ジュンキ、クレハ、ショウヘイはシェンガオレン討伐に歓声を上げているハンター達に気付かれないよう静かにその場を離れ、リヴァル達と合流することにした。
「また噂になっちゃうね」
クレハの言葉にジュンキが苦笑いを浮かべ、ショウヘイは小さく笑ってからため息を吐いた。
ハンター達の口は軽い。ジュンキ、クレハ、ショウヘイが人間業とは思えない勢いでシェンガオレンを倒したことなど、すぐに広まってしまうだろう。そしてその噂を聞きつけたシュレイド王国が、また軍隊等を仕向けてくるかもしれない。
「まあ、まずはこれからの事を話し合おう。ユウキとも合流しないと」
ショウヘイがそう言って前を指差す。そこには軽く手を振るカズキと、その後ろに並んで歩くリヴァルとリサがこちらに向かって歩いて来るところだった。
「ジュンキー、クレハー、ショウヘーイ、無事かー?」
先行するカズキに、リヴァルとリサは黙って付いていった。昔からジュンキやクレハ、ショウヘイの竜人としての能力を間近で見てきたカズキには今回の件もいつものことなのかもしれないが、リヴァルやリサにはあまりに衝撃的だった。ジュンキ、クレハ、ショウヘイは並んで歩み寄ってきて、6人は合流した。
「いろいろ話があると思うけど、ユウキと合流してからにしよう」
ジュンキの提案を受け入れ、リヴァル達6人はミナガルデの街に足を踏み入れた。
街の中はひどい有様だった。綺麗な石畳は砕け、家屋は倒壊しているものもある。
そして何よりも、シェンガオレンの放った液体が当たった岩の表面がただれている。強い酸なのだろう。
シェンガオレンの放った液体の衝撃によって市場が半壊し、噴水広場と酒場の壁には穴が空いているのが見て取れた。このシェンガオレンが与えた噴水広場の穴は深くて広く、飛び越えることはできそうにない。今は応急的に丈夫な木の板が橋として架けられていて、その橋を渡って噴水広場に辿り着くと、手分けしてユウキを探した。
多くのガンナーは退避していたので怪我は少ないようだが、所々にガンナーの遺体が転がっている。あのシェンガオレンの放った液体に触れたのか、液体の圧力に押し潰されたのか、液体に溺れたのか…。地獄絵図のような噴水広場の一角に、うずくまっているユウキの姿を見つけた時は、リヴァル達全員が安堵したのだった。
「ユウキ、大丈夫か?」
「ん?ああ…」
ジュンキが声を掛けると、ユウキはゆっくりと顔を上げた。
「…みんなは無事か?」
「この通り、全員無事だ。怪我人もいない」
ショウヘイの言葉に、ユウキはいつもの笑みを浮かべた。
「そっか。よかった…」
ユウキはそれだけ言うと立ち上がった。
「…それで、これからどうするんだ?」
「酒場に行こう。ベッキーから話があるだろうと思うから」
ユウキの質問にジュンキはそう答えると歩き出し、他の5人も一緒に歩き出した。
「酷い有様ですね…」
リサはジュンキ達に聞こえないよう、小さな声でリヴァルに言った。リサの言葉を聞いて、リヴァルは視線を落とす。
「そうだな…。早く元通りになることを祈ろう」
リヴァルはそれだけ言うと、後は黙ってジュンキ達に続き、酒場の入り口をくぐった。酒場の中は半分が瓦礫で埋まっていて、ベッキーがいつも待機しているカウンターも瓦礫の下だ。幸いベッキーは怪我をしている様子はなく、カウンターに一番近いテーブルの席で報告書のようなものにペンを走られていた。
今は話し掛けないでおこうということになり、リヴァル達はとりあえず空いている席に座り、これからのことを話し合うことにした。
「…人間駆逐計画」
初めに口を開いたのは、ジュンキだった。
「その名の通り、人間をこのシュレイド大陸から…もしかしたら、この世界から消そうという計画…」
「シェンガオレンがこのミナガルデの街を襲ったのも、その計画の一部だろうな」
ジュンキの独り言のような言葉に、ショウヘイが推論を乗せる。
「森丘、雪山、砂漠、沼地、火山…我が計画に賛同する同胞は、即座に集まれ…」
クレハは、セイフレムから聞いたミラルーツの言葉を口にした。
「ミラルーツがねぇ…。その場所…森丘、雪山、砂漠、沼地、あと火山か?そこに集まれ、か…」
カズキが天井を見上げながら言う。
「つまり、人間を駆逐することに賛同してくれる竜は、そこに集まって下さいってことですよね…」
「そして森丘にシェンガオレンが現れ、そのままミナガルデの街を襲った。つまり、残りの雪山、砂漠、沼地、火山にも、凶暴なモンスターがいるってことじゃないのか?」
リサとリヴァルの意見を聞くと、ジュンキ達は各々頷いて、リサとリヴァルの考えを受け入れてくれた。
「森丘のシェンガオレンは倒せたからいいとして、あと4箇所のモンスターを何とかしないといけないってことか…」
ユウキが結論を出すと同時にベッキーが声を上げたので、リヴァル達は話を止めてベッキーに注視した。
「…まず、残念ながら死んでいった者たちに黙祷を」
ベッキーの一声で、今回の防衛戦で亡くなったハンター達に黙祷が捧げられた。
「では、ミナガルデ防衛戦の報告を始めます―――」
ベッキーはよく通る声で、街の損壊状況、ハンター達に支払われる報酬金や報酬素材等の話を進め、最後に「以上、解散。本当にありがとう」という言葉を残してハンター達の前から移動し、リヴァル達の方へと寄ってきた。
「重要な話があるの。今夜ジュンキ君の部屋に行くから、みんな集まっていてね」
「えっ…?」
名指しされたジュンキは驚きの声を上げたが、ベッキーはそれだけ言い残して酒場の奥へと消えた。