある一面の真ん中に四角い穴がある。おそらく銃口。そして、コレ自体が銃身らしい。

 辺が長い方がレールなのだろう。

「もう、実験したの?」

「……もうしてる。……実戦投入可能」

 なんでお姉ちゃん協力したの。

 しかも数学お化けのお姉ちゃんが知恵を貸したならこれ以上ない兵器じゃん。

「……計算上、連発も可能。……電力が問題」

 兵器は計算された武器だからね。

 有効射程とか、必要な素材の重量、比重、熱量と実際に数値だらけだし。

「それで、私のところに来てもすぐに敵討ちはしないからね」

「……ソフィーも似たこと言ってた。……でも、最終的に始末するとも聞いた」

 お姉ちゃんってばそこも計算済みか。

 ならリリヤを寄越したのも、計画通りだね。

 元々リリヤに任せようとも思ってたし。

 仕方ない……か。

「あら、お客様かしら?」

 私の部屋からとてとて、とアリスが出てくる。

 今日は黒のゴスロリっぽいエプロンドレスを着てる。

 金髪に黒は無難に似合う。

 基本的に服はエプロンドレスっぽいんだよね、彼女。

 どこから取り寄せてるのか知らないけど。

「……誰?」

 リリヤは怪しいとばかりに目を少し細める。

 まあ、当然の疑問ではあるよね。

「お茶会仲間だよ。気に入られちゃってね」

「初めまして、私はアリス。あなたのお名前は?」

 そんな簡単な自己紹介をするアリスに対して、リリヤは静かに警戒しながらも名乗る。

「……リリヤ」

「良いお名前ね。チェシャ猫さんのお友達?」

「私の家族だよ。お茶会はいいけど、トランプ遊びは駄目だからね」

「はぁい、分かったわ。でも残念。今日のお茶会はおしまいなの。だからまた今度ね」

 そう言って、アリスは部屋に戻る。

 かと思えば突然に足音は消えた。

 音で表すと、とてと――っと不自然な感じに足音が途切れた。

 同時に部屋にいる気配も消えた。

 奇妙な雰囲気だよ。私ですら少し不気味さを覚える程にね。

 まあ、どこか出掛けたんだろう。

 また戻って来そうだけど。

「必要になったら呼ぶから、部屋でもどこでも自由にしてていいよ。特にお姉ちゃんから何も言われてないでしょ?」

 コクリと、リリヤは頷く。

「それじゃあ、私は武偵病院に行ってくるよ」

「………………」

 リリヤは何も答えず、私の背中を見送っている感じ。

 背中から視線を感じる。

 変な行動しなきゃいいけど。

 

 

 そんなこんなで制服で武偵病院へ向かう。

 病室の場所は303号室。

 病室にもうすぐ辿り着くかと思ったら、

「家に家族でもない女がいるなんて、"ありえない"。家にいていいのは家族だけだ! だから――二度と来るな! お兄ちゃんは、あたしが真人間にするッ!」

 激昂をしながら病室の扉が歪む程に蹴り閉めた彼女――あの栗色の髪に顔立ち。

 イギリスでも見たジーフォースだね。

 随分と荒れてるみたいだけど。

 感情的なった表情はどことなく遠山兄弟に似てなくはない。

 だからこそ、歪ませたいとも思っちゃったり。

 金一が良い表情してくれるのが悪い。

「霧……」

 私に気付いたキンジが助けを求めてる。

 そんな表情しないでよ、あえて見捨てたくなるから。

 ジーフォースも気付いたみたいだけど、すぐに敵意を剥き出しにしてくる。

「噛まれそうだから近付けないんだけど、どうしたらいい? あと、扉は蹴り閉めるものじゃないし病院は静かにするものだよ」

「お前も、あの病室に送るつもりだったのに。運の良いやつ……お兄ちゃんに近付くな。お前は特に胡散臭い」

 胡散臭い、ね……

 経歴でも調べられた?

 お父さんの書類偽装はかなりの腕前だと思うから、その線は薄いと思うんだけど。

 直感的なものなら良い勘してると感心するよ。

「お兄ちゃんって……あー、キンジに妹がいるのは初耳なんだけど?」

「俺も知らねえよ!」

「って、キンジは言ってるよ? 私を胡散臭いって言うなら君も相当に胡散臭い存在だと思うんだけど?」

「黙れ! あたしは妹だ!」

 頭の良い人工天才(ジニオン)にしては随分とサイコな思考してるね。

 エニグマへ招待される素質はありそう。

 いらないけど。

 サイン……読まれるか。

 マバタキ信号もハンドサインも正面でやったんじゃ意味がない。

 とりあえず――

「その病室に入ってもいい? お見舞いしたいんだけど」

 一応、見舞いの品もあるし。

 どうしようもないと思ったのか、キンジは諦めたような表情をしながら私の方へと歩いてく。

 すれ違い様に何かサインでもと思ったけど、ジーフォースは私とキンジの間に陣取ってる。

 キンジにこれでもかとくっついてる。

 私はそのまま病室に入ると、いきなり銃口が向けられた。

 しかも、何か理子以外はみんなコスプレしてるし。

 神崎は妖精、白雪は天使、レキはオオカミのコスプレをしてる。

 見た目の割には物騒なの向けられてるし、白雪に関してはM60だし。

「何よ、霧じゃない」

「さっきの廊下での会話、聞こえてなかったの?」

 話してた場所からこの部屋までそんなに距離なかったと思うけど。

 神崎が真っ先に銃を下ろし、白雪は私に銃を向けたことにおろおろ。

 理子はそもそも向けてない。

 レキは……向けてたのか知らない。

「見舞いの品を持ってきたのに……いきなり銃口向けられて、ショックだよ」

「ごご、ゴメンね霧さん! てっきりジーフォースが戻ってきたのかと思って」

「冗談だよ。はい、見舞いの品」

 それぞれの好物を私は袋から投げつける。

 様子的になんか既に食べてるっぽいけど。

「あら、気が利くじゃない」

 神崎が受け取りながらも、私は私でキンジにメールで連絡する。

「そりゃ、どうもってね。私、キンジが心配だからもう出るよ」

「あ、ちょっと!」

 素早く病室を出る。

 神崎の引き留める声がしたけど、無視。

 さて、連絡ではまだ病院の中らしいけど……

「おい、お前……」

 と、発見。

 物陰に隠れる。

 何故か間宮 あかりと佐々木 志乃がいるけど。

 恫喝(どうかつ)するように間宮に迫ったジーフォース。

「あたしのお兄ちゃんを呼び捨てにしかけたろ」

 まーた、それか。

 間宮の子も学習能力がないね。

 以前に注意したのに。

「――死刑」

 一言と共に爆発する殺気。

 見下す視線はリリヤと同じで機械的な印象を受ける。

 殺るときは、殺るね……これ。

 実際にジーフォースが殺したことがあるかは知らないけど、障害を無慈悲に排除する覚悟はあるみたい。

 それに対して反射的に2人は武器を構える。

「お兄ちゃん、離れて……血とか、飛び散るから」

「やめろぉ!」

 流石のキンジもこれには叫び止めた。

 ジーフォースはくるりと回ってキンジに向かってケンケンで近付き、

「ッパ♪」

 最後に笑顔で言った。

「なーんちゃってだよ。お兄ちゃん」

 さっきとは打って変わって、花のような笑顔でキンジに冗談をアピールしてる。

 今のは本気だった癖に、猫をかぶるのが上手いことで。

「さ、一緒に帰ろ♪」 

 ジーフォースはそのままキンジの腕を引っ張って病院の外へと向かう。

 やれやれ……と、ばかりに私が近付く時には間宮の子は膝から崩れ落ちる。

 緊張の糸が切れたらしい。

「全く、バカなことで死にかけるとはね」

 私もあんなつまんないことで死にたくはないものだよ。

「白野先輩……?」

 呆然と私を認識すると同時に間宮の子は私に訴えるように迫る。

「白野先輩、聞いてください。あの子は――」

「知ってる。危険なんでしょ?」

「そうなんです。あの子が星伽先輩達を――」

「それも知ってる。だから、この件は関わらない方がいいよ。君達の手におえる相手じゃないからね」

 私の言葉に2人はどうして、という感じの表情。

「それに武偵は自立せよ。関わるなら、それなりの覚悟は持っておきなよ。それじゃあね」

 私はそれだけアドバイスを残してキンジ達を尾行する。

 本気で尾行したら実力の不釣り合いを疑われそうだからしない。

 マジな変装も無し。

 理子的に言うならゲームの縛りプレイやってるみたいだよ。

 あ、逆にコソコソするのやめようかな?

 私に何かあれば大義名分が出来るわけだし、そっちの方が合理的な気がする。

 病院を出てしばらく尾行してたけど、キンジは男子寮に戻るためにバスに乗るからどのみちバレる。

 私もキンジ達が待ってるバス停に普通に近付く。

「そこそこできるみたいだけど、あたしにはバレバレだからなストーカー」

 近付くなり、ジーフォースから鋭い視線と敵意。

 大体、ストーカーっぽいのはそっち……

 言っても家族だから~とかでゴリ押しそうだけど。

 しかし……随分と感情豊かではあるけど、いかんせん自分は人間じゃない感を出してる気がする。

 そう刷り込まれて開発されたんだから当たり前だろうけど。

「あー、ハイハイ。どうせバスで一緒になるから尾行するのはやめたよ」

「あたしのお兄ちゃんに、3メートルは近付くな」

 バスの中で3メートルはしんどいんだけど?

「キンジから近付いたら?」

「そんなのあたしが許さない! ダメだよ、お兄ちゃん」

 私の言葉に反応してキンジに絡めてた腕を強くしたのが見えた。

 キンジに話す時には普通の口調に戻った。

 腕を絡められてる本人は困った表情をしてる。

 キンジに胸が当たってる当たってる。

 私より何気に大きいね、ジーフォース。

 14歳ぐらいじゃなかったっけ?

 年齢の割には発育が良すぎるのでは……人工天才は肉体の発育具合も調整出来るのかな?

 ふと、そんな疑問が浮かんだ。

 なんてどうでもいい事を考えてると、そんなこんなでバスが来た。

 微妙に混んでる。

「次のバスに乗れ、これには乗るな」

 人の多さからジーフォースは3メートル以内に近付くと思ったのか、そう命令してくる。

 だが断る、ってね。

 むしろ私に手を出せばキンジの評価が地に落ちるのは君の方だし。

「待つ時間がもったいないから、先に失礼するよ」

 先に私が乗って、キンジ達が乗る前に距離を取れば3メートルは取れるでしょ。

 ちょっとばかり人混みをかき分けて、バスの出口付近に進む。

 すぐにキンジ達も乗車してきた。

 と思えば、こっちに近付いてくる。

 せっかく面倒な制限を守ってるのに、何でこっちに来るの……

 向こうとこっちで何が違うのか観察すれば、入り口付近は男子が多く、こっちは女子が多いのが気付いたこと。

 言動からしてキンジ至上主義っぽいから、それ以外の男は嫌なんだろう。

 はい、ジーフォースに鼻の下伸ばしてる男子諸君は御愁傷様っと。

 仕方ないのでススーっとキンジ達とポジションを替える。

 再び入り口付近に移動すれば、見知った2人が近くの座席にいるのに気付いた。

「やあ、ライカに麒麟ちゃん」

「白野お姉さま」「先輩?!」

 麒麟ちゃんは普通に挨拶してるのに、ライカはなんで驚いてるのか……

 ヒントは麒麟ちゃんのスマフォの画面にあった。

 可愛らしい意匠の衣服が映ってる。

 ワンピースとかウールコートとかにフリルがついてるヤツだ。

 理子が好きそう。

「ライカってばやっぱり興味あるんだ~?」

 携帯の画面を示しながら、顔を近づける。

「そんな訳ないです。あたしは、全然、興味なんて……」

 目が泳ぎまくってる。

 この子も相変わらずだね。

「ちょっと失礼。服選びなら、ライカはこういうのが良いと思うけど」

 麒麟ちゃんの携帯の画面を触って、社交ダンスにつかうスラッとした感じの服のページにする。

 身長高いんだからきっと似合う。

「お姉さまのスタイルからして間違いはないのですが……麒麟的にはやはりこういうのを着せたいんですの」

 そして再びふわふわした感じの衣装のページに戻る。

 麒麟ちゃん的には敢えてギャップのある服にしたいんだろう。

 ううむ、髪を下ろせばライカも幼く見せることもできないことはないね。

 私のところにお邪魔してるアリスみたいに。

 なんて考えてるけど、キンジ達の動向はしっかりチェック。

 会話の内容も何とか聞き取れる。

 エンジン音で内容は断片的だけど。

 なんか、転校生って聞こえた。

「うん、それっていいアイデアだよ。お兄ちゃん」

 今度は随分とハッキリと聞こえた。

 さては、ここでキンジの妹であることをアピールするつもりだね。

 そんな意図はなくて普通にお兄ちゃんって言っただけの線もありそうだけど。

 何にしても『ネクラのキンジに妹が!?』と、バスの中は大騒ぎ。

「今、お兄ちゃんって言いました?」

「言ったね……」

 ライカは確かめるように呟き、私は事実であると答える。

「霧先輩、遠山先輩に妹がいるってあたし初めて聞いたんですけど」

「事実、いるみたいだよ」

 私は静かにライカに答えながらも視線はキンジ達へ。

 何も知らず、マスコミみたいにジーフォースに群がる人達を見てると少し滑稽に見える。

 それは置いといて、色々な質問にジーフォースが答えることで、それは周知の事実となってしまってる。

 特に、"キンジに妹がいる"っていう事実がね。

「――お名前は!?」

 女子の1人がその質問をしてきた。

 ジーフォースなんて名前、流石に名乗る訳にはいかないでしょ。

「遠山じーふぉもご」

 キンジがすぐに口を塞いだ。

 普通にジーフォースって名乗ろうとしたね。

 もし、そのまま名乗ろうものなら説明不明な状況どころか収拾不可能な事態になってただろう。

 ジーサードリーグで活動してる時になんか偽名とかなかったのかな……

「ちょっと遠山君! なんで妹さんに名乗らせてあげないの!」

「壁新聞にも書くんだから、ちゃんと聞かせてよ!」

 野次馬連中からはブーイングの嵐。

 必死に考えてるね、キンジ。

「こ、コイツの名前、は……!」

 苦悶してるしてる。

 仕方ない、助け船でも出すか。

 私が割って入ろうとしたその時――

「こ、こいつは――遠山 かなめ、だ」

 その瞬間にジーフォースは驚きの表情をして、キンジを見上げるが、それをキンジは手で覆い隠す。

 あーあ、物に名前なんて付けちゃって、愛着わいても知らないよ、っと。

 しかし、バスの中はキンジの自称妹に大盛り上がり。

「かなめ!」「かわいい!」「遠山かなめ!」「かなめ!」「かなめ!」「かなめ!」

 と、アイドルのライブ会場みたいになってる。

 いたたまれなくなったのか、キンジは次のバス停ですぐに降りた。 

 私も降りると、そこは車輌科(ロジ)の立体駐車場前だった。

 私達以外にベンチで寝てる男子生徒が1名いるだけ。

 随分と汚れてる。

 ケンカでもしてたのかな? リボルバー銃をホルスターに仕舞わずに寝てるのはいただけないけど。

 キンジはジーフォースを正対させ、

「お前、どういうつもりだ。さっきのでアイツらは、てっきり――」

 と、なにやらキンジが説教モードに入り始めたところで、ぎゅ。

 ジーフォースがキンジに抱きついてきた。

 14歳にしては女性らしい曲線を描く肢体に、キンジはたじろいでる。

「かなめ……あたしは、かなめ……」

 嬉しそうな涙声でキンジの胸に顔を埋めている。

 人間兵器(ヒューム・アモ)の扱いなんてどこも似たり寄ったりみたいだね。

 というか、ロスアラモスの施設にも忍び込んでるから知ってるけど。

 私のことを欠片も見ないくらいには嬉しいらしい。

「かなめ……って、名前だよね? 人の名前だよね?」

「あ、当たり前だろ。お前が、名付けざるを得ない状況にだな――」

「嬉しい、嬉しいよ……お兄ちゃんがつけてくれた、名前。ほんとうに……うれしい……ふぇ……」

「何だよ。何で泣くんだよ」

「うれしいから」

「何が嬉しいんだ」

「名前。人間の名前。今まで、無かったから。お兄ちゃんは……あたしに名前をくれた。あたしを初めて、人間扱いしてくれた」

 あー、そっか……キンジは自覚ないだろうけど得体の知れない"物"じゃなくて"者"の感覚で見てるからね。

 キンジは物体を見る視線じゃなく、普通に人扱いで拒絶してるだけ。

 例えるなら不良品の商品を拒むのと、不出来な人間を疎んじるのとは違うって、感覚かな?

 アメリカじゃあ人の形をしてても彼らは物品扱いだったからね。リリヤでのロシアの扱いも同じ。

 改造に失敗すれば死んで、即廃棄処分。

 おぞましいよね~

 私のやってることと何の違いがあるのか教えて欲しいものだよ。

「よかった……よかったよ……ずっと夢見た通り……あたしのお兄ちゃんは……とっても優しい人だったんだね……」

 キンジに非情なんて言葉は無縁だよ。

 頭のどこかで認めなくても、心はざわついてるはず。

 まあ、たまにキンジは直感より強引に理性で押し通そうとするから空回りするんだけど。

「おい……」

 今も何か言いかけて言葉を詰まらせてるし。

 きっと『妹なんかじゃない』みたいなセリフなんだろう。

 ん? 何か視線を感じる気が……

 と、立体駐車場の方……さらにその向こうの建物の上にいるのは……リリヤ?

 あ、ヤバい。

 レールガン持ってる。

 照準は当然、ジーフォースだろうけど……

 ちょっと待って、それの破壊力は想像はできても実際知らないんだけどお姉ちゃん!

 それ間違いなく撃ったら衝撃とかあるよね?

 角度的に着弾したら周囲にも被害あるよね!?

 今は駄目だってッ! キンジもいるし!

 ジーフォースやキンジは私を見てないので密かにサインを送る。

 今すぐやめて、お願いだから。

 数秒――静寂。

 そして、何か光ってる。

 いや、何で充電してるの!?

 と思ったら携帯に連絡のメールが入った。

『……邪魔。……離れて』

 こんなときに反抗期とか勘弁して欲しいんだけど。

 キンジ連れ出そうにもジーフォースが邪魔だし。

 久々にピンチだ。

 しかも原因が妹の反抗期って……私らしい危機ではあるけどね。

 キンジやジーフォースが何か話してるけど、内容が入ってこない。

 理子を呼ぼうと思って携帯を開く瞬間、ベンチで寝転んでた生徒の体の上からリボルバーが落ちそうなのが見えた。

 角度的にキンジの方だし、ジーフォースはまあ心配してないけども何やら感動の場面っぽいから、私が空気を読もう。

 反射的にジーフォースが振り返り銃口の正面に立つのと、ジーフォースの正面に私が銃口に背を向けて立つのは同時。

 ――ドォンッ!

 轟音、そして背中に衝撃。

 私だって痛みはある。

 ――ッ……あー、マグナムの弾でマッサージは推奨しないね。

 衝撃でジーフォースに少し寄りかかる形になった。

 3メートル以内に入ちゃったけど、これは勘弁して欲しい。

「えっ……? ――大丈夫ですかッ?!」

 銃の持ち主である男子生徒が、私の背後から動揺した声を出す。

安全装置(セーフティ)ないんだから1発目を抜くなり、ちゃんと安全管理しなよ。全く……たまたま外れたからいいけど。今日は見逃すから、すぐに帰るんだね」

 顔だけ生徒の方に向けてそう説教すると、彼は何度も頷いてあらぬ方向に落ちてたリボルバーを拾った。

 やっぱりS&Wか……気付いた時点で床にでも置いとけばよかったよ。

「大丈夫か?!」

 キンジが少し慌てた様子で心配してくれる。

「久々に撃たれた……。我慢できるけど、ホント洒落にならない。で、今はかなめちゃんだっけ?」

 私の行動に驚いてるのか、ジーフォース――かなめは目を丸くする。

 私は寄りかかってたかなめから少し距離を取る。

「なんで……あたしを守ったんですか?」

「まあ、恩を売っておこうかと。ってのは冗談で、何やらお取り込み中だったから私が動かないとマズイかなって、思ってね」

「あたしは、敵なんだよ?」

「本当に君が敵なら今頃みんな倒されてるよ。君が私をどう思ってるか知らないけど、少なくとも私は"人間的"に嫌いじゃないし」

 変わる前のレキよりは全然興味ある。

 彼らは兵器であろうとしてるけど、足掻いて苦悩する様は実に人間的で私の好奇心を刺激する。

 最終的には排除するつもりだけど。

「見た目通り、子供だね。私はお邪魔みたいだし……そろそろ帰ることにするよ」

 これ以上キンジの傍にいたところで進展は無さそうだし。

 そう言えば、リリヤは帰ったのか……

 私が離れないから(らち)があかないと思ったのだろう。

 隙があったら狙ってきそうだな~

 やれやれだよ。

 

 

 部屋に戻って、一息。

 少しばかり疲れたかもしれない。

 ベッドに横になって背伸びして、そのまま腕を頭の上で脱力。

 最近はホントに、キンジとの時間が少なくなった。

 キンジの傍に人が増えすぎなんだよ、全く。

 個性的だから観察してて楽しいんだけどね。

「ただいま。チャシャ猫さん」

 予想通り、アリスが戻ってきた。

 相変わらず気配なく現れるね、君。

 そして、随分と汚れてる気がするけど……臭いからして気のせいじゃないんだろうな。

「トランプ遊びでもしてきた?」

「ええ、そうよ。チャシャ猫さんは何してたの?」

「お友達とお茶会して、チェスをどう動かすか考えた」

「そうなの? 私もチェスに参加してみたいわ」

 この子が参加したらとんでもないバランスブレイカーになりそう。

 私は起き上がってアリスに面と向かい合う。

 予想通り、金色の髪は赤黒く染まってる。

 少し暗くて見えないけど、臭いからしてエプロンドレスは血だらけ。

 随分と散らかしたみたいだね。

「良いと思うけど、お友達ってたくさんいるの?」

「うん、一杯よ」

「じゃあ呼べる友達は1人までにしないとね。みんなで遊んだらすぐに終わっちゃうかもしれないし」

「そうね、そうするわ♪ トランプ遊びもいいけどたまには他の遊びも楽しまないとね」

「よし、じゃあお風呂に行こっか。たくさん遊んだみたいだし」

「ええ♪ 今日は3枚一気にやってみたりしたの」

「本当に?」

 などと、アリスがどんな事をしたのか話しながら夜は更ける。

 

 





色々と説明はしょってます。
具体的な数値出しちゃうと計算がががが……

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