緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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うん、マンネリですがな。
原作以降のネタしかほとんどありませんがな。
だが、大丈夫。まだ慌てるような時間じゃない。


18:嫉妬の巫女

 

 どんな日常にも急展開って言うのはあるもの。

 私の武偵高生活は存外に退屈はしてない。

「ゆゆゆ、許しません! キンちゃんに付く悪い虫はっ! 殺虫です!」

 などと、日本刀を構えながら供述してる目の前の人物――星伽(ほとぎ) 白雪は、私を恨みとか羨望とか、色々と混じった目で見てくる。

 まさしく一触即発と言った感じで、誰もいない武偵高の新棟を建設する予定地で二人きりな訳だけど。

 どうして、こんな面倒で楽しそうな事になったのかは……

 恐らく、数時間前の事が原因なんだろうな~。

 

 

 発端は不知火の一言から始まった。

「白野さんと遠山君って、かなり仲が良いけど付き合ってるのかな?」

「ん~?」「……は!?」

 私の静かな反応とは正反対にキンジは大声を上げる。

 と同時にざわっ、と教室にいる人が私達に注目する。

 今は昼休み。

 食堂から帰ってきてそれなりに人とか他の教室から来ている人もいる状況。

 そんな大声上げたら普通に目立つに決まってるでしょうに。

「なにっ!?」「二股!?」

 しかも、周りの人は話の内容も聞いてるっぽいし。

 あと、理子は理子で微妙に反応してる。

 他の人に見えないように目を吊り上げてキンジに殺気を送ってる。

『やめておきなよ』

 と、アイコンタクトで伝える。

 その瞬間に「むぅ」と言った感じに理子はつまらなさそうな顔をする。

 そして、他の人たちに誘われたかと思うと一緒に去って行った。

 嫉妬かな~。

「いや、そもそも俺と霧はそう言う関係じゃない。ただ単に武偵のパートナーってだけだ」

「って、遠山君は言ってるけどそこの所どうなんだい? 白野さん」

「悪いけどそう言う浮いた話って言うのは無いよ」

 考えながらも会話はしっかりと聞いてたから普通に答える。

 そもそも私に恋愛なんて分かんないんだよね。

 どう言った感情かも知らないし。

「なんだ、残念」

「何で残念なんだよ」

「キンジ、そんなの決まってるよ。話のネタにでもするつもりだったんでしょ」

「はは、武偵では恋愛話なんてあんまり聞かないからね。それに、二人なら付き合ってると思われても不思議じゃないし」

 と、微笑みながら不知火はそう言う。

 その瞬間に、教室の後ろの扉が開いたかと思うと、何か冷たい視線が私に刺さる。

 この視線は星伽の巫女だろうね~。

 入学してから何度も経験してるから既に分かる。

 視線を感じる方をチラリと見ると……お~、恨めしそうな目で見てる。

 意味は無いけど、取りあえず勝ち誇ったような笑みをしてみると、彼女の表情がさらに険しくなった。

 歯軋(はぎし)りが聞こえてきそうだよ。

 う~ん、なかなかに良い反応を返してくれる。

 それから適当にキンジ達と話した後、そのまま授業へと入る。

 その間に何度となく視線が向けられた。

 これは、相当に来てるね~。

 そして、放課後――

 専門学科の授業も終わって帰り道。

 寮に帰ろうと思って校門の方へと歩んでいると、その校門の影から人が出てくる。

「……白野さん、少し時間良いかな?」

 刀を入れる刀袋(かたなぶくろ)を下げた星伽の巫女が私をそう呼びとめる。

 まさか待ち伏せされるとは思わなかったな~。

「うん? どうしたの?」 

 と、とぼけたフリをして私は聞く。

「お話があるから……付いて来て」

 光の無い感じの目で、私にそう言ってくる。

 ここで帰ったらどうなるかな~、と思ったけど……誘いに乗ってあげよう。

 星伽の巫女の後に付いて行くと、そこは武偵高の新棟の建設予定地。

 まだ何の建設材料も置いてない。

 ただの空き地。

 二人きりになるには、打ってつけだね。

 歩みを止めて、彼女は私に向き直る。

「それで、お話って何かな?」

「入学式の時、キンちゃ――遠山君は、貴女とはただのパートナーだって言ってたけど……本当にそうなの?」

 私とキンジの関係を疑うような発言。

 この場合の意味としてはつまり、"パートナー以上の関係"かどうかって話だよね。

 ………………。

「実はそれ以上の関係って言ったらどうする?」

 サー、と星伽の巫女の顔から血の気が引いて行く。

「もう既にあーんな事やこーんな事も経験しちゃったって言ったら?」

「な、なななな………き、ききき」

 壊れたレコーダーみたいに奇怪な声を出し始めた。

 やだ、凄く良い反応。

 見ていて楽しい。

「キエーーーーーーーッ!」

 どう考えても女の子の出す声じゃない。

 そんな声を上げながら星伽の巫女は袋から刀を取り出し、鞘を投げ捨て、正眼に構える。

「ゆゆゆ、許しません! キンちゃんに付く悪い虫はっ! 殺虫です!」

 

 

 そして、今に至ると……

 殺虫って刀でするものだっけ?

 まあ、それはそうとしてちょっと弄り過ぎたかな?

「決闘です! キンちゃんを賭けて決闘ですッ!」

「それは一応、非推奨行為って事になってるんだけどね」

「関係ありません! 汚物は消毒です!」

 ダメだこの子。

 話をまるで聞いてない。

 しかも本人がいないのに、勝手にキンジは賭けの対象にされてる。

 だけど今更、嘘って言うのもつまらないしな~。

 ちょっとだけ遊んでみようか。

「てんちゅーーーーッ!!」

 刀を振り上げて、凄い勢いで迫ってくる。

 常人に比べて、かなり速い。

 アレだね……パトラやカツェ先輩みたいに魔力とかで底上げしてるんだろう。

「――おっと」 

 ヒュンヒュンと、紙一重で避けながら後退する。

 まだまだ余裕だけど。

 あっちは何だか、動揺してるのと興奮し過ぎで早くも軽く息切れしてる。

「す、素早しっこいですね……」

 そうじゃなくて、星伽さんが動揺し過ぎて動きにムラがあり過ぎるだけなんだけどね。

「そんなにキンジの事が好きなんだ」

「な、なんの話ですか! キンちゃんとは確かにそう言う関係になりたいと思ってるけど……」

 最後あたりが小さくて聞こえないけど、読唇術で聞こえてるのと変わりない。

 それと、むしろバレてないと思ってたのかが疑問なんだよね。

 あんなの勘がいい人とか関係なく、普通に察しがつくと思うけど……余程、鈍感な人じゃない限りは。

「って、関係ありません! キンちゃんを……キンちゃんを取ったこの泥棒猫ーー!!」

 盗んだ覚えは無いんだけどな~。

 なんて考えながらも、私に向かって星伽さんは突きを繰り出してくる。

 私はそれを、

 

 あえて"避けない"。

 

 迫りくる刀……風を切るように迫ってくる。

 だけれども私は何もしない。

「――っ!?」

 私の違和感に気づいたのか、星伽さんは突然に急ブレーキをして地面を滑る。

 完全に制止した時には、刀は私の胸の前で寸の所で止まっていた。

 まあ、防弾・防刃制服とは言えあれだけの速度で突かれたらタダでは済まなかっただろうね~。

 だけど、何もしなかったら攻撃をやめるとは分かってたよ。

「どうして……避けないんですか?」

「うん? 星伽さんならやめると思ってたから」

 にこやかに私はそう言う。

 別に、彼女を信じて何もしなかった訳じゃない。

 いや、ある意味は信じてたってことかな?

「……理由は、なんなんですか?」

「一言で終わりそうなものだけどね。理由は簡単。キンジに嫌われるような事をする筈がないと思ってたから」

 分かってるのなら最初から避ける必要も無いけれど。

 最初に避けてたのは何となくと、ちょっと実力を見てみたかったって言うだけ。

「仮にも背中を預けるパートナー……そのパートナーが突然に幼馴染みの所為(せい)で怪我を負ったなんて聞いたら、キンジはどう思うだろうね~」

「………………」 

 そう言われて星伽さんは押し黙る。

 現に既に襲われてる訳だし……以前からちょっとした嫌がらせは受けてたけどね。

 全部看破したけど。

 そして、彼女は段々と涙目になる。

「う、うぅ……キンちゃんが、キンちゃんが取られちゃったよぅ……私に、勇気が無いばっかりに……」

 急に泣き出して、彼女は刀を力無く下ろす。

 これが恋してる少女の末路か。

 そうしたのは私だけども。

 このまま誤解を与えたままにしてもいいんだけど……それはそれで、話がややこしくなりそう。

「あ~……ゴメンゴメン。ちょっとからかい過ぎたよ」

 と、私は申し訳なさそうな演技をする。

 その瞬間に彼女は「――え?」と、言いながら私を見る。

「さっきのは嘘だよ」

「……う、そ?」

「そうそう、嘘。キンジとは別になんて言うの? 恋人とかそう言う関係じゃない」

「あんな事やこんな事って言うのも……?」

「嘘だよ。つまるところは、私がちょっとカマ掛けただけだよ」

 そう言った瞬間、ポカンとした表情をする星伽さん。

 ちなみに言うと、あんな事やこんな事って言葉に具体的な意味は含んでない。

 と言うか、私自身分からずに発言してる。

 つまりは向こうが勝手に想像するように、意味があるように言っただけ。

「しかし、恋は病気とはよく言ったものだね~。まさかあそこまで過剰に反応するとは……」

「う……」

 私に言われて、勝手に誤解した挙句にみっともなく泣いてる所を見られて恥ずかしいのか私から眼を逸らす。

 誤解させたのは私だけどね。

 あと、顔も赤い。

 それと出来れば泣き顔はもう少し見ていたかったな~。

 なんて、思ったり……

「いつから……分かってたんですか?」

「むしろバレてないと思ってたのかな?」

「え?」

 いや『え?』って……今まで本当にバレてないと思ってたの?

 どう考えてもほとんどの人は見て見ぬフリしてる感じだったけど。

 もしかしてこの子もキンジと同じ感じで鈍感?

 と思ったけど……それとは違う感じだよね~。

 どちらかと言うと、キンジが絡むと周りが見えなくなるとかそんな感じだろうね。

「バレてたんですか……」

「まあ、それはバッチリね」

 何度も言うけど、アピールが露骨だし。

 対して彼女は両手を頬に当てて恥ずかしそうにする。

「さ、さすがはキンちゃんのパートナーですね」

 それは関係ない。

「取りあえずは、そうだね。誤解を解かせて貰うと、私とキンジはパートナーでそれ以上の関係ではないよ」

「……だ、だけど。窮地に陥れば、吊り橋効果が働いてそこから恋が芽生える可能性もあるって――」

「う~ん。そう言うのはないね」

「ないの?」

「うん、ない」

 そもそも恋なんて分からないって言うのに……どうやって芽生えるって言う話なんだけどね。

「今まで窮地(きゅうち)に陥った事があるけど、そういった経験が無いんだよね~」 

 しかもキンジにとって窮地であって私にとっては全然、窮地って感じじゃない。

 むしろ窮地に陥ってるキンジの反応を見て楽しんでる。

「そうですか……」

 星伽の巫女は何やらホッとしてる。

 理由は大体分かるけどね。

 入学式以降から見られてきたけど、逆に私も彼女を観察してたから大体は分かる。

 大体と言っても、癖や行動のパターンとかそう言った事はさすがにまだまだ。

 それでも、親しい人以外にはバレない自信はあるけど。

「ふふ、安心した?」

 笑顔で尋ねると、なにやらわたわたと慌てだす。

「い、いいいや! さっきのはそう言う意味じゃなくてですね」

「何で今更誤魔化してるの?」

「うぅ……」

 唸ってもしょうがないと言うのに。

 そして、彼女は何かに気づいたように突然に頭を下げる。

「あ、あの遅れましたけど、ごめんなさい! 私が勝手に勘違いして、こんな襲ったりなんかして」

「それこそ今更って感じだけどね。私の机に細工してたり、下駄箱に何か変な手紙入ってたり」

 一体何人が過去に私と同じように誤解されて、こうして襲われたり、変な事されてたりしたのだろうね~。

 いや、私は違うか。誤解されてるんじゃなくて、誤解させてる。

 ややこしい事になる前には自己処理するけどね。

「……そうですよね」

 目に見えてしょんぼりしてるね。

 この状況は、使えるね。

 脅迫に――

「と言う訳で、キンジにバレされたくなければ――」

「ひっ……」

 

「私と友達になって頂きます」

 

「へ?」

 怯えた表情から呆然とした表情へとすぐに切り替わった。

 私の一言でまるでスイッチみたいに。

 随分とまた分かりやすい反応だね。

「お、お友達?」

「そうそう、お友達」

「どうして?」

「うん? 面白そうだから」

「そうじゃなくてですね」

 理由を聞いてるんじゃなかったのか。

「だって、私は――」

「なるほど。勝手に暴走した挙句にパートナーを襲っちゃってる面倒な女だもんね」

 そう言った瞬間に目に見えて彼女は顔が青くなる。

 そして、胸に何かが刺さったかのようにして抑える。

 見事にクリティカルヒットしたね。

「とまあそれは置いておいて。別に、あれぐらいの事なら私は笑って許すよ」

 と、笑顔で言う。

 私の正体を知ってる人がいたら、どの口が言うんだと糾弾されるだろうけど。

 今の私は白野 霧であってジャックではないから問題ない。

「……いいんですか?」

 突然の申し出を真正面から言われて戸惑ってるのか、自信がなさそうな声をしてる。

 ここで彼女の人見知りする癖が出たかな?

 さっきまでは暴走気味で、その癖も無かったように見えたけど。

「いいんだよ。キンジもその方が喜ぶでしょ」

「………………」

 遠くに飛ぶカラスの声が聞こえるほどに、無言が流れる。

 さてさて、どう転ぶだろうね。

 と、思ったけど。

 少しイタズラしよう。

 彼女の意識は思考の海に入ってる。

 静かに背後に回って両肩を掴む。

「ひゃうっ!?」

 ジャンヌみたいにビクッとしちゃって……

「あ、あれ? いつの間に……」

「いつの間にも何も考え過ぎなんだってば、こんなに近づかれるまで気付かないなんて」

 ひょっこりと、彼女の目の前に移動する。

「簡単な話だよ。貴女は何も言わずに『はい』、と言えばいいだけ」

「何も言わずにって、それは矛盾してるんじゃ……」

「四の五の言わないってね。返事は?」

「……はい」

 静かに彼女は頷く。

 少々強引だったけど、まあ大丈夫か。

 この子も人見知りするせいで、こちらから歩み寄って引っ張って行かないとダメな感じだね。

 キンジが絡めばその限りでもないっぽいけど。

 それと何だか彼女は嬉しそうな感じがする。

「「ふふ……」」

 そして、お互いに笑い合うのは同時。

 夕焼けの空の下の出来事であった。

 

 




星伽白雪、懐柔。
この殺人鬼、敵も多いが味方もそこそこいるのが厄介である。

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