緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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やっぱり原作に入ると進みますね。

ただ、問題としてちょっと私情が入るかもしれないので近々更新が空くと思います。


第3章:交錯する道(クロスロード)
24:緋弾との出会い、そして帰還


 晴天の空の(もと)

 私は帰って来た……この場所に。

 なんて、センチメンタルっぽく思ってもみる。

 けど、私にそんな感情なんて湧かないし、元よりないから分からない。

 ともかく半年ぶりに帰って来たんだよね。

 今私は、『学園島』と呼ばれるレインボーブリッジの南に存在する人工浮島(メガフロート)

 そこに存在するあるビルの屋上のフェンスに腰掛けている。

 そして携帯を開き、とある人物に連絡を取る。

「もしもし」

『もしもし、って……今、理子は準備中なのですけど』

 私の妹から不機嫌そうな声が聞こえる。

「いや、ちょっと尋ねたいことがあってね」

『……なにかな?』

「私がサプライズでキンジを助けちゃダメかな?」

『あー、出来れば遠慮して貰いたいかなー……』

 声の変化で分かる。

 この声は、本当に遠慮して欲しいって声だろうね。

 表情すらも容易に思い浮かぶよ。

 だけど、私に強く言えないのか、少し遠回しな言い方をしてる。

「聞いてみただけだよ。ま、正直な話……キンジとあの子を接触させるのは気に食わないけど、理子が望むなら仕方がないね」

 お父さんの望みでもあるっぽいけどね。

 そう思いながら私は眼下にいるある人物を見る。

 私と同じように、女子寮の屋上にあるフェンスに座っているのではなく立っている、ピンクブロンドのツインテールを風に揺らす少女。

 身長は、相変わらず150には満たないね。140ぐらいで、理子よりも少し小さい。

 理子に聞こえないように、携帯を顔から離して、彼女の名前を呟く。

「――神崎・Holmes(ホームズ)・アリア」

 あの子がお父さんに、イロカネに選ばれた存在。

 彼女が立っている建物より高い建物の上に私はいるから、すぐにはバレないだろうけど――

 って思ったら、こっちを見そうだったのですぐにフェンスから降りて、見えないようにする。

 良い直感してるよ、全く。

 携帯を顔に近づけて、私は理子に話しかける。

「ま、頑張りなよ。私としては別に彼女は死んでも構わないからね」

『ラジャー!』

「それじゃ……また、武偵高でね」

 私は最後にそう言って携帯を切る。

 お父さん的には、死んで貰いたくはないのだろうけど……死んでしまったら、死んでしまった。

 理子が勝つか負けるかは分かんないけど、負けて死んだら所詮(しょせん)はそこまでの器だって言う事だし、研鑽派(ダイオ)の人達もそんな弱者の下で従うつもりはないだろうからね。

 まあ仮に? あの子がイ・ウーの……お父さんの後を継いだとして。私としては、気に入った人や家族以外の頼みも命令も聞く気は毛頭ない。

 いや、私が気にいる見返りを用意した上でお願いするなら、協力はするけどね。

 しかし、お父さんやお姉ちゃんはどこまで"見えて"いるんだろうね。

 果たしてあの子が死ぬのか否か。

 ま、答えを聞いたら面白くないし……

 何より2人とも外れる可能性もあるって言ってるから、100パーセントその通りになるとも限らないし。

 先が見えないからこそ、楽しい事もある。

 そう考えながら、しばらく待っていると――

『そのチャリには 爆弾が仕掛けてありやがります』

 意識を集中させていた聴覚が、小さくも人工音声の言葉を拾う。

 もう一度、ビルの下を見る。

 そこには、サブマシンガンであるUZIとスピーカーを載せたセグウェイがかなりの速度で走行している。

 そのセグウェイと一緒に自転車で並走してる。いや、銃口を向けられて……走らされてるのは――遠山 キンジ。

 確か、理子の話だとあのサドルの下にはプラスチック爆弾が仕掛けられてるはず。

(どう考えても、今のキンジには打開策はないけど……)

 私はホームズの4世が立っていた場所を見る。

 彼女は、キンジを真っ直ぐ見つめて――女子寮の屋上から飛び降りた。

 

 これが、アリアとキンジの邂逅。

 

 ――本当の始まり。

 

 ◆       ◆       ◆

 

(新学期早々に、最悪だ……)

 チャリジャックと言う、珍しくも奇妙で何のありがたみも無い事件(ケース)にあってしまった俺こと遠山 キンジは……トボトボと新しい教室に向かう。

 ヒステリアモードを見られてしまった。

 それも、さっき俺をチャリジャックから救ってくれた――神崎・H・アリアと言う女子に。

 教室に辿り着いた後、俺はすぐに自分の机を探し出して座り、突っ伏す。

「はぁ~~……」

 溜息と共に嫌悪感が吐き出される様だ。

「いよー、キンジ!」

 そんな最悪な気分の所に武藤 剛気(バ カ)が俺に声を掛けてくる。

「なんだよ、新学期早々に暗いな。そんなに星伽(ほとぎ)さんがいないのがショックか?」

「武藤。今の俺に女子の話題を振るな、頼むから……」

「おいおい、そんな事聞いたら星伽さんだけじゃなくて白野まで悲しむぞ」

 などと、武藤は俺に懐かしい……と言っても、4ヶ月ほど前に会った元パートナーの名前を言う。

 メールでちょくちょく連絡を取ってたアイツも、

(今、どうしてるんだろうな……)

 などと、ぼんやり考えながら、

「とにかく、頼むから今はそっとしておいてくれ」

 武藤にそう返す。

「なんだよ、新学期早々にテンション下がる事を言いやがって」

 なんて武藤は言うが、俺のテンションは既に下がってる。

「はあー……いや、すまん。今朝にチャリジャックなんてもんにあったからな」

「え、マジかよ!?」

「大袈裟に騒ぐな、暑苦しい」

 近づけてくる武藤の顔を、俺は片手で引き離す。

 そう、"この程度"の事は武偵じゃあ日常茶飯事(さはんじ)

 この教室に来る前に教務科(マスターズ)に事件報告に、言った時も、

『へえー、チャリジャックなんて珍しい事件(ケース)だなぁー』

 それだけしか言われなかった。

 ちなみに報告を受け取ってそう言ったのは(つづり)と言う尋問科(ダギュラ)の教師。

 怪我はないか? とか、心配されるはずもない。

 ここは――武偵高とはそう言う場所だ。

「まあ、災難だったな。けど、無事だった事を喜ぼうぜ」

 そう言って武藤は俺にイイ笑顔を向ける。

 無事だった事はいいが……俺は別の要因が絡んで、素直に喜べない。

「はいはい、皆さん席に着いてくださーい」

 と、ほんわかとした雰囲気の女性が、俺の思考を中断させて教室に入ってくる。

 俺が3学期から転科した探偵科(インケスタ)の主任をしてる高天原(たかまがはら) ゆとり先生だ。

 彼女が教卓に立つと、生徒が足早に自分の席へと戻って行く。

 大なり小なり、威圧感や殺気を普通に放ってくるここの教師の中で、彼女は異質だ。

 威圧や殺気なんてものは、微塵(みじん)も感じられない。

 逆に何で武偵高にいるのか不思議なくらいだ。

 ちなみに彼女をあまり本気で困らせると、ルームシェアをしてる悪い意味で有名な女教師である蘭豹(らんぴょう)と綴の二人が飛んでくる。

 一体、どうしてそういう人間関係が生まれたのかは、誰も知らない。

 いや、知ったら逆に殺されそうな気がする。

「えー、今日は皆さんにお知らせがあります。なんと、この教室にカワイイ女の子が2人も来ちゃいますよ」

「おおー……」「マジで?」

 先生の知らせに他の男子は嬉しそうだが……

 俺にとっては最悪のニュースだ。

 なんか……イヤな予感がするぞ。

 そんでもって、イヤな予感は大体は当たる物だと、俺の知ってる誰かさんも言っていた。

「まずは最初に、去年の3学期に転入してきた神崎・H・アリアちゃんでーす♪」 

 ガタンッ!

 俺は机の下に潜り込むように盛大にずっこけた。

 マ ジ か よ !?

「アレ? 遠山君、どうしたんですか?」

「いや……何でもないです」

 実際は何でもなくはないが、俺が何か言ったら絶対に面倒な事になる。

 そして、今ので目立ってしまった俺は……チャリジャックから助けられた挙句に、ヒステリアモードになってしまった要因兼目撃者である彼女――神崎に目を付けられた。

 完全にガン見してますよ。

「先生、もう1人はどうしたんですか?」

 男子生徒の1人が、そう質問する。

「もう1人はですね。少し、遅れてくるそうなんです。ちなみに、もう1人は知っている人は知っている人ですよ」

 そう言われて、教室にいるほとんどの奴が首を傾げる。

 知っている人は知っている?

 武偵の有名人か何かか?

「ねえ先生」

「はい、なんですか? 神崎さん」

「あたし、アイツの隣に座りたい」

 そう言って指差してるのは確実に俺。

 ざわっ!!

 いきなり話の雰囲気をぶった切る流れに、教室がざわめく。

(え……ええー……)

 もう、意味が分からなさ過ぎて俺は絶句するしかない。

 なんだ、俺が一体何をした……いや、したな。

 主にヒステリアモードの俺が。

 その時の事を根に持ってるのか?

 だとすれば教室の奴らの前で俺を公開処刑でもするつもりか……

「何だか知らんがキンジ。早速、あんなカワイイ子から指名があるなんてついてるじゃねえか! いや、よかったな! 先生!! 俺が席を空けますよ!」

「あらあら……青春ねえ。やっぱり、最近の子は進んでるのかしら。神崎さん、武藤君が席を空けてくれるそうよ」

 武藤(バカ)を含め、ノリのいいこのクラスは、やんややんやと騒ぐ。

 おい、武藤。何だそのいい仕事をしましたみたいな親指と笑顔はなんだ?

 その表情にイラッときたので、武藤のお気に入りのバイクに穴を空けてカスタムしてやろうか。

 本気でそう思った。

「ところで、そこのあんたは何してんの?」

 また神崎は、話の流れを変える。

 彼女が俺の背後――教室の一番後ろを睨むようにして見る。

 今度は、一体何なんだ……

「せっかくのサプライズなのに、空気くらい読んで欲しかったな」

 どこかで聞いた声。

 いや、聞き間違える筈も無い声。

 そして、少し違うが……この状況に俺は覚えがある。

 中学の3年の春の光景が、思い起こされる。

 俺はゆっくりと、顔を後ろへと向ける。

「……霧」

 俺の、元パートナーが……そこにいた。

 あの時のように、俺に笑顔を向けながら立っていた。

 角度的に先生と神崎は気付いていたんだろう。

 だが教室の誰もが俺を見ていたために、彼女が現れた事に気づかなかった。

 さっきまで騒がしかった教室が、霧の出現に静まり返る。

「皆も知っているかもしれませんが、一応前に出て自己紹介をしてください」

 笑顔で先生がそう催促する。

 言われた霧は、セミロングより少し長めの髪を揺らしながらゆっくりと歩く。

 神崎だけは、誰? と言った表情だ。

 そりゃそうだ。

 さっきの先生の紹介だと神崎は去年の3学期にこっちに来た。対して、霧は去年の夏には武偵高を去って今までいなかったのだから知らなくて当たり前だろう。

「今日から一緒に学んで行く白野 霧です。これからよろしく……いや、ただいま。かな?」

『おおおおおおッ!』

 と、クラスのほとんどの男子が騒ぐ。

「まさかの白野さん!」「プラチナコンビ復活か!?」

 おい、誰だあのコンビ名出した奴。

 頼むから、やめてくれ。

 頭痛持ちのように俺は片手で頭を抑える。

 そしてチラリと霧を見る。

 早速、何人かの女子に囲まれて話をしているようだが……今、HR(ホームルーム)中なんだよな?

 騒いで大丈夫か?

 と、思っているとアイツが……神崎が俺の前に来た。

「キンジ、あんたのベルトを返すわ」

「なにっ!?」「神崎さんがキンジのベルトを持っているだと?!」

 お前ら忙しいな。

 神崎が俺のベルトを返した所で、何人かが反応する。

 しかも今、コイツ何気に俺の事呼び捨てにしてるし。

「おっと、これは怪しいですよ皆さん」

 注目を集めるようにそう言ったのは武藤に続いてのバカ――理子だ。

 去年まで俺と同じ強襲科(アサルト)だったが、俺と同じ時期に探偵科(インケスタ)に転科してきた女の子だ。

 コイツが口を開くと、ろくな事が無いからな……

「キーくんはベルトをしておらず、そのベルトを彼女が持っていた。つまりですね、ベルトを外さざるを得ない行為をし、そしてその行為が済んだ後……ベルトを忘れた」

 何かの警察モノのドラマみたいな感じで理子は喋り出した。

 そして、そんな理子のトンチンカンな事をいつの間にか聞いてる奴が増えてる。

 そんな中で、話を聞いてた1人の男子生徒がノリにあわせて、

「ベルトを外さざるを得ない行為とは何でしょうか……? 峰警部」

 そう質問する。

 お前らも、何で茶番にノってるんだよ。

「では、逆に質問しましょう。男性はどう言った時にベルトを外すでしょうか?」

「それは、手洗いだったり着替えだったり……」

「そこに女性と2人きりと言う状況が重なれば」

「……ハッ!? ま、まさか――」

「ええ、そのまさかです。ツインテールさんとキーくんはそう言う行為をした……つまり2人は既にただならぬ関係だったんだよ!」

『な、なんだってー!!』

 一部の奴らはそんな風に驚き、さらには、

「そんな、白野さんだけでなくこんなカワイイ子まで?!」「実はムッツリだったのか!?」「遠山君って、実は肉食系?」

 などと他の連中も言う。

 峰警部、まるで意味が分かりません。

 って言うか、ただならぬ関係ってなんだよ。

 俺と目の前にいる彼女はついさっき会ったばかりで、しかも俺は銃やらポン刀で追い回されたくらいの関係だぞ。

「へー、キンジもいつの間にそんな行為を覚えたんだか」

「お前はお前で、何でいつの間にいるんだよ」

 俺の隣にいた霧にそうツッコむ。

 なんか、以前に会った時には顔を見る余裕が無かったが……髪が伸びたせいか霧が少し大人っぽく見える。

 中身は変わってないんだろうがな。

 あと、お前いつもの良からぬ事を企んでるニヤニヤした顔になってるぞ。

「って言うか、理子。ただならぬ関係ってなんだよ」

「え? キーくん、言わないと分からない?」

「分かるかよ……」

「そりゃあ決まってるじゃん! ギャルゲーみたいな熱い熱い恋人の関係に、って事だよ! キャー!!」

 キャー!! じゃねえよ。

 周りの奴も無駄に(はや)し立てるように騒ぐ。

 新学期で新しい教室だって言うのに、早くもこいつら息が合ってやがるよ。前から思ってた事だが、ノリが良いのも考えものだ。

「はあ、お前らいい加減にしろよ……」

 と、俺が疲れたように言った瞬間――

 ずきゅんきゅん! と、2つの銃声が響く。

 その音は、今まで黙っていた神崎から発せられていた。

 十字架の様に両手を伸ばすその先には、片方ずつに銃が握られており……白い硝煙が銃口から出ている。

 

 チンチンチーン……

 

 空薬莢(やっきょう)が落ちた音も、2つ。

 クラス中の誰もが、突然の行動に凍りついた。

 そして、撃った張本人は顔を真っ赤にさせて――

「こ、恋人だなんて……ッ!! くだらないッ!!」

 そう言いながら、俺を睨みつける。

 おい、俺を見るな。

「今度からそんなくだらない事を言った奴には……」

 そして、クラスの全員に警告するように言った。

「――風穴を空けるわよッ!」

 それを聞いた俺の隣にいる元パートナーは、

「随分とやんちゃなのが来たね」

 相変わらずの笑顔でそう言う。

 霧、心の中で1つ言わせてくれ。

 お前が言うな……

 

 

「おいキンジ! 神崎さんとの関係について聞かせ――いねえ?!」

 昼休みになって、俺は教室から逃げた。

 後ろから同じクラスの誰かの声が聞こえたが……知らん!

 昼休み前からクラスの連中がずっと俺を見ていたからな。何かあるだろうと思って、俺は逃走した。

 そして、俺の隠れ場所の1つである理科棟の屋上へと避難する。

 新学期早々から疲れる事の連続だ。

 大体、俺はあのツインテールの転校生については何も知らないに等しい。

 それなのに、俺に聞かれても困る。

 にしても、意外だったのは……霧が帰って来た事だ。

 今日来るまでに、そう言った連絡は貰ってない。

 まあ、いつものイタズラなんだろうな。なんて思っていると、何人かの女子が喋りながら入ってくる。

 見つかって質問攻めをされたら困るので、屋上に唯一ある物影に隠れる。

「それにしても、白野さんが帰ってくるなんてビックリだったねえ」

 声からして、ウチのクラスにいる強襲科(アサルト)の女子か……しかも3人。

「あたしも、ビックリした。しかも、教室の一番後ろに突然現れたみたいだし」

「驚いてくれたなら、私は満足だけどね」

 また1人、続いて屋上にやってきた。

 その人物は声から予想できてたが……当然に、霧だった。

(アイツ、こんな所にまで何しに来てんだよ)

 なんて思っていると、他の女子は霧の登場に驚く。

「あっ、霧じゃん。教室では聞きそびれたけど、半年もどこに行ってたの?」

 金髪のベリーショートの子が、そう聞く。

「んー? まあ、お父さんの仕事の手伝いでね。イギリスとアメリカに行ってたよ。あとは、他の地方もちょこっと行ってたかな?」

「手伝いとはいえ、海外旅行じゃん。いーなー」

「って言っても、割とドンパッチする事もあったけどね。日本は、まだ割と平和だって事を実感するよ」

「へ、へー……」

 霧の言葉に他の3人は引き()ったような表情をする。

 お前の親は一体どんな仕事をしてるんだよ。

「そう言えば、キンジを知らない?」

 結局の所それが本題なのか、霧は俺の居場所を聞いてる。

 いや、俺はここにいるんだが……正直な話、出にくい。 

「キンジは見てないねー。ね?」

「あたしも見てないよ」

 栗毛のショートの子に続いて、金髪の子が答える。

「なんだ、てっきりキンジの事だからここにいると思ったんだけどね」

 すみません、ちゃんといます。

 相変わらず俺の行動パターンを把握してやがるな、霧の奴。

「そう言えばさ、朝に来た周知メールについて知ってる?」

「ああ、アレね。帰って来たばかりとは言え、私にも届いてるよ」

「そう言えば霧も、始業式に出てなかったもんね」

 事件の周知メール。

 ……ここに来て俺の話題かよ。

「アレってさ、キンジの事だったんじゃない?」

「あたしもそう思う。始業式にも出てなかったし」

 栗毛の子が言うことに金髪の子が同意する。

 それを聞いてる俺としては、思い出したくない事を思い出してしまいそうになる。

 ヒステリアモード的な意味で。

「チャリ爆破されたと思ったら、今度はアリアかー。キンジも不幸だね」

 同情するように黒髪のロングの子が呟く。

「その転入生について、私は知らないんだけどね」

「今までいなかったんだし、霧さんが知らないのも仕方ないね。あ、でもちょっとマズイかもよ霧さん」

「マズイって、何が?」

 黒髪の子が言うマズイって事について俺も気になったので、耳を傾ける。

「アリア、朝からキンジの事を探って回ってたよ。あたしにもいきなり、キンジについて聞かれたし」

「聞かれたって事は、答えたんでしょ?」

「まあね……『昔は強襲科(アサルト)で有名だったんだけどね』って、適当に答えちゃった。ゴメンね霧さん」

 おいおい、勘弁してくれよ。

 しかも朝からって事は、確実にチャリジャックの件が終わって以降から探られてるってことか。

「そう言えば、さっきは教務科(マスターズ)の前でも見かけたし……さっきの話からして確実にキンジの事を探ってるんだよ」

「え、って事は三角関係(トライアングル)?」

 栗毛の子が言った事に対して、金髪の子が驚く。

 なんでそこでトライアングルが出てくるんだよ。

 俺は内心、そうツッコむ。

 トライアングル――それは武偵高にいる生徒にとっては、10月のイベントの事を指す。

 ここ武偵高は、完全に縦社会だ。封建的だと言い換えてもいい。

 つまり、簡単には上の学年に勝負を挑む事は出来ない。

 だが、トライアングルの時には上の学年に挑む事が出来る。いわゆる下剋上(げくじょう)のシステムだ。

 それが何で今出てくるのか分からないが、おそらく話の流れ的にそれとは違うだろう。

 これだからガールズトークは分からん。

「何となく話の矛先が私に向いてるのは分かるけど、私とキンジはそう言う関係じゃないんだよね」

「えー? アレで?」

 霧の言葉に金髪の子が驚く。

 もう話の内容が俺には全く分からない。

「そもそも、私自身そう言うのはよく分かんないんだよね」

「え? もしかして霧さんって、男性と付き合ったこと無いの?!」

「全然?」

「えー、何か信じられないね。よく男性を尻に敷いてる感じなのに」

 段々と話が生々しくなってないか?

 と言うか、霧が男性と付き合う所なんて考えられんぞ。

「でもさー、霧がいるんだからアリアが介入するところなんてないんじゃない? 帰ってきたって事は、またキンジと組むんでしょ?」

 金髪の子がそう言うが、それはどうだろうな……

「あー、それはどうだろうね。任務(クエスト)には付き合うかもしれないけど、本格的にまた組むつもりはないよ」

「え、どうして?」

「まあ、事情があるんだよ」

「もしかして、キンジが転科した事と関係あるの?」

 栗毛の子が霧と、そんな事を話す。

 霧には、気を(つか)わせるな。

 何だか申し訳なく思う。

「転科したんだ……キンジ。関係があるって言えば、関係あるだろうね。だけど、私が本人のいない所でその人の事情をペラペラ喋る訳にはいかないでしょ?」

「それもそうね。って、そろそろ時間じゃん」

 金髪の子がそう言う。

 確かにもうすぐ時間だな。

 俺もそろそろ戻らないとマズイな。

 彼女達は、話しながら屋上から降りて行った。

 その事を確認して、俺も立ち上がる。

 それにしても、どうやら面倒くさい事になりそうだな。

 思わずため息が零れる。

「ため息を吐くと、幸せが逃げるらしいよ」

「――おわっ!?」

 いつの間にか隣に霧がいた。

 久々過ぎて、油断した。

 相変わらず気配も無く現れやがる。

 突然に現れたように見えるから、軽くホラー現象だ。

「お前、やっぱり気付いてたのか」

「気付くも何も、チラチラ見ながら盗み()きしてたクセによく言うよ」

 呆れるように彼女はそう言う。

 まあ、お前が気付かない筈がないよな。

 取りあえず、

「久しぶりだな」

 俺はそう改めて挨拶する。

「まあね。だけど、今はゆっくり話してる時間はないから……放課後にね」

 そして、霧はいつもの笑顔でそう返す。

 色々聞かれるんだろうな。

 そう思いながら、俺も小さく笑う。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 はてさて、朝のHR(ホームルーム)の反応からして……キンジとホームズの4世の間に何かあったんだろうね。

 そして、理科棟の屋上での話によれば彼女はキンジの事を探っている。

 と言う事は、上手い事にHSSを見られたんだろうね。

 取りあえず、キンジと色々話をしながら神崎との間を取り持とう。

 と言う訳で……早速、メールでキンジと話す約束をした私は、第3男子寮に到着していた。

 ちなみにいるのは海側。

 キンジの事だし、どうせ表から行ってもいい顔はされないだろうね。

 大体、男子寮に女子がいるのは普通は可笑(おか)しい。

 変なウワサも立つだろうね。

 別に、私は構わないんだけど。

 だからまあ、こうして空き巣のごとく別ルートで来てる。

 私は瞬時に男子寮の見取り図を頭に思い描く。

 えっと、キンジから貰ったメールの書いてる部屋の番号からして……

 あのベランダか。

 私はフックショットを、キンジの部屋のベランダに向かって放つ。

 そして、引っ掛かったのを確認して巻き上げる。

 こんなの使わなくても、体一つで登れるんだけどね。

 だけど、そこまでするとAランクに似合わない身体能力だし、自重自重だね。

 ベランダに到着して着地。

 中にキンジはいるけど、こっちに気付いてない。

 ソファーに寝転んでる。

 なので私はコンコン、と窓を叩く。

 音に反応して、バネ仕掛けの様にキンジは体を起こした瞬間に私と目が合い、驚く。

 表情からして「なんでベランダから来てるんだよ……」って感じ。

 疲れたような顔をしながら、窓の鍵を外して開く。

「お前、普通に表から入って来いよ」

 開口一番にそう言ってきた。

「せっかく気を遣って裏から来たのに、酷いね」

「裏って言うか……ベランダに人が現れたら普通に驚くだろう」

「男子寮に女子を連れ込んでるなんて言われたくないでしょ?」

「まあ、その心遣いに感謝はするけどな……って言うか、その背中の荷物は何だよ?」

 キンジは私が背負っているバックパックを指差す。

「ああ、コレ? イギリスでのお土産。他にも色々あるけどね」

「別にそこまで気を回さなくてもいいって言うのに……」

「気を回すって言うか……単純に余ってるから分けに来たんだけどね。他の人たちにも分ける予定だけど、まあついでだと思って貰っておきなよ」

「お前がそう言うなら、ありがたく頂戴(ちょうだい)しておくけどな」

 キンジに受け取って貰えたので、取りあえずバックパックだけを部屋の中に入れる。

 私は部屋には入らず、代わりにキンジが部屋を出て、ベランダへと来る。

 私もキンジもベランダの手すりに腕を乗せて隣り合い、夕方の東京湾を見る。

「転科、してたんだね」

 私は初めに、そう切り出す。

探偵科(インケスタ)に、な。あんな物騒な学科にいるのはやめたんだ。それに、武偵をやめる俺にとって……あそこにいる意味は、ないしな」

「意志は固そうだね」

「当たり前だ……」

 キンジは悲痛そうに顔を歪める。

 金一が亡くなった時の事を思い出してるんだろうね。

 ま、本当は生きてるし……そして、その兄がいなくなる原因を作ったのは私なんだけどね。

 ふふ、金一に劣らず、キンジもいい表情してたよね。あの時は。

 そんな事を思っても、私は顔には出さずに感慨深く言う。

「そっか……」

「悪い、霧。俺には、武偵を続ける意味が無くなったんだ。だから……」

「全部言わなくていいよ。別に引き止めたりはしないから」

「……すまん」

「ただ、少しだけ心配してる事はあるね」

 私がそう言うと、キンジは「何だ?」と言った表情を向ける。

「キンジは、何年も武偵としての日常を歩んで来たんだよ? だから、別の日常を今更歩めるかどうかが、心配なんだよね」

「相変わらず手痛い事を言うよな、お前」

「だって、キンジはコミュニケーション能力低いし」

「…………ほっとけ」

「クリスマス以降、私がいない間、どうせ日陰みたいに過ごしてたんでしょ?」

「………………」

 私の言葉にキンジは何も言わなくなった。

 ここまで分かりやすいと、相手の思考を読む時にあんまり深く考えなくて済むから助かるよ。

 呆れるようにして私は、

「こりゃダメかもね」

 と言った。

 やめたとしても絶対にキンジは環境に適応できなくて、武偵に舞い戻ってくる。

 まあ、そうじゃないと逆に困るけど……いや、どっちでもいいのかな?

 さすがの私でもそこまで先の事は分かんない。

 キンジは、そんな私に怪訝(けげん)そうな顔を向けてくる。

「何が、ダメなんだよ」

「んー? 知りたい?」

 私はそう言ってニヤニヤとした表情を作る。

 その私の顔を見たキンジは、遠慮するような顔をする。

「やっぱいい……お前のその表情を見てると、聞いたらダメなような気がする」

「まあ、聞いて行きなよ」

 遠慮するキンジに私は迫る。

「いや、頼むからやめてくれ」

「私の予想だと、キンジはね――」

「待て待て待て! 聞きたくねえ!」

 キンジが耳を塞ぎ、私から距離を取って言葉を聞く事に抵抗する。

 

 ピンポーン。

 

 そんな時に、インターホンが鳴る。

「な、なんだ? 客か?」

 そう言って、キンジは助かったとばかりに足早に玄関へと走っていく。

 逃げられたか。

 

 ピポピポピンポーン!

 

「誰かは知らないけど、分かったからそんなに鳴らすなよッ!」

 玄関に向かう途中に何回も鳴らされて、キンジは怒鳴る。

 なんだろうね……なんとなーくだけど、玄関の向こうにいる人物が予想できる。

 私の予想通りの人物なら、あんまり話したくはないんだけど……

 まあ、私の家族の目的のためだし、我慢しよう。

 それに、話してみれば案外面白いかもしれないし。

 と、希望的観測をする。

「遅い! あたしがチャイムを鳴らしたら5秒以内に出ること!!」

「か、神崎ッ?!」

 特徴的な高い声が玄関から聞こえて来たかと思うと、キンジは驚くような声が聞こえる。

 やっぱりね。

 キンジとホームズの4世が言い争っている声を聞きながら、私は靴を脱いでベランダからリビングに入る。

 取りあえず、バックパックの中に入ってるお土産を整理しておかないと。

 ちなみに中身は普通に紅茶とか食材、おまけで盗聴器を入れてる。

 ま、情報収集は大事だよね。

 ちなみに理子のための盗聴器じゃない。

 私が個人的に仕掛ける物。

 理子にとってホームズの4世とは個人的な因縁だから、私の手は借りたくないらしい。

 自分の手でやりたい事って言うのは、あるからね。

 私も自分の手で人を切り裂きたいし、その時に邪魔されたくはないから分かる。

 だから私は、キンジとアリアを結び付けること以外には理子に手を貸さない。

 でも、応援はしてるけどね。

 取りあえず、ちょいちょいと盗聴器を仕掛ける。

 あとは普通に食材を整理するためにキッチンへと、バックパックを持って行く。

 整理が終わって紅茶の準備をしていると、キンジがトランクを引き()って来た。

「なにしてんの?」

 私が尋ねると、キンジは疲れたような顔をして、

「なんか知らんが、コイツを持ってアリアが押し掛けて来たんだよ」

 足元にある、車輪が付いているストライプ柄のトランクを指差しながらそう言う。

 私は、意味が分からないと言う風な感じで、呟く。

「神崎さんが、押し掛けて来た……ねえ。って言うか、玄関から聞こえた時には神崎って言ってたのに、なんで今は名前で呼んでるの?」

「アイツがそう呼べって言ったんだ。全く、こんな荷物持って来て俺に何の用だって言うんだ……」

 ため息を吐きながら、キンジは頭を抑える。

 トランクなんだから中身なんて大体は、衣服をいれるに決まってる。

 って言う事は……居座るつもりだろうね。

 彼女は今日キンジと会ったばかりだって言うのに、もう押し掛けてくるなんて。

 行動力があると言うか、強引と言うか。

 私からすればナンセンスだね。

 手洗いの方から水の流れる音がしたかと思うと、ホームズの4世がリビングに現れる。

 まるで部屋を(うかが)うように、ぐるりと見回したかと思うと、私と目が合う。

 そして驚いたような顔をする。

「あんたは……同じ教室にいた」

「どうもどうも」

 と、私はそう軽く彼女に答える。

「なに、あんたはあの子と一緒にここに住んでんの?」

「ここは男子寮だぞ。女子と一緒に住めるか……それに、この部屋は俺1人だ」

 キンジは苛立つように神崎に答える。

 女子と一緒に同じ部屋に住む。

 そんな状況になったらキンジは軽く発狂するかもね。

 キンジの言葉に神崎は納得したような顔をする。

「そう、ならいいわ。それに、ちょうどよかった」

 ――ちょうどよかった。

 その言葉に違和感を覚えると同時に、すぐに彼女の次の言葉が予想できる。

 彼女は窓際まで移動したかと思うと、クルリと振り返り、

 

「――あんたたち2人、あたしのドレイになりなさい!」

 

 そう高らかに宣言した。




一旦別れたけどしばらく時が経って再会する。
何このヒロイン。

それと殺人鬼が一番常識があるって言うのも、ある意味皮肉と言うか……

ともかく、感想と意見をお待ちしています。

用語解説

IMI マイクロウージー……原作でもただ単にUZIと言ってるが、セグウェイに載せられているのは正式にはマイクロウージーらしい。間宮 あかりが使用。ちなみにCODのゲームでよく見られるのはミニウージーだと思われる。分類的にはマイクロはマシンピストルでミニはサブマシンガンとなっている。
大きさ的にもウージー→ミニウージー→マイクロウージーとなっている。
フルオートでの性能としては集弾性が微妙らしく、実用的ではない。が、信頼性は高い。
20、25、32発の弾倉(マガジン)がある。

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