モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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2章 ミナガルデ防衛戦 04

翌朝、ミナガルデの街は殺伐としていた。

昨日まであんなに活気づいていた市場は全ての露天が店を閉め、武具工房の火は落とされている。街の噴水広場には、様々な武器防具を装備したハンター達がひしめき合っていた。

その一角に、リヴァル達の姿もあった。

「ドンドルマの街にいた時の、ラオシャンロン戦を思い出すよなぁ…」

ユウキの言葉に、リヴァルとリサを除く4人が小さく頷く。

「ジュンキさん達は、このような経験があるのですか?」

「ドンドルマの街にいた頃、一度ね。その時も、巨大なモンスターが街に侵攻してきたの」

リサの質問に、クレハがいつになく緊張している声で答える。

「そういえば、セイフレムは大丈夫かな…」

「きっと街を離れているよ」

クレハの不安そうな声を聞いて、ジュンキが答えた。

「大タル爆弾か。上手くいくのか…?」

「それだけで帰ってくれるような相手じゃないだろうな…」

リヴァルの独り言にカズキが答え、ジュンキの眉間に皺が寄る。

この頃から、この場にいるハンター達の何人かが「揺れている」と騒ぎ始めた。シェンガオレンが侵攻する際の、大地の揺れを感じ取ったのだろう。

「あ、揺れてる…」

クレハも感じ取ったようで、真剣な眼差しで他の6人を見渡した。

ショウヘイが口を開く。

「そろそろ街の外に移動するか。ユウキ、頑張れよ」

「おう!」

ショウヘイ以外の5人もユウキに一言ずつ言葉を送り、他の移動するハンター達に混じってミナガルデの街の外へ移動した。

 

ミナガルデは森の中の岩山を削って造られた街である。近くに街道が通っていて、その街道と街を繋ぐ枝道くらいしかハンター達が武器を振り回せる空間がない。そこでハンターズギルドはシェンガオレンが街に接近していることを知ってからすぐに周囲の木々を切り倒し、広い空間を作り上げていた。

「ハンターズギルドも本気だな」

「街を捨てるという選択肢もあっただろうに」

「この街はドンドルマの街に次ぐ第二の都市だから、そう簡単に捨てられないよ」

ジュンキとショウヘイとクレハの言葉である。この3人とカズキは、リヴァルが見たところ、とても落ち着いている。一方のリヴァルは、どうしても恐怖心が拭えない。それが表情に出てしまっていたのか、リサが心配そうに声を掛けてきた。

「大丈夫ですか?リヴァルさん」

リヴァルは小さく頷くだけの返事とした。

「…怖いですか?」

「…怖いな。ああ、怖いよ。あんな大きなモンスターと戦うなんて…」

リヴァルはこれまで、多くの大型飛竜を倒してきた。リオレウスはもちろん、ガノトトスやグラビモスとも戦ったことがある。しかし、今回のシェンガオレンはそれをはるかに上回る巨大さだ。

「初めてですね。リヴァルさんが弱音を吐くのは」

「…」

リヴァルはいつもの癖でリサを睨んでしまう。しかし、リサは微笑を絶やさずに口を開く。

「私も怖いです。今まで戦ったことのない相手ですから…。恐らく、この場のハンターほぼ全員がそうだと思います。怖いのは、リヴァルさんだけではないんですよ?」

リサにそう言われて辺りを見渡すと、確かにどのハンターも不安げな顔をしている。緊張していたり、不安に思うのは自分だけではないと思うと、少し心が穏やかになった。

「ありがとう、リサ。俺はいつもリサに助けられっぱなしだな」

「そんなことないですよ…ふふっ」

突然、リサは右手を口元に当てて笑った。

「なんだ?急に笑って」

「いえ…。リヴァルさん、急に優しくなったなぁと思いまして」

「っ!?んなわけねぇだろっ!」

リサの言葉を聞いてリヴァルは顔が熱くなるのを感じ、リヴァルはリサに背を向けた。

「一体何がリヴァルさんを変えたんでしょうか…」

背中を向けても、リサはいらずらっぽく話し掛けてきたが、リヴァルは黙り込むことを決めた。口を開かず、リサの言葉を聞き流す。

するとリサは「すみません…」と言って黙り込んでしまった。悪いことをしてしまったのではと少し心配になってしまい、リヴァルが口を開こうとしたその時、尋常ではない爆発音と火柱、そして黒煙がハンター達の正面で上がった。用意された大タル爆弾が爆発したのだ。

「始まったか…!」

「いよいよ、ですね…」

周囲のハンター達の囁きは、いつになく不安げだ。それはリヴァルも同じで、正直勝てる気がしない。しかし、今はやらなければならない。あの街を失うわけにはいかないのだ。

ふと、リヴァルはジュンキ達の方を振り向く。ジュンキとカズキはそれぞれの頭部装備を被り、リサとクレハとショウヘイはそれぞれの武器を抜いたところだった。

リヴァルも左手のリオソウルヘルムをしっかりと被ってから正面を見据えた。そこには黒煙を掻き分けて進行する、巨大な蟹。

うおおおおっ!というハンター達の雄叫びが上がった。リヴァル達も揃って声を上げる。

「深追いするなよ!」

ジュンキの言葉を最後に、ミナガルデの街のハンター達による防衛戦が始まった。リヴァルはリサ、カズキと共に後方―――街の方へと移動して待機する。一度に大勢が動くと危険であると考えたのは他のハンター達も同じ様で、多くのハンター達がリヴァルの周りで待機していた。今シェンガオレンと戦っているのは全体の3分の1くらいだろう。それでも100人近くいるはずだ。

「…」

リヴァルは黙って戦局を見守る。シェンガオレンの巨大さは、戦っているハンター達と比べると、どれ程のものか実感する。あれ程に巨大なモンスターを、人の手で止められるのだろうか…。

「あっ…!」

リサが小さく悲鳴を上げた。シェンガオレンの巨大な鋏…それが縦に振られ、ハンターが何人か弾き飛ばされたのだ。幸い全員生きているようだが、中には仲間に引きずられて戦線離脱する者もいるようだ。シェンガオレンはそんなハンター達には目もくれず、ただひたすらにミナガルデの街を目指して進行する。時折前方をなぎ払うように一対の鋏を振るい、その度に負傷者が増える。

「う、うおおおおあああっ!」

感情を堪え切れなかったハンターがひとり、またひとりとリヴァル達のいる待機場所からシェンガオレンの元へと駆けていく。リヴァルも行こうかと思ったが、カズキに制止させられた。いつもなら噛み付いていたであろうリヴァルも、今はそんな気持ちは一切無い。

刻々と近づいてくるシェンガオレン。その度に大地が揺れる。

この防衛戦に参加しているハンターの多くは剣士で、ジュンキ、クレハ、ショウヘイの様に先陣を切ってシェンガオレンに挑んでいるか、リヴァル、リサ、カズキの様に交代要員として待機しているかだが、リヴァル達の頭上ミナガルデの街の広場にはガンナー達が集結し、ボウガンや弓の射程距離内に入れば蜂の巣にする予定で待機している。パーティメンバーのひとり、ユウキもそこにいるはずだ。

「あっ…!」

1本の矢が、ミナガルデの街中から放たれた。リサが小さな声を上げたが、リヴァルやカズキは黙って放たれた矢を見守る。その矢はもちろんシェンガオレンを狙っており、4本ある脚のうちの一番街に近いものに当たって弾かれた。

「当たった…」

「凄い精度ですね…」

「恐らく、有効射程距離を測ったんだろう。まだ効果的な距離じゃないな」

リヴァルとリサがあの矢を放ったであろうハンターの腕前に驚いているなか、カズキが説明してくれた。ガンナー達にそれ以上の動きはなく、やはり射程距離外と判断したのだろう。リヴァルは顔をミナガルデの街からシェンガオレンの方へ戻すと、シェンガオレンの姿が先程より少し大きくなっていると感じた。

シェンガオレンはゆっくりと確実に接近してきている。リヴァルは拳を握った。リオソウルアームのグローブの中が嫌な汗でぐちゃぐちゃになっている。こんなに不安と焦燥に駆られるのは久々だった。リオレウスやリオレイアならば当たり前。先日狩ったティガレックスでも何とか勝てるだろうと思っていたが、今回は違う。シェンガオレンは何とかならない…リヴァルのハンターとしての勘と経験がそう言っている。

「…っ」

リヴァルは大きく唾液を飲み込んだ。今焦っても仕方がない、落ち着け、と自分に言い聞かせる。

「あっ、ジュンキさん達が見えました…!」

リサはそう言ってジュンキ達がいる場所を指し、リヴァルもその先を見つめる。そこではジュンキとクレハ、ショウヘイ達が3人掛かりで一本の脚を狙って攻撃していた。その成果かどうかは分からないが、3人が攻撃している脚の先が赤色に染まっている。

「危ないっ…!」

リヴァルは思わず叫んだ。危うくジュンキがシェンガオレンの鋏の餌食になるところだったのだ。ジュンキはそれを寸前で回避してみせたが、どうも動きにキレがない。

「流石の竜人も、疲れがきているか…。行くぞ」

カズキはそう言うと駆け出した。リヴァルもリサと共にジュンキ、クレハ、ショウヘイのいるところを目指して駆け出す。近づけば近づく程、シェンガオレンは巨大だと改めて思い知らされるリヴァルだった。


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