モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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2章 ミナガルデ防衛戦 05

「シェンガオレン!お願いだ!止まってくれ!」

「我は…破壊…する…!」

ジュンキやクレハ、ショウヘイの耳には、シェンガオレンの声が聞こえていた。そしてジュンキは戦闘が始まると同時にシェンガオレンを説得しようと話し掛け続けているが、聞く耳を持ってくれない。

「危ないっ!」

クレハの声を聞いて、ジュンキは反射的にその場を離れる。直後にシェンガオレンの鋏が振り下ろされた。

「ジュンキ!説得は無理だ!諦めろ!」

ショウヘイの声を聞いて、ジュンキは下唇を噛んだ。仕方なく説得は中止し、目の前のシェンガオレンの巨大な脚へ意識を集中させる。

「大丈夫か!」

聞き覚えのある声が聞こえたので振り向くと、こちらに駆けてくるリヴァル、リサ、カズキの姿があった。

「交代だ!」

「すまない!」

ジュンキ、クレハ、ショウヘイはリヴァル、リサ、カズキと入れ替わると、一旦戦線を離脱した。シェンガオレンから距離を取り、回復薬を飲んで無理矢理に疲労感を拭う。

「全然止まらないね…」

「俺達の攻撃が効いているのかすら分からないな…」

クレハとジュンキが思わず心境を吐露してしまうが、ショウヘイはシェンガオレンの方を無言で見つめていた。そして静かに口を開く。

「…シェンガオレンの脚が変色している」

「確かにそうだよね」

ショウヘイの言葉にクレハが賛同の声を上げた。先程からハンター達が攻撃を加えている4本の脚。その中でもジュンキ、ショウヘイ、クレハが攻撃を加えていた先端が赤く染まっている。

「何か意味があるのか…?」

ジュンキが疑問を口にするとほぼ同時に、ジュンキ達が攻撃を加えていたものとは違う脚が赤色に染まった。それと同時にシェンガオレンの巨体が揺らぎ、傾く。シェンガオレンの足元で戦っているハンター達、ジュンキ、クレハ、ショウヘイのように一時前線を離れているハンター達、そしてミナガルデの街の中で待機しているガンナー達から歓声が上がった。

「効いてる…!」

クレハの嬉しそうな声を聞いて、ジュンキは人知れず穏やかな笑みを浮かべた。このまま攻撃を加え続ければ、討伐することができるかもしれない…そう思えた。

しかし、その考えは次の瞬間に打ち砕かれてしまう。

「なんだ…?」

ショウヘイは声に出したが、ジュンキもクレハも同じことを思っていた。シェンガオレンが突然歩みを止めたのだ。

「どうしたんだろ…」

クレハも心配そうに声を上げる。シェンガオレンの足元で戦っているハンター達も突然の出来事に驚いたのか、攻撃が止まっていた。一旦沈黙が辺りを支配する。そして次の瞬間に、ボキボキッと小気味良い音を立てて、シェンガオレンの巨体が立ち上がり始めた。

「なっ…!」

「立ち上がるの…!?」

「…!」

シェンガオレンは4本の脚を伸ばし、立ち上がった。その高さは、ミナガルデの街がある岩山の中腹とほぼ同じである。

「そんな…!」

クレハが悲鳴に近い声を上げる。シェンガオレンはその高さを維持したまま、再び侵攻を開始した。足元で戦っているハンター達も、慌てた様子で攻撃を再開していく。

「…そろそろリヴァル達と交代しよう。疲れてきていると思うし」

ジュンキの言葉にクレハとショウヘイは頷くと、3人揃って駆け出す。シェンガオレンの足元で戦っているであろうリヴァル、リサ、カズキの元へと急ぐ最中に、ジュンキが口を開いた。

「クレハ、ショウヘイ」

「何?」

「どうした?」

「…竜の力を使おう」

ジュンキは一呼吸置いてから言った。クレハとショウヘイから返事がないので、ジュンキは言葉を続ける。

「あまり目立ちたくないけど、シェンガオレンがミナガルデの街に到達するのも、時間の問題になってきてる。だから…」

「…また王国軍に見つかるかもしれないけど、仕方ないよね」

「シュレイド王国軍のことを気にしている状況じゃないからな」

3人は一度顔を見合わせるとそれぞれのタイミングで目を閉じ、竜になった。

 

「何て硬さだ…っ!」

リヴァルは、シェンガオレンの硬さに驚いていた。何とか大剣オベリオンの刃は通るが、ほとんど弾かれるに近い感覚がリヴァルに伝わってくる。それはランス使いのカズキも同じようだったが、リサはハンマー使いなので気にならないようだ。

「はあっ!」

リサの重い一撃。それでもシェンガオレンはビクともしない。

「このっ!」

さらにもう一撃を与えるが、やはりビクともしない。体勢を整えるために、リサは一度シェンガオレンの脚から離れた。リサの武器であるハンマー「アイアンストライク改」を握り直して、再び殴りかかる。ハンマーを一度後ろに引き、勢いに乗せて叩きつける―――はずだった。

「っあぁ!?」

リサのハンマーがシェンガオレンの脚を捉える直前に、シェンガオレンの脚がミナガルデの街の方へと動いたのだ。リサはハンマーで地面を叩いてしまい、その衝撃を浴びてしまった。両腕が痺れ、ハンマーを持ち上げられなくなってしまう。

「リサ!大丈夫か?」

聞きなれた声に顔を上げると、リヴァルが手を差し出してくれていた。

「大丈夫です。怪我をした訳ではないですから…」

リサは無理に笑顔を作って、リヴァルに心配をかけまいとした。幸いリヴァルは「無理するなよ」とだけ言ってシェンガオレンの脚を追いかけて行ったので、リサもまだ痺れる腕でハンマーを持ち上げてリヴァルの後を追う。

そのリヴァルがシェンガオレンの脚の目の前で立ち止まったので、リサはリヴァルの横に並ぶとどうしたのか尋ねた。

「止まった…」

「え…?」

最初リヴァルが何を言っているのか分からなかったが、周囲のハンター達も立ち止まっているのですぐに状況を把握できた。シェンガオレンの歩みが止まったのだ。

「ど、どうして…?」

リサの言葉に対して「分からない」と答えようとリヴァルが口を開く直前に、シェンガオレンの4本の脚からボキボキッと小気味良い音が聞こえてきた。

「あっ…!」

そして、シェンガオレンの本体が徐々に上へと昇っていく。シェンガオレンは4本の脚を伸ばして立ち上がったのだ。

シェンガオレンは侵攻を再開し、ハンター達も攻撃を再開する。

「くそっ…!」

リヴァルは悪態を吐くと、目の前にあるシェンガオレンの脚へ向かって駆け出した。大剣オベリオンを上段に構え、一気に振り下ろす。そのまま背後に誰もいないことを気配で感じ取って斬り上げ、横振りと続ける。

「リヴァル!ジュンキ達が来たぞ!」

カズキの声を聞いて視線を向けると、こちらに駆けてくるジュンキ、クレハ、ショウヘイの姿があった。


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