「私の鋼鉄の翼に、傷を付けるとはな…」
山頂エリアから山を下るように移動し隣のエリアに入ると、雪の大地に降り立っているクシャルダオラは静かに言った。
「今までそんなハンター、会ったこともなかったわ…」
「だったら素直に投降してくれないか?このままだと、俺達はお前を殺す事になるぞ?」
「私が投降することは有り得ない。私達の、この竜の世界を守るために…!」
クシャルダオラが気になる言葉を発したが、ジュンキやクレハが考える前に突進してきたので、頭を切り替えて回避行動を取る。ジュンキとクレハは突進してくるクシャルダオラに向かって左側に、カズキは右側に回避した。
クシャルダオラは先程までジュンキ達がいた場所で立ち止まると素早く身を翻し、ジュンキとクレハに向かって風のブレスを吐いた。竜巻を横に倒したような強力なブレスは、周囲の物を軽々と吹き飛ばす。ジュンキとクレハはこれを、余裕を持って回避した。
「ちぃ…!ちょこまかと…!」
「俺のことを忘れるなっ!」
ジュンキとクレハに気を取られていたクシャルダオラに、カズキのランスが突き刺さる。ブラックテンペストの穂先はクシャルダオラの強固な甲殻によって阻まれるものの、何とか出血させることができた。
「この人間風情が!」
クシャルダオラが怒りの声を上げ、身体をしならせてカズキに前脚で殴りかかる。カズキはこれを避けようとせず、ブラックテンペストの盾で防いでみせた。そしてクシャルダオラの僅かな隙を狙い、ブラックテンペストでクシャルダオラの頭部を突く。
「ぐっ、おおおあああッ!」
クシャルダオラはカズキの攻撃を受けると、後脚で立ち上がって天高く咆哮した。爆音に等しい音量に、ジュンキ、クレハ、カズキがその場で両耳を塞ぎ、身動きが取れなくなってしまう。さらにクシャルダオラが前脚を下ろすと暴風が吹き荒れ、ジュンキ、クレハ、カズキはそれぞれ雪の大地の上を吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ…!」
ジュンキは雪の中に埋もれる直前に受け身を取り、右腕は背中の太刀の柄に添えたまま、左腕と両脚でブレーキを掛けた。粉雪を舞い上げながらも止まることができると、顔を上げる。そして絶句した。目の前にクシャルダオラが迫っていたのだ。
どうやら風で吹き飛ばした後、すぐこちらに向かって突進してきたのだ…と頭の中で理解できたのは、クシャルダオラの突進を全身に受けて吹き飛ばされ、宙を舞っている最中だった。
「がは…っ!」
口から唾液が飛び出す。そのまま雪の大地に墜落して埋もれてしまい、クレハやカズキからは見えなくなってしまった。
「ジュンキ!」
「クレハ、待て!」
ジュンキが墜落した場所へ急行しようとしたクレハを、カズキが呼び止めた。クレハが「どうして!?」という表情を向けてくるが、カズキはあくまで冷静に言葉を発した。
「クシャルダオラは俺達3人を行動不能にしてから、ひとりずつ殺すはずだ。ひとりに集中して、残った2人に背中から安々と斬り付けられる程、あいつも馬鹿じゃない。それに、あのジュンキだ。信じろ」
最後は根拠のない言葉だったが、クレハは分かってくれた。ジュンキのところへ行こうとしていた身体を、クシャルダオラの方へと向ける。クシャルダオラの方もジュンキを無視して、クレハとカズキに向き直った。
「ほお…。人間風情にも、冷静な判断ができる者がいるか…」
「カズキ、ビンゴ」
クシャルダオラの言葉を聞けるクレハが顔だけカズキの方を向けてそう言うと、カズキは「だろ?」と言い返してきた。
「次はその人間風情だ!」
「カズキ!」
クシャルダオラが飛び出すのと、クレハが叫んだのは同時だった。それでもカズキはブラックテンペストの盾を構え、クシャルダオラの突進を受け止める。クレハはその隙にクシャルダオラの背後に回り、無用心に垂れ下がる尻尾を斬りつける。驚いたクシャルダオラはその場で素早く身を翻すと、クレハに向かって風のブレスを吐いた。クレハはこれを紙一重で避け、クシャルダオラの横顔を一閃する。
「後ろが!がら空きだぞ!」
カズキは先程、ブラックテンペストを突き立てたところと同じ場所を突いた。今度は深々とブラックテンペストが突き刺さり、クシャルダオラの血で雪の大地に赤い花が咲く。
「ぐうっ…!」
クシャルダオラが苦しそうな声を上げたのを、クレハは聞き逃さなかった。そのクシャルダオラは再びカズキの方を向き、そのまま突進した。カズキはそれをブラックテンペストの盾で受け流す。
クレハはそれを見届けると双剣「インセクトスライサー」を背中に戻し、アイテムポーチに手を入れ、閃光玉を取り出した。そしてできるだけクシャルダオラに駆け寄り、クシャルダオラがこちらを振り向いた瞬間に閃光玉を投げつけた。
「カズキ!目!」
クレハが叫んだ直後、閃光玉が破裂して辺りを爆発的な光が覆った。
「ぐうっ!こんな小細工にっ!」
クシャルダオラは視界を再び奪われ、混乱してしまう。この機を逃すまいと、クレハとカズキはクシャルダオラ目掛けて駆け出す。クレハは正面から、カズキは側面へと回る。しかし、混乱したクシャルダオラが風のブレスを正面にいるクレハに向かって吐き出した。
「…!」
突然の出来事に回避する間もなく、クレハは吹き飛ばされて宙を舞ってしまう。このまま地面に落下すれば、いくら雪の上とはいえ骨折くらいするかもしれない。そこでクレハは、空中で竜人となった。瞳がリオレイアのものとなり、全身に人間では到底味わえない筋肉の躍動を感じる。
「…!」
そして雪の大地を見下ろすと、そこには立ち上がっているジュンキの姿があった。レウスSヘルムを被っているので表情は伺えないが、唯一露出している両目は穏やかだった。クレハは自分も微笑んでいると感じながら雪の大地に両手から入り、腕で衝撃を吸収するとバック転のように跳ねて両脚と左手で着地し、粉雪を舞い上げながら雪の大地を滑り、ジュンキの隣で止まって身体を起こした。
「大丈夫か?」
クレハは顔を上げてジュンキを見ると、ジュンキの瞳もリオレウスのそれになっていた。
「ジュンキこそ」
クレハの言葉にジュンキは頷き、クレハも頷く。途端にジュンキの瞳が真剣なものになったので、クレハも頭を狩りへと切り替える。
「行くぞ」
「うん」
ジュンキとクレハはクシャルダオラ目掛けて駆け出した。クシャルダオラは既に視界を取り戻してしているようだったが、カズキが必死に食い止めてくれている。ジュンキとクレハはお互いの武器を背中から抜くと、クシャルダオラに肉薄した。
「上」
「下」
クレハが先に言うと、ジュンキも答えた。後は言葉を交わさなくても、お互い分かっている。
「ぐああああっ!」
あと数歩でクシャルダオラに刃が届く、そんな時、カズキのブラックテンペストがクシャルダオラの頭部から角を折ってみせた。痛みで注意が散漫になってしまったクシャルダオラに、竜人2人の刃が光る。
「カズキ!上!」
クレハのこの言葉だけでカズキは何を意味しているのか瞬時に理解し、ブラックテンペストの盾をクレハに向かって斜めに、雪の大地へ突き立てた。クレハはその盾を足場にして飛び上がり、クシャルダオラの首筋を斬る。ジュンキは太刀「エクディシス」を、クシャルダオラの胸に根元まで突き刺す。
―――沈黙。
―――風が止む。
クレハが雪の大地に降り立ち、ジュンキが太刀をクシャルダオラの胸元から抜くと、クシャルダオラは雪の大地に倒れた。ジュンキ、クレハ、カズキは警戒を解かずに、倒れたクシャルダオラの顔の前に立った。クシャルダオラの瞳が開き、口もゆっくりと開く。
「私の…負けか…」
クシャルダオラの最期の言葉を、3人は黙って聞く。
「己が信念に基づいて選んだ道…後悔は無い…。だが憶えておくがいい、竜人よ…。我々は…必要だったから…人の世を滅ぼすのだ…」
「…!」
クシャルダオラの言葉を聞いて、ジュンキとクレハは目を見開いた。
「それって、どういう事なの…!」
クレハはクシャルダオラに問い掛けたが、クシャルダオラはそれには答えず、瞳を閉じた。
「後は自分たちで…考えるのだな…。我らが偉大なる祖龍ミラルーツよ…先に失礼…致します……―――」
クシャルダオラはそう言い残し、息を引き取った。