緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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試験が終わってから1週間過ぎて、ようやくの投稿。
長かった。
これからまた、一週間に一度は投稿できるようにしたいと思います。



7:因果応報

 2ヶ月――キンジと私がパートナーを組んで経った月日が大体そのぐらい。

 季節は夏。

 日本は天気が良いね~。

 曇りの日が多いロンドンとは大違い。

 別にロンドンに住んでた訳じゃないけどね。

 しかし、湿気が多い気候だから肌に纏わりつくような暑さだな~。

 パトラが住んでるエジプトとは違う暑さだよ。

 とまあ、天気の話は置いておいて。

 キンジってば、いつになったらHSSを使う気になるんだろう。

 私としてはいい加減にキンジの本当の実力を見たいんだけどな~。

 私の事を信用してない訳じゃないんだろうけど、未だに本人は抵抗を感じてるみたいだし。

 無理矢理HSSにさせようとしたら今までの信頼を崩す事になるし、今までキンジを利用してきた人たちと同じになっちゃう。

 だから、あくまで本人の意志でなって貰わないといけない……

 何か……そう、HSSを使わざるを得ないような状況にすればいいんだよね。

 例えば敵に包囲されるとか、私が負傷する……は却下だね、血液って情報の塊だし。

 とにかく危機的状況になればいい。

 ただ、前提として私がキンジの傍にいないといけないんだよね。

 見たところキンジの私物の中にはHSSになれるような物は入ってないみたい。

 まあ、それもそうだよね。本人はHSSになる事を忌避してるんだし、その要因になる物なんて入ってる訳がない。

 だから、私が色仕掛け(ハニートラップ)をするしかないんだけど……

 私がキンジにパートナーになって欲しいって言う前のときみたいに迫ればいいのかな?

 シャツのボタンに左手を掛けて、右手でスカートをめくる感じに差し迫る。

 いや、理子のゲームだと上目づかいで迫ってるのが多かったから、上目づかいでキスの方が確実かな?

 それで舌は……いれるんだっけ、いれないんだっけ?

 色仕掛け方面はそんなに詳しくは無いんだよね。

 そもそも性欲という欲求は知識的に知ってはいるけども、そんな衝動に駆られた事は無いし……

 お父さんがよく恋をしなさいとか言ってるけど、そんな感情も無い。

 あ、でも「いずれ君にも恋する日が来る」って言ってたっけ?

 いずれって事は、自然に分かるってことでいいのかな? たぶん。

 とにかく、取りあえずはキンジの実力を早いとこ把握しておこう。

 お父さんと会う時には私とも戦うかもしれないからね。

「おい、霧」

「ん?」 

 どうしたのキンジ? そんな呆れたような顔をして。

「今日の授業終わったぞ」

「分かってるよ」

「なんで、教室にいるんだよ」

「もちろんキンジを待ってたからだよ」

 私が笑顔でそう言うとキンジは顔を赤くして少し顔を逸らす。

 何でかよく分からないけど、つい弄りたくなるな~。

「どうしたの? 顔を逸らして」

「いや、なんでもない……」

 その言葉が嘘なのは分かってるけど、あえて追及しないでおこう。

 それよりも重要なのはどうやって、キンジの本気を出させるかってことなんだよね。

「それじゃあ帰ろっか。それとも戦闘訓練、する?」

「そうだな……少しだけ、体を動かすか」 

「……ん。分かった」

 最近はキンジと放課後に戦闘訓練をしてる。

 と言っても私が一方的に投げ飛ばしたり、関節技を決めたりしかしてないけど。

 見てて思ったのが、キンジはこれから強くなりそうってことかな?

 HSSを自由に使いこなせれば、きっと金一よりも強くなる。

 でも、本人は金一よりも才能が無いと思ってるみたい。

 自覚が無いから、自信が無い。

 理子と同じような感じだな~。

 なんで、もっと自分に自信を持てないんだろう。

 私なんてお父さんとお姉ちゃん以外には負ける気がしないのに。

 まあ、そんな事はどうでもいいや。

 しばらく他愛も無い事をキンジと話しながら誰もいない演習場へと入る。

 武偵中学の演習場は基本的に放課後でも開いてる。

 なんでも、自主訓練のためだとか。

 基本的に武偵の設備は防弾性だからね。

 特に演習場はそこら辺しっかりしてるから、撃ちまくっても問題ない。

 って、今日は誰もいないな~。

 いつもなら演習場の中にちらほらと人はいるのに。

 ……な~んか怪しいね。

 と言うか、扉の影とかに人がいるし。

 下手な待ち伏せだな~。

 それもそうか……なんだっけ有象無象に毛が生えた程度って言うのかな?

 2、3年戦闘訓練しただけの武偵が束になったところで別に脅威じゃないんだけど。

 待てよ……これは使えるかも。

「霧、どうしたんだ?」

「ん~、なんでもないよ」

 やっぱり、キンジは気づいてないみたい。

 だったらこのまま教えないでおこう。

 多分、私とキンジが疲れてるところを狙ってくるだろうし。

「よっし、今日も遊んであげるよ」

「せめて訓練って言ってくれ……」

 私とキンジの戦闘が始まる。

 最初は体力が有り余ってるからか、キンジは積極的に攻めてきた。

 けど、私は真正面から戦うことはせずキンジの徒手格闘を軽く受け流しながら戦った。

 体力が減ってキンジが少し大ぶりな攻撃した後の隙をついて攻撃すると言った戦い方をしてみた。

 そして、5戦ほどした。

 結果は私が5戦5勝、全部関節技で決めた。

「あ~……くそう」 

「そう簡単に勝たせないよ」

「そりゃ、そうだよな……」

 キンジは悔しそうに声を上げながら床を背に天井を見上げてる。

 体力的にも限界だろうしね。

 さてと、そろそろかな?

「ほら」

「ああ、すまん」

 私が差し伸べた手をキンジが手に取り立ち上がる。

 すると――

 ダアン!

 その音を聞いた瞬間にキンジの腕を引く。

 すると、弾丸がキンジのいた場所を通過したのが見えた。

 位置的には横腹で大胸筋の下あたり。

 別に、死ぬ訳じゃないけどここでキンジに負傷して貰ったら困るんだよね。

「な、なんだ!?」

 私が突然に手を引いたのと、発砲音でキンジは二重に驚いてる。

 舞踏会の始まりってね。

 まあ、役者不足だけど。

 あれ? 役者不足の使い方あってたっけ?

 やっぱり日本語って難しい。

「大所帯だね~」 

「………………」 

 いつの間にか私とキンジが半円状に囲まれていた。

 男性が10人か。

 物影から一斉射撃すればよかったんだろうけど、さすがに死亡する可能性があるからやめたんだろうね。

 一般的観点からしてさすがに殺害するのは不味いから躊躇ったのかな?

 あと逃亡の可能性もあるから姿を現して包囲したってのもあるんだろうけど。

「な、なんなんだよお前ら……」

 キンジが動揺を隠せずに言葉を発する。

 まあ、キンジはこの状況になる覚えがあるから動揺してるって言うのもあるんだろうね。

 私もなんとな~く予想は出来てるよ。

 多分、キンジがHSSを利用されてたときの被害者じゃないかな?

「なんなんだと? テメエにボコられたのを忘れたとは言わせねえぞ」

 金髪に染めたっぽい少年が声高に叫ぶ。

 その言葉にキンジは後悔したような表情をする。

「あ~、成程ね……」

 やっぱりとばかりに私は納得したように頷く演技をする。

「……霧?」 

「アレでしょ? キンジの負の遺産と言うか、ツケと言うか……HSSの被害者」

「うっ……」

 キンジだけに聞こえる音量で話すと、キンジは図星とばかりに呻いた。

 相変わらず分かりやすい反応するね。

「その……すまん。巻き込んで」

「ん~? 別に予想できてた事だし、今更って感じなんだけどね~」

 キンジを利用してた女子連中に回りくどいやり方で襲われてたし。

 そうなるだろうと思って罠を仕掛けてたけどね。

 私の物に何か細工しようとしたらその罠が作動して返り討ちに遭う、と。 

 死にはしないけど、何度も相手するのも面倒だし楽しくないからかなり痛い目に遭ってるだろうけどね。

 ふふ……

「何を話してるのか分からねえが、今はどうでもいい。女ごと撃て!!」

 金髪少年の号令でハンドガンの一斉射撃が飛んでくる。

 さすがにアサルトライフルはないか。

 まあ、何にしても良い感じにピンチだね。

「よし、逃げよう」

「……うおあ!?」

 発砲される瞬間、私はキンジの手を引いてすぐに逃走する。

 別にあの状況でも私は真正面から10人全員を倒す事は出来るんだけど、キンジの実力を確認するためにはこの状況を利用しない手は無いね。

 いくつか弾丸が背後から体の傍を通過して行くのが見える。

 射撃訓練してるんだろうけど、動く標的に撃つという経験はあんまりなさそう。

 その命中率の悪さのおかげで私とキンジはそのまま走って演習場の用具室へと逃げ込めた。

 そして、扉の影に隠れる。

 いくつか弾丸が扉に当たる音がするけど、すぐに発砲音が止んだ。

 無駄(だま)は撃ってこないか……

「ピンチだね~」

 キンジにとってはだけど……

 私はこの状況なら上手く誘導すればキンジがHSSになるんじゃないかなと、考えながらキンジの方を見ると本人は申し訳なさそうに此方を見てる。

「どうしたの?」

「……すまん」

 突然、キンジが再び謝罪する。 

「俺のせいでこんな事になっちまってさ……」

「そうだね~。因果応報って言うのかな?」

「…………」

「でも、キンジは利用されてただけで仕方ないって言う風に納得できるんじゃないかなとは思うんだけどね」 

 別に自分の意志でやった訳でもないし、ある意味キンジも被害者って感じに捕らえられる。

 まあ、私にとって被害者がどうとか善悪がどうとかは欠片(かけら)も興味は無いけどね。

「取りあえずはどうしようかな? 10対2……数的にはこっちの5倍な訳なんだけど……まあ、何となりそうかな?」

「何か策があるのか?」

「例えば……うん、私が捕虜になるとか」

 よく理子と一緒に見てた映画やアニメとかでよくある感じ。

 自分はどうなっても良いからコイツだけは……みたいな。

 私の場合は実際にそう言う場面によく立ち会うけど。

「なっ!? なんでそうなるんだよ!!」

「え? だって、謝罪したって向こうは許してくれなさそうだし……二人一緒にやられるよりは大分マシだと思うけど」

 キンジは私の提案に対して不満っぽい。

 そもそもキンジなら納得しないだろうと思って提案したんだけどね。

「だからって、俺の事情にお前を巻き込むのとは違うだろっ! 元々は俺が原因なんだぞ」

「そうだね~。だけど、私はキンジのパートナーだし、キンジの事情や周囲の状況を分かった上でパートナーを続けていこうと思ってたから別に問題は無いよ」

「お、お前は……」

 キンジはどうしてと言った感じの顔をしながら、言葉を止める。

 さてと、向こうもそろそろ何か対策をしたり突入の作戦を立てたりしてるだろうし、そろそろ決めて貰わないとね。

「ねえ、キンジは私が犠牲になるのは嫌かな?」

「……当たり、前だろうが」

「それじゃあ、もう一つ方法があるんだけどね。聞いてみる?」

「…………」

 静かにキンジが頷いたのを見て、私は少し申し訳ない感じに言ってみる。 

「……HSS」

「――っ!?」

「あんまり言いたくはなかったんだよね。キンジにとってはあんまり良い思い出はなさそうだし」

 私はこれまでキンジとの会話にHSSの話題を出すことをあまりしなかった。

 だって、キンジが忌避してる事を色々と聞こうとしたら「ああ、コイツも結局は他の女子と一緒だったのか」とかそんな感じで不信感が積もりそうだったし。

「でも、現状を打破するにはこれしかないんだよね……さすがの私でも5対1とかは厳しいし、特にキンジは恨まれてるだろうからすぐに潰されちゃうだろうからね」

 実は言うと他にも方法はあるけど一つしかないように言ってみる。

 でも、こう言った事を断ち切ろうと思えば圧倒的な格差を見せつけないと多分何度も来るだろうし、一番良い方法ではあるのかな?

「…………っ」

 未だに踏み出せずにいるのか、キンジは顔を歪ませる。

 もうひと押しかな?

 私はキンジの傍に来て、静かに隣に座る。

「ねえ、キンジ。無理になって欲しいとは言わないよ? 前にも言ったかもしれないけどキンジに無理強いはしたくない」

 いつもの暢気な感じじゃなくて、少し真剣な表情をして言ってみる。

 だけど声音は優しく、安心させるようにして囁く。

「霧……」

「こんな状況になったのはキンジの所為(せい)じゃない。キンジを利用した人たちが悪いんだよ。だから、気にしたらダメだよ」

 最後に私はそう言った後に立ち上がり、扉の方へと歩こうとする。

 だけどキンジはすぐに私の腕を掴む。

 その瞬間に、私はキンジに見えない角度で少しにやけた。

 ――ちょろいね。

 すぐに表情を戻して、どうしたの、とばかりにキンジの方を向く。

「……キンジ?」

「俺は最低なパートナーだよ。今まで霧は俺に協力したり、助けてくれったって言うのに俺は何もしてない。だけどな……」

 立ち上がり意を決したようにキンジは顔を上げる。

「パートナーを犠牲にして、自分だけが助かるなんて言う最低な結果にだけはしたくないんだよ!」

「そっか……」      

 私はそれ以上何も言わずにキンジに向き合う。

 さてと、キスなんて初めてだな~。

 今まで成り代わった人たちの中でもそんな行為をした事は無かったし。

「…………………」

「…………………」  

 向き合う形で私は待ってるんだけど、キンジが迫ってこない。

「キンジ?」

「いや……すまん。いざやろうと思っても、なんと言うかだな」 

 もう、じれったいな。

「私こう言うの初めてなんだから、勝手が分からないんだけどね」 

「え? ちょ、ちょっと待て」

 キンジの顔を両手で挟んで引き寄せる。 

「なに焦ってるの。別にキスぐらいどうってこはないよね?」

「お、おい。何でキス前提の話なんだよ!」 

「何でって性的興奮に手っ取り早い方法だからね。こっちの方が確実だし……」 

「いやいやいや……それに、お前初めてって!?」

「うん、いわゆるファーストキスだよ? 何か問題でもあるのかな?」

「あるに決まってるだろ!」 

 悪いけど敵は待ってくれないんだよね。

 と言う訳で――

「ごめんね、キンジ」

「――――っ!!」

 拒む事もせずにキンジと私の距離が縮まる。

 そして、少し背伸びをすると唇の感触がする。

 キンジは眼を見開いてるし、顔が赤くなってる。

 不思議な感じはするけど、やっぱり私にはよく分からないな。

「……んっ」

 少し息苦しいからか私の声が漏れる。

 と同時にキンジの心臓の鼓動が速くなるのが聞こえる。

 その瞬間――

 カランコロン。

 フラッシュ・バンが投げ込まれ閃光が弾けた。

 

 ◆       ◆       ◆ 

 

 なってしまった。

 ヒステリアモードに、自分が忌避してた能力に。

 だけど、今回は"利用される"ために使うのではなく"守るため"に使う。

 パートナーを守るために。

 と言うか霧に対してはかなり借りがあるんだよな。

 ちゃらにするのにどれだけかかる事やら。

 まあ、それよりも今は現状を打破するのが先だな。

 さっきのフラッシュ・バンが投げ込まれた瞬間に俺と霧は耳を塞ぎ、目を閉じた。

 そして、既にヒステリアモードになっていた俺は空間把握能力も向上したために目を閉じたまま霧を連れて、物陰に隠れた。

 と同時に先程の男子生徒が5人ほど突入してきた。

「おい、遠山はいたか?」

「いや……」

 さて、どうしようかと思い少し目を開ける。

 瞼の上からとはいえ光を浴びたせいか少し見えにくい。

 そして、若干の耳鳴り。

 トントン。

 すると、霧が肩を叩く。

 なんだと思いそちらを見るが、霧は再び肩をトントンと一定のリズムで叩く。

 ……これは、和文モールス。

 ヒステリアモードの俺の頭はすぐにその和文モールスを解読する。   

 "オトリ ナル トビラ テキ タオシテ"

 つまり、霧が囮になってる間に今突入してきた奴らを倒せってことか。    

 フラッシュ・バンの効果が残ってる今なら油断を誘えるだろう。

 お返しに俺も和文モールスで返す。

 "シンジテルヨ オヒメサマ"

 それを合図に霧は移動を開始した。

 どうやらヒステリアモードの俺が閃光の影になるように霧をかばった事で、霧は視界の方は見えているらしい。

 俺は音を立てないように扉の傍に立っている男子生徒の近くの障害物に身を潜める。

「おい、あそこにいるのは白野じゃないか?」

「どうやら、フラッシュ・バンを喰らいながらも手探りで逃げたんだろ」

 上手いこと注意が逸れたな。

 と、同時に段ボールが載せられた台車を発見した。

 どうやら、段ボールの中身は無造作に入れられた銃のジャンクパーツっぽい。 

 ……適当だな、おい。

 もうちょっとちゃんと管理しろよ。

 だが、これは使える。

 その台車の傍に隠れながら素早く近づき、後ろへと回り込み重さを確認する。

 これなら充分に動くな。

 と同時に二人が霧へと近づいて行く。

 よし、もう少し。

 …………。

 今だ!

 俺は思い切り、台車を蹴り押した。

 ヒステリアモードにより身体能力が向上している俺の蹴りにより結構な速さで直線状にいる二人に迫る。

「うわあ!!」

「ぐあっ!?」

 そして、ボウリングのピンのようにして巻き込んだ。

「な!? そこか遠山!!」

 当然、位置はバレるが俺の方ばかり向いてもダメだぞ。

 バンッ!

「ぐはっ!」

 弾丸が当たったのか、呻いて前のめりに倒れ込む。

 霧の方から発砲音が聞こえて見てみると、GLOCK18Cを握りながら舌を出している。

 お前、随分と危険な銃を持ってるんだな。

 と言うかよく銃検(銃検査登録制度)通ったな。

 あれはフルオート射撃が出来るハンドガン、と言うかマシンピストルだからな。

 命中率は悪いが火力はヤバい。

 セミオートでも十分使える代物だ。

 そして先程の台車に巻き込まれた二人が立ち上がろうとした瞬間を狙って、俺もベレッタを抜いて撃つ。

 これで3人を無力化した。

「ちっ、退くぞ。狭い中じゃ駄目だ」

 残った二人のどちらかが言うと二人は扉へ出てすぐに脇に逸れた。

「残り7人か……」 

「そうだね。だけど、霧。これは元々俺が招いたこと……それにその綺麗な指に怪我をさせたくはない。だから、ここで待っていてくれないか?」

 ああ、以前にも思ったが何で俺はこんな恥ずかしい事を平然と言ってるんだ。

 さすがはヒステリアモード、女性に対しては従順な騎士になることに定評がある。

 そして、霧は俺の発言にキョトンとしている。

 彼女はどうやら知識的にはヒステリアモードがどう言ったものかを知ってるみたいだが、さすがに実例を見た事は無いだろう。

「お~……キザだね。なるほど、そう言う感じになるのか」

 おかしいな。

 今までの女子なら、俺が何かを言う(たび)に女子は顔を赤くして顔を逸らしたりするんだが霧には全くそんな兆候は無い。

 それどころか何か納得してる。

「まあ、取りあえずはキンジの案は却下だね。せっかくの本気なんだからパートナーとして把握しておかないとね」

「仕方ないね。確かに一理あるよ。だけど、あまり君を危険に晒したくはない」

「なら、ちゃんと守ってくれるよね?」

「もちろんだよ。お姫様の我が(まま)を聞きながらも守るのが騎士(ナイト)の役目だからね」

 などと、言うと霧は小さく笑い。

「じゃあ、踊りに行こうか」

「仰せのままに」

 霧と共に扉の外へと歩み出す。

 すると、7人が銃を構えて待ち構えていた。

「まさかお前らから出向いてくるなんてな」

「もう、逃げる必要も無いからね~」

 霧が挑発するようにして返す。

 その瞬間に相手全員が少し、不愉快な顔になる。

「舐めやがって! 構わねえ、撃て!!」

 金髪少年の号令により一斉にマズルフラッシュがする。

 今なら"アレ"が出来るか。

 そう考えた瞬間、すぐにベレッタを構えて射撃。

 俺に当たりそうな銃弾だけを弾く。

 つまりは『銃弾弾き(ビリヤード)』だ。

 対して霧は走りながら、照準を安定させないようにして右に左にと方向を変えながら回避している。

 さすがAランクだ。

 銃口に臆することなく、冷静に射線を見極めながら紙一重でかわしている。

「な、なんで当たらねえ。まさか、銃弾を弾いてやがるのか?」

「さてね。女性以外に種明かしをするつもりはないよ」

 金髪少年に言葉を返し、銃弾を弾きながらも弾が切れてリロードしている時には回避している。

「キンジ、フルオート行くよ」

 そう言って、ロングマガジンに差し替えた霧からバラッ! バラララッ!!と言う音と共に多数の銃弾が男子生徒達に向かって行く。

 さすがは"ロー・エンフォースメント・オンリー"(法務執行者、公的機関以外は運用禁止)に指定されてるだけの事はある。

 一瞬だけだが火力を押し返した。

「ぐおおおっ!!」

 その内の一人が回避できずに9mmパラベラムの弾丸の雨をモロに胴体に受けた。

 アレは痛そうだ。

 取りあえず、これで6人。

 一気に片を付ける。

 霧が火力を押し返したおかげで、一瞬だが発砲が止んだ。

 その隙に全員に牽制として1発ずつ発砲しながら距離を詰める。

「ちっ、近づいてきたか」

 一人の男子生徒が素早くナイフ戦闘に切り替える。

「あの女の足止めを3人でしろ!」

「白野がいないぞ!」

「なに!?」

 金髪少年が指示を飛ばすが、返ってきた答えに驚愕しているようだ。

 さすがに俺一人で6人を一気に片付けるのはヒステリアモードとは言え無理だからな。

「こんにちは、そしておやすみってね」

 男子生徒の一人の背後に現れた霧は回し蹴りを炸裂させた。

 そして、銃を構えようとしている男子生徒に対してそれよりも早く発砲。

 これで二人倒した。残りは4人だ。   

 俺が牽制として6人に1発ずつ牽制を入れたのは霧から俺に注意を変えるため。

 その隙に霧はワイヤーを天井に撃ち込んで空中へと飛び、彼らの背後に回ったと言う訳だ。

 全く、さっきのフルオート射撃の発砲音で"和文モールス"にするなんてよく考え付くな。

 ヒステリアモードでも気づくのが危うかったぞ。

 しかもただ単に"ケンセイ"としか言わなかったからな。

「どうなってやがんだよ!!」

「彼女が美しいのは分かるが、見とれてばかりはダメだよ」

「なっ!?」

 霧の方に今度は注意が行ったために俺は充分に距離を詰められた。

 成程、いくら人数が多くても一人にばかり注意が向けば不意を突けるのか。

 霧の奴、やっぱり戦闘が上手いな。

 咄嗟に男子生徒は反応したが既に俺は発砲しており、すぐに腹に弾丸を受けて倒れた。

 残り3人。

「ちくしょう! 化け物かこいつらは!!」

 金髪が焦っているが、ペースは完全にこっちのモノだ。

「ぐあっ!!」

「がっ!!」

 俺は以前、霧がやっていた掌底で顎を打ち抜き。 

 霧はもう一人の顎先を蹴った。

 これにより二人が同時に脳震盪で倒れる。

「な、なんでなんだよ!!」 

 金髪はこの結果に驚愕しているようだ。

 まあ、それもそうだろうな。

 数だけで言えば5倍の戦力を引っ繰り返された訳だから、ありえないって言いたくなるだろう。 

「さて、残るは君一人だけどどうする?」

 あんまり逆撫でしないように降参を促す。

「うるせえ! 女の奴隷がっ!!」

「まあ、それは否定しないよ」

 ヒステリアモード時の俺はまさにそれだからな。

 実際に手を出したのも俺で、この状況を招いたのも俺自身だ。

 ただ、言い訳させてもらうと俺の意志じゃない。

「大体、テメエは殴られてしかるべきじゃねえのかよ!? 謝罪も無しにのうのうと過ごしやがってよお!!」

「確かに手を出した事については謝るよ。だけど、彼女を巻き込むのは筋違いじゃないかな?」

 と、俺は霧の方を見る。

 今回の件に関しては自業自得だが、霧は関係ない。

 俺一人が殴られるのならまだ納得できたかもしれないが、さすがにパートナーまでは傷つけたくない。  

「はっ!! どうせ、その女も他の奴と同じに決まってる! お前に近づいて、独占した上で奴隷にしようって考えてるかもしれないんだぜ?」

 そう言われて霧は少し眉をひそめ、

「他の人たちと一緒にしないで欲しいな。私はただキンジが気に入って、パートナーになっただけだからね」

 と不機嫌そうな声音で言う。

 はは、そうだね。ヒステリアモードになるのを恐れて、忌避しようとした自分が恥ずかしいよ。

「と言う訳だ。それに、女性の嘘をいちいち気にしていたらいけないからね」

「クソが!! 最後まで王子様気取りか!! 死ねやあああ!」

 相手はFN ファイブセブンを乱射してくる。

 アレはアサルトライフルにも迫る速度で弾丸を打ち出すことが出来るハンドガンだ。

 ある程度離れててもケブラ―ヘルメットを貫通するほどの威力がある。 

 防弾制服を着てるとは言え、当たればただでは済まないだろう。

 だけど、相手は冷静さを欠いてる上に照準も定まっていない。

 したがって自分に当たる分だけを銃弾弾き(ビリヤード)で弾けばいい。

 たとえ装弾数が向こうが多いとはいっても充分に対処できる。

 そう考えながら俺は発砲する。

 ガキン! ガキン!

 と金髪と、俺との間でいくつか銃弾が当たる音がする。

「はい、お疲れさん」

 金髪が弾をリロードしようとしている時に、霧が背後に回り手刀をいれる。

 そのまま男は気絶したのか、ばたりと倒れた。

 背後に回るのが上手いね。

 ヒステリアモードなのに隣から消えていた事に気づかなかったよ。

「終わりかな?」

「そうだね。さすがだよ霧。だけど、君の手を煩わせて済まないね。お詫びに今日は君の言う事を一つだけ聞いてあげるよ」

「いいのかな? そんなこと言っちゃって」 

 近づいて此方の顔を覗き込むように霧は微笑む。

 それから少し考える素振りをして「うーん」と唸っている。

「保留でいいかな? 今、キンジにして貰いたい事ってあまりないし」

「ああ、もちろんだよ」

「じゃあ、取りあえずは――」

 そう言って、彼女は近づき――

「眼を覚まして、ねっ!!」

 思いっきり俺の顎を拳で打ち抜いたのだった。

 そして、意識は途切れた。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 アレがキンジのHSSか……今のところ金一には劣ってる感じかな?

 まあ、これからに期待だね。やっぱり。

 しかし、HSSの解除方法がイマイチ分かりにくいんだよね。

 今のところ時間経過で血流が鎮静化するのを待つか、鎮静剤の(たぐい)を注入するか……気絶させるか。

 それぐらいしか分かんない。

 だからまあ、元に戻らせるために気絶させるしかなかった訳だけど。

 キンジは私の背中で気絶中。

 一応は、私の拠点に向かってる途中かな?

 さすがに気絶したまま電車に乗ってキンジの実家に行くと目立つ。

 道中でさっきの人たちみたいに襲われるとも限らないし。

 一先ずは私の仮住まいに避難する。

 学校に割と近いしね。

 アパートの階段を上り、私の部屋の扉を開ける。

 とりあえずはただいまっと。

 キンジはまだ起きる気配はないから、上手く靴を脱がしてソファーに寝かせる。

 う~んと、どうしようかな。

 何か、キンジを見てると少しだけ変な気分になるな~。

 そう……キスしたんだよね。

 特に、何かを思う訳じゃないんだけど変な感覚だったな……

 キンジは寝てるし、もう一回やってみれば何か分かるかもね。

 と言う訳でソファーに乗り、キンジに覆いかぶさる形で顔を覗き込む。

 そして、胸をくっつけて顔を段々と近づけて行く。

 あんまり勢いよくやると、歯とかぶつかりそうだし。

 あと、もう少し――

 と思った瞬間、キンジの目がパチリと開いた。

「なんだ、起きたんだ」

「……霧? ――え?」

 キンジは変な声を上げながら、私を見てる。

 さすがに近くて違和感を覚えてるんだろうね。

「――っ!?」

 そして、今の状況を理解したのかなぜか顔を赤くしてる。

 確かめられなくて残念だけど、ここは退いておこう。

 キンジと密着させてた体を離してちゃんとソファーに座る。

「もう少し目覚めないかと思ってたけど、案外早かったね」 

「あ、ああ……ここは?」

 体を起してキョロキョロとキンジは辺りを見まわす。 

 保健室ではないからね。

 ソファーで寝てた事にも違和感も覚えるよ。

「私の家って言うか……部屋かな?」

 仮の、がつきそうだけどね。 

「……お前、一人で暮らしてたのか?」

 会話をして現状把握しようとするけど、キンジはさっきから恥ずかしいのか視線を此方の方に合わせない。 

 何を恥ずかしがる必要があるのか、私にはイマイチ理解できない部分だけど。

「まあね。色々と事情があるってことだよ」

 取りあえず曖昧な答えではぐらかしておく。

 理由とかは一応用意してあるから聞かれても問題ないけど。

「で、キンジがここにいるのは私が単純にココまで運んだから。さすがに気絶したまま実家に送り届けるのもどうかって思ったし、倒した人たちが目覚めて襲われるかもしれなかった

から学校に近い私の家に来たってこと。分かった?」

 説明としてはこんなところかな。

「今のところは……」

「よかった。それといきなり気絶させてゴメンね。HSSの解除法が分からなくて」

 HSSと言うキーワードでキンジの心臓が脈打ったのが聞こえる。

 あれ? 何か動揺する事あったっけ? 

「い、いや……それより悪かったな! さすがに、これ以上世話になったら悪いから、すぐに帰るよ」 

「そう? 気をつけて帰ってね。駅は大きな通りに出たら分かるはずだから」

 急にキンジが慌てたようにしてバタバタと慌てだす。

 口調も変に詰まって、しどろもどろって言うのかな?

「ああ、ありがとな霧! それじゃあ!」

 荷物を持ち、ドアを慌てて開けて逃げるようにしてキンジは去って行った。

 バタン!

 キス一つで、そんなに大袈裟な事だね。

 私の感覚からしたら理解できないな……

 でも……あのキスした感覚は変な感じだったけど、なんだろう……表現しにくいね。

 取りあえず、楽しいとか楽しくないとかは違う感じなんだよね。

 まあ、今すぐ分かる必要も無いから別に問題ないか。

 もうすぐ、夏休み……お父さん曰く「そろそろ、次のステップに行くよ」って言ってた。

 

 ――楽しみだね。

 

 




ベレッタ M92F(マットシルバーカラー)……キンジのパートナー銃。今の時点で文さんがいないので、フルオートおよび3点バーストの機能は無し。バリエーションが豊富で、軍用に使われるほどに信頼性の高い銃。
GLOCK 18C……フルオート射撃が出来るハンドガン。分類的にはマシンピストル。法務執行公務機関でなければ運用を禁止している。つまりは一般人には売られてない。武偵は逮捕権があるために一応は許可されてる。
FN ファイブセブン……FN社が開発した銃。弾丸はライフル弾のように先端がとがっている。そのため初速が速く、アサルトライフルにも迫る速度で飛ぶ。200m先のケブラーヘルメットも貫通するらしい。

戦闘描写って難しい。
あと、戦闘を書くとどうしても長くなる。
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