緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

40 / 114
今回の注意事項

・長め、気付けば1万4500文字オーバー
・裏切る裏切る詐欺
・相変わらずの霧さん

以上です。


39:整って行く舞台

 昨日、キンジと私は夜の東京湾に落ちた。

 その時の私は服を着てたけど、キンジは風呂上がりで湯冷めしていてしかも上半身裸。

 その結果どうなるかは簡単に想像できるね。

「えー、28.5度」

「嘘を()くな。低体温症どころの騒ぎじゃねえぞ……」

 私が体温計を手にとって読み上げた数値にキンジは静かにツッコむ。

 ちょっとは余裕がありそうだけど、さすがに大声でツッコンでは来ないか……

「ええ!? は、早く人肌で温かくしないとキンちゃんが――」

「おい、白雪……霧の冗談を真に受けるな。38度で、普通に熱が出てるだけだ」

 キンジは私から体温計を取り上げて、体温を読み上げる。

 さりげに白雪が服を脱ごうとしてたけど、キンジは気付いてる様子はない。

「全く、護衛する人間が体調を崩すなんてっ」

 落ちた原因である神崎は平常運転。

 まあ、いつもの事だから慣れたものだよ。

 と言うか、こう言う場合は原因はどっちにあるんだろうね。

 誤解をさせたキンジと白雪が悪いのかはたまた勝手に誤解した神崎が悪いのか……

 ま、考えても仕方がない事か。

「あたしは先に行って安全を確保してるから、霧は白雪と一緒にちゃんと来なさいよ!」

 そう言って神崎は玄関を出て行った。

 全く……私に指図しないで欲しいんだけどね~。

 なかなか直してくれないんだよね。

「そろそろ私達も学校に行かないとマズイよ」

「え、でもキンちゃんが……」

「看病も大事だけど、そのせいで他の人に迷惑を掛ける訳にはいかないでしょ? アドシアードの準備が立て込んでるんだから」

「……それでも」

「キンジも1人でゆっくり休みたいだろうしね」

 私が白雪に向かって言いながら、キンジに視線を送る。

 今のキンジは1人で居たいはずだからね。

 私からのアイコンタクトに気付いたのかキンジも、

「学校サボってまで看病なんてされたら、気になって落ち着いて休めないだろ……それに、アリアもうるさく言いそうだしな。こっちは大丈夫だから行きな」

 そう言って布団へと潜り込んだ。

「うん、分かった……」

 白雪はそれだけ短く言うと、カバンを手に持つ。

「それじゃ、行ってくるね~」

 私はキンジに向かってそう言うと、キンジは布団から手だけを出してヒラヒラと振る。

 それから白雪の背中を押して部屋を出る。

 けど、白雪は部屋を出る寸前までキンジが入ってる布団を心配そうに見つめていた。

 

 

 男子寮を出てからも、どこか気にしたような顔をする白雪。

 私は声を掛ける。

「そんなに心配ならやる事を早く全部片付けちゃえばいいんだからさ、そう気落ちしたような顔はしないでよ」

「………………」

 笑顔で私は白雪に声を掛けるけど、今度は私を見る目がどことなく変に見える。

 何かを気にしてるような感じだね。

 うーん、何か変な事したっけ?

 特に不審な行動はしてない筈なんだけど……

 と言うか、ちょくちょく私の事を気にするような感じの視線や表情を白雪がするんだよね。

 キンジに対するのとは別の感じなんだけど。

 そう、こんな視線や表情をするようになったのはどこからだっけ?

 ボディーガードを引き受ける以前はこんな表情をしなかったし、し始めたのは……

 ……あ、占いの時か。

 何だか私によくない結果が出たとか言ったけど、あれはきっと嘘だろうからね。

 もっと何か重大な事でも出ちゃったのかな?

 ちょっと突っついてみようか。

「最近、と言うか……占いをした日以来から妙に私の事を心配そうな顔で見るね」

「……え?」

「ん? 何だか私を見る時の視線とか表情が、いつもと違う感じがするからさ」

「……その、何でもないの……」

「そっか、なら無理には聞かないよ」

 と私は言うけど、この時点で白雪が私に対して心配するような出来事が占いの結果に出たんだろうなって事ぐらいは、想像できるんだよね。

 なに、私どうなるの? 死ぬの? それとも、誰かに殺されちゃったりとか?

 気になるね~。

 だけどここは焦らず慌てずってね。

 押してダメなら引いてみる。

 果報は寝て待て。

 うん、いい言葉だね。

 

 

 昼休み頃にちょっとキンジの様子が気になったので男子寮へと向かう。

 病人には気を(つか)わないとね。

 私のお姉ちゃんも病人だし。

『あっ……』

 そして、男子寮前で神崎とバッタリと出会った。

「神崎さんもキンジの様子を見に来たの?」

「違うわよっ。ただ単に忘れ物を取りに来ただけよ……」

 否定から入るって事は、キンジの様子を見に来たんだね。

 それに、私を見つけたと同時に背中に隠した物……いや、実際は隠れてる様で隠れてない。

 足と足の間から見えてるんだけどね。透明なスーパーの袋に入っていて、読み方は……『特濃葛根湯(とくのうかつこんとう)』でいいのかな? 

 とにかく、そう書かれた(びん)が袋の中に入ってる。

「そっか。じゃあついでにキンジの様子を見に来たんだね」

「そ、そうよ。あくまでついでよ、ついで」

 この子もチョロイね。

「それじゃあ私は先に戻るよ。様子を見るのに2人もいらないからね」

 私はそれだけを言うと、神崎に背を向けて学校へと行く。

 

 

 しばらく歩いてると、その途中で突然に携帯が鳴る。

 えっと、これはプライベートもといお仕事用か。

「ご機嫌麗しゅう。何かご用でしょうか?」

 周りを確認して適当に男性の声に変えて出る。

『私、ルミ』 

 淡白なフィンランド人であるルミちゃんからだ。

「ああ、ルミ様でしたか! どうかなされましたか?」

『アドシアードの時に日本に行く』

「ふむ、それでどのようなご用でしょう?」

『ソフィーから伝言』

 わざわざルミちゃんに預けなくても直接言ってくれればいいのに。

 そう思っていると、

『ソフィーはしばらく診察』

 補足するようにルミちゃんは言ってきた。

 なら仕方ないね。

「分かりました。こちらから声を掛けますので、アドシアード期間中にお会いしましょう」

『分かった』

 それだけ答えて通話は切れた。

 ……伝言ね。

 どんな用件だろう。

 ルミちゃんに頼む前にわざわざ通信機器を介して連絡してこなかったって事は、何か大きな仕事でも頼むつもりかな?

 ま、会ってみれば分かるよね。

 

 

 そして、翌日。

 昨日の夕方の時点でキンジはすっかり全快していた。

 どうやら昨日、神崎がキンジの所に持って行った『特濃葛根湯(とくのうかつこんとう)』が効いたらしい。

 ただ、問題としては白雪が持って来たとキンジは勘違いしてるみたい。

 そして、私がそれを訂正する気はない。

 何故かは単純。

 その方が面白いから。

 今現在はと言うと、

I'd like to thank the person...(感 謝 さ せ て ほ し い よ)

 体育館に似た外装をしてる強襲科(アサルト)の専門科棟内で閉会式のリハーサル中。

 ボーカルをしている不知火の歌声が響く。

 まあ、銃声が一番多い場所だからね。

 防音設備もバッチリって言う事で、ここをリハーサル場所に決めたらしい。

 私はチアガール姿で笑顔を忘れずに振付けを軽快に踊る。

 さりげなくダンスの途中で視線をキンジに向けると、キンジは微妙に視線をギターに落としてる。

 女の子が多い上に露出も多いからね。

 まさしくキンジと言う男にとっては天国のような地獄って感じだよ。

「それじゃあ、今日はここまでにしましょう。お疲れ様でしたー」

『お疲れ様でーす』

 白雪の終了の一言に、リハーサルに参加したメンバー全員が声を合わせた後、散らばって行く。

 特にキンジはギターを片付けてそそくさと屋上へと続く階段へと向かって行ってしまった。

 対して神崎はと言うと、ちょっと鋭い視線をキンジの背中に向けている。

 なんとなーくだけど……これは一波乱ありそうだね。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 見事な五月晴(さつきば)れ。

 吹いてくる風は『心地が良い』の一言に限る。

 暑過ぎず涼し過ぎず、そして服がバタつく程の風ではなく、(まさ)しくそよ風だ。

 昼寝をしない方が失礼になるって言う感じの陽気さだ。

 なので、俺は強襲科棟の屋上で仰向けになる。

 いっその事、このまま寝てしまおう。

 1日で治ったとは言え、病み上がりだしな。

 だったら布団で寝た方がいいんだろうが、この天気なら外で寝た方が健康的になる気がする。

「はぁ~……」

 心地よさに息を漏らしていると、甘い香りと共に俺の顔にスッと影が差す。

(……なんだ?)

 と思って、そちらを見ようとしたら――

 がすっ!

「ぶっ――!?」

 顔に蹴りが入った。

 この陽気な天気から一転して俺は嵐に見舞われた。

 どごっ! がすっ!

 容赦のない蹴りが顔面を襲う。

「ちょ、顔面はやめろ! せめてボディーに――」

 そう言って立ち上がった瞬間にどすっ! と、ボディーに右ストレートが入った。

「ぐほっ!!」

 悶絶しながらも、俺は実行犯に目を向ける。

 と言うか、俺に対してこんな事をする奴は1人しかいない。

「全く、任務だって事を忘れてこんな事する暇があるならちゃんと白雪を護衛しなさいよ! このポンコツ!」

 案の定、アリア様がチアガール姿でポンポンを持ったまま両手を腰に当ててご立腹の様子である。

 って言うか追って来やがったのかよ……

 てっきり下で霧と話でもしてるのかと思ってたのに。

 などと思っていると、アリアの右手が突然に背中の方へ行く。

 ――こ、このパターンは!

 俺は条件反射ですぐに身構えるが、既にアリアは日本刀を抜いている。

 最近恒例である、突然の真剣白刃取りだ。

 白雪のボディガードを始めてからと言うものの朝練が出来なくなったために、奇襲と言う形で合間に襲ってくるようになった。

 ちなみにこれには霧も参加してる。

 俺は迫りくる刃に対して、パン! と勢いよく両手を合わせて鳴らしたが……刀身を掴むことなく――

 ごすっ!

 (ひたい)で刀の峰を受け止める事になった。

 ……勘弁してくれ。

 いくら強襲科(アサルト)で組み手とか蘭豹(らんぴょう)とかで打たれ慣れてるとは言え、痛いものは痛い。

 ちなみに……アリアは加減してるとは言え振り切ってくるが、霧は寸前で止める。

「遊びじゃないのよ! 一度くらい成功させてみなさいよ!」

 モチベーションが上がらないのに上達する訳がないだろう。

 そんな事を内心で思いながら額をさすり、ぷりぷりと怒っているアリアに視線を向ける。

「あのなぁー……俺は病み上がりなんだぞ……。どこかの誰かさんが、夜の東京湾に突き落としたせいでなっ」

 俺を助けようとした霧も巻き込こまれた形で落ちたし。

「それは……悪かったと思ってるわよ……」

 ちょっと言い過ぎたか、アリアは罪悪感を含んだ表情をする。

 まあ、過ぎた事をいつまでもぐちぐち言うのもみっともないし……ここは少しフォローしてやるか。

「もう過ぎた事だし、風邪に関してはもういい。それに、白雪が持ってきてくれた『特濃葛根湯(とくのうかつこんとう)』で治ったからな」

 最初は霧かと思ったが、あいつには『特濃葛根湯(とくのうかつこんとう)』について話してないしな。

 アリアには話したが、こいつはそんな気の利いた事をしてくれる訳がないだろう。

 それに白雪本人に確認した所、「うん」って言ってたしな。

「え……あれは、あたしが……」

 アリアは何故か、何かを言いたそうな感じに口籠(くちごも)る。

 なんだ?

「どうしたんだよ?」

「……白雪が、自分で持ってきたって言ったの?」

「あ、ああ……本人に確認したらそうだ、って言ってたしな」

「………………」

 おい、なんだよ。

 なんでそこで黙る。

 それからアリアは、ぷい、と顔を逸らして俺に背を向ける。

「ま、まあいいわ。白雪がそう言ったならそれでいいわよ」

 何か含んだ言い方をするな。

「言いたい事があるならハッキリ言えよ。いつもはズバズバ言うクセに、お前らしくもない」

「うるさいわね。あたしは言いたくない事は言わない主義なの! キンジなんかにらしくないって言われても嬉しくないわっ」

 背中を向けたままアリアは、いつものアニメ声で怒鳴って来る。

 なんか、怒ってないか?

 俺、なんか怒らせるような事をしたか?

「おい、何を怒ってるんだよ……」

「別に怒ってなんかない! それに、白雪に面倒を見て貰ってよかったじゃない! 特に霧や白雪はあんたに優しいものねっ! どっちかと結婚でもしちゃえばいいんじゃないの!?」

 なんでそこで霧が出てくる。

 全く意味が分からん。

 その理不尽な怒り方に俺も段々と腹が立って来た。

「いい加減にしろよ! 何にキレてるか分からねえけどな! この際に色々と言わせて貰うが、真剣白刃取りの訓練なんてもうやめだ! あんな実戦でも使えるか分からない達人技をそう易々と習得できる訳がねえだろ!?」

「ダメよ! 魔剣(デュランダル)は鋼をも斬り裂く剣を持ってるって話なのよ!? 防御してもそのまま斬られる! だったら、"防ぐ"んじゃなくて"止める"しかないのよ! 白刃取りの訓練は今でこそ重要な意味を持つのよ、いざという時には、あんたを覚醒(かくせい)させて――」

「その『いざという時』って言うのはいつ来るんだよ!? そもそも、そのプランだって不確定要素があり過ぎるんだよ! いや、そもそも魔剣(デュランダル)なんて"存在しねえんだ"!」

 俺の言葉に、アリアは一歩前に出る。

「違う! 魔剣は"いる"! 少なくとも、霧はその前提で動いてくれてるわ!!」

「それは、霧が良い奴だからお前の妄想に付き合ってくれてるだけだ! 大体、お前もあいつに迷惑かけ過ぎなんだよ! この間の東京湾に落ちた時だってそうだ。お前が勝手に誤解して、人の話を聞かないおかげで霧まで巻き込むハメになったんだ! お前はそもそも――」

 俺はこれ以上なく、

 

「"ズレてるんだよ"!!」

 

 ハッキリと言った。

 

 ◆       ◆       ◆ 

 

「ズレてるんだよ!!」

 ちょっと様子を見に来てみれば、なんだか面白そうな事になってるねー。

 それよりもキンジ、『お前も』って言う辺り私に迷惑を掛けてるって言う自覚はあるんだね。

 まあ、迷惑だなんて私は思ってはいないけど。

 そして、キンジの言葉に神崎は酷く傷ついた顔をして数歩、退いた。

「あんたも……他の人と同じ……」

 聴覚に意識を集中させて、神崎の小さく呟いた言葉を拾う。

 他の人って、イギリスでの出来事かな?

「そう、そうなんだ……あんたも、あたしの事を……分かってくれないっ! あたしを先走りの独断専行の弾丸娘、ホームズの落ちこぼれって言う! あんたも、他の人と同じ!!」

 おこがましいね~。

 相手を理解しようとしないのに自分を理解してもらおうなんて。

 ふふ、彼女のこう言う所は見ていて楽しいんだけどね。

 何て言うか……ズレてると言うよりは、歪んでる様な気もするんだよね。

 今思った事を理子とかが聞いたら「お前が言うな」みたいな事を言われそう。

「あたしには、分かるのよ! 魔剣(デュランダル)はいるし、白雪に危機が迫ってる! でも、上手く納得できる説明が出来ない! それでも直感で分かるのよ! それなのに、どうして……どうしてあんたは分かってくれないのよ!?」

 その懇願(こんがん)にも似た神崎の訴えにキンジは、

「ああ! 分からねえよ! 論より証拠だ、主張があるなら証拠や根拠を出す。それが武偵だ! 警察でもそんな不確定な事で大袈裟に動いたりしねえ!! 何度でも言ってやる、敵なんて存在しない。お前の妄想だ!!」

 容赦なく跳ねのけた。

「……この、バカキンジーーッ!!」

 対して神崎、逆切れしながら2丁のガバメントを引抜き銃弾で返答し始めた。

「ま……!」

 あの様子だとキンジは「待て!」って言おうとしたんだろうけど……たった2文字の単語も言い切れなかったみたいだね。

 バババババン! と、ハンドマシンガンって感じの連射音でキンジの体の周囲スレスレに弾がばら撒かれる。

 キンジがそれに対して硬直してると神崎はキンジ向かって行き、跳躍して顔面を踏み倒した。

「このバカ、バカの王様! ノーベルどバカ賞ーー!!」

 神崎は変な所に銃を乱射しまくると、屋上の出入(でいり)口であるこっちに向かって来た。

 ちょっと場所を変えて扉の脇で待機してると、

「ばか…ばか……」

 神崎は小さく呟きながら私に気付かずに降りて行った。

 んー、どうしよっかな。

 このままフォローせずに放置でもいいんだけど……まずはキンジだね。

 扉を開けて、仰向けにぶっ倒れてるキンジに近付く。

 そして、何故か分からないけど水が降って来てるのでそちらの方を見ると『バカキンジ』と、屋上の出入口の上部にある貯水タンクに空けられた穴で書かれていた。

 さっき見当違いの方向に銃を撃ってたのはこれか。

 器用と言うか何と言うか、弾の無駄遣いだね。

 お金を持ってる彼女だから出来る事だろうけど。

「なんだよ、霧か」

 こっちに気付いたキンジが声を掛けてくる。

 仰向けになりながら、首だけを動かして。

「神崎さんが戻って来たとでも思った?」

「いや……。それより、いつから見てた?」

「どうして、そう思うの?」

「アリアと入れ違いでタイミングよく入って来たんだから、そう思うのが普通だろ……」

「ま、そっか。そりゃそうだよね。で、どこから見てたかって言うと割と最初の方から」

「そうか……」

 キンジは短く答えて、体を起こす。

 私はその隣に静かに座る。

「お前は、魔剣(デュランダル)なんていると思うか?」

「逆にキンジはどう思うの?」

「俺は……いないって思ってる」

「どうして?」

「どうしてって、実際都市伝説みたいなものだろ? 犯人の実態はないし、誘拐されたって奴はただの行方不明かもしれない。そもそも、教務科(マスターズ)の警告にしたって襲われたためしなんてほとんど無い」

「そうだね。私もいなかったらいいなと思ってるよ」

「だろ? アリアはやっぱりかなえさんの事で焦り過ぎてるんだよ」

 私に同意されて、キンジは妙に嬉しそうだね。

 だけど――私の言いたい事はこれからなんだよね。

「確かにキンジの言う通り、神崎さんは焦り過ぎかもね。最近は気も張り過ぎだし」

「そうだよな」

「でもさ、キンジ。私は"いなければいいな"って言ったけどさ……キンジの場合は完全に"いない"ものとしてるよね?」

「……どう言う事だよ?」

「ん? 確かに魔剣(デュランダル)がいるなんて証拠はないけどさ。いない証拠もないって事でしょ?」

「まあ、そうだな」

「なのに存在しないなんて、決めつけるのは早計じゃないかな?」

 私の一言にキンジは疲れたような顔をする。

「なんだよ、お前もいるなんて言うのか?」

「いいや? 違うよ。私の場合は神崎さんの言う通り、いる前提で動いてるってだけだよ」

 私は笑顔で答える。

 それからジト目をキンジに向ける。

「神崎さんは警戒し過ぎだけど……キンジは警戒しなさ過ぎるね」

「って言ってもここ数日、白雪の傍に不審な影なんてなかったろ?」

 その言葉に、私は深呼吸をするように息を吐いて、

「ふぅ~……キンジ、もし魔剣(デュランダル)がいてさ。白雪さんが襲われたら……責任、取れる?」

「藪から棒になんだよ」

「いいや、聞いてみただけだよ。ま、それはそうと……しばらく神崎さんとお互いに頭を冷やした方がいいね。しばらく単独行動にしよっか」

「それはいいけど、お前はどうするんだよ?」

「遠巻きで白雪を護衛する事にするよ。白雪の傍にはキンジがいてあげてよ。1人の方が頭もよく冷えるでしょ?」

 せっかく忠告してあげたのに、気付かないなんてキンジはバカだね。

 でも、そう言う所がいいんだよね。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 強襲科(アサルト)の屋上でケンカ別れした神崎と、妙な事を言い残した霧と離れて俺は1人で白雪をボディーガードする事になった。

 それで、ゴールデンウィークにどこか行きたい所や予定がないかを白雪に尋ねると「特にないよ」と言う。

 華の学生生活の筈なのにあまりにも華がなさ過ぎんだろ……

 しかもお利口な白雪は、実家の言いつけで外出をあまりしたがらない。

 と言う訳で、俺が連れ出す事にした。

 遠巻きで霧もいるって言うし、外に出ても大丈夫だろう。

 なので5月5日である今日、花火大会を見に行く事にした。

 それはいいとして、問題はアリアだ。

 霧は連絡すれば返すし、呼び出せば簡単に来てくれる。 

 あれからと言うもののアリアはどこかに雲隠れしてしまった。

 部屋に帰って来る事もなかった……が、行く場所は大体予想できる。

 が念のために霧に聞いてみた所、どうやら予想通りレキの部屋に転がり込んだらしい。

 バスジャック以来、アリアとレキはそれなりに関係を持っているからな。

 なので、ファミレスでレキを介してアリアに報告しようと思ったが……無口、無表情、無感情の三拍子が揃っているレキに大体の事を報告するのは少し骨が折れた。

 ちゃんと話を聞いてるのか、内容を把握してるのかいまいち分からんもんだから確認するのに時間が掛かった。

「――と言う訳で、ゴールデンウィーク中も特に変わった事はない。報告としては以上だ、アリアにそう伝えておいてくれ」

 ……反応がない。

「アリアに伝えておいてくれ、いいか?」

 コクリと、二度目でレキは反応した。

 と言う感じで、今まで時間が掛かってしまった。

 アリアに携帯で直接報告出来たらいいが……あんな事があった後だとメールも電話もしにくい。

「あ……」

 思わず声を上げてしまった。

 時計を見ると、8時だ。

 待ち合わせは7時の予定……大遅刻だ。

 俺は慌て気味に席を立つ。

「すまんが、俺はこれから予定があるから帰らせて貰う」

「………………」

「俺は予定があるから、か・え・る・ぞ。いいな?」

 確認するように言うとレキは小さく頷いた。

 まさしく『ロボットレキ』と言う感じの反応の遅さだ。

 だが、これでも狙撃の腕はピカイチだから人間分からんものだ……

「……外に出るのですか?」

 いざ帰ろうとしたら、報告の時には喋らなかったレキがここで初めて喋った。

 抑揚のない声で、唐突に。

「そうだが?」

「気を付けてください。あなたの近くに、(よこしま)な風が近づいている」

 邪な風? つまり、風邪か?

 ダメだ、翻訳できん。

 と、俺は軽く混乱してると――

「特に、白野 霧……彼女は危険です」

 続けるように言ってきた。

 霧が危険?

 確かにあいつのはイタズラはたまに危険なものがあるが、レキもその被害者か?

 ……あまり深く考えたら負けだな、これは。

「忠告感謝するよ」

 俺は適当に返事をして帰るのだった。

 

 

 部屋に戻ってみれば、白雪は正座をして充電器に挿した携帯を眺めている。

 誘っておいて遅れた俺に対して怒ってるかと思ったが、そんな事はなさそうだ。

 しかし、ガラリと雰囲気が違う。

 今の白雪は着物姿。

 撫子(なでしこ)の花雪輪(ゆきわ)の模様に清楚な白地の布。(とき)色の帯もしっかりと締められている。

 髪もしっかりとお団子型に整えて、(かんざし)を挿している。

 確かにきれいではある。

 ただ、シュールな場面だ。

 まるで携帯とお見合いでもしてるような感じだ。

 その様子に少しだけイタズラ心が働いた俺は携帯でメールを送ろうとする。

 ――ぴろりん♪

 俺が送る前にメールの着信が入り、白雪は勢いよく飛び付く。

 そして、メールを読んだかと思うと急に何かに気付いたように窓を見始めた。

 なんだ、と思って俺も窓を見ると鏡みたいに映るガラス越しに白雪と視線があった。

 まさか……霧のヤツ先手を打ちやがったな。

 俺が何かをする前に白雪に連絡したようだ。

 それから白雪はバッと後ろを向いて、直接俺を見てきた。

 とりあえず、

「あー、遅れて悪かったな」

 謝りながら部屋に入ると白雪は勢いよく立ちあがる。

「う、ううん……いいの。それよりも来てくれてありがとうございます」

 なんか、変なお礼をされた。

「ところで、さっきのメール何だが……」

 と、俺が尋ねようとすると俺の方にメールが入る。

 携帯を開けて見ると、

『白雪に送ったのは私です♪』

 霧からのメールだった。

 おい、あいつどこから見てんだよ。

 思わず周りを見回してると、またしても着信。

『どこにいるかは秘密だよー』

 と、今度は顔文字付きで送って来やがった。

 心を読むんじゃねえよ。

 さらに本文が続いてるので、下へスクロールすれば――

『はよ行け』

 うるせえよ!

 取りあえず携帯を閉じる。

 確かに霧の言う通り、遅刻してるから今すぐ行った方がいいのも確かだ。

「それじゃあ、行くか」

 俺がそう言うと、

「はいっ」

 白雪は嬉しそうに笑顔で答えた。

 

 

 東京の夜の街を歩きながら、目的地である葛西(かさい)臨海公園を目指す。

 順調に向かってはいるのだが――

「………………」

「………………」

 会話が続かん。

 そもそも、俺は女子を避けて来たのだから当たり前の話だ。

 どう言う会話をすればいいのかが、全く分からない。

 霧は例外だ。

 ともかく……白雪も、幼馴染みである前に女子だからな。

 この場所に霧がいれば、共通の話題の1つや2つは振ってくれるんだがな……

 こんな時に限って霧の存在がいい感じに潤滑油になってたんだと思い知らされるとは、思いもしなかったぞ。

「その、キンちゃん……私と一緒だと、つまらなかったり……しない、かな?」

 たどたどしい感じで白雪が唐突に切り出して来た。

「どうしたんだよ、突然」

「霧さんみたいにお喋りとか……得意じゃないから」

「気にしねーよ。俺もあまり喋るのは得意じゃないからな」

 むしろ霧がお喋りなだけだ。

 そして、またしても沈黙が俺と白雪の間に流れる。

 だが数秒ほどすると、またしても白雪から話しかけて来た。

「あの……キンちゃん?」

「今度はどうした?」

「私達、なんだ……か……デ……ト……。……ううん、なんでもないよ」

「何だよ、気になるだろ」

「その……今の私達って……デート、してるみたいだね」

 今度は妙な事を言ってきた。

 デート、俺と白雪が?

 とてもじゃないがそう言う風には俺は思えないし、ここで曖昧(あいまい)な返事をすればまた妙な事になるんじゃないだろうか?

 例えばヒステリアモード的に危険な事態とかに。

 ここは、誤解を生まないためにもはっきりと否定するのが無難だな……

「デートじゃないさ。ただ単に外出する護衛対象にボディーガードとして付き添ってる……それだけだ」

「ボディーガード……そっか、そうだよね。なんだかゴメンね、変な事を言っちゃって……」

 と、白雪は笑顔で言ってはいるが……どこか肩を落としたように表情が曇っているように見える。

 なんだ? さっきの言動に肩を落とすような要素があるって言うんだ?

 そう思っていると、携帯にメールの着信が入る。

 ポケットから出して見ると、差出人は――霧だ。

 一体、何なんだ?

 そう思ってメールの内容を見る。

『今の言い方はちょっとないね~。任務(クエスト)でもなかったら一緒にいないみたいに冷たく取れるよ』

 ……おい、マジで霧のヤツはどこから見てるんだよ。

 周りに人は少しいるが、霧の姿らしきものは見えないって言うのに。

 しかも会話の内容が分かってるあたり、近く……それも読唇術(どくしんじゅつ)が使える距離には少なくともいるみたいだぞ。

 それはそうと、メールの内容――考え過ぎじゃないのか? と思ったが……非社交的と言うレッテルが張られている俺に比べて社交的で白雪と同じ女子である霧がそう言うんだから、一理あるんだろう。

 それからメールにはどうやら続きがあるようだ。

『もしフォローするなら「これからも外出するなら付き合う」みたいに言えばいいよ。白雪さん、自発的に外に出ようとしないからね』

 質問の返信をしなくてもいいように、先に質問される内容を予測して解決策も書かれてやがる。

 相変わらずだな。

 俺の思考や行動パターンがほとんど読まれてるだけはある。

 確かに、白雪が星伽に縛られずに自発的に外出しようとする気持ちがあるなら、幼馴染みである俺としても付き合うのは(やぶさ)かではない。

 携帯を閉じて、俺は白雪に話しかける。

「なあ、白雪」

「う、うん……どうしたのキンちゃん?」

 俺から話しかけると、白雪は少し驚いた感じの声を出す。

 なんでお前はそうキョドるんだよ……

 まあ、これは今に始まった事じゃないからスル―して俺は話を続ける。

「もしお前が今日をきっかけに自分から外出するんだったら、俺はこれからも付き合うぞ」

「え……?」

「お前は外に出なさ過ぎなんだよ。だから、自分から外に出るって言うなら……買い物にでも何でも付き合ってやるよ」

「………………」

 ぽかんとした表情を浮かべて止まってしまった。

 俺も歩みを止めて、白雪の方へと体を向ける。

 すぐに再起動した白雪はどぎまぎして、

「ほ、ほんとに?」

 疑うように聞いて来た。

「嘘言ってどうするんだよ」

「でも、どうして……?」

 いきなり、俺が言いだした事に白雪は疑問を持ったのか俺の目を見て聞いてくる。

 普段は俺と視線が合うとよく逸らす白雪だが、今回は真っ直ぐに見てきた。

 その疑問に対して俺は、すぐに答えを出した。

「放っておけないからだよ」

 箱入り娘で普段はしっかりしてるくせにどこか危なっかしい白雪だからな。

 外に出れば色々と知らない事だらけだし、保護者的なポジションの人が必要になるだろう。

 でなけりゃ、何かの拍子に事件や珍事を起こしかねない。

 霧にも協力してもらえば、上手く行きそうだ。

 名付けて『白雪かごのとり脱出計画』だな。

「ふえっ……!? ほ、放っておけないって……?!」

 街灯に当てられた光の下だから、白雪の顔が赤くなっているのが見える。

 何を驚いてるのか分からんし、顔を赤くする理由も分からん。

 さては子供扱いされているのが分かって、恥ずかしいのだろうか。

 ともかく、だ。

「ああ、1人で外に行くのは不安だろうし俺が傍にいないといけないからな」

 何か事件を起こさないようにな。

「それって――」

「そう言えば、早く行かないと花火大会終わっちまうぞ」

 話してる内に忘れる所だった。

 白雪が何かを言い掛けてた気もするが、気のせいだろう。

 少し急かすように俺は歩き始める。

「え、キンちゃん。待ってよー!」

 遅れて白雪も声を上げて追い掛けてくる。

 取りあえず、この花火大会が『白雪かごのとり脱出計画』の第一段階だな。

 と言うか、これで良かったんですかね? 霧さん。

 そう思っているとそれから再び携帯にメールの着信。

 ……霧からだ。

『バッチリだね』

 どうやらお墨付きを得られたらしい。

 だが、何故だ……こいつのバッチリとかに不安を覚えるのは……

 

 

 モノレールやゆりかもめを乗り継ぎ、葛西臨海公園駅を降りる。

 そしてそのまま森の中にある舗装(ほそう)された道を進んで、人工なぎさに続く道を歩く。

 だが人工なぎさに到着し、ウォルトランドの上空を見れば、残っているのは硝煙のような煙だけ。

 砂浜に近付いて行って音がしなくなった辺りイヤな予感がしていたが……どうやら終わってしまったらしい。

 どう考えても原因は俺だ。

「すまん、白雪。俺が遅れたせいだ」

「う、ううん。気にしなくてもいいんだよ、それに途中で話しかけて足を止めてた私がいけなかったの」

 などと白雪は愛想笑いと言った感じの笑顔で答えるが……その目はどことなく残念そうだった。

「それに私は嬉しかったんだよ……キンちゃんが私の事を気に掛けて、連れ出してくれて。まるで、青森での花火大会みたいだった」

「それって5歳の時のか?」

「そうだよ。キンちゃんが私の手を取って、星伽を出してくれたあの日」

 白雪は懐かしむように言いながら空を見上げる。

 そこに今でも花火が上がっているかのような、そんな視線だ。

「何もかもが新鮮だったよ。星伽を出た事なんて……あの時はなかったから」

「だけど、あの後はめちゃくちゃ大人達に怒られたよな」

「そうだね。キンちゃんはキンちゃんのお兄さんに、怒られてたよね」

 白雪、あまりその話は掘り下げないで欲しい。

 割とトラウマなんだよ、あの時の兄さんは。

 まあ、怒られた後……どことなく優しそうな顔もしてたがな。

「やっぱり、私にはキンちゃんが必要だよ。じゃないと……こうして外にも出れない」

「そんな事はない。出ようと思えば、お前も出れるだろ? それに、今は霧だっているんだしな」

「霧さん……」

 霧の名前を出した瞬間に白雪の表情が少し曇る。

「どうしたんだ? 霧と、何かあったのか?」

 思わずそう尋ねるが、

「何でもないよ」

 白雪は笑顔で返して来た。

 ケンカしたって感じではなさそうだが……一体何なんだ?

 いや、今は気にしないでおこう。

 せっかくここまで来て、何もせずに帰るのも忍びない。

 霧が遠巻きで護衛してる事は白雪に伝えてあるし……俺が離れても問題無いだろう。

 そもそも敵なんていないんだからな。

「白雪、少しこれを羽織って待っててくれ」

 そう言って俺は制服の上着を白雪の肩に掛ける。

 夜だし、潮風も冷たく感じるだろう。

 ……俺は逆に暑くなるけどな。

「キンちゃんはどこに行くの?」

「ある物を買いに行く」

 白雪の質問に簡潔に答えながら、俺は走る。

 見える位置にいるから分かってるだろうが……ついでに霧にも連絡しておこう。

 

 ◆       ◆       ◆ 

 

 キンちゃんの背中が遠くなる。

 その光景を見て、私は寂しさを覚える。

 だけど……大丈夫。

 キンちゃんは私の事を放っておけないって言ってくれた。

 つまり――私の事が気になってるって事なんだよね……

 でも、それでも私には不安な事が一杯ある。

 キンちゃんに関してもそう。

 今はもう見えないキンちゃんの姿が、巫女占札(みこせんふだ)で出た結果を表してる様な感じがする。

 もしかしたらって思ってしまう。

 キンちゃんがいなくなると言うこと……

 それと、霧さんが裏切ると言うこと……

 私は考えながら、砂浜から少し離れたベンチに座ります。

 その瞬間に私の巾着袋(きんちゃくぶくろ)の中の携帯が鳴ります。

 取り出してみると、メール……でも、知らない人から……

 間違いメール、なのかな?

 そう思って開いてみる。

 ………………。

 ……え? なに、これ?

『初めまして星伽 白雪。

 まず、最初に名乗っておこう。

 私はお前達が言う魔剣と呼ばれる者だ。

 単刀直入に言おう。

 明日の午後5時に巫女装束で学園島の地下倉庫に来い。

 でなければ、学園島を爆破し貴様と親しい遠山 キンジや白野 霧を殺す。

 他の連中にはくれぐれも知られるな。

 私はお前を見ているぞ』

 何かの冗談、でも……ない。

 これは脅迫だって、私でも分かる。

 でも、いきなり……なんで、どうして私なんだろう……

 ………………。

 思わずキンちゃんの上着を握りしめるけど、キンちゃんは私の傍にいない。

 ……怖いよ。

「やっほー白雪さん」

 この声は……

 顔を上げて見れば、いつもの笑顔で霧さんが立っている。

 霧さん……っ?! こんな時に考えちゃダメ。

 だけど、さっきのメールが着た後に現れた霧さん。

 巫女占札の結果。

 

 ――裏切り。

 

 違う、霧さんはそんな事しない。

 それに、知られちゃいけない。

 私はとっさに携帯を閉じて手の中に隠す。

「どうかしたの?」

「ううん……なんでもないの……」

「ならいいんだけど、キンジも不用心だね~。いくら私がいるからって言っても離れて行くなんて」

「きっと、何か考えがあるんだよ」

「まあ、そうなんだろうけど――私が魔剣(デュランダル)だったらどうするつもりなんだろうね……」

「え……?」

 霧さんの何気ない一言。

 私の中の不安が大きくなる。

 同時に、霧さんの雰囲気もどこか違う感じがする。

「クスクス、ホント……不用心だよね」

 座ってる私を見下ろしている霧さんの視線が、違う。

 いつもの楽しそうな笑顔じゃない。

 そんなの、ウソ……だよね?

「何をそんなに不思議そうに見てるのかな?」

「いつもの冗談、だよね……?」

「さてどうだろうね。状況を見れば冗談かどうかなんて分かる事だと思うんだけど?」

 血の気が、引いて行く。

 それから彼女の手が、ゆっくりと私へと伸びて――

 

「なーんてね。私が魔剣(デュランダル)な訳ないよ」

 

 ポン、と言った感じに私の肩を叩きながらいつもの屈託のない笑顔で言います。

 しばらくして、私は冗談だと気付く。

 ……よかった。

「――うっ、う……よかったよぅ」

 不安が安心に変わって、思わず泣きました。

 だけど、本当によかった……

「あれ? えっと……白雪さん? どうしちゃったのかな」

「なんでもないの……なんでも……」

「ちょっと不安になるような事を言い過ぎたかな? だったら、ゴメンね」

 そのまま私は、キンちゃんが帰って来る少し前まで霧さんに慰められました。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 はてさて、キンジが帰ってくる少し前に私は退散した訳だけど。

 いやはや……まさか泣かれるとはね~。

 一体、私に関してどんな占い結果が出てるのやら。

 それはそうと、白雪を慰めてる間に携帯を拝借してメールを転送させて貰った。

 本人は気付いていないだろうけどね。

 もちろん、送信履歴からも転送した事はきちんと消してる。

 私が近付く前に携帯を見た時の白雪の様子が、確実におかしかったからね。

 だからまあ、少し強硬手段に入った訳だけど……

 白雪の様子がおかしくなったメールの内容はと――

 ………………。

 なるほど、そう言う事ね。

 キンジが離れたタイミングを見計らって脅迫した訳だ。

 しかし、さすがのジャンヌも行動は把握してても言動までは把握してないっぽいね。

 私がいると分かってたら、キンジが離れても脅迫メールをしたかどうか怪しい所。

 いや、白雪の性格を加味したら……不思議でもないか。

 こんなメールをされたらキンジが好きな白雪は、絶対に他人に言わなかっただろう。

 取りあえず、これで舞台に上がる準備は出来た。

 あとは一緒に踊るだけ。

 さて、どんな感じに演出しようか……楽しみだね。

 




うむ、天人様と言い……かなりの長編なりそうな予感。

そう言えば、最近は専門用語の解説してないな。

まあ、新しい物が出てきてないから当たり前なんですがね。

1週間でこれだけって書き過ぎなのかな?

それと、ブラック企業怖い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。