緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんサイコにカワイイ

というわけで、比較的日常話なのでホロライブでも見ながら読んで下さい。

推しはししろん。
サイコな推しはすいちゃん。


103:平和な日常

 

 学校側に停学中の生徒が問題を起こした件について報告して、銃刀法違反の現行犯逮捕をしようとしたが他の生徒に見られたために追い払う形で見送ったと言い訳をした。

 実際問題、逮捕者が出たら学校側も困るだろう。

 どこぞの学校で犯罪者が出た、なんて評判が悪くなって受験に来なくなる可能性もあるからね。

 なのでこの手の生徒の逮捕には少し注意が必要。

 あくまでメディアとかに取り上げられないよう、生徒達の耳に入らないようにこっそりする必要がある。

 そこら辺は分かってるのか校長や教頭も特に何も言わなかった。

 小耳に挟んだ何人かの気の短い教師は少し不満そうだったけど。

 しかし、何やら嵐の前の静けさって感じで大きなことが何もない。

 キンジの事だからその内どっかで巻き込まれるだろうけど。

 

 ちょっとしたケンカがあった翌朝。

 私とキンジが教室で視線が合い、

「昨日はありがと。余計なことしなくて助かったよ」

「あ、ああ……殴られてただけだけどな」

 短くそれだけ言って、席に着いた。

 望月も教室に入ってきて授業が始まる前にキンジに声を掛ける。

「と、遠山君。……昨日は」

 お礼を言いたいんだろうけど切り出せずにいる。

 キンジは大して記憶してなかったのか――

「昨日?」

 と、とぼけた顔をしてる。

「あの、自転車置き場で……あの……」

 望月が自転車置き場のワードを出したところでキンジは「ああ」と思い出した表情をする。

 武偵高で日常茶飯事に殴られ慣れてるせいで忘れかけてたね。

「…………」

 望月はその大きな目を潤ませて、感激してる感じだね。

 ………………。

 その様子にピキンと、私は勘付いた。

 ……あの、ちょっと?

 キンジのこといいかも、みたいな感じに思ってない?

 また(メス)が1人。

 いや……人のこと言えないけど。

 でも、キンジに惚れたのは私が最初……でもないか。

 恋を自覚したの最近だし、中学の時に既に惚れてるのいたし。

 なんか、高校2年に入ってから飛ぶ鳥を落とす勢いで女を落としてない?

 ……どうしよう。

 このままだとキンジが無駄に無自覚ハーレムを結成してしまう。

 私との時間が少なくなるのはちょっと……困る。

 最終的にみんな不審な死を遂げて貰う計画でも立てようかな?

 最初はキンジが好きな人に成り代わればいいと思ってたけど、私自身に恋して貰いたいし。

 そうすればキンジと一緒にいれるし。

 不審な死とは言っても事故とか、戦役を利用して敵の組織に殺されたとか自然な流れで死んで貰って……

 ざっくりした計画としては内輪揉めになるように裏切者がいるとか情報を流して疑心暗鬼になって、誰かが1人になったところを順番に消えて貰う。そうなると、まずは狙うのはレキ辺りかな~? 色金の声が聞こえるのは邪魔だし。ワトソンとジャンヌもいいかも。でもジャンヌは理子の友達だし、あんまり傷つけたくないしな~。どうせならジャンヌがこっちに寝返るように仕向ければいいか。理子を人質にして、理子を失いたくなければ協力しろ的な脅迫をして、それでレキをおびき寄せて貰って、片付ける。優先順位はどうしようかな? ジャンヌを除いてレキ、ワトソン、白雪、神崎、って感じかな? お姉ちゃんがどう動くかが問題だけど、多分、そろそろ一度くらい交渉すると思うんだよね。

 うーん……何も考えずに()るのは簡単なんだけど、家族の命が掛かってるから個人的な計画は考えるだけ無駄かな?

 お姉ちゃんが一言ゴーサイン出してくれればあとは楽に終わるのに。

 ああ、でもせっかく出来た遊び仲間が活躍できないのは楽しみに欠けるか。

 そう言えばエニグマのみんなは今日も元気で()ってるかな?

 何となくそう思って、私は携帯の画面を開く。

 ニュースを検索『逆位置の魔術師(ウィザード)』――先日イギリスのブライトンにて殺人事件。被害者は40代の夫婦。被害男性はマジックで使われる剣刺しボックスの中で串刺しの状態で発見される。その刺された剣の1本にアルカナの『皇帝』が逆位置になるように刺さっていた。被害女性は離れた位置で同じくマジックで使われる水槽に手足を縛られた状態で溺死しているのを発見される。水槽の外側にアルカナの『力』が逆位置で貼られていた。警察はこの事件を逆位置の魔術師(ウィザード)と称される凶悪犯の犯行と見ており――

 ふむふむ、なるほど。ワイズは絶好調っと。

 R.I.P(リップ)は……ニュースに載ってないか。そもそも彼女の殺し方って証拠があんまりないんだよね。事件にもならずに衰弱死で片付けられることが多いから……フランス、衰弱死で検索――フランスにて謎の衰弱死体。2週間前にオルレアンにて謎の衰弱死を遂げた70代の男性の死体が発見された。男性は持病があり、通院生活を送っていたため持病の再発により病死かと考えられていたが、担当医によると急死するような重病ではなかったとコメントしている。フランスの各所で謎の衰弱死を遂げた者がいるため、何者かの同一的な犯行ではないかと懸念する声も上がっている。

 ほうほう、頑張ってるね。

 次はキアとミア。

 キアはほとんど健全なニュースしかないから、どちらかって言うとミアの方がニュースになってるかもね。

 ロンドンの死神、また現る――11月前からロンドンに姿を見せなかった死神がまた現れたと通報があった。通報をした青年によるとフード付きの黒いローブに大鎌を持った人物をトラファルガー広場周辺で見たという。警察や武偵が現場に向かったが周辺に特に不審な人物は見当たらなかった。が、同日に男性1名が行方不明になっている。警察と武偵は何か関連性があるとみて調査を行っている。

 ミアも相変わらずの男性嫌いだね。

 キア……お姉ちゃんのストーカーでも殺したかな?

 あんまり関連性がないように()りなさいとは教えてるから、そう簡単にキアに辿り着かないようにしてはいるだろうけど。

 ウルスラはどうかな?

 イギリス、ワイト島にて集団心中……1週間前か。

 記事には――ワイト島に観光に来ていた10人の若い男女が集団で死んでいるのが発見された。被害場所は田舎のあるホテルで、被害が気付きにくい場所である。死体は死後1週間が経っており、かなり遅れての発見となった。被害者は共通して携帯が破壊されており、連絡が取れない状態で何らかの事件があったとみている。イギリスでは集団で死ぬ事件が1年の間に何度か発生しており、UNKOWN(何者とも判らぬ者)と呼ばれる者の犯行ではないかと噂されているが……閉鎖空間でヒステリーを起こして死んだだけではないかと言う話も上がっている。

 通称のついてる同士はみんなバレずに頑張ってるね。

 エニグマじゃないけどアリスは――日本で行方不明の少女の報告相次ぐ。2、3ヵ月の間に少女が行方不明になる事件が6件、報告で挙げられている。イギリスで少女が行方不明になる点と状況が似ているために何らかの関係性があると見て、ロンドン武偵局とロンドン警視庁の双方と連携を取り調査を進めている、か。

 私の部屋でちょいちょいどっかに行っては帰ってくるアリス。

 部屋にいる彼女の様子は至って普通。

 年相応の少女って感じで、たまにイタズラで私の危ない刃物とかを興味深そうに触ったりしてる。

 だけど聞き分けはいいのか注意されたらすぐにやめるけど。

 エニグマに誘ってもいいんだけどね。

 ちょっとばかり彼女の力を少しは見ないと何とも言えない。

 バレない辺りまあ……やり手ではある。

 実力は心配してないけど、割かし得体が知れないからね。

 別に子供だからそんなに気にしなくてもいいかもしれないけど。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 放課後、レキが美術部でいないので1人で帰る。

(アイツ、絵上手いんだよな……油絵でも描いてんのかなぁ)

 珍しくちょっかいを掛けてくる赤桐もいつの間にかいない。

 アリアや霧、バスカービルのみんながいれば何かしら誘ってきたり話しかけてくれただろうに。

 ……なんで残念がってるんだよ、俺。

 武偵高での日々の方が気が楽だったなんて、何を考えてるんだ。

 俺は正義の味方に絶望して、嫌だからこっちの世界にきたのに。

 考えたらダメな気がして俺は、心のバランスを取るために……子供くらいしかいない東池袋中央公園のベンチで夕暮れの時間を潰すことにした。

 ここは都市部の公園の割には人が少ない。ぼっち的には穴場だ。

 落ち葉が舞う公園。風にのって地面を滑るさまは自由な感じがして風情がある。

 って何を俺は老人みたいな事を考えてるんだ。

「ビアンカ、だ、だめだよ!」

 ほんわかする……困りつつも優しげな声。

 あー、心当たりがある声だ。

 なんでこんな所にいるんだよ……

 つい振り向いた視線の先には、毛のふさふさしたコリー犬。

 ふさふさって言うかもっさもさだな。冬毛なんだろう。

 だが不潔さを感じないから、手入れはしているんだろう。飼い主は相当に世話好きだな。

 などと思いながらも、そのコリー犬を引っ張る飼い主さんと目が合った。

 暖かそうなコートとロングスカートという私服姿の萌と、ドラマのように目が合ってしまった。

 これじゃ即退散って訳にはいかないな……まあ、苦手な女性だからって変に避ける必要もないが。

 多少は霧に(なら)ってコミュニケーションを取らないとな。

「よっ」

「と、遠山君!?」

 俺が声を掛けたとところで飛び上がるように萌は驚いた。

 何をそんなに驚いてるんだか……

 そんなに奇跡が起きた! みたいな表情をしなくても。

 まあ、でも奇跡的か。

 こんな都市部で知り合いと出会う可能性なんて低いし。

「散歩か?」

 当たり障りのない話題を振る。

 まあ、見ての通りだろうけど。

「うん、そうなの」

「近くに住んでるのか?」

「うん」

「じゃあ、あまり奇跡じゃなかったな」

 と俺が言うと、

「と、遠山君も思ったの? ちょっと奇跡っぽかったよね、今の。ねっ」

 いい笑顔だ。朗らかで、温かく無邪気な感じだ。

 霧もいい笑顔するんだが……時折恐いんだよな、アイツの笑顔。

 なんて考えてると、

「あ、あの、遠山君っ、ちょっとここで待ってて! ビアンカ、おすわり! おすわり、おーすーわーりー!」

 と、あまり言うことを聞かないビアンカをなんとかベンチ前に座らせ……

 女の子らしい、可愛らしい走り方でちっこい(まり)みたいなのがついた毛糸のマフラーを跳ねさせながら、サンシャインシティの方へと走って行く。

「……」

 まあ、待ってやるか……

 こんな車の通りが多いところで犬を置いて退散する訳にもいかないし。

 しばらくビアンカを眺めながら待っていると……たったった。

 運動神経をあまり感じさせない走り方で萌が戻ってきた。

 見れば、マックのセットを2袋買ってきてる。

「これ、あげるね」

「……?」

 唐突な贈呈品に俺はハテナ、だ。

 飯を奢られるようなことはしてない筈なんだが……

「と、遠山君、お昼食べてなかったから。私も今日はもう1食、食べちゃう」

 と、萌は温かい紙袋を片っぽくれた。

 昼は確かに食べてなかったが……隣の席だし、様子ぐらい分かるよな……

 しかしよく見てるな。

 なんて思ってると隣の席さんは、ぽすん、とベンチでも隣に座ってきた。

「……」

 公園で、マックか。そういえばアリアとも初めて会った頃、一緒に食べたな。

 だが、そのシチュエーションは今回とは全く異なる。

 あの時は奢らされた上に、ぶん殴られた。あの凶暴女に。

 今回は奢られた。天地がひっくり返っても人を殴らないであろう菩薩(ぼさつ)みたいな子に。

 マックのニオイのおかげか、全く湧かなかった食欲がようやく出てきた。

 好意を無下(むげ)にするのもあれなので素直に貰っておく。

「じゃあ、いただくよ。ありがとう」

 俺が袋を開けると、それを見届けてから萌も袋を開けた。

 貴族みたいに育ちがいい子だな。

 いや、リアル貴族育ちであるアリアは真っ先に開けてたから、生まれは関係ないかもな。

 そういう意味では霧も何だかんだ俺が食べるまで先に食事をしないよな……

 今思えば霧も白雪に並んでバスカービルの中ではいい子だったんだな。

 今更ながら実感する。

 何だかんだ俺が食事に困ってたら何も言わずに弁当とか用意してくれるし。

 なんて考えながら食べ始めると、横から――

 本当に済まなさそうな顔で、萌が語り掛けてきた。

「昨日は……助けを呼びに行ったんだけど、いつの間にか終わっちゃってて。お礼も言えなくて、ごめんね」

「気にするな。俺がさっさと帰りたかっただけなんだ」

「でも……あんなに殴られたり蹴られたり……亜金さんも、私を助けてくれたのに何もできなくて……」

 何やら萌はあのチンピラ2人を注意したせいで俺とか亜金が巻き込まれた事に負い目を感じてるらしい。

 別に気にしなくてもいいのに。

 赤桐はどう思ってるのか知らんが、あいつもあんまり気にしてなさそうだったしな。

「でも、助けを呼びに行ってくれたんだろ? それで充分だ」

「で、でも……」

「自分で何とかしようと思ったらケガするだけだ。他人を頼るのもある意味では何もしないよりはいいことだ」

 霧みたいなこと言ってんな、俺。

 でも、あいつならそんな事を言いそうだよな。

「まあ、くだらない喧嘩に付き合う必要はない。多少痛い目に遭っても、大事にならない方がマシだよ」

「……大人、なんだね」

 大人というか何というか……

 ある意味では悟ってるな。

 むやみに銃を振り回したところで穏便に済むはずが状況が悪化するケースもあるし。

 って、何を武偵的なケースに当てはめて考えてるんだ……

 食べ終わったので紙ナプキンで指の油を拭き取る。滑ってトリガーを引き損ねたら困るから……いや、もうそんなことを考えなくてよかったんだった。帯銃してないし。

「食べるの早いね。お腹減ってたんだね」

 クスクス笑う萌は……困ったなこれ。ほんと、笑顔が温かくて可愛らしい。

 こんなピュアな子は武偵ではまず見ない。

 本当に別の世界の住人みたいだ。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 ……何を困ってるんだか。

 っていうかキンジ、本当に女に手を出すの早いね。

 向こうから釣れたのかもしんないけど。

 私はキンジ達が見える向かいのベンチで変装して雑誌を読みながら監視中。

 今の私はちょっとオフのお洒落なキャリアウーマン的な感じ。

 茶色のコーデを着て、ジーパンを穿いて、画家が使いそうなベレー帽を被ってる。

 あーあ……楽しそうにして……

 私も空気読んでこんなところでストーカーみたいなことしなくてもいいのに。

 何でこんなことをしてるんだか……

 しかし、監視してるのが私だけじゃなく1人……2人。

 レキと、まさかの不知火(しらぬい)

 まあ、前から不知火は胡散臭いとは思ってはいたけどただの武偵じゃないね。

 私も微妙にマークされてるし。

 キンジに安息は訪れそうにないね。

 まあ、神崎や私が傍にいる以上はそんな日は来ないのかもだけど。

 望めば私は叶えてあげるけどね。

 邪魔なら心の傷にならない程度に消えて貰えばいいんだし。

 傷になったのなら私が癒す。

 今のところそんな予定が来るのか全く分かんないけど。

 相談ならいつでも乗るってメールしたのに、キンジってば全く私を頼ってくれない。

 気にしてはいないけど、ちょっと悲しいな……

 もしくは自力で何とかしようとしてるのか。

 それよりも問題は、あの萌って子。

 完全に"ほ"の字だよ。

 今だって読唇術で読み解く限り『遠山君と矢田(やだ)さんはつきあってるの?』的なことを聞いてるし。

 矢田って誰? って思ったらレキだった。

 何で矢田なのか私も聞いた時には意味が分からなかったけど、多分……キンジに苗字を決めて的なことをレキが言ってキンジは『ヤダ』って言ったんだろう。おそらく。

 それでヤダ→矢田みたいな。

 レキも案外、頓着しないというか自分のことなのに適当だからね。

 もういいや……これ以上見てもつまんないしキンジの家に先回りしーよお。

 

 いつもの武偵高の制服で私はキンジの実家へ。

「おじゃましまーす」

 ノックして、お邪魔する。

 するとキンジの祖母――遠山 セツが出迎えてくれた。

「おやおや、白野ちゃん。いらっしゃい」

「また様子を見に来ました」

「いつも精が出るねぇ」

「まあ、好きでやってることですから」

「お入んなさい。もうすぐご飯が出来るからねえ」

「じゃあ、手伝います。待ってるのも暇なんで」

「そうかい、なら頼もうかねぇ」

 腰が少し曲がってるセツさんの後に続いて私も台所へ。

 そしたらかなめが既にいて、私を見るなり苦虫を噛み潰したような顔をする。

「――げっ」

「げっ、て何? 私はかなめちゃんに何もしてないでしょうに」

「それはダウト。屋上では怖かったからね」

 ああ……そんな時もあったね。

 もっと言えば殺したの私だけど。

 うん、まあ……別人が()ったって認識になってるっぽいから別に問題なし。

 そんなこんなでセツさんの手伝いをしつつ、料理の腕を観察する。

 敬老精神があるのかって?

 老害は嫌いだけど、普通に年上は敬うよ。

 何度か味見をさせて貰ったけど、これが家庭の味ってものなのかな?

 まあ、私はおそらくイギリス人なのに日本の家庭の味ってのを語るのもおかしな話だけど。

 メニュー的に健康には良さそうだけど、キンジの好みには少し外れてるかなって感じはする。

 もうちょっと濃いめのおかずを増やしてもいいと思うんだけど。

「おや、白野ちゃん。キンジの好みを知ってるような顔だね」

 年の功ってやつかな?

 あんまり表には出してないはずだけど。

「ええ、まあ……でも私が口を挟むのも悪いかなって」

「そうかい。相手を考えて献立を立てる……いいお嫁さんになるねぇ」

 そのセツさんの言葉にかなめが私を射殺(いころ)しそうな目で見てくる。

 ふふ、これが女子力。いや、嫁力なんて。

 これはお義母(かあ)さんと呼んでもいいのかな?

 思いつつも私はかなめを勝ち誇った顔で見て、煽る。

 それに対してかなめも笑顔で反論する。

「でも性格悪いよ。きっと相手の方から愛想を尽かされるだけだって」

「ちゃんと一線を越えないようには見極めてるから。行き過ぎた想いは迷惑だって知ってるし、誰かさんと違ってね」

「へー……過保護なのは行き過ぎた想いには入らないんだ?」

「手間が掛かる人ほどカワイイものなんだよ」

 母性? 違うね。

 私の場合は積み木を積み上げたけど壊したくなる……そんな残酷で純粋な人間の残虐性かな?

 それが今でも続いてて(こじら)せてるだけ。

 だからどっちもあるんだよね。

 キンジを幸せにしたいし、壊したい。

 矛盾した感情を抱えてたら普通は葛藤するものなんだけど、私は不思議とそれがどっちも同じに思えるからよく分からない。

「……ふーん」

 私にあまり同意したくないのか、それとも理解できないのか分からないけどかなめは疑わしい目を向けてくる。

 そんな目を向けても私はそう簡単にボロは出さないよ。

 ……キンジの前だと分かんないかもだけど。

 

 夕食を作ってしばらく。

 後は温め直すだけというところで、かなめと私は将棋をしてる。

 セツさんが暇潰しにかなめにルールを教えたせいで私がターゲットにされた。

 頭は回る方だけど……んん……本気で考えても勝負は微妙。

 相手を陥れるのは確かに得意だけどさ。

 全体的な話となったら、何か違うんだよね。

 ギャンブル的な駆け引きは得意だけど、交渉の駆け引きとかこういう戦略の駆け引きとは違うと私は思う。

 応用というか、使えない部分がない訳ではないけど。

 盤上は結構カオスな感じになってきた。

 もうちょいで王手とれるんだけど、お互いに一手足りない感じ。

 喉元にナイフが来てる感じはするんだけど、届かないみたいな状態だね。

「面倒くさい盤面にしてくれたね」

「お姉ちゃんが穴熊しようとしてると思ったら、桂馬とか飛車とか角とかで乱すせいだよ」

「そりゃかき回して当然。内側から崩すのはセオリーだよ」

「いやらしい。そうやってお兄ちゃんも内側から誑かそうと……」

「そうだね~。既に胃袋も財布も握ってるようなもんだし」

「盤外戦術なんて卑怯だよ」

「HAHAHA、既に勝負は戦う前に始まってるんだよ。別の意味で私は歩みを進めている。盤上に立って勝負を始めたのでは遅いのさ!」

「FAQ」

「女の子が汚い言葉を使わない」

「皮肉じゃ伝わらないと思って」

「うん、別の意味で負けてるからね。吠えてもそりゃ伝わらないよ」

「今日のおかずを増やしてもいいかな? お姉ちゃんで」

「それこそ盤外戦術じゃない?」

 いつの間にか帰ってきたキンジが私達を見て変な顔をしてる。

 何やってるんだこいつら? って感じで。

「お帰り、キンジ」

 私がすぐに見つけてそう言った瞬間に「余計なことを」って感じの顔をする。

 やり過ごそうとか甘い考えだね。

「お前、いつもいるな」

 呆れた感じの目をするキンジ。

 私はちょっと上目遣いで聞く。

「え? ダメ?」

「ダメに決まってるよ」

 キンジに聞いたのに何でかなめが答えてるの?

「ダメじゃないが、怪しまれないか?」

 キンジはかなめを無視して話を進める。

 無視されてかなめはぷくーっと顔を膨らませる。

 こういう所は子供なんだから。

 まあ……神崎のことを危惧してるなら確かにそろそろ変に勘づく可能性はあるけどーー

「うーん、大丈夫じゃない?」

「適当だな」

 キンジ関係の話をしたら極端に思考が変になるし、うやむやに出来る可能性はある。

 ジャンヌやワトソン辺りは冷静に気付くだろうけど。

 そもそもーー

「キンジが帰ってくれば丸く収まるんじゃない? 授業についてこれなくて中退する前に帰ってきた方がーー」

「おいやめろ」

「ンフフ♪ いつまで保つかな~?」

「…………」

 私の言葉が現実味を帯びてるせいでキンジは笑えないらしい。

 私はニマニマしながら提案する。

「勉強を教えて欲しいなら協力はするよ」

「遠慮する。あとが怖い」

「じゃあお兄ちゃん、あたしが教えてあげるよ」

「…………」

「何で黙るの!?」

 かなめの提案に関してノーコメントなキンジ。

 何となく危険を感じてるんだろう。

「とりあえずご飯にしよっか」

「あ、ああ……」

 将棋はこれ以上やっても決着がつかないので、私はご飯を提案する。

 だけどキンジはキンジで真面目に少し悩んでるのか生返事。

 誰を頼るのか分かんないけど、この様子だと私をあまり頼ってくれなさそうな気配だね。

 とりあえず、ご飯食べたら帰ろっかな。

 

 そして食事後、私は多少片付けをして遠山家をあとにした。

 武偵高に帰ってきて自室……ではなく、理子の部屋へ。

「お邪魔しマンボウ」

「お姉ちゃん、いつからそんな親父くさいキャラになったの?」

 唐突な訪問に驚くこともなく理子はベッドの上で漫画を読みながら横になって出迎える。

 傍には武偵高の制服のリリヤもいる。

 リリヤはリリヤでカチャカチャと何やらドローンの改良でもしてるのか、ラジオペンチと圧着ペンチ、ハンダごてを布が敷かれたテーブルに置いて傍で作業している。

 配線作業でもしてるのかな?

「私に本当のキャラなんてないし……」

「急にシリアス声で反応しにくいこと言わないでよ」

「それは置いといて……最近の神崎は?」

「ん~。彼氏が構ってくれなくて癇癪起こしてる彼女」

「要はめんどくさい訳ね」 

「お姉ちゃんがキンジにかまけてるから……」

「キンジが構ってくれないんだから、私から絡みに行くしかないんだよね~」

「……微妙に惚気(のろけ)に聞こえる」

 呆れた感じで言いながら漫画を閉じてベッドの上であぐらをかく理子。

「それで? 転校生活は楽しいですか」

「うーん、どうだろ? みんな刺激に飢えてるって感じ」

「まあ、一般高校なんてそんなものだよね。それは置いといてキンジを落としちゃえばいいのに。今がチャンスじゃないの?」

 チャンス……まあ、チャンスなんだろうけどね……

 何か私から想いを伝えてもいまいちな感じがするんだよね。

 キンジも意識してない訳じゃないんだろうけど、あんまり響かない気がする。

 相棒と異性の狭間って感じ。

 それにーー

「私から伝えるのってなんか負けた気がする」

「…………」

「今、私のことちょっと面倒くさい人だなって思ってる?」

「うえ!? いや、理子はそんな……はい……ちょっと思いました」

 私が目を細めた瞬間に見破られると思って観念したのか理子は素直に認めた。

 素直でよろしい。

「……標的ならすぐ殺すべき」

 会話に交じって来たと思ったらリリヤは物騒なことを言い出した。

 キラーマシーンな感じが時折出るね、君。

「そういう話じゃないないよ、リリヤ。男と女の恋愛感情的な話だから」

「……つまり性欲処理?」

 その発言に理子はグラスで飲もうとしてたジュースが器官に入ったのか咳き込む。

「え"っふ……げほげほ……リリヤなにを言ってるの!?」

「そりゃ、ナニ的な回答じゃない?」

「お姉ちゃんは黙ってて! だ、誰にそんなこと吹き込まれたの?」

 あー……純粋な妹だと思ってたリリヤから急にシモなワードが出たから理子が動揺してる。

 理子はベッドから這いずるように降り、すり寄ってリリヤに苦笑いしながら問い(ただ)した。

 特に躊躇うこともなくリリヤは答える。

「……施設で。男を落とすには合理的」

「は、ハハ……」

 理子はとんでもない妹のカミングアウトで顔がひきつってる。

 何か理子の反応が面白いから爆弾を落としとこう。

「ちなみにリリヤはもう生娘じゃないから」

「Hein?」

 フランス語で「えっ?」を素で言ってる理子。

 相当に動揺が激しいらしい。

「……?」

 リリヤが小首を傾げた瞬間に理子は幻想が打ち砕かれたように横に倒れた。

「純真な妹だと、思ってたのに……」

 ダバーとギャグマンガみたいな涙を流す理子。

 リリヤは対照的に何が問題なのか分かってない。

「キンジで言うところの普通の人なんてウチの家族にはいないよ」

 私が事実を述べたところで「あんまりだぁ~」と理子はそのまま横になりながら嘆いてる。

 配線が終わったのかリリヤが部屋の中でドローンを飛ばし始める。

 コントローラーなんてないのに勝手に飛んでいくドローン。

 リリヤにそういうインプラントが埋め込まれてるのは知ってる。

 正気な人間が合理性を突き詰めた結果、人道を無視してリリヤみたいな子を生み出すなら……この世界は普通じゃないって私は思う。

 まあ、正気こそ狂気ってのはどこにでもある話だし私は楽しければ何でもいいんだけどね。

 そう言えば、リリヤは間宮のグループとそこそこ仲良くしてるらしい。

 1年生の中でも腕利きの武器職人。

 あんまり喋らないから話し掛けにくいけど、意外に間宮達が緩衝材になってるおかげで孤立はしてないみたい。

 いいことだよ。

 そう言えば最近ライカはどうしてるかな?

 ちょくちょく見てはいるけど、少し思い悩んでる感じが最近はする。

 成長はしてるけど伸びが悪くなった感じ。

 2学期も末だし、そろそろあの時期だろうから……純粋に手を貸してみようかな?

 私の復習も兼ねてね。

 


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