緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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時間掛かった……
最近、wifiが突然に切れる上におまけに変なエラー吐くし。
windows10によくあるエラーらしいが調べても分からん。

それは置いておいて

注意事項

・犯罪計画
・本領発揮


75:呉越同舟

 ガンガン! ギンッ!

 運転席の方から金属音が聞こえたと思ってそちらを見れば、悲鳴を上げて乗客がこちらへと逃げて行く。

 俺達を押しのけて後方の車両へと人が消えていき、見やすくなった先には――

「きひっ」

 運転席の内側のドアを切り裂いて出てきたであろうココが、悪い笑みを浮かべて肩に刀を担ぎながら出てきた。

 それからこちらを威嚇するように座席を切り裂きながら、片手をこちらに突き出し、指先を上に向けてクイクイと挑発の手招きをする。

「さあ、任务(ビジネス)の時間ネ。この列車、お前たちの棺桶(かんおけ)になるヨ」

 言いながら構えたあの刃が幅広い刀は……青龍刀。

 中国の映画とかではよく出る刀剣では有名な武器だ。

 あれは、日本の刀とは違う純粋に鋭さで斬る物ではなく重さで叩き切る代物だ。

「ココはデートの約束があるヨ。10分だけ遊んでやるネ」

 そう言うココの背後の方で運転席にいるのは若い女性の運転手が半べそになって運転してる……運転席の助手席部分には誰もいない。

 どうやらココは、運転助手を追い出してあそこに居座ってたらしいな。

 理子は、少しだけ裏理子になって威圧的な言葉を投げ掛ける。

「どう言うつもりだ、ツァオ・ツァオ? こんな列車をハイジャックして何のつもりだ?」

「峰 理子。何であの席に座ってないネ? おかげで目論見が外れたヨ」

 それに対してやれやれと言った感じに頭を抱えたココは、どうやら理子を無力化するつもりだったらしいな。

 おそらくだが……新幹線の予約情報でも調べて理子が座る予定だったあの席にスイッチを仕掛けたんだろう。

 しかし、理子はあの席に座らずに代わりに霧が引っ掛かった。

 と、理由はこんな所か。

 どっちにしても1人は完全に無力化された訳だ。

「言ったとおり、商売(ビジネス)に決まってるネ。これからの乱世を生き残る戦いは既に始まてるヨ」

 乱世――レキや俺を襲撃した時にも言っていた。

 そのままココは、武器を軽く下ろした。

「もっとも……お前達とは戦いたくないネ。キンチ、理子……ジャックのお気に入りに手を出せば、皆知らない内に消えるヨ」

 などと、物騒な事を言う。

 毎度思うが、何で天下の殺人鬼様が俺をお気に入りリストに入れてるのかよく分からん。

 理子の時とシャーロックの時以外に接点なんてあまり無い(はず)なのに、何でなんですかねえ?

「だから、取引するネ。お前達がこのまま何もしないのであれば、爆弾は解除しなくても加速するのは無しにしてやる。それで終点の東京で晴れて自由ヨ。ココは日本政府に要求した身代金を貰って帰るだけネ」

「悪くない取引だね……。別に呑んじゃってもいいんじゃない?」

 おい理子! 何、早くも鞍替えしてるんだよ?!

 別にその時は良くてもあとで風評被害とか、蘭豹の折檻とか、色々と面倒なことになるに決まってるだろ!?

「さすがに無実の人達を巻き込めないからね。全員死ぬよりはよっぽど良い」

 確かにその言い分は一理あるかもしれない。

 だけどな――

「だからって言って犯人の要求を飲む訳には行かないわ!」

 アリアなら、当然そう言うよな。

 背中から日本刀を2本、抜刀して片方をココに向ける。

「それと初対面の時にココと名乗っておいて、偽名とはね! ツァオ・ツァオ――!」

「それ欧州人の間違った呼び方ネ! イ・ウーではシャーロック様がそう呼んでたからそのまま皆にも呼ばせてただけヨ。(ウオ)曹操(ココ)、三国乱世を生き残りし曹魏(そうぎ)の姫ネ!」

 三国乱世、曹魏……つまり、ココというのは――曹操(そうそう)のことか?

 これで俺は合点がいった。

 理子がホームズをオルメスと言ったように、言語によって名前の呼び方が違う。

 ジャンヌが俺の電話でココと言った時にピンと来なかったのがその証拠だ。

 日本語だと曹操(そうそう)だしな。

 (まった)く……グローバルな戦いになると名前から苦労するぜ。

 それだけじゃない。

「どうやらお前のプライドの高さを利用されたみたいだな、アリア」

「いきなり話し掛けて何よ」

 どうやら、未だに今までの事を根に持ってるらしい。

 アリアは俺に顔を向けてこない。

「お前、理子に拳銃戦(アル=カタ)で戦った相手の特徴を詳しく話さなかっただろ?」

「うぐ……」

 俺の一言に、図星の声。

 やはりな……

 俺が霧に下級生に負けた『下負け』を言わなかったように(すぐにバレたけど)、アリアは『下分け』――つまりは引き分けた事を隠したんだ。

 プライドの高いアリアは、自分より年下のココと引き分けた何て事は言いたくなかっただろうし、知られたくはなかった。

 中国で有名な兵法書『孫子』の言葉に――彼を知り己を知れば百戦(あや)うからず、という言葉があったな。

 つまりは敵と味方を把握していれば負ける事はないということだ。

 世界史で習ったが曹操はその孫子を研究・編纂(へんさん)した人物。

 文字通り、俺達という敵についてココはよく知っていた。

 俺とレキを襲撃した時にも通信手段を破壊し、自分の情報をすぐには伝達できないようにした。

 その結果、この状況に陥っている。

自信過剰(じしんかじょう)な人間ほど御しやすい者はいないネ。忿速(ふんそく)は侮られるヨ。きひっ、まあココ達の手の上で猿みたいに踊ってた連中なんて敵じゃないネ」

 意地の悪い笑みを浮かべ、明らかに下に見てるココ。

 ムカつくが、実際に踊らされてたのは事実だ。

 その前に隣でプチンと言う音が聞こえた気がする。

「手の上で踊ってたんなら、その手ごと風穴ぶち抜いてあげるわッ」

 言ってることが脳筋そのものだぞ、アリア。

 って言うか、お前……ココの言うことも一理あるぞ。

「そんなんだからハメられるんだよね……」

 霧は呆れてそんな風に呟いた。

「ちょっと、霧! どっちの味方よ!」

「正しいと思った方の味方」

 アリアには申し訳ないが霧の言うことに俺は内心、同意する。

 敵でも言ってることは正しいんだよな。

「きひっ、人望もないと見えるネ。将としては三流……けど、色金を持てる人間はそれだけで価値があるヨ」

 ココは言いながら、再び剣を構え直した。

来来(ライライ)、シャーロック4世ッ」

 再び剣を握っていない手を動かして掛かって来いとばかりに挑発してくる。

 その時に、びええええんと言う子供の泣き声。

 俺達の後方から聞こえるそれに振り返れば、この16号車の中央付近で妊婦さんとそれに付いている子供達がいる。

 どうやら一般客が取り残されているようだ。

 他にはいない。

 だが、妊婦さんの様子はおかしい。

 苦しそうに脂汗を掻きながら膨れたお腹を抑えている。

 どうやらパニックのストレスで体調が悪くなったようだ。

 アリアもそれを把握したのか、

「――白雪! 彼女達を救出(セーブ)して!」

 指示をしながらココに向かっていく。

 そのココとアリアの間の座席の脇から白雪が飛び出し、手を組んだ。

 アリアはそのまま白雪の組んだ手を足場に斜めに飛び上がり、座席を飛び石のように渡り、ココに向かっていく。

 さっきパニックになった客達で見えなかったが、白雪は彼らに押し寄せられて座席に突き飛ばされていて、それからココが出てきたのを聞いて身を潜めていたみたいだな。

 それからアリアと入れ替わるように白雪はこちらに向かってくる。

「キンちゃん!」

「白雪、さっきアリアの指示通り理子と一緒にあの子達を頼む」

「う、うん。分かったよ。あの、キンちゃん……気を付けてね。あの子、普通じゃない気がするの」

 俺はバタフライ・ナイフを出しながら――

「普通じゃないのはいつもの事だ。だから、普通だ」

 自分に言い聞かせるように、そう答える。

 そのままココはアリアに任せ、白雪達を護衛しながら15号車へと行き、無事に送ったところで再び俺は16号車にとんぼ返りする。

 あいつらを残してはいけないからな。

 

 ◆       ◆       ◆  

 

 やれやれ……強制観客状態とはね。

 微妙に見えそうで見えない神崎とココの剣戟(けんげき)を見ながら、私はゆったりする。

 と、くつろいでるとすぐに白雪達を護衛したキンジが戻ってきた。

「お前、こんな時に余裕そうだな……」

 キンジは私を見るなり呆れる。

 いや、余裕も何も――

「何も出来ないからね。だったら私のすることは信じるだけだよ。だから、キンジ……助けてよね?」

 私がそう言うと、キンジは少し顔を赤くする。

 だけどすぐに真剣な顔をして、

「見捨てる訳無いだろ。もし無事に帰れたらいくつか貸しをチャラにしてくれ」

 そう言ってすぐにナイフを構えて神崎の方へと行った。

 死亡フラグに聞こえるけど、そうじゃないんだよね……キンジの場合。

 私は今回、囚われのお姫様状態か。不満はないけど。

 私の今まで満たされなかった欲求がキンジと一緒にいる事で満たされてる気はする。

 あと、やっぱり神崎にキンジはもったいない。

 あんな面白い人間を縛り付けるなんて、本当にもったいない行為だよ。

 だから早いとこ、私との貸し借りも無しに欲しいんだよね。

 最初に出会って、関係を続けていく建前としてそう言う風にしたのは私だけど。

 今となってはもう、そんなのはどうでも良い。

 縛られず、ただ傍にいれるだけの関係――それで私は満たされる気がする。

 以前に金一を空き地島で白野 霧として生きて行くのも悪くないかなーって言ったけど、本気で考えようかな?

 お姉ちゃんとの約束を果たしてからの話になるかもしれないけど。

 そう考えたら、神崎は邪魔だよね。

 お姉ちゃん的にも、私的にも。

 うーん、でも……キンジと神崎はお互いに結構意識しちゃってる。

 下手に引き剥がそうとすればキンジが抵抗したりとか、取り返しそうだし。

 悲しんでる顔も良いんだけど、あんまり話さなくなられてもそれはそれで私が困る。

 やっぱり……神崎がいなくなるのはマズいかな?

 そこまで考えたところで、あるシナリオが浮かび上がった。

 ……あ、そうだ。

 

 私が"神崎"になれば良いんだ。

 

 ◆       ◆       ◆  

 

 霧にカッコつけて前に出たはいいが……

 ココとアリアは互いの刀剣を交じ合わせ、鍔競(つばせ)り合いになっている。

 身長も髪型も似た2人はゲームの1P・2Pカラーのキャラクターのようだ。

 その2人が激しく入れ替わり、剣を交える。

 目を離せばすぐにどっちがどっちか一瞬、分からなくなりそうだ。

「きひっ」

 少し距離を取ったところでココが座席の一部を叩き切り、それを回し蹴りしてアリアへと飛ばす。

「ぐっ!?」

 驚きながらもアリアはそれを防御する。

 いや、待て――

「アリア! 次が来るぞ!」

 僅か(わず)に見えた光景に俺がアリアに警告する。

 アリアが声と共にすぐさましゃがんだところで俺も座席の方へと避ける。

 さっきの刀剣が俺の顔の横を風を切って通り抜けた。

 武器を手放すのに躊躇いがないッ!

 つまり、ココはまだ何か隠し持ってる。

 瞬間的に俺と同じことを思ったのか、アリアはすぐさまココの方へと駆け出した。

 だが既にココはその手に何かを握っている。

 あれは……香水の容器(アトマイザー)?

「――爆泡珠(バオパオチュウ)!」

 そのまま目の前の空間に何かを吹き掛ける。

 分かりにくいが、車内の光で少しだけ小さなシャボン玉のような物が見えた。

 アリアは危険だと思ったのか、すぐさまココに向かうのを止めた。

「アリア、そいつは"気体爆弾"だ! よけろ!」

 15号車から戻ってきた理子がそう背後から叫ぶ。

 すぐさまアリアはココから背を向けずに後退しようとするが、

 

 ――バチッッッッ!!

 

 シャボン玉が弾けて、激しい閃光と衝撃がこっちにも伝わる。

「きゃうッ!」

 少し、悲鳴を上げたアリアだがすぐさまバックステップして、そのままバク転しながらこっちに戻ってくる。

 あんな小さいヤツでこれ程の衝撃……ッ。

 俺達の傍に戻ってきたアリアは少なからずダメージがあるのが見て取れる。

「これで、和了(ホーラ)ネ!」

 言いながらココはバタバタと袖を振って、中から双節棍(ヌンチャク)――いや、小型ロケットのようなものを2本と小さい布の玉を取り出した。

 その布の玉を投げた瞬間に、閃光が弾ける。

 これは――理子が使用した音の出ない閃光弾(フラッシュ・グレネード)ッ!

 それから光の向こう側からさっきの小型ロケットが飛んでくる。

 そのまま俺とアリアの周りをグルグルと回り始め、ロープのようなものが巻きついてくる。

「な、なに!?」

「なんだ……これは?!」

 光のせいで俺もアリアも困惑する。

 閃光から視界が少し回復すれば、いつの間にか拘束されてるぞ?!

 お互いに密着して、立っている状態だ。

「きゃッ?!」

「うお!?」

 アリアが何かに足を滑らせたのか、そのまま俺も引っ張られて倒れる。

 その衝撃で俺は武器であるナイフを手放してしまった。しかも、アリアもだ。

 お、おい……一気にピンチだぞ!?

 よく見れば足にも巻きついていて、た、立てねえ……

 俺のナイフは座席の下に滑り込んでしまったからロープを切る事も出来ない。

 アリアの日本刀は……ダメだ、2本ともこの列車の窓側に行っちまってる。

 だったら――

「り、理子! 頼む、早く助けてくれ!」

 理子に頼むしかない。

 俺はすぐさま理子に助けを求めるが、理子は複雑に顔を歪めている。

 どうするべきか、何故か迷ってるぞ。

「峰 理子。お互いに建設的な商談をするネ。お前の後ろにジャックがいる以上、(ウオ)は手出ししたくないヨ。そして、(ウオ)達――藍幇(ランパン)を敵に回すのも良くないネ」

 と、ココは理子に取引を持ち掛けてるぞ。

 そしてココが言う藍幇(ランパン)――それが、どうやらあいつらが所属してる組織らしいな。

「そうだねー。理子としても、同じ元イ・ウーの同期だし……あんまり争いたくはないな~」

「話が分かるヤツはいい商談相手ネ。どうカ? 今なら藍幇(ランパン)に招待するある」

 理子はクスリと笑いながら、

「それは無理かな~」

 普通に断った。

「まあ、無理強いはしないヨ。正直、味方でも安心はできないネ」

 どうやら完全に俺達の事は眼中にないらしいな。

 まあ、実際に何も出来ないから当たり前なんだが。

「ただ……こいつらは貰っていくヨ。キンチは、しょうがないから一旦こっちで預かるネ」

「ああ、うん……アリアはどうでも良いけど、キーくんはちょっとねー」

 お、おい、何でお前らだけで話をまとめようとしてるんだ?!

 って言うか、ココは何で俺の扱いに困ってる風な感じなんだよッ!

 あれか、さっきのジャックが俺をお気に入りリストにしてる関係かッ?!

「何であたしの扱いだけ雑なのよ!」

 そこが不満なのか、アリアは密着した俺の背後で暴れてる。

 ムキー、って声を上げてるな。

 こんな状態でよくそんな闘争心を出せるよ……

 そう思っていると、ココが胸の前で両腕を袖に入れて余裕な感じで歩いてくる。

 それから見下ろせる位置まで近づいくると、まじまじと顔を見つめた。

「ふぅーん、これがアリアあるネ。写真を見てココに似てカワイイと思ったケド、会ってみれば可愛げのない性格してるある。これならまだ、ココの方がカワイイヨ」

「「確かに」」

 確かに。霧と理子は声に出し、俺は心の中で同じ事を思った。

「ちょっと、霧に理子!! あんたたち、本当にどっちの味方よ!!」

 アリアが暴れるせいで、地味に俺の足が蹴られて痛い。

「って言うか、ココぉー! あんた、その髪型やめなさいって言ったでしょう! あたしと(かぶ)ってんのよ!」

「そんなの聞いてないネ~。ぷっぷー、藍幇(ランパン)もイ・ウーの主戦派(イグナティス)も仮想アリアの子を欲しがるアル。この髪型は稼ぎになるヨ」

主戦派(イグナティス)……? イ・ウーの残党って訳ね……」

「ココは商売のために一時的に身を置いてただけネ。正式にイ・ウーにいた訳じゃないヨ!」

 最初から覚えていないような微妙に噛み合わない会話をしつつ。

 そのままココは雰囲気を変えて、見下し、恨みがあるような視線に変わる。

「――緋弾のアリア(Aria the scarlet ammo)

 緋弾のアリア。

 それは、イ・ウーでシャーロックが残した言葉。

 それをココは出してきた。

「イ・ウーの崩壊で世界はまた、乱世になる。機関、組織、結社……世界の均衡(きんこう)は崩れて、変化するヨ」

 と、何か壮大な事を呟いている。

「最早、これは避けられぬ運命。緋々色金を喜ばせたお前は、既に渦中の人ネ。緋々色金が調子づいて、璃々色金、100年ぶりに怒たヨ。見えない粒子を()いて世界中の超能力(ステルス)、不安定になた」

超能力(ステルス)……が……?」

 アリアは俺の背後で呟き、何が起こってるのか分からない感じだ。

 超能力(ステルス)関係には弱い俺だが……思い当たる事はある。

 以前にジャンヌにレキの調査を依頼した時に、最近は力が不安定である事を言っていた。

 京都の分社でも風雪が巫女の力が弱まっているような事を聞いた。

 あれは、つまり……色金絡みの事、何だろう。おそらくは。

「これからは超常の力を持つ者はあまり役に立たなくなるヨ。頼れるのは純粋な力。戦力集めるは、重要ネ」

 ココの話を聞くに……どうやら既に俺達の見えないところで大きな事が動いてるらしい。

「キンチ、超能力者(ステルス)違う。誰もが欲しがる、優良な駒ネ。ウルス、主戦派(イグナティス)研鑽派(ダイオ)――みんなキンチを欲しがってる」

 俺の頭を爪先で小突きながら言ってくるココ。

 何で……俺なんかを。

 俺は普通に暮らしたい高校生だぞ。

「ウルス、キンチに接触するの早かた。けど、ジャックに気に入られてるキンチに手を出すの愚策ネ。ジャック、多分、怒てレキを殺す刺客(しかく)を送り込んできたネ」

 その話に俺はあの紅鳴館で出会い、俺達を襲ったメイド――シェースチの姿を思い出す。

 アイツがココと一緒にいたのはそう言う事かッ。

「でも、優れた狙撃手殺すのは惜しいある。いずれ、レキも貰うネ。アリアは色金、高く売れるからそのまま貰うヨ」

 ココはそのまま上機嫌に離れていく。

「それで? どれくらい、身代金を要求したの?」

「さっき300億人民元、日本政府に要求したネ。払えばよし、払わなければ、どっかぁーん! 爆泡(バオパオ)のデモンストレーションに派手に爆破してやるネ」

 理子の質問にココはジェスチャーを交えて答える。

爆泡(バオパオ)――さっきの気体爆弾ねッ」

 その気体爆弾を体験したアリアが、睨み上げる。

 ココはあれを、この電車のどこかに仕掛けたらしいな。

「どれだけ仕掛けたの?」

「ちなみにさっきのは、ほんの1ccネ。この電車には1㎥仕掛けてあるヨ」

「多すぎない……?」

「デモンストレーションなら、派手にやるネ。仮に支払わないなら、それでセールスアピールするある」

 理子は普通に聞きながらも、冷や汗を出してる。

 冗談じゃないぞ。

 さっきのが1ccなら、1㎥はその100万倍って事だ。

 ここまで来てハッタリ……はないな。

 ジャンヌがビジネスにうるさいって言ってたし。

 だが、問題はそんな質量をどこに仕掛けたか……だ。

「様子を見る限り、理子は助ける気はないみたいネ」

「お互いに建設的でしょ?」

「きひっ」

 ココと理子はそんなやり取りをする。

 おい、どうするんだよコレ。

 理子は完全に俺達を見捨てるみたいだぞ。

 いや、見捨てると言うよりもお互いに不干渉を決め込んでる感じだ。

 理子はココ達を敵にしたくない。

 ココはジャックに狙われたくないため……なのだろう。

 そのままココは、俺の襟首を引っ張りそのままズリズリと移動させる。

 向かう先は運転席の方だ。

「ちょ、ちょっと!? 理子、あんた武偵でしょ!! 本当に見捨てる気なのッ?!」

「理子ってば"悪い子"だからね~。司法取引、何それおいしいの?」

「あんたねー!!」

 アリアの言葉は虚しく、捨てゼリフに変わっていく。

 理子には理子の事情があるのが何となく分かった俺は、何も言えない。

 誰だって命は惜しいからな。

 そのままグン、と新幹線が加速するのを感じた。

 見れば景色はさらに流れている。

 ――【只今の時速 180キロ】――

 電光掲示板を見れば、そう流れていた。

「ふ……え、主よ。神のもと、に……近づ、かん……」

 引きずられた先のドアの向こう側の運転席にいる女性運転手は十字架を持って祈りを捧げてる。

 どうやらクリスチャンだったらしいが、そんな事よりも……彼女は精神的にヤバイぞ。

 この電車に何百人という命を運んでいて、それが自分の腕1つに掛かってるなんて意識したらとてもつもないストレスがあるだろう。

「あたし達をどうするつもりよ!?」

「何も出来ない連中に話す必要はないネ」

 アリアの質問を一蹴しつつ、ココは俺達に巻き付いているワイヤーロープに頑丈そうなカラビナ・フックを取り付けた。

 それからそのまま車両整備用のハッチを開いて梯子を登っていき、列車の上へと消えた。

「あいつ、あたし達を釣り上げて行くつもりね」

「みたいだな。中国まで宙吊りじゃないよな? あと、俺はパスポート持ってないんだが……」

「なに霧みたいに落ち着いてるのよ?! 早く、抜け……出さない、と……!」

 体を動かしてアリアは何とか抜け出そうとする。

 ――助けてよね?

 まあ、霧にさっきそう言われなくても最初からそのつもりだが。

 自分から"なり"に行くのは、まだまだ研究しとかないとな。

 とは言っても、あんまりそう言う事を考えたことがないからどうして良いのか分からんが……

 俺は至極一般的な人生を歩みたいだけの高校生なのに。

 だが、あんまり助けを求めない霧のためだ。

 今回のは大きな返済になるだろうから、気合を入れていかないとな。

 正直、女性に関しての想像は忌避すべきモノだ、俺に関しては特にな。

 何度か想像で"なりかけた"事もある。

 なら、逆にそれは――

(想像でもなれるって事だ)

 それが実体験の事ならなおさらだ。

 俺は思い起こす。

 京都駅で霧と"した"事を――

 ヤバイな、コレ……想像だけなのに何故か色々と思い出すぞ。

 体温とか、感触とか、色々――

 そうして血流が集まって、笑顔のあいつが思い浮かんだ瞬間。

 ――ドクン。

 それでチェックメイトだ。

 加速的に頭の中で情報が再構築されていく。

 今なら、分かるぞ。

 この事件の重要な部分が。

 その前に脱出だ。

 俺は後ろでもがいてるアリアには悪いが、遠山家の縄抜け術をさせて貰う。

 関節を外し、上手く腕を出して、あとは外した関節を戻す。

 腕一本分の隙間が出来るだけでも十分に脱出の余裕がある。

 すんなりと抜けた事で、緩くなったワイヤーにアリアは不思議に思ってる顔だな。

「え、どうして? って言うか、緩くなったと思ったらあんたいつの間に」

「ちょっとした、縄抜けの術をね」

 それだけを伝えて俺は、アリア達を見つける前に立ち寄ったトイレへと行く。

 ドアノブを確かめれば……これは、壊れて開かないんじゃない。内側から打ち付けられたような感じだ。

 それによく見れば、蛇口やコンセント、換気扇……空気が抜けたり触れそうなところは全てシリコンの透明なシールのようなもので塞がれている。

 トイレの窓には超小型のプラスチック爆弾。

 上手く隠蔽(いんぺい)されてるな。

 なるほど……1㎥。それに、気体爆弾。

 こいつは解除不可能だ。

「爆弾は見つけた訳だね。キンジ」

 そう言って近付いた来た、理子。

 それで俺は気付いた。

「"悪い子"だな、理子」

「えへ♪」

 俺がそう言うと舌を出して微笑む。

 アリアだけは分かってない感じだ。

「どう言う事よ?」

「さっきまでの会話、ココから情報を引き出すために一芝居を打ったんだろう?」

「まあ、半分はね」

 つまり、半分は本当な訳か。

 俺はアリアに分かりやすく説明してやる。

「さっき、理子がココとの会話で最初に建設的な商談を暗黙の了解で決めた。それにより、ココは理子が干渉してこない商談を成立させたおかげで少しだけ舌が滑りやすくなったんだろう。そこを理子は利用して、爆弾の場所を探ろうとした」

 とは言え、どこに仕掛けたかは直接聞かずに大きさで絞りこもうとしたんだ。

 質量が大きければ隠し場所も自然に狭まる。

 逆に小さければ、それは効率的にこの列車を破壊する場所に限られる訳だ。

「そして、ただ単に身代金目的だけじゃなく、ココはセールスアピールのデモンストレーションと言った」

 派手にやると言うことは……それだけ質量がデカい。

 本人も1㎥と言ったしな。

 俺が入れなかったトイレの中の様子の確認で、爆弾の場所の証明は終了だ。

「外からやるんじゃなくて中から破壊したほうが派手に演出出来る。そう言う事だろ? 『武偵殺し』さん」

「キーくん、大正解!」

 皮肉を言ったつもりが、理子は意に介さず笑顔で言うだけだ。

 そこでアリアは気付いたのか、

「あんた……"なれた"のね?!」

 目を見開いて確信を持って言ってくる。

 だが、俺はそれに言葉で答えずに静かに頷くだけにする。

 ヒステリアモードなのに自分でも分かる程に今の俺は冷静だ。

「やるべき事はハッキリしてる。だけど、理子……君の助けは"いらない"」

 その言葉にアリアだけが驚く。

「な、なんでよ。今はこの難局を乗り切るのに1人でも――」

「理子は情報を引き出すために芝居を"半分"だけ打った。つまり、"もう半分"は本当の事なんだろう? アンダーグラウンドな事情によってな」

 それはジャックと言う存在の(かせ)だ。

 ココが敵対したくない理由として理子の背後にはジャックの影がある。

 そして、他にも理由はありそうだが、理子がココと敵対したくないのはココが理子の手の内が分かっているからだろう。

「人工音声、爆弾、以前俺に見せた格闘のスタイルが中国拳法(カンフー)だった事から推理するに……ココにある程度の技術を師事していたんじゃないのか?」

「流石だよ、キンジ」

 裏の理子の顔になり、素直に認めた。

「今は武偵……でも、あたしにはあたしの事情がある。だから、"直接的"に手を貸せない時もあるんだよ」

 やっぱり理子には、他にも理由がありそうだ。

 それをかなりぼかしてはいるが、ここで知ろうと深入りすれば危険だろう。

 理子の言葉にアリアは納得した。

「いいわ。深くは聞かないであげる。でも、あんたはあんたの出来る事をしなさい」

 けど、相変わらずの上から目線だ。

「命令しないでよね。呉越同舟(ごえつどうしゅう)ってだけで、そう言う関係じゃないし」

 理子はそれだけ言って16号車の方へと戻って行った。

 呉越同舟、まさしくそんな関係だな理子とアリアは。

 つまり、逆に言えば"いつでも敵対する理由"はあるのだろう。

 そこを今聞くのは……やめておこう。

 今はこの難局をどう乗り切るか、だ。

 

 

 16号車に戻り、そのまま15号車に行く途中で理子が霧の座席の下を調べていた。

 ココと直接的に戦う訳じゃなく、間接的なやり方でこの事件の解決に尽力しようとしている。

 少し見ただけで俺とアリアはすぐに15号車へと入ると、そこには産気づいたさっきの妊婦さんが苦しそうに座席に横たわっていた。

 すぐに白雪が高齢の女医を連れて来てくれた。彼女は慣れた手付きで迅速に処置していく。

 こう言う時に乗り合わせの医者がいてくれて感謝、だな。

「キンジ、戻ってきたか!」

 武藤が動揺する客をかき分けながらこっちへと来た、その後ろに続くように不知火がいるな。

「この新幹線に乗ってた武偵はこれで全員だね。この場にいない白野さんと峰さんを合わせて10人」

 到着して不知火が最初にそう報告してくる。

「爆弾は見当たらない」「警察にも連絡したんだけど……」「犯人もいないわ」

 2人の後ろから鷹根(たかね)早川(はやかわ)安根崎(あねざき)――ヒステリアモードの俺は彼女達の名前を思い出せる――俺と不知火が一緒にいた時によからぬ話をしてた通信科(コネクト)の3人が遅れてやってくる。

「もう、どっちも見つけた。その狙いもな」

 俺はすぐに状況報告をし、理子は霧の座席にあるだろうスイッチの解除をしようとしている事を伝えてから16号車と15号車の連結部を作戦会議場所とした。

 まず相手はかなりの武装をしている事、運転席近くに気体爆弾がある事、最後に犯人は列車の上に行ってから動向が不明である事を伝えた。

 それから――

「犯人が車内に戻ってきた事を考えて人員の配置は、等間隔で。鷹根、早川、安根崎は1号車、3号車と4号車の間、11号車と12号車の間だ。鷹根達は場所につき次第、警察や鉄道公安局、武偵高に連絡を取って爆弾解除の方法を模索してくれ。白雪はこの15号車と16号車の間、不知火は対テロリストの訓練の経験があるから7号車と8号車……この新幹線の中央を受け持って欲しい」

 的確に人員を配置する。

 武装してるのは俺達だけだからな。

 これであれば、どこから入ってきてもすぐに駆けつける事が出来る。

「キンジ、俺はどうするよ?」

「運転手が精神的にグロッキーな状態だ。武藤には運転を頼みたい。3分につき10キロの加速……精密な技術が必要だが、出来るか?」

車輌科(ロジ)なら1年でも出来るぜ! 任せろ」

「爆弾は運転席の真後ろだ。逃げ場はないぞ?」

「爆発しちまえば、どの車両にいても大して変わんねえだろ? それに、お前なら逃げるか?」

 武藤はそれだけ言って、白い歯を見せる。

 心配する必要はなかったみたいだな。

 漢字は違うが名前の通り剛毅(ごうき)な奴で、頼もしい限りだ。

「アリアと俺で銃刀法違反及び監禁の容疑でココを逮捕する。子供は帰る時間だって事をあいつらに教えてやろう」

 俺が言いながら腕時計を見れば、18時22分を示している。

 ここからは安全な運転を保証できない速度を強要される。

 この緊急事態にリーダーシップを発揮した俺に驚いたように見上げているアリアの視線が俺と合う。

 その瞬間に小さく声を漏らし、

「う……うんっ!」

 と何やら、妹のように素直に頷くのだった。

 




殺人鬼よりも、偉業をなした歴史的な人物の方が実はえげつない事をしてる気がすると思うこのごろ。
コンキスタドールという言葉を知ったこの土日。

誰の事とは言いませんよ?

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