モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 雪山と砂漠 沼地と火山 05

「竜人が人間を連れてくるとはな…。我への生贄か…?」

テオ・テスカトルの放った挑発とも受け取れる言葉を、ショウヘイは無視して一歩前に出た。

「テオ・テスカトル…」

「テオ・テスカトル?それは我の名前ではない…」

ショウヘイの言葉を、テオ・テスカトルはオウム返しにしてきた。そして嘲笑いながらも言葉を続ける。

「テオ・テスカトルというのは、お前たちに例えると人間や竜人と呼ぶことに等しい。我にも我固有の名がある」

「…あなたの名を教えて頂けないだろうか」

ショウヘイは言葉を選びながら、相手を敬うように話す。しかし、テオ・テスカトルは見下すように言い放った。

「お前たち人間に教える名前などない。我が勝てばお前たちは死に、我が負ければ我が死ぬ。そこに名前など意味はない」

「…どうしても戦うか?」

「人と竜が共存するための秩序を守るのが竜人の務め。その秩序を乱そうとしているのが我々、竜。だから竜人は人の味方をする…。現代に蘇りし竜人を殺すのは実に惜しいが、我々の世界を守るため、竜人、人間の味方をするのなら…殺す…!」

「我々の世界を守る…?一体どういうことだ?」

「人に育てられし竜人に、これ以上話すことはない。…いざ、それぞれの種族の命運を賭けて、参るっ!」

テオ・テスカトルはそう言って言葉を切ると天高く咆哮した。ショウヘイは前を向いたまま一歩下がり、リヴァル、リサ、ユウキと合流する。

「どうなったんだ!?」

「説得には応じてくれなかった。戦うぞ」

ユウキの焦った声を聞いてショウヘイはそう答えると、背中の太刀を抜いた。以前ナルガクルガ討伐を記念して製作した、斬れ味優先の太刀「ヒドゥンサーベル」である。

リヴァル、リサ、ユウキもそれぞれの武器に手を添えると、それを合図と見たのかテオ・テスカトルが突進してきた。リヴァル達はこれを、余裕を持って回避し、テオ・テスカトルの死角へ回り込もうとする。

「ペイント弾!」

ユウキの大きな声と共に、テオ・テスカトルの右足にペイント弾が破裂する。それを不快と感じたのか、テオ・テスカトルはリヴァル、リサ、ショウヘイの刃や鎚が届く前に、ユウキ目掛けて突進した。

ユウキはこれをギリギリまで引きつけて回避、テオ・テスカトルは慌てて制動をかけ、急停止した。そして逃がしたユウキを振り向く。その僅かな隙を、リヴァルは逃さなかった。テオ・テスカトルが再びユウキを追い駆けて走り出す前に肉薄し、振り返ると同時に頭部へ大剣「オベリオン」を振り下ろした。

いきなり頭部を攻撃されて、テオ・テスカトルはたじろいでしまう。その間にショウヘイとリサが接近、攻撃を加える。

「小賢しい…!」

テオ・テスカトルは身体をその場で回転させ、硬い鱗で覆われた尻尾を振り回した。これをリヴァルは大剣の腹で防ぎ、ショウヘイはその場で姿勢を低くして回避する。リサは尻尾が迫るまで時間があったので、距離を置いて難なくこれを回避した。

テオ・テスカトルは次に、目の前にいるショウヘイへ殴りかかった。鋭い爪が生えている凶悪な前脚がショウヘイへ迫るが、ショウヘイはこれを紙一重で回避し、同時にその前脚を太刀で一閃、出血させた。

「はああっ!」

テオ・テスカトルがショウヘイに気を取られている間に、リヴァルは溜め込んだ力を大剣に乗せて一気に尻尾へ振り下ろした。この攻撃にはテオ・テスカトルも驚いたようで、一瞬だが怯んでしまう。

「たああっ!」

一瞬怯んだ隙を、リサは逃さない。脇腹に一撃、ハンマーを叩き込む。そして隙あらば、ユウキが遠くから精密に弾を放つ。

「ぐぅおおおあああああ!!!」

テオ・テスカトルはリヴァル達の攻撃に怒りを爆発させ、後脚で立ち上がって天高く咆哮した。

「ショウヘイ!リヴァル!リサ!くそっ…!」

リヴァル、リサ、ショウヘイはその場にしゃがみ込み、身動きが取れなくなってしまう。それは狙撃するためテオ・テスカトルから距離を取っているユウキからははっきりと見て取れた。テオ・テスカトルが咆哮を終えて前脚を砂の大地に降ろすと、その場に突風が吹き荒れ、前線で戦うリヴァル達を吹き飛ばしてしまった。

「くそっ…!」

その様子を見たユウキは、テオ・テスカトルの注意が今動けないリヴァル達へ向かないように発砲する事しかできなかった。幸いテオ・テスカトルは攻撃を続けるユウキに向かって突進し、リヴァル達は無事にテオ・テスカトルから離れることができた。突進するテオ・テスカトルをユウキも回避し、4人は一度集まる。

「助かった」

「いいってことよ。それより、テオ・テスカトルが炎を纏った」

ユウキはショウヘイの言葉を受け取った後、テオ・テスカトルを指して言った。

「あれは…!」

リヴァルは驚きの声を上げてしまう。テオ・テスカトルの周囲に、昼間の砂漠のような陽炎が発生しているのだ。

「テオ・テスカトルは今、炎の鎧を纏っている。うかつに近づくと火傷するぞ」

テオ・テスカトルが反転し突進してきたので、ショウヘイはそこまで言って駆け出した。リヴァルとリサもショウヘイに続き、ユウキもガンナーの最適距離へと移動する。

「はあっ!」

突進するテオ・テスカトルに、ショウヘイが太刀をすれ違い様に一閃。テオ・テスカトルの左前脚から真っ赤な血液が噴き出す。

「我が灼熱の炎で焼き尽くしてくれる!」

「危ない!止まれ!」

テオ・テスカトルの言葉を聞き取れるショウヘイが、接近するリヴァルとリサに言い放った。リヴァルとリサは慌てて立ち止まり、テオ・テスカトルの様子を伺う。

するとテオ・テスカトルが一度体を反らせ、口から炎のブレスを吐いた。リオレウスのブレスのように炎の球ではなく、連続した炎を吐いている。リヴァルとリサは左右に分かれ、遠回りしてテオ・テスカトルへ接近する。その様子を見届けて、ショウヘイは炎を吐いていて背後への注意が届いていないテオ・テスカトルの尻尾を斬りつけた。

「ぐうっ…!」

テオ・テスカトルが苦しそうな声を上げてショウヘイを振り向き、右前脚で殴りかかる。ショウヘイはこれを砂の大地を転がることで避け、起き上がると同時にその右前脚を斬りつけた。右前脚同様、真っ赤な血液が噴き出す。

「らあああっ!」

「はあああっ!」

この時、左右からリヴァルとリサがテオ・テスカトルを斬りつけ、殴りつける。

「熱っ!」

リヴァルはテオ・テスカトルを包む炎の鎧に触れてしまい、思わず声を上げてしまった。長時間テオ・テスカトルの近くにいるのは危険と判断し、一度距離を開ける。すると、テオ・テスカトルが翼を広げて粉のようなものを辺りに振り撒き始めた。

「粉塵爆発攻撃だ!リサ!距離を置け!」

ショウヘイの怒鳴り声に近い大きな声が、リヴァルの耳にも聞こえた。しかしリサはテオ・テスカトルを挟んで反対側にいるので、ここからはその姿を確認できない。

 

―――吹き飛べ!

 

テオ・テスカトルの声が聞こえた気がした。リヴァルがそう思った直後、テオ・テスカトルが自身の牙を打ち鳴らし、小さな火花を立てた。その小さな火種が一気に広まり、テオ・テスカトルの周囲で大きな爆発となってリヴァルを襲う。爆風で尻餅をついてしまうが、距離があったお陰かその程度で済んだリヴァルはすぐ立ち上がり、リサの様子を確認しようと駆け出そうとして一歩を踏み出し、そこで思い留まった。リサのことは、ショウヘイが様子を見に行っているはずだ。だったら自分はテオ・テスカトルの気を反らす方が良い。リヴァルは一瞬でそう判断すると、狙撃で気を反らそうとしているユウキが狙う、テオ・テスカトルへと駆け出す。しかし、リヴァルが近づく前にテオ・テスカトルは、リサがいる方へ駆け出してしまう。そして一瞬だが、ショウヘイに肩を預けて弱々しく歩いているリサの姿が目に入った。粉塵爆発攻撃に巻き込まれてしまったのだろうか。

「まずい…!」

このままでは、リサとショウヘイがテオ・テスカトルに踏み潰されてしまう。リヴァルは必死に走るが、武器防具の重さと砂の大地がそれを邪魔する。リヴァルが諦めかけたその時、突然テオ・テスカトルの横顔が爆発した。ユウキの徹甲榴弾だ。テオ・テスカトルは突然のことで驚いたのかその場に倒れ、起き上がろうと必死にもがいている。

「喰らえぇぇぇえええ!!!」

リヴァルは走る勢いに身を委ね、テオ・テスカトルの顔面目掛けて大剣オベリオンを振り下ろした。しかし、その攻撃はテオ・テスカトルの立派な角に邪魔されてしまい、角に小さなヒビを入れただけで弾かれてしまった。テオ・テスカトルはリヴァルの大きな隙を見逃さず、リヴァルの右腕に噛み付いた。指先から肩の近くまでを、テオ・テスカトルの咥内へ入れられてしまう。

 

―――その腕を焼き落としてやろう!

 

再び、テオ・テスカトルの声が聞こえたような気がした。テオ・テスカトルはリヴァルの右腕を飲み込んだまま、炎のブレスを吐き出した。

「ぐああああああああああッ!!!」

リヴァルの右腕が炎に包まれ、焼かれてしまう。

「ああッ!!!ぐあああああッ!!!」

夜の砂漠に響く絶叫。それは、ユウキの投げた閃光玉によって終わりを告げた。閃光玉の光がテオ・テスカトルの視界を奪い、その隙にユウキはリヴァルの右腕をテオ・テスカトルの口の中から抜いた。リヴァルの右腕を守っているリオソウルアームは深い蒼色の甲殻まで真っ黒に炭化し、金属部分に至っては熱によって変形してしまっている。

「リヴァル!あの洞窟まで逃げるぞ!ショウヘイやリサもそこにいる!」

リヴァルは右腕の痛みと背後で暴れるテオ・テスカトルの恐怖に耐えながら、目の前にぽっかりと口を開けている洞窟へと足を踏み入れた。


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